建築物に係る地震対策については、日頃から御尽力頂いているところであるが、今般、南関東地域における直下型地震の切迫性にかんがみ、中央防災会議において当該地域において重点的に行うべき地震防災に関する事項が検討され、平成四年八月二一日に標記大綱として決定されたところである。
今後は、南関東地域における建築物に係る各種地震対策については、本大綱に基づき左記の事項を重点的に推進していくこととしており、貴都県においても、大綱の趣旨を踏まえて、公共建築物の地震に対する安全性の確保を図ることはもちろんのこと、一般の民間建築物についても十分に安全性の確保を図るよう所有者等を指導されたい。
1 耐震診断・耐震改修の推進
昭和五六年六月に建築基準法の新耐震基準が整備されたが、それ以前に建築された建築物については現行の耐震基準を必ずしも満足しないものがあることから、こうした建築物に対して引き続き耐震診断を実施し、必要な改修を行うよう所有者等を指導すること。
特に、大地震時に重要な役割をはたす公共建築物や避難路沿い、緊急輸送道路沿い、指定避難所等にある建築物については、早急に耐震診断を行うよう指導されたい。
なお、指導に際しては、建築物の耐震診断基準・改修設計指針を活用するとともに、改修にあたっては日本開発銀行等の政府系金融機関による融資制度の周知・活用を図られたい。
2 被災度判定体制の整備の推進
大規模な地震により多くの建築物が被災した場合に、これら被災建築物の安全性を確認するためには、建築構造分野を専門とする多くの技術者が必要となる。
これらの確認作業を行政部局の職員のみで対応することは人員数の面からみて不可能であり、民間建築士等の専門家の協力を得ながら確認作業を行うことが効果的であると考えられることから、このような判定制度の体制整備についての検討を進めること。
3 落下物対策の推進
建築物からの外壁タイル、窓ガラス、屋外広告物等の落下物防止対策を図るためには、定期的にこれら外壁タイル等の状態を点検することが重要であることから、定期報告、建築物防災週間等の機会をとらえ、建築物の所有者等に適切な点検を行うよう指導されたい。
なお、指導に際しては、「外壁タイル等落下物対策の推進について(平成二年五月一九日建設省住指発第二一一号)において示した診断指針の活用を図られたい。
また、指導に際しては、日本開発銀行等の政府系金融機関による融資制度、税制上の特別償却制度の周知・活用を図られたい。
4 ブロック塀等の安全対策の推進
ブロック塀等の安全性については、建築士会等の関係団体と協力し、技術基準の周知徹底と正しい施行技術の普及に努めるとともに、既存のブロック塀等について修繕、補強等の指導の推進に努められたい。
なお、指導に際しては対象物が多数になることから、避難路沿い、スクールゾーン等特に安全性の確保を図る必要のある地域を中心に実施すること。
5 屋上緊急離着陸場等の設置の推進
高層建築物、病院、公共建築物等は防災上重要な拠点となることから、これら高層建築物等の屋上におけるヘリコプターの緊急離着陸場等の設置について、防災計画書の審査、建築確認等の機会をとらえて、建築主にその設置を行うよう指導されたい。
資料
南関東直下の地震対策に関する大綱
中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会検討結果中間報告(昭和六三年六月二七日)
中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会検討結果報告(平成四年八月二一日)
既存建築物に関する地震対策関係資料等一覧
前文
1 本大綱決定の背景
(1) 南関東地域においては、一九二三年の関東大地震以降大規模な地震災害を経験しないまま、人口、諸機能が著しく集積し、都市構造、都市住民の生活・行動様式の大幅な変化や企業活動の高度化等が進展した。このため、同地域は、地震災害に対し脆弱な地域構造になっており、地震の規模や震源地いかんによっては、震災時に多数の人命、財産の損失を招く危険が大きく、さらに都市機能の阻害等による二次的な影響が国民生活や経済混乱となって被災地域を越えて著しく広域に波及するおそれがあるなど都市型の地震災害が発生・拡大するおそれが増大している。
(2) こうした中で、昭和六三年六月二七日の中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会検討結果中間報告(以下「中間報告」という。)において、南関東地域直下におけるマグニチュード七級の地震(以下「直下の地震」という。)の発生については、同地域は大陸プレート、フィリピン海プレート及び太平洋プレートが互いに接し、複雑な応力集中が生じていることなどから、ある程度の切迫性を有していることが明らかにされた。
(3) さらに、平成四年八月二一日の同専門委員会検討結果報告(以下「今次報告」という。)において、
イ 今後直下の地震の発生の切迫性が高まってくることは疑いなく、一〇〇年か二〇〇年先に発生する可能性が高いと考えられる次の相模トラフ沿いの地震(関東大地震タイプのマグニチュード八級の海溝型巨大地震)が起こるまでの間に、直下の地震が数回発生することが予想されること
ロ 直下の地震の発生により著しい被害を生じるおそれのある震度VI相当以上になると推定される地域の範囲は、今次報告別図の範囲に相当するであろうと考えられ、この範囲において特に重点的に地震防災に関する対策を講じるべきであること等が明らかにされた。
(4) また、中間報告及び今次報告において、直下の地震は、
イ 現状ではその予知は非常に難しいこと(以下「予知困難性」という。)
ロ 想定される震源域を一つに特定することができないこと(以下「震源域の非特定性」という。)
ハ 一つの直下の地震が発生した時に震度VI相当以上になると推定される地域は、今次報告の地震モデルによると、概ね半径三〇キロメートル程度であるが、更に局地的になることも考えられること(以下「被災地域の局地性」という。)等の特徴を有していることが明らかにされた。
(5) 本会議は、同専門委員会から以上のような中間報告及び今次報告が提出されたことを受けて、直下の地震から住民の生命と財産の安全を守り、また、経済・社会活動の安定性を確保するために、国、関係地方公共団体、関係公共機関等が今次報告で明らかにされた直下の地震の発生により著しい被害を生じるおそれのある地域の範囲において構ずべき震災対策について検討を行った。検討に当たり、災害応急対策については、既に昭和六三年一二月六日に本会議において南関東地域震災応急対策活動要領を決定しているため、地震防災に関する対策(事前対策)を検討の対象とした。
2 本大綱の対象地域及び性格
(1) 本大綱は、直下の地震の発生による被害の防止・軽減をあらかじめ図るために、今次報告別図の範囲(以下「対象地域」という。)において構ずべき地震防災に関する対策について、当該対策を総合的に推進する上で当面する課題を掲げ、かつ、当該課題に係る施策の進め方の基本方針を示したものである。
(2) 今後、国、関係地方公共団体、関係公共機関等は、一体となって、その緊密な連携の下に、逐次、本大綱に基づく対策の具体化及び推進を図るものとする。この場合、国は、関係地方公共団体等に対し、必要な支援、指導又は要請を行うものとする。
(3) 以上の本大綱の性格にかんがみ、本会議は、爾後、定期的に、関係省庁からの報告により、本大綱に基づく対策の具体化及び推進の状況について把握し、整理するものとする。
第1 地震に強い都市づくりの推進
1 防災施設等の整備及び都市防災構造化対策の推進
(1) 国、関係地方公共団体及び関係公共機関は、非難地、非難路、消防用施設・設備、緊急輸送用施設、国土保全施設等地震防災上緊急に整備すべき施設等のうち必要なものの整備を積極的に推進するものとする。なお、避難、救護等に係る施設等の整備に当たっては、必要に応じて、耐震性貯水槽、自家発電装置の配備や情報連絡手段としての機能の保持・向上が図られるよう配意するとともに、昼間人口をも考慮して対策の充実に努めるものとする。
(2) また、避難地、避難路については、地域防災計画における指定を推進し、その積極的な確保を図るものとする。なお、生産緑地、企業所有地等の民有地等を震災時において活用し、避難地、避難路を補完する新たな避難空間の確保を図るための方策について所要の検討を行うものとする。
(3) さらに、オープンスペースの確保、密集市街地の解消、建築物の不燃化等を推進するため、市街地の防災再開発、防災区画整理、道路、河川、公園、緑地、港湾その他の公共空間の整備、系統的防災緑地網の確保、架空線の地中化等を推進するとともに、都市防災不燃化促進事業の推進及び防火地域の指定等都市計画上の規制誘導策の積極的活用を図るものとする。また、地域住民の積極的参画と創意工夫を活用した地区レベルの防災まちづくりを行う事業の推進に努めるものとする。
(4) 関係地方公共団体は、地震防災上緊急に整備すべき施設等のうち必要なものの整備を計画的かつ効率的に実施するため、地域防災計画において、当該施設等に関し、目標整備期間、目標整備量等を事業計画として明確にするよう努めるものとする。特に、避難地、避難路等の整備を行うとともに建築物の不燃化、市街地の防災再開発等を行うことによる都市の防災構造化対策を緊急かつ総合的に実施すべき都市においては、早急に、地域防災計画において都市防災構造化に関する事業計画を策定するものとする。
(5) 国は、前項の事業計画の策定及び当該計画に基づき関係地方公共団体が行う事業の推進について、必要な支援を行うものとする。
2 地盤の液状化対策の推進
(1) 地盤の液状化による公共・公益施設の機能障害を最小限のものとするため、各施設の管理者等は、施設の設置に当たっては、当該地盤の特性を考慮して、必要に応じ、地盤改良等により液状化の発生自体を防止する対策、基礎杭の打設等構造設計により液状化が発生した場合においても施設の被害を防止する対策等を適切に実施するものとする。また、既存施設についても必要に応じ、液状化に対する安全性の評価を実施するとともに、既存施設の改良手法等の研究開発を推進し、所要の措置を講じていくものとする。
(2) 地盤表層の液状化により被害を受ける可能性のある個人住宅等の小規模建築物については、当該建築物の建築に係る関係者が適切な対応をとれるよう、次の施策を推進するものとする。
イ 関係地方公共団体は、液状化被害の発生可能性がある地域について当該地域を表示した地図等を整備・活用することなどにより、関係者に対し必要な指導等を行うことのできる体制の整備に努める。
ロ 国は、関係地方公共団体の対策を支援するため、液状化マイクロゾーネーションマップを作成するためのマニュアル及び小規模宅地地盤・建築物の液状化対策に関する技術指針を作成し、その普及を図る。
(3) 埋立て地等の大規模開発に当たっては、開発区域全体としての整合性を確保しつつ個々の施設の液状化対策を推進することができるよう、計画や事業の実施に係る各主体間で十分な連携・調整を図るものとする。
(4) なお、液状化に起因する構造物被害の防止・軽減を図るための対策技術等について、今後とも、官民あげて一層の調査・研究を推進するものとする。
第2 都市型地震災害の防止・軽減対策の推進
1 ライフライン機能の確保対策の推進
(1) 現代都市の経済活動・市民生活において、電気、ガス、通信、上下水道等のライフライン機能が果たしている役割の重要性にかんがみ、各ライフライン事業者は、引き続き、個々の構造物の耐震性を計画的に向上させていくとともに、系統多重化対策、バックアップ機能の整備、システムの自動制御化対策などライフラインのネットワーク及びシステムとしての総合的な対策を一層推進するものとする。
(2) 特に、直下の地震の被災地域の局地性にかんがみ、供給ルート・拠点の多元化・分散化等による被害の防止・軽減対策の一層の推進を図るとともに、相互応援体制の強化等による早期復旧体制の確立を図るものとする。
(3) また、ライフラインの相互依存性、相互補完性等にかんがみ、異なる業種のライフライン事業者相互間、及びライフライン事業者と行政との間の連絡調整・連携を強化し、ライフライン被害の相互影響関係を考慮した予防・応急・復旧体制を確立するものとする。
(4) なお、従来から推進してきている広域的なライフライン機能の確保対策に加え、地区単位の自立性の高いライフライン・システムの在り方等についても所要の検討を進めるものとする。
(5) 関係地方公共団体は、個々の家庭及び企業・事業所等において、震災時に電気、ガス、上下水道等の機能障害が生じた場合に備え、それぞれに適した方法により所要の自衛・代替措置が講じられるよう、引き続き、住民及び企業・事業所等に対する啓発に努めるものとする。
2 コンピュータのバックアップ対策等の推進
(1) 国の内外における経済諸活動や国民生活はオンライン化、ネットワーク化が進むコンピュータ・システムに大きく依存しており、直下の地震によりコンピュータ・システムがダウンした場合、その影響は被災地域を越えて著しく広域に波及することが懸念される。このため、コンピュータを扱う企業は、コンピュータ・システムの安全確保に係る社会的責任を自覚し、その業務の公共性・内容等に応じて、建物、システム等の耐震性の確保、センター、通信回線等のバックアップ、震災時対応計画の整備など所要の対策を講じることが求められている。このような震災時におけるコンピュータ・システムの安全確保に向けての企業の自発的取組みを支援するため、国及び関係地方公共団体は、関係団体等の協力も得つつ、次の施設を推進するものとする。
イ 各業界・企業の教務の公共性・内容等に応じ、コンピュータ・システム、情報通信ネットワークに関する各種安全対策基準等の一層の活用を促進するとともに、システム監査等の一層の普及を図るなど、安全対策の実施について指導を推進する。また、情報処理サービス業電子計算機システム安全対策実施事業所認定制度や情報通信ネットワーク安全・信頼性対策実施登録制度の一層の活用を促進する。
ロ 特に、税の特例、政策融資等の助成・誘導策の積極的な活用を図ること等により、各業界・企業の業務の公共性・内容等に応じ、バックアップセンターの整備等コンピュータ、データ通信に係る所要のバックアップ対策の普及促進に努める。
(2) また、国民生活に密接に関連するコンピュータ・システムのうち官公庁が自ら保有するものについては、企業以上に安全・信頼性の確保がより強く要請されているとの認識の下に、当該官公庁は、「行政情報システムの安全対策に関するガイドライン」など各種安全対策基準等に基づき、引き続き所要の対策を推進するものとする。
3 既存建築物の耐震対策及び被災建築物に係る二次災害の防止対策の推進
(1) 既存建築物の耐震性の向上を図るため、国及び関係地方公共団体は、引き続き、耐震診断基準・改修設計指針に基づく診断・改修の普及に努めるものとする。この際、防災査察、定期報告等の機会を利用して、建築物の所有者等に対する積極的な指導及び啓発を行うとともに、政策融資等の助成・誘導策の効果的な活用を図るほか、関係団体等との緊密な連携の下に住民等からの相談にきめ細かく応ずる体制を一層整備するものとする。
(2) また、地震により被災した建築物に係る二次災害の防止を図るため、国及び関係地方公共団体は、余震等に伴う被災建築物の倒壊等の危険度を応急的に把握し、所要の措置を講ずるための体制の整備について検討を進めるものとする。
4 落下物の防止、ブロック塀等の安全化及び屋内収容物の転倒防止対策等の推進
(1) 人的被害の発生要因、避難及び緊急車両等の通行の阻害要因として懸念されている地震動による建築物からの窓ガラス、外壁タイル、屋外広告物等の落下物の発生、ブロック塀等の倒壊、自動販売機の転倒等を防止するため、国及び関係地方公共団体は、関係団体等と緊密な連携を図りつつ、これら対象物件の所有者、管理者、設置者等に対し、引き続き、技術基準等の遵守や点検・改修等の実施に係る指導、査察、監視等を行うものとする。この際、次の事項について配意するものとする。
イ 避難路沿い、スクールゾーン等特に安全性の確保を図るべき地区を選定し、重点的な指導等の実施に努める。
ロ 既存の対象物件については、その数が多数にのぼり、点検、改修等の安全化対策の推進に当たっては対象物件の所有者、管理者、設置者等の自発的取組みが不可欠であることにかんがみ、税の特例、政策融資等の助成・誘導策の効果的な活用を図りつつ、これらの者に対する啓発を一層強化する。
(2) 都市部の家庭及び事業所等においては、狭い空間に家具、事務機器、商品等が多数収容されており、最近の地震災害に際してもこれら屋内収容物の転倒等により多数の負傷者が発生していることにかんがみ、関係地方公共団体は、地震動による屋内収容物の転倒・滑動・落下等の危険性及びその防止対策の徹底の必要性について、引き続き、住民及び事業所等に対する啓発に努めるものとする。
5 危険物施設等の安全確保対策、地震火災防止対策の推進
(1) 震災時における危険物施設等からの火災、爆発、漏洩等による被害の発生及び拡大を防止するため、関係防災機関は、次の施策を推進するものとする。
イ 各種法令及び技術基準等に基づく安全確保対策を、施設等の維持管理及び危険物等の生産、流通、貯蔵・取扱いの実態に即して徹底させる。このため、引き続き、防災指導、査察、検査等により、施設等の耐震化、不備欠陥事項の是正、保安体制の充実等を促進するとともに、施設管理者等の意識の高揚を図り、各施設等の自衛消防組織の充実強化、防災要員の教育訓練の充実、関係団体等を通じての自主的点検・管理体制の強化、防災資機材の整備充実、危険物移送・運搬車両の運行・取扱い基準の遵守・徹底等を促進する。
ロ 今後とも、新たな危険物等の出現、危険物等の流通形態等の変容、危険物施設等の大規模化・多様化・複雑化等に対応した安全確保対策の推進を図る。
(2) 地震火災防止対策については、出火防止、初期消火、延焼拡大防止のための各般の対策を着実に推進する。
この際、関係防災機関は、特に、次の施策に重点をおいて対策の推進を図るものとする。
イ 出火防止対策については、個々の家庭・事業所等におけるマイコン型対震自動ガス遮断装置等の普及促進を図るとともに、学校・薬局等における化学薬品等の貯蔵・取扱いの適正化の徹底を図る。
ロ 初期消火対策については、消火設備に係る耐震措置の維持管理の適正化を指導するとともに、地域、事業所等における自衛消防体制の整備の促進可搬式小型動力ポンプ等の配備を図る。
ハ 延焼拡大防止対策については、常備消防体制の充実強化を図るとともに、消防団員数の減少・高齢化の進展等に対処しつつ消防団の強化・活性化を推進する。また、耐震性貯水槽の整備を推進するほか、消防水利の充実に努める。
ニ 地震火災対策の基礎となる防火管理者の選任率及び消防計画の作成率の向上と消防計画に基づく教育・訓練の推進並びに住民の防火意識の高揚を引き続き図る。
6 高層ビル、地下街、ターミナル駅等の防火安全対策、混乱防止対策等の推進
高層ビル、地下街、ターミナル駅等不特定多数の者が出入りする都市の施設について、地震被害の防止・軽減を図るため、関係防災機関は次の施策を推進するものとする。
(1) 消防計画に基づき、空間利用の高度化・立体化、用途の複合化等に対応しつつ、出火防止、初期消火及び混乱防止に重点を置いた防火管理体制の一層の充実強化を図るよう、当該施設の管理者等に対し指導する。
(2) 震災時の当該施設内外における混乱を防止し、的確な避難誘導を図るため、
イ 各種通信手段の活用等による迅速かつ正確な情報収集伝達体制の整備を推進する。
ロ 高層ビル街等における地区単位の避難誘導体制の整備、及び地域と連携したターミナル駅等における滞留旅客対策を推進する。
ハ 避難誘導に当たる施設従業員教育訓練については、派遣社員、パートタイマー、アルバイト等を含めてその徹底を図るよう、当該施設の管理者等に対し指導する。
ニ 震災時の施設内の混乱を防止するためには、当該施設において講じられている各種安全対策や震災時に執るべき行動に関し、当該施設の利用者等の認識を深め、利用者等の心理的不安の除去・軽減を図ることが重要であることにかんがみ、平常時から利用者等に対し効果的な広報の徹底を図るよう、当該施設の管理者等に対し指導する。
ホ これらの対策の基礎として、平常時から当該施設の管理実態の継続的な把握に努めるとともに、個々の施設において消防計画等に基づく通報連絡・避難誘導体制等の一層の整備を図るよう、当該施設の管理者等に対し指導する。
(3) 当該施設を防災上積極的に活用する観点から、高層建築物等の屋上へのヘリコプターの緊急離着陸場等の設置の促進等を図る。
(4) 今後とも、都市における空間利用の高度化等の進展が見込まれるが、新たな都市空間の利用形態の実用化に当たっては、その都度必要な地震防災上の検討を行う。
7 道路交通の混乱防止対策等の推進
(1) 震災時の道路交通の混乱を防止し、道路利用者の安全の確保並びに住民等の円滑な避難及び緊急車両等の通行の確保を図るため、関係防災機関は、引き続き、次の施策を推進するものとする。
イ 交通管制システム等の整備及び信号機の減灯対策を推進する。
ロ 自動車運転者の適切な行動を誘導するため、災害時において自動車運転者が執るべき措置の一層の周知徹底を図るなど平常時からの啓発を推進するとともに、情報板、路側通信システムの整備・活用、放送機関等との連携等による震災時の適切な情報伝達体制の確立を図る。
(2) また、多数の路上駐車車両が地震被害の拡大要因となることが懸念されていることにかんがみ、地震防災上の観点からも、平常時から違法駐車の防止対策及び駐車場の整備を積極的に推進するものとする。
8 医療機能の確保対策の推進
震災時において、病院等の医療機関は、既存入院患者等の治療の継続、震災による傷病者の受入れ、被災地への救護班の派遣の三つの機能を担っている。震災時に、これらの医療機能の確保を図り、各病院等が被災地内・外のそれぞれにおいて期待される役割を十分に果たすことができるよう、次の施策を推進するものとする。
(1) 関係地方公共団体は、あらかじめ、管轄区域内の病院等の耐震化・不燃化、医薬品、資機材、水、食料、自家発電装置等の備蓄・配備、医療要因の非常参集体制の確保、救護班の編成、傷病者の円滑な受入れ体制等の確保を推進する。
国及び日本赤十字社は、所管病院等に関し、同様の措置を推進する。
(2) 関係地方公共団体は、あらかじめ、救護所の迅速な設置体制、防災関係機関、施設・拠点等相互間情報連絡体制、管轄区域内の病院等の被害状況等の情報収集体制、ヘリコプターの積極的な活用を含め傷病者、救護班等の搬送体制等の確保を推進する。
(3) 国及び日本赤十字社は、関係地方公共団体の実施する応急医療活動を広域的な観点から応援することができるよう、あらかじめ、所管病院等に関し、救護班の編成、広域後方医療施設における傷病者の受入れ体制等の確保を推進する。
(4) 国、関係地方公共団体及び日本赤十字社は、医療要員に対する震災時の応急医療に係る訓練、研修等の推進に努めるとともに、震災時の応急医療体制を補強するため、住民等に対する救急法、蘇生法等応急処置に係る知識・技能の一層の普及を図る。
9 災害弱者対策の推進
高齢者、乳幼児・妊産婦、傷病者、外国人に加え、さらに出張者・旅行者等の震災時に的確な防災行動をとりにくい立場にあるいわゆる災害弱者の安全確保を図るため、関係地方公共団体は、関係部局間及び国、関係団体等との緊密な連携・協力の下、次のような災害弱者対策をきめ細かく推進するものとする。
(1) 災害弱者の震災時の自力行動条件の整備と速やかな援助のための協力体制の確立を図るため、
イ 災害弱者に配慮した防災施設・設備の整備
ロ 災害弱者自身の対応能力の向上を図るための防災訓練・広報啓発活動
ハ 災害弱者の対応能力を考慮した震災時の緊急通報、情報伝達、避難誘導等のための機器・システムの開発・整備
ニ 初期消火、応急救助、避難誘導等に当たっての地域住民の協力による隣保共助体制の整備等を推進する。
(2) 特に、震災に対する知識が乏しく、地理に不案内で、かつ日本語の理解も十分でない外国人に対しては、平常時から多様な言語及び手段・経路を通じて基礎的防災情報の提供等を行い防災知識の普及を図るとともに、防災教育・訓練の実施体制の整備に努めるほか、震災時における情報収集伝達ルートの整備について検討を進める。
第3 防災体制の充実強化
1 初動期防災業務体制の充実強化
直下の地震の予知困難性、震源域の非特定性等にかんがみ、国、関係地方公共団体及び関係公共機関は、各機関ごと、部局ごとの業務の性格、災害対策上の役割等に応じ、
イ 夜間・休日の連絡体制、指揮系統の明確化等発災直後の指揮命令系統の確立
ロ 交通機関の運行状況等に対応し、かつ、参集経路の安全確保に十分配慮した参集体制を確立するための非常参集・配備要領等の整備や、参集場所近傍における災害対策要員用の宿舎の確保等、災害対策要員の非常参集をより迅速かつ確実なものとするための措置
ハ 発災直後の情報の連絡交換の円滑化を図り、指揮命令権者等が非常参集開始前あるいは参集途上においても的確な意思決定・指示判断等を行うことができるようにするための情報収集伝達手段の整備
など、夜間、休日等勤務時間外の発災を考慮した初動期防災業務体制の充実強化に資する所要の施策の推進に努めるものとする。
2 総合的な応急対策活動体制の充実強化
国、関係地方公共団体及び関係公共機関は、震災時において、南関東地域震災応急対策活動要領及び同要領実施マニュアル等に基づき、相互に緊密な連携をとりつつ、情報・広報活動、輸送活動、医療活動、救護活動等の応急対策活動を迅速かつ効果的に展開できるよう、事前に関係職員に対して繰り返し同要領等の徹底を図るとともに、引き続き、震災訓練等を通じて活動手順等の慣熟及び必要に応じての同要領等の充実を図り、総合的な応急対策活動体制の充実強化に努めるものとする。
3 相互応援体制等の充実強化
(1) 直下の地震の被災地域の局地性にかんがみ、関係地方公共団体相互間及び関係公共機関相互間等における、職員の派遣、食糧・水・物資・資機材等の提供、管轄区域境界付近における応急対策の共同実施など相互応援・協力体制の一層の整備充実を図るものとする。このため、相互応援の運用に関する要領等の充実を図るとともに、関係地方公共団体相互間の情報連絡体制の確保、地震防災データの相互利用システムの確立、避難場所の相互利用体制の整備・避難標識の共通化の推進、ごみ、し尿等の処理に係る相互応援体制の整備等に努めるものとする。
(2) なお、直下の地震の被災地域の局地性にかんがみ、迅速な日常生活水準の回復及び復旧を求める被災者等の期待は、海溝型巨大地震の場合に比べより高まるものと予想される。このため、民生安定、経済秩序の早期回復等を図るための応急対策及び復旧対策については、前項の相互応援の的確な運用等により周辺の被災地域の諸機能を最大限活用するなど適切な対策を実施することができるよう、あらかじめ所要の体制の整備に努めるものとする。
4 防災拠点の整備の推進
(1) 直下の地震の被災地域の局地性、震源域の非特定性にかんがみ、業務核都市等に広域的な防災支援拠点を分散配置し、拠点間のネットワークの形成等を図ることが応急対策上有効であることから、関係防災機関は次の施策を推進するものとする。
イ 国の災害対策本部予備施設を含む立川広域防災基地の整備を一層推進するため、広域災害医療の基幹施設としての国立新病院、血液センター等の地域防災関係施設、ヘリコプター関連施設等の構成施設の着実な整備を進めるとともに、震災時における構成施設相互間の効果的連携をとった運用方策の確立を図る。
ロ 東京湾及び関東一円の海上防災の拠点となる横浜海上防災基地の整備を着実に推進する。
ハ 国の機関の集団的移転に伴い大宮・与野・浦和地区において整備される広域行政拠点については、移転機関のうち七機関が指定地方行政機関であること及び都心の北部地域に位置する立地条件等にかんがみ、同拠点の整備に当たっては、同拠点に高度な防災機能を付与し、震災時における各機関相互の総合的かつ効果的な連携体制等を確保できるよう、広域防災拠点として必要な施設・設備の整備を推進する。
ニ 前記立川、横浜、大宮等の拠点相互間及びこれら拠点と関係防災機関との間の情報連絡体制の整備について所要の検討を行う。
(2) また、関係地方公共団体は、引き続き、災害時には自主防災活動の拠点となり、平常時には防災知識の普及、防災訓練等の活動の拠点となる防災センター等の地域防災拠点の整備を推進するものとする。この際、前項の直下の地震の特徴にかんがみ、一の都県内においても複数の広域防災センターを分散配置し、コミュニーティレベルの防災センター等とのネットワークの形成を図るなど、地域防災拠点の階層的構成、拠点間の相互代替・補完性の確保等に配意するものとする。
5 災害情報・通信システム等の整備の推進
(1) 対象地域においては、震災時の災害情報量が膨大なものとなることが予想されることにかんがみ、震災時における情報の収集伝達・処理分析体制の一層の充実強化を図り、応急対策のより迅速・的確かつ効率的な実施を確保するため、関係防災機関は、先端技術の開発、高度情報化の進展等の成果を積極的に活用して、次のような防災システムの整備を推進するものとする。
イ 各種防災関係無線網については、無線網相互の一層の連携を推進しつつ、信頼性の向上及び機能の高度化等のための着実な整備を図る。特に、中央防災無線網については、ネットワークのデジタル化を推進する。また、地域衛星通信ネットワークの活用等による関係地方公共団体等相互間の情報ネットワークの整備を推進するとともに、市町村と集落等を結ぶ市町村防災行政無線について、更に整備を推進し、また、地域防災無線システムの整備等により市区町村災害対策本部、地域防災関連機関、生活関連機関の相互間の情報連絡体制の確保を図る。
ロ ヘリコプター、各種情報処理機器等の活用により、被害の推定・判読、延焼拡大の予測、避難誘導、援助・救急、応急復旧計画の作成など災害対策の実施を支援するシステムの開発・整備を推進する。
(2) また、過去の地震災害に際し、住民等に対する情報伝達・広報媒体としてラジオ放送等が果たした役割の重要性にかんがみ、関係地方公共団体は、震災時における放送機関との連携を一層強化するものとする。
第4 防災意識の高揚及び自主防災活動等の推進
1 防災知識の普及
(1) 国及び関係地方公共団体は、あらゆる機会を通じ、各種広報媒体を利用して、直下の地震に対する備えの必要性について住民及び企業等に対する一層の啓発を行うとともに、想定される直下の地震の被害の様相等を明らかにすること等により、震災時に執るべき措置等直下の地震に関する正しい知識の一層の普及浸透を図るものとする。この際、関係地方公共団体は、対象地域では通勤、通学等の生活圏域が広域化していること等を考慮し、相互に協力して共同広報を実施するなど効果的な啓発・普及の推進に努めるものとする。
(2) また、引き続き、家庭、学校、職場、地域の自主防災組織や防災拠点等多様な場における防災教育を推進するとともに、防災週間、防災フェア、国際防災の一〇年関連会議など各種防災行事の開催等を行い、日常的かつ継続的に住民及び企業等の防災意識の高揚を図るものとする。
(3) なお、対象地域においては、生活圏域の広域化、共働き世帯の増加、都市活動の二四時間化の進展等により、震災時に家族が離散している可能性が特に高いことにかんがみ、関係地方公共団体は、住民に対し、家族防災会議の開催等を行い震災時の家族間の連絡方法や落合い場所等を確認するよう促すなど、震災時の家族間の連絡体制の確立に向けて一層の啓発に努めるものとする。
2 自主防災組織の育成強化及び防災ボランティアの活性化
(1) 関係地方公共団体は、地域住民がその連帯意識に基づき自らの地域を守る自主防災組織の一層の育成、強化を推進するものとする。この際、自主防災組織の活動の日常化を促すとともに、リーダー研修の推進、防災用資機材の整備の促進等自主防災組織の活動条件の整備に努めるものとする。また、婦人防火クラブ等の活性化、地域の事業所等の自衛消防組織との連携についても推進するものとする。
(2) 防災ボランティア活動については、既存の防災体制を補強し拡充するものとして震災時に重要な役割を果たすことが期待されることにかんがみ、国及び関係地方公共団体は、その自主性等を尊重しつつ防災ボランティアの育成を支援することとし、現在、日本赤十字社において進められている防災ボランティアの活性化、組織化及び訓練の充実等に向けての取組みと積極的な連携を図りつつ、防災ボランティアを取り巻く社会環境及び活動環境の整備に努めるものとする。
3 企業の防災対策の推進
情報化、国際化の進展等により対象地域においては高度な企業活動が展開されており、企業の経済活動は国民生活の必須の基盤を形成している。このため、各企業は、震災時における従業員及び顧客等の安全を確保するため所要の対策を講ずることのみならず、企業の社会的責任を自覚し、震災時の緊急的な業務の遂行と震後の業務機能全般の復旧体制を確立して企業活動の機能の維持を図ることが求められており、さらに、自らが立地する地域の防災活動の強化に対しても積極的な貢献を果たすことが期待されている。このような企業の防災対策と職場での防災活動及び企業と地域とが協力した防災活動の推進に向けての企業の自発的な取組みを促進するため、国及び関係地方公共団体は、次の施策を推進するものとする。
(1) 直下の地震による被害を最小限にとどめるために企業・事業所等において構ずべき措置の広報や企業の防災対策と職場で防災活動及び企業と地域とが連携した防災活動についての優れた工夫例等の収集及びその積極的な紹介を行うなど、適切な防災関係情報の提供に努めるとともに、企業防災思想の普及啓発に関し行政と経済団体等との情報交換・連携を強化すること等により、企業のトップから一般従業員に到る企業構成員各層の防災意識の高揚を図る。
(2) 前項の普及啓発に当たっては、現代の企業活動の高度な相互関連性等にかんがみ、震災時における情報交換体制の整備など企業相互の連携・協力体制の強化が必要であること、及び直下の地震の被災地域の局地性にかんがみ、迅速な日常生活水準の回復等を求める被災者等の期待が海溝型巨大地震の場合に比べより高まるものと予想されることに十分配慮して、震後における企業活動の機能の維持・復旧体制をあらかじめ整備しておく必要があることについても、企業関係者の留意を促す。
第5 震災訓練の実態
(1) 震災時における応急対策の実施体制を確保するとともに、併せて住民及び企業等の防災意識の高揚を図るため、国、関係地方公共団体、関係公共機関等は、相互の緊密かつ有機的な連携・協力の下に、住民、企業等と一体となって、総合的な震災訓練を引き続き実施するものとする。
(2) 震災訓練の実施に当たっては、直下の地震の特徴を踏まえ、関係防災機関相互の応援体制や非常参集体制等初動期防災業務体制の実効性を検証するための訓練を重視するとともに、都市構造、都市住民の生活・行動様式等の変化や企業活動の高度化等に配意した訓練項目を取り入れるなど、直下の地震に備えたより実践的な震災訓練となるよう、その充実強化に努めるものとする。
(3) また、関係地方公共団体は、総合的な震災訓練のほか、地域の住民、企業等に対し、各種訓練用資機材を有効に活用して、地域特性に応じた日常的な訓練指導を積極的に行うものとする。
第6 地震予知観測・研究等の推進
(1) 直下の地震の予知は現状では非常に難しい状況にあるが、今後、その実用化を図るため、関係諸機関は、地震予知推進本部において緊密な連絡を図りつつ、測地学審議会の建議の趣旨に沿って、
イ 観測手法の開発、各種観測の充実等により、長期的及び短期的予知のための観測を強化しつつ、予知に有効なデータの蓄積を図る。特に、直下の地震の規模及び関東平野の地域特性等にかんがみ、広域深部観測施設等の整備を積極的に推進する。
ロ 直下の地震の予知手法の開発を進めるとともに、直下の地震の予知に資する基礎研究を推進する。
ハ 逐次必要なデータの気象庁への集中を進め、常時監視の充実を図り、地震予知連絡会との緊密な連携の下に、観測研究等の迅速・適切な対応に資する。
(2) なお、直下の地震の予知ができない段階においても、地震情報等として発表される観測成果を活用し、これを被害地震の発生可能等を想定しつつ関係防災機関において執るべき初動期防災業務体制等に反映させる方策について所要の検討を行うものとする。
第7 対策の効果的推進
(1) 本大綱に基づく対策を、一層効果的に、また、地域の実情に応じてきめ細かく推進するため、関係地方公共団体は、地震被害想定の作成及び想定結果の活用に努めるものとする。この際、想定結果を直下の地震に係る地震防災上の具体的な施策に反映させることができるよう、既存の想定結果を有効に活用するとともに、必要に応じて新たに直下の地震に係る被害想定を作成するなど適切な対応を図るものとする。
(2) 国は前項の関係地方公共団体における地震被害想定の作成を支援するため、直下の地震に係る被害想定手法等について所要の調査研究を推進するものとする。