建設省住指発第一七六号
平成七年五月三一日

特定行政庁建築主務部長あて

建設省住宅局建築指導課長通知


建築物の構造耐力上の安全確保に係る措置について

本年、一月一七日に発生した阪神・淡路大震災において多数の死傷者を出したことは、誠に遺憾である。
阪神・淡路大震災における建築物の被害の甚大さにかんがみ、建設省としては、建設省住宅局長の私的諮問機関として学識経験者等により構成される建築震災調査委員会を設置し、建築物の被害状況の調査及び被害原因の究明に努めているところであるが、三月二八日付けで別添のとおり経過報告が得られたところである。
当該報告においては、「新しい建築物の被害状況からは、新耐震設計法はおおむね妥当と思われるが、今回の被害にかんがみ、建築物の特定の階や平面計画において弱点が生じないようバランスを考慮し、かつ余裕のある設計を心かけると同時に、丁寧な施工及び綿密な検査を励行すべきである。」との提言を頂いている。
ついては、建築基準法令の的確な運用を行うことにより、地震による被害の防止に努めるべきであると考えられるので、貴職におかれては、左記の事項に留意の上、必要に応じ建築基準法(昭和二五年法律第二〇一号)第一二条第三項の規定に基づき報告を求めることにより、適正な設計、施工及び検査が行われるよう建築主、設計者、工事監理者、工事施工者等関係者を指導されたい。
また、建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号。以下「令」という。)第四二条の規定により、地盤が軟弱な区域として特定行政庁が建設大臣の定める基準に基づいて規則で指定する区域内においては、地震時における地盤の不同沈下による木造建築物の布基礎の破壊の防止を図るため、その土台は一体の鉄筋コンクリート造の布基礎に緊結することとされているので、当該規定の趣旨にかんがみ、軟弱地盤区域の適切な指定に努められたい。

1 木造建築物について

1) 土台の緊結(令第四二条第二項関係)

建築物が転倒することのないように、土台を布基礎にアンカーボルトで緊結すること。

2) 筋かい及び構造耐力上必要な部分である継手又は仕口の緊結(令第四五条及び令第四七条関係)

地震時における筋かいの踏み外しを防止するめ、筋かいが水平力を十分に負担し得るように、筋かいの端部を、柱とはりその他の横架材との仕口に接近して、住宅金融公庫融資住宅木造住宅工事共通仕様書(以下「木造住宅工事共通仕様書」という。)を参考として金物を適切に使用し、緊結すること。
また、構造耐力上主要な部分である継手又は仕口についても、木造住宅工事共通仕様書を参考として、地震時におけるその部分の存在応力を確実に伝えるよう緊結すること。

3) 防蟻処理(令第四九条関係)

しろありの被害により木造の建築物の柱、土台等の強度が不足することがないように、しろあり防除の徹底を図ること。なお、しろあり防除については、(社)日本しろあり対策協会による「木造建築物等防腐・防蟻・防虫処理対策技術指針・同解説改訂版」を参考として、環境汚染の防止、作業上の安全確保等に配慮した施工工法を採用すること。

2 鉄骨造建築物について

1) 軽量形鋼の厚さ

軽量形鋼を建築物に使用する場合は、建築物の剛性及び耐力が不足しないように、「軽量鉄骨建築指導規準の取扱いについて」(昭和三六年五月三一日付け建設省住指発第五五号建設省住宅局建築指導課長通達)の別添のIIIの表に基づき、建築物の規模に応じて適切な厚さの鋼材を使用すること。

2) 冷間成形角形鋼管の品質

冷間成形角形鋼管は、その製造方法によっては塑性加工による降伏比の上昇等により材料の塑性変形能力が著しく低下することが近年指摘されている。
よって、冷間成形角形鋼管を建築物に使用する場合には、(財)日本建築センターによる「冷間成形角形鋼管評価基準」を参考として、設計者又は工事監理者による品質検査がなされたもの、(財)日本建築センターの審査を受けたもの又は生産・流通関係者による品質保証のなされたものを使用すること。

3) 溶接部の品質確保

溶接部が構造耐力上の弱点とならず適正な施工及び検査が行われるように「鉄骨造建築物等の品質適正化について」(平成四年九月三〇日付け建設省住指発第三四九号建設省住宅局指導課長通達)の記により、原則として、三以上の階数を有し、又は延べ面積が五〇〇平方メートルを超える建築物について、施工状況報告書の提出を求めること。

3 鉄筋コンクリート造建築物

1) 主筋と帯筋との緊結(令第七七条関係)

主筋の座屈及びそれに伴うコンクリートのはらみ出しを防止するため、帯筋は、その端部をおおよそ一三五度に折り曲げること、その両端を溶接すること等により、主筋と緊結すること。

2) 鉄筋のガス圧接継手(令第七三条関係)

主筋又は耐力壁の鉄筋の継手を令第七三条第五項の規定により同条第一項から第四項までの規定が適用されないガス圧接継手とした建築物については、当該ガス圧接継手に係る施工者以外の者による検査を徹底すること。なお、検査に際しては、(社)日本圧接協会による「鉄筋のガス圧接工事標準仕様書」を参考とすること。

3) コンクリート工事の適正化

コンクリートの強度不足、塩害又はアルカリ骨材反応を防ぎコンクリート工事の適正化を図るため、「コンクリートの耐久性確保に係る措置について」(昭和六一年六月二日付け建設省住指発第一四二号)のIの三により、原則として、三以上の階数を有し、又は延べ面積が五〇〇平方メートルを超える建築物について、施工計画報告書及び施工結果報告書の提出を求めること。

4 構造計算について

1) 層間変形角(令第八二条の二関係)

建築物が偏心を有する場合には、層間変形角は、各階において最も変形の大きくなる最外縁の軸組及び耐力壁線において算定すること。ただし、令第八二条の三第一号に定める剛性率を計算する場合には、層間変形角は、剛心において算定すること。

2) 地震力に対する基礎の設計

軟弱地盤に建築される建築物の基礎の設計に際しては、「地震力に対する建築物の基礎の設計指針」(「地震力に対する建築物の基礎の設計指針」の取扱いについて(昭和五九年九月五日付け建設省住指発第三二四号建設省住宅局建築指導課長通達)の別添)により、鉛直力に対する安全性のほか、地震力に対する安全性についても構造計算により確認すること。

兵庫県南部地震による建築物被害に関する調査検討のための『建築震災調査委員会』の設置について

(平成七年一月三一日)
(建設省)
今回の兵庫県南部地震による建築物及び人命に関する被害は、戦後最大の甚大なものであり、今後、早急にこれらの被害の実態及びその原因についての徹底的な調査研究を行う必要があります。このため、建設省においては、(社)日本建築学会等との協力の下、以下により標記『建築震災調査委員会』を本平成七年一月三一日をもって、建設省住宅局建築技術審査委員会の特別委員会として設置することとし、第一回委員会を本日午後四時半より開催いたしました。
1 委員会メンバー

(五〇音順、敬称略、○印‥委員長)(専門分野)
岡田 恒男 東京大学生産技術研究所 教授 耐震工学
岡本 伸 建設省建築研究所 所長 RC構造

○岸谷 孝一 日本大学理工学部 教授 建築防火

救仁郷 斉 (財)日本建築センター 理事長 技術評価
熊谷 良雄 筑波大学社会工学類 助教授 防災計画
坂本 功 東京大学工学部 教授 木構造
杉山 英男 東京理科大学工学部 教授 木構造
高見沢 邦郎 東京都立大学工学部建築学科 教授 市街地整備
南 忠夫 東京大学地震研究所 教授 地震工学
村田 義男 (社)日本建築構造技術者協会 会長 構造設計
渡部 丹 (社)日本建築学会地震災害委員会 主査 耐震工学
なお、必要に応じて委員の追加を行うこととしています。

2 委員会の活動計画(案)

以下の諸活動を行うこととしています。
1) 緊急被害状況調査の実施
2) 関連調査データの収集
3) 調査結果、関連データ等の分析
4) 被害原因の特定
5) 講ずべき施策についての提言

問合せ先:住宅局建築指導課 建設専門官 青木 仁
 
 
 
三五八〇―四三一一 内線 三九四三
課長補佐 越海興一
 
内線 三九四六
 
 
 
五二五一―一九一二 (夜間直通)


(別添)

兵庫県南部地震における建築物の被害状況等について

(平成七年三月二八日)
(建築震災調査委員会)

I 被害状況及び推定される原因

兵庫県南部地震における建築物の被害状況、推定される被害原因について、現時点での中間的な整理をすると、以下の通りである。
1 木造建築物について

(1) 被害の状況

1) 古い老朽化した建築物は、総じて被害が大きかった。
2) 最近建てられたと思われる建築物には、大きな被害を受けたものとそうでないものがあった。
3) 木造建築物で被害のない、または軽微なものには次のようなものがある。

・壁量、壁配置が適切な在来構法(軸組構法)建築物
・枠組壁工法(ツーバイフォー)、プレファブ構法による建築物
・最近建てられた新耐震基準に適合し適切な施工管理が行われたと思われる建築物

(2) 推定される被害原因

1) 壁量の不足、不適切な壁配置、柱・土台の結合力不足、筋交い端部の不適切な接合、腐朽・蟻害等が被害原因として考えられる。

2 鉄骨造建築物について

(1) 被害の状況

1) 被害建築物の多くは、新耐震設計法以前の建築物と見られる。ただし、2)、3)の被害は、新耐震設計法以降の建築物にも見られた。
2) ペンシルビルタイプの建築物において、柱脚コンクリートの部分破壊、アンカーボルトの破壊といった柱脚の被害が見られた。
3) 柱・梁接合部の溶接破断やその他の接合部の被害がみられた。
4) 軽量形鋼を用いた建築物の被害がみられた。

(2) 推定される被害原因

1) 柱脚の被害の原因としては、転倒モーメントによる大きな軸力変動に対し強度不足であった可能性がある。
2) 柱・梁接合部等の被害の原因としては、溶接サイズの不足、不適切な隅肉溶接の採用等の溶接方法、継手位置の詳細設計や施工が不適切であったこと等による可能性がある。
3) 軽量形鋼を用いた建築物の被害の原因としては、耐力・剛性の不足、錆などによる劣化の可能性がある。

3 鉄筋(鉄骨)コンクリート造建築物について

(1) 被害の状況

1) 被害建築物の多くは、新耐震設計法以前の建築物と見られる。ただし、2)の被害は、新耐震設計法以降の建築物にも見られた。
2) ピロティのある建築物において、一階ピロティ部の層崩壊、ピロティ柱のせん断破壊等の被害が見られた。
3) 剛性率の小さい建築物や、偏心率の大きな建築物において、柱のせん断破壊等の被害が見られた。
4) 中高層建築物において、特定の中間階の層崩壊が見られた。

(2) 推定される被害原因

1) ピロティ部の被害の原因としては、剛性率や偏心率の影響や柱の軸力の影響等により、十分な靭性が得られなかった可能性がある。
2) 剛性率の小さい建築物、偏心率の大きな建築物の被害の原因としては、地震時の変形がある特定の部分で大きくなった可能性がある。
3) 中間階の層崩壊の原因としては、

・新耐震設計法以前の基準におけるせん断力係数は、以降の基準に比べ上層階ほど耐力不足が生ずる可能性があるが
・最小配筋規定等により最上階近傍ではかなりの耐力を有しており、
これらの結果、顕著な耐力不足となった中間階の特定階に被害が集中した可能性がある。

4 基礎・地盤について

(1) 被害の状況

1) 基礎被害の全体像はよくわからないが、杭頭部が破損しているものが見られた。
2) 埋め立て地盤において、液状化による地盤沈下、側方流動が見られた。液状化対策を行ったところでは、これらの被害はほとんど見られなかった。

5 非構造部材について

(1) 被害の状況

1) はめ殺し窓ガラスの破損や鋼製玄関ドア開閉不能の被害が見られた。
2) 層崩壊を伴う場合を除いては、カーテンウォールの被害は軽微であった。

(2) 推定される被害原因

1) はめ殺し窓ガラスや鋼製玄関ドアの被害の原因としては、各非構造部材が保有する変形性能より大きな層間変形が作用したことが考えられる。

II 応急的対応に対する提言

1 古い建築物についての被害程度が大きいことにかんがみ、既存建築物の耐震診断、及びその結果耐震性が著しく劣ると判断された建築物の耐震補強を全国的な課題として推進すべきである。
2 新しい建築物の被害状況からは、新耐震設計法はおおむね妥当と思われるが、今回の被害にかんがみ、建築物の特定の階や平面計画において弱点が生じないようバランスを考慮し、かつ余裕のある設計を心がけると同時に、丁寧な施工及び綿密な検査を励行すべきである。

III 今後の調査

1 木造建築物、鉄骨造建築物、鉄筋(鉄骨)コンクリート造建築物、基礎・地盤、非構造部材について、建築物内部や基礎等の詳細調査及び構造計算図書等に基づく詳細分析を今後一層進める予定である。
2 また、これらと併せ、地震動についても、強震記録の収集分析や建築物への入力等の検討を進める予定である。


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