国住街第五七号
平成一三年七月六日

都道府県知事・指定都市の長あて

住宅局長通知


病院の建替えと容積率制限等に係る特例制度の運用について


高齢化の進展等に伴う疾病構造の変化等を踏まえ、地域に安定的な医療を提供する環境や体制の確保の必要性が高まっているところである。
このような中、平成一二年の第四次医療法改正の一環として、療養環境の改善を図る観点から、病院の構造設備の基準(医療法施行規則第一六条)が平成一三年一月三一日厚生労働省令第八号により改正され、患者一人当たりの病床面積や、廊下の幅員の基準値の引き上げ等が行われたところである。
改正後の構造設備の基準は、平成一三年三月一日以後に新築される病院について適用されるが、これまで建築基準法による容積率制限において特段の問題のなかった既存の病院についても、病床を同数に確保しつつ建替えを行おうとする場合には、構造設備の基準への適合に配慮した結果、床面積が増大し、容積率制限に抵触することとなる場合もあるものと考えられる。
また、低層住居専用地域等内に従来より存する病院については、いわゆる既存不適格建築物としての取り扱いを受けていることから、建替えの際に、建築基準法による用途制限に抵触することとなる。
このような事態に鑑み、市街地環境の保護を図りつつ、地域の安定的な医療環境の確保を図るためには、建築基準法に定める容積率制限等に係る特例制度の活用につき、左記に配慮した運用を行うことが望ましい。
また、特定行政庁は、必要に応じ当該病院の立地する地方公共団体の福祉・医療関係部局と十分な連絡調整を図ることが望ましい。
都道府県におかれては、この旨を貴管内市町村(指定都市を除く。)に対しても周知いただくようにお願いする。

1 容積率制限に係る特例制度の活用について

(1) 高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる建築物の特例制度

従来より存する病院について、地域の医療環境の確保を図る観点から、病床数を維持しつつ現在の敷地又はその近傍において建替えようとする場合で、構造設備の基準への適合を図るために、結果として従前と比して床面積が増大し、容積率制限に抵触することとなるものであって、かつ、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律第一二条に規定する特定施設の床面積が通常の床面積よりも著しく大きいものであり、国土交通大臣が定める基準に適合するものに対しては、建築基準法第五二条第一一項第一号に規定する特例制度の柔軟な運用を図ることが望ましい。
なお、構造設備の基準の改正を踏まえ、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律第一二条の規定の運用について」(平成一三年三月二三日付け国土交通省国住街第二〇七号住宅局長通知)の3(1)2)の二において、「住戸以外の部分に設けられる特定施設」とあるのを「住戸以外の部分に設けられる特定施設等」と、同二において、「特定施設の部分」とあるのを「特定施設及び病院の病室(患者一人当たりの病室の床面積が四・三平方メートルを超える部分に限る。)の部分」と改めることとする。

(2) 総合設計制度

従来より存する病院について、地域の医療環境の確保を図る観点から、病床数を維持しつつ現在の敷地又はその近傍において建替えようとする場合で、構造設備の基準への適合を図るために、結果として従前と比して床面積が増大し、容積率制限に抵触することとなるものであって、(1)による対応では十分ではなく、かつ、公開空地の確保等により市街地環境の整備改善に貢献するものにあっては、その程度などを評価しつつ、建築基準法第五九条の二第一項に規定するいわゆる総合設計制度の柔軟な運用を図ることが望ましい。

2 用途制限に係る特例制度の活用について

低層住居専用地域等の用途制限に関していわゆる既存不適格建築物としての取り扱いを受けている病院について、地域の医療環境の確保を図る観点から、現在の敷地又はその近傍において建替えようとする場合で、当該建替えが良好な住居の環境を害するおそれがない、公益上やむを得ない等と認められるものにあっては、建築基準法第四八条第一項、第二項等のただし書き許可制度の柔軟な運用を図ることが望ましい。


(参考1)

医療法改正前後の病院の構造設備の基準(病床面積と廊下幅に限る)

 
 
改正後
 
改正前
 
区分
 
一般病床
療養病床
その他の病床
療養型病床群
構造設備の基準
1患者当たり病床面積
新設(全面改築含む)
6.4m2以上
既設
4.3m2以上
6.4m2以上
4.3m2以上
6.4m2以上
 
廊下幅
新設(全面改築含む)

1.8m以上(両側居室2.1m)

既設

1.2m以上(両側居室1.6m)

新設(全面改築含む)

1.8m以上(両側居室2.7m)

既設

1.2m以上(両側居室1.6m)
1.2m以上(両側居室1.6m)
1.8m以上(両側居室2.7m)



(参考2)

*本通知による改正部分について(傍線部分が改正部分)

高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律第一二条の規定の運用について

(略)

1 容積率特例の対象となる建築物

(1) 容積率特例の対象となる建築物には、法第二条に規定する特定建築物のみならず、共同住宅等その他の建築物も含まれること。
(2) 容積率特例の対象となる建築物は、建築物の部分のうち、一の用途に供される部分並びにこれと利用上不可分な当該建築物の部分及び敷地(以下「一の用途に供される部分等」という。)に設置される廊下、階段等の特定施設が告示第一及び第二に適合するものであること。

また、「一の用途に供される部分等」については、建築物の使用上の関係を中心に当該部分の機能上の独立性等客観的状況により判断すること。したがって、以下に示すような部分がこれに該当する。
1) 事務所の部分については、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮されていないが、共同住宅の部分の共用廊下、共同住宅の部分に至るエレベーター等の特定施設については高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮されている事務所と共同住宅とが併設された建築物の共同住宅の部分及び共同住宅に至る経路等、複数の用途の建築物が併設されている場合におけるその一部の用途に供される建築物の部分及び当該部分に至る経路
2) 専ら従業員が利用する部分については高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮されていないが、売場及び当該売場に至る経路については高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮されている百貨店の売場及び当該売場に至る経路等、建築物の性格からみて、利用者の特性により利用する建築物の部分が明確に特定することができる場合における当該建築物の部分
ただし、高齢者、身体障害者等の建築物の円滑な利用という観点から一体性を欠く場合には、当該建築物は容積率特例の対象とならないこと。したがって、以下のような場合には容積率特例の対象とならない。
1) 百貨店のすべての売場は高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮されているが、売場に至る経路が高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮されていない場合
2) 百貨店のすべての売場ではなく、一部の売場及び当該売場に至る経路のみが高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮されている場合
なお、戸建て住宅等で、高齢者、身体障害者等用の寝室と同一階に出入口、浴室、便所その他生活に必要な施設が配置されている場合には、当該階のみを利用者の特性により利用する建築物の部分が特定することができる場合として取扱うことも差し支えない。
また、増改築等に係る場合も、既存部分を含め、同様に取扱うことが可能である。

2 適用すべき基準

(1) 容積率特例を適用する際には、「一の用途に供される部分等」のうち多数の者が利用する部分の特定施設については告示第一の基準に、それ以外の部分の特定施設については告示第二の基準によること。また、共同住宅等における共用階段等、主として特定多数の者が利用する階段については、その幅の内法は一四〇センチメートル以上とすれば足りるものであること。
(2) 告示第二に規定する「多数の者が利用する部分以外の部分」としては、共同住宅の住戸、ホテルの宿泊室、戸建て住宅、病院の病室、小規模な事務所等が該当するものであること。
(3) 告示第二第二項ただし書中「宿泊施設その他これに類するもの」としては、ホテルの宿泊室、病院の病室等が該当する。したがって、共同住宅、ホテル等においては、全住戸、全宿泊室等のうち少なくとも一の住戸、一の宿泊室とこれに至る経路について高齢者、身体障害者が円滑に利用できるよう配慮していれば本特例の対象となるものであること。

この場合において、当該経路に該当する共同住宅等における共用部分の廊下等は、多数の者が利用する特定施設であり、告示第一に基づき、平成六年建設省告示第一九八七号第二第二号(以下「三条告示」という。)(一)、(二)、(三)イからホまで及び(五)によること。

3 容積率特例の適用方法

(1) 容積率特例の対象となる部分は、床面積に算入される部分のうち、原則として、告示で定める幅、面積等に係る基準を超える特定施設の部分及び住宅の用途に供する部分にあっては生活に不可欠な施設で高齢者、身体障害者等に配慮した施設が対象となるものである。このため、具体的には次に掲げる施設の部分とすること。なお、建築物の規模、用途等に応じて、本特例の趣旨を踏まえ、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮したことにより増加した部分を本特例の対象とするよう的確な運用を図ることが望ましい。

1) 多数の者が利用する部分に設置される特定施設

イ 廊下等幅の内法が一八〇センチメートル(廊下等の末端の付近及び区間五〇メートル以内ごとに二人の車いす使用者がすれ違うことができる構造の部分を設ける場合にあっては、一四〇センチメートル)を超える廊下の部分及び車いす使用者以外の者の利用が通常想定されない傾斜路の部分
ロ 階段幅の内法が一五〇センチメートル(主として特定の者が利用するものである場合にあっては、一四〇センチメートル)を超える部分
ハ 昇降機告示第一により準用される三条告示第二第四号(二)イからヌまでに掲げる基準に適合する昇降機について、かご一当たり二・〇九平方メートルを超える部分
ニ 便所車いす使用者用便房について、便房一当たり一平方メートルを超える部分
ホ 駐車場車いす使用者用駐車施設について、駐車ますの幅三五〇センチメートルを超える部分(建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号。)第二条第一項第四号の規定により延べ面積に算入しない自動車車庫等の部分を除く。)
ヘ その他その他高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮したことにより床面積が増加したことが明らかな特定施設の部分

2) 多数の者が利用する部分以外の部分に設けられる特定施設等

一 住戸内に設けられる特定施設等

イ 廊下等(傾斜路を含む。)幅の内法が八五センチメートル(柱等の箇所にあっては八〇センチメートル)を超える部分
ロ 階段幅の内法が八五センチメートルを超える部分
ハ 便所告示第二第一項第四号イからハまでに掲げる基準に適合する便所で、二・五平方メートルを超える部分
ニ 浴室床面積が二・五平方メートルを超える部分
ホ エレベーター昇降路の部分
ヘ その他その他高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮したことにより床面積が増加したことが明らかな特定施設の部分

二 住戸以外の部分に設けられる特定施設等

イ 廊下等幅の内法が九〇センチメートルを超える部分
ロ 階段幅の内法が九〇センチメートルを超える部分
ハ 便所告示第二第二項第四号イからハまでに掲げる基準に適合する便所の便房一当たり二・五平方メートルを超える部分
ニ その他その他高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるよう配慮したことにより床面積が増加したことが明らかな特定施設の部分及び病院の病室(患者一人当たりの病室の床面積が四・三平方メートルを超える部分に限る。)の部分

(2) 法第一二条中「著しく大きい」の判断の目安としては、次によられたい。

1) (1)に掲げる部分の床面積の合計が当該建築物全体の延べ面積(建築基準法施行令第二条第一項第四号の規定により延べ面積に算入しない自動車車庫等の部分を除く。)に占める割合が三%以上であること。
2) (1)に掲げる部分の床面積の合計が特定施設(建築基準法施行令第二条第一項第四号の規定により延べ面積に算入しない自動車車庫等の部分を除く。)全体の床面積の合計に占める割合が一〇%以上であること。

(3) 違法な用途転用等により本制度の趣旨が損なわれぬよう、建築物内の適当な場所に、容積率特例の対象部分であることを標示することについて必要に応じて指導する等、本許可により建築される建築物が適切に維持管理されるよう指導することが望ましい。
(4) 本許可に係る事務の執行に当たっては、その迅速な処理に努められたい。


All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport