長寿社会対応住宅設計指針(以下「指針」という)については、六月二三日付け建設省住備発第六三号で通知されたところであるが、本指針の円滑な活用を図るため、具体的な指標等として左記のとおり寸法、仕様等の補足基準を設定した。
指針及び本補足基準においては、加齢等に伴う一定の身体的弱化(杖類及び歩行器の補助具を利用して自立した生活が可能な状態)に対して、そのまま又は比較的軽微な改造により対応を可能とする仕様(介助用車いすを利用する場合にあっても、基本的な日常生活を送るため、最小限必要な移動を可能とする仕様)を確保するという考え方に基づき基準を設定している。
項目によっては、安全性、快適性をより高めることや、日常生活に介助を要する場合(たとえば介助用車いす等を利用して動き回れる状態)にもより適切に対応可能とする仕様を推奨基準として設定し、経済的、空間的条件が許せば選択できるようにしている。
I 指針第2(住宅(集合住宅の場合は住戸専用部分)の設計指針)について
1 通則
(1) 部屋の配置
・玄関、便所、洗面所、脱衣室、浴室、居間・食事室及び高齢者等の寝室の同一階配置の確保にあたっては、高齢者等の寝室については、将来における軽微な改造(間仕切り設置等)により、同一階に確保できる場合を含む。
・高齢者等の寝室及び便所とそれ以外の室とは、ホームエレベーターや階段昇降機等を設置するか設置できるように措置されている場合は、同一階に配置しなくてもよい。
(2) 段差
・高齢者等が利用しない居室、居間の一角に設ける畳コーナー等については、高齢者等の基本的な日常生活における移動経路上にない場合は、段差があっても差し支えない。
(3) 手すり
・階段の少なくとも片側の手すりは、当初から設置し、設置しない側には将来設置できるようにする。
・階段の手すりは、廊下等の手すりと連続している場合を除き、できる限り端部を二〇cm以上水平に伸ばす。
・浴室については、浴槽出入りのための手すりを設置するとともに、できる限り浴室出入口にも手すりを設置する。
・玄関については、靴等の着脱のために上がりかまち部に手すりを設けるか設置できるようにする。
・便所については、立ち座り、姿勢保持のための手すりを設けるか設置できるようにする。
・脱衣室には、衣服の着脱等のための手すりを設けるか設置できるようにする。
・廊下、階段、洗面所、居間、食事室及び高齢者等の寝室の移動のために設ける手すりの設置高さは、床仕上面(階段の場合は段鼻)から七五cmを標準とする。
・水平手すりの端部は、できる限り壁側又は下側に曲げる。
(推奨)
・階段の両側に手すりを設置する。
・浴室には、浴槽内での立ち座り、姿勢保持のための手すり等、洗い場の立ち座りのための手すりを設置する。
(4) 通路・出入口の幅員
・通路の有効幅員は、七八cm(柱等の箇所にあっては七五cm)以上とする。
・出入口の有効幅員(開き戸では建具の厚み、引き戸では引き残しを除いた幅員)は、七五cm以上(浴室の出入口にあっては六五cm以上、やむを得ない場合六〇cm以上とする。)とする。ただし、玄関及び浴室以外の出入口については、やむを得ない場合、改造により有効幅員七五cm以上とすることができるようにする。
・廊下の屈曲部及び廊下から直進できない出入口に接する廊下については、できる限り介助用車いすの回転が可能な空間を設けるか、又は改造によって当該空間を設けることができるようにする。
(推奨)
・通路の有効幅員は、八五cm(柱等の箇所にあっては八〇cm)以上とする。
・出入口の有効幅員は、八〇cm以上とする。
(5) 床・壁の仕上げ
・床は、滑りにくい仕上げとするとともに、転倒した場合の衝撃をやわらげるよう仕上げの材質等に配慮する。特に浴室については、滑りやすいので十分に配慮する。
・階段の踏面については、粗面にするかノンスリップを設けることとする。
・壁の出隅部は、できる限り面とりを行う等、形状、仕上げの材質に配慮する。
(6) 建具
・玄関ドアが開き戸形式の場合、急激な開閉を防ぐため、ドアクローザーの設置等を行う。
・浴室及び便所の建具の錠は、外から解錠可能とする。
・出入口ドア等にガラスを入れる場合は、安全ガラスを用いるか又は桟付建具として一枚あたりのガラス面を小さくする。
(推奨)
・引き戸や開き戸のとって側に三〇cm以上の袖壁を設ける。
・玄関ドアは、親子扉(親扉の有効幅員は八〇cm以上)とする。
・建具、造付け家具等に用いられるガラスのうち身体に接触する可能性のあるものは、安全ガラスとする。
(7) 設備
・水栓金具は、レバー式等操作しやすい形状のものとするとともに、湯温調整が安全に行えるものとする。
・電気設備のスイッチ、コンセント等は、使いやすい高さに設置するとともに、できる限りワイドスイッチや明かり付きスイッチを用いる。
・階段の照明は、複数設置等により踏面に影ができないようにするとともに三路スイッチとする。
・ガス調理器具は立消え安全装置付きのものとする。
・台所にはガス漏れ検知器及び火災警報器を設置し、便所及び浴室にはできる限り通報装置を設置する。
(推奨)
・階段には足下灯を設置する。
・玄関の上がりかまち部には、足下灯を設置する。
・台所には自動消火装置又はスプリンクラー等を設置する。
・高齢者等の寝室には通報装置を設置する。
(8) 温熱環境
・便所、洗面所、脱衣室、居間、食事室及び高齢者等の寝室には暖房設備を設けるか又は機器を設置できるようにするほか、地域の気候に応じて、居間・食事室及び高齢者等の寝室には冷房設備を設けられるようにする。
(推奨)
・地域の気候に応じて、浴室には暖房設備を設ける。
2 住戸内各部
(1) 玄関
・玄関の出入口においては、くつずりと玄関外側の高低差は二cm以下、くつずりと玄関土間の高低差は五mm以下とする。
・玄関の上がりかまちの段差は、集合住宅については一一cm以下とする。戸建住宅については一八cm以下とし、やむを得ない場合は式台を設置するか、設置できるスペースを設け、土間と式台との段差及び式台と上がりかまちの段差を各一八cm以下とする。
・玄関の上がりかまち及び式台は、段差が分かりやすいよう、できる限り材質、色等で変化を持たせる。
(推奨)
・玄関の出入口においては、段差なしとする。
(2) 階段
・階段の勾配は6/7以下、55cm≦T(踏面、以下同じ)+2R(蹴上げ、以下同じ)≦65cmとする。やむを得ない場合、階段の勾配は22/21以下、55cm≦T+2R≦65cm、T≦19.5cmとするとともに勾配が四五度を超える場合は両側に手すりを設ける。
・階段の構造は、最上段の通路等への食い込みや最下段の通路等への突出を避けるとともに、まわり階段等安全上問題があると考えられる形式はできる限り用いない。
・踏面のノンスリップを設ける場合はできる限り踏面と同一面とし、蹴込み板を設置し、できる限り段鼻を出さないようにするとともに、蹴込みは二cm(やむを得ない場合は三cm)以下とする。
(推奨)
・階段の勾配は7/11以下、55cm≦T+2R≦65cmとする。
(3) 便所
・できる限り便器側方に介助スペースを確保するか軽微な改造により確保できるようにする。
(推奨)
・便所の広さは、内法で間口一・三五m以上、奥行一・三五m以上とする。
(4) 洗面所・脱衣室
(推奨)
・いす座使用可能な洗面台を設置する。
・脱衣室(洗濯機を別の場所に置く場合は、その附近)には、下洗い用シンクを設置する。
(5) 浴室
・浴室の広さは、腰掛け台等を設置しても入浴行為に支障のない広さとして、内法で短辺一・四m以上かつ広さ二・五m2以上とし、やむを得ない場合、集合住宅にあっては、短辺一・二m以上かつ広さ一・八m2以上、戸建住宅にあっては、短辺一・三m以上かつ広さ二・〇m2以上とする。
・浴室の出入口の段差は、二cm以下の単純段差とし、やむを得ない場合は、手すりを設置しつつ、浴室内外の高低差一二cm以下かつまたぎ高さ一八cm以下とする。
・出入口建具は引戸または折れ戸を原則とし、やむを得ず内開き戸とする場合は、緊急時には外部から取りはずせる構造のものとする。
・浴槽の縁の高さは三〇〜五〇cmとする。
(推奨)
・浴室出入口は段差なしとする。
・浴槽の縁は、腰掛けて浴槽に出入りできる形状のものとする。
・浴室の縁の高さは三五〜四五cmとする。
(6) 高齢者等の寝室
・高齢者等の寝室の広さは、約一二m2以上とし、やむを得ない場合は約一〇m2以上とする。
(7) バルコニー等
・バルコニー、テラス等への出入口の段差は、一八cm以下の単純段差とし、やむを得ない場合、二五cm以下の単純段差か屋内側、屋外側とも一八cm以下のまたぎ段差とし、手すりを設置できるようにする。
・物干し金物の高さは、できる限り高齢者等に配慮する。
(推奨)
・集合住宅の隣戸避難口は、開き戸等開閉が容易な形式とする。
II 指針第3(集合住宅の屋外空間及び共用部分の設計指針)について
1 アプローチ等
・屋外歩行空間は、幅員九〇cm以上とし、部分的に幅の広いところを設けるとともに、高低差が生じる場合にはできる限り傾斜路を設ける。
・屋外に設ける階段は、R≦16cm、T≦30cmとし、やむを得ない場合には、T≦24cm、55cm≦T+2R≦65cmとする。
・傾斜路は、できる限り一/一二以下の勾配とし、高低差七五cm毎に一・五m以上の踊り場を設ける。
(推奨)
・屋外歩行空間の幅員は、一二〇cm以下とする。
2 共用階段
・共用階段は、階段、踊り場ともできる限り有効幅員を一二〇cm以上とするとともに、勾配は七/一一以下、55cm≦T+2R≦65cmとし、やむを得ない場合は、T≦24cm、55cm≦T+2R≦65cmとする。ただし、日常時の昇降はエレベーターによって行われる等のため、共用階段が専ら非常時の避難用として利用されると考えられる場合を除く。
・共用階段の構造は、最上段の通路等への食い込みや最下段の通路等への突出を避けるとともに、できる限り踊り場付き折れ階段又は直階段とする。
・踏面のノンスリップを設ける場合はできる限り踏面と同一面とし、蹴込み板を設置し、できる限り段鼻を出さないようにするとともに、蹴込み寸法を二cm(やむを得ない場合は三cm)以下とする。
(推奨)
・共用階段は、R≦16cm、T≦30cmとする。
3 共用廊下
・共用廊下の有効幅員は、できる限り一四〇cm以上とし、部分的に車いすのすれ違いのためのスペースを確保する。
・共用廊下に面する玄関ドアの共用廊下側には、できる限りアルコーブ(入り込みスペース)を設ける。
4 床の仕上げ・手すり
・階段及び傾斜路には、少なくとも片側に手すりを設けるとともに、その端部は、できる限り二〇cm以上水平に延ばす。
・共用廊下には、少なくとも片側に手すりを設ける。
・手すりの設置高さは、床面から七五cmを標準とし、端部はできる限り壁側又は下側に曲げる。
(推奨)
・階段及び傾斜路には、両側に手すりを設ける。
5 エレベーター
・住棟出入口から一階エレベーターホールへのアクセスに高低差が生じる場合は、できる限り階段と傾斜路を併設するとともに、それぞれの有効幅員は一二〇cm以上とする。
・エレベーターホールには車いすが回転できるスペースとして一五〇cm角以上を確保するとともに、エレベーター開口幅は八〇cm以上とする。
・エレベーターの乗り場ボタン及びかご内の操作盤は、車いす利用者に配慮する。
(推奨)
・二階建て住宅にエレベーターを設置する。
・エレベーターのかごは、奥行き一三五cm以上、面積約二m2以上で、トランク付きとする。
6 照明設備
・共用階段の照明は、複数設置棟により踏面に影ができないようにする。
(推奨)
・共用階段に足下灯を設置する。
III 指針第4(戸建住宅の屋外空間の設計指針)について
1 アプローチ等
・敷地に高低差がある場合は、緩勾配の階段や傾斜路を設けるとともに、少なくとも片側に連続して手すりを設置する。
・階段を設ける場合は、道路から敷地へ入るための数段程度の階段は、R≦16cm、T≦30cmとし、これ以外の屋外階段は、T≦24cm、55cm≦T+2R≦65cmとする。
・屋外階段の照明は、複数設置等により踏面に影ができないようにする。
(推奨)
・アプローチの段差部には、足下灯を設置する。