タクシー業務適正化臨時措置法(以下「本法」という。)は、昭和四五年五月一九日法律第七五号として公布され、来る一一月一日から全面的に施行されることとなる。東京都内及び大阪市内のタクシー事業については、本年三月の運賃改訂に際し、そのサービスの改善が約束されているところであるが、その後必ずしも、所期の効果があがっているとは認められない。よって本法の全面施行を機に左記の諸点に留意して、サービス改善等業務の適正化に努められたい。
I 本法第九条の運用について
(1) 登録運転者が「この法律」に違反する行為をしたときは、本法第八条第一項(登録事項の変更等の届出)、第四五条第二項(タクシーである旨の表示等)又は第四七条(不正表示の禁止)の規定に違反する行為をした場合をいう。
(2) 登録運転者が「道路運送若しくは同法に基づく命令」に違反する行為をしたときは、道路運送法第四条(免許)若しくは第一〇一条(有償運送の禁止及び賃貸の制限)の規定その他直接同法関係法令に違反する行為をした場合をいう。
(3) 登録運転者が「一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者の業務に関し当該事業の用に供する自動車の運転者として」
(イ) 「この法律」に違反する行為をしたときは、本法第三条(登録運転者の乗務)、第一三条(運転者証の表示)、第一八条(運転者証の譲渡等の禁止)、第四三条(タクシー乗車禁止地区での乗車)、又は第四五条第一項(タクシーである旨の表示)の規定に違反する行為をした場合をいう。
(ロ) 「道路運送法若しくは同法に基づく命令」に違反する行為をしたときは、道路運送法第八条(無認可運賃料金の収受)、第一五条(運送引受義務)、第二四条(区域外運送)、又は第三二条(公衆の利便を阻害する行為の禁止等)の規定等タクシー運転者として同法関係法令に違反する行為をした場合をいう。
なお、いわゆる一人一車制の個人タクシー事業者に関しては、道路運送法及び本法の違反行為については、それぞれ道路運送法(第四三条)及び本法(第五二条)による免許の取消しその他の規制が適用され、本法第二章(第三〇条を除く。)の適用がないので行き違いのないようにされたい。
(代務運転者については、個人タクシー事業者と雇用関係にあると解されるので、本法第二章が適用される。)
(4) 法第九条第一項第二号の「職務に関して著しく不適当な行為」について「職務に関して著しく不適当な行為」とは、概ね次に掲げる行為をいうものと解するが、具体的な場合であって判断が困難なときは、本省あて照会すること。
(イ) 行為の対象は、旅客のほか、旅客であった者及び旅客となるべき者も含まれる。従って、例えば旅客の下車後これを追いかけて行う行為や、旅客となるよう通行人につきまとって行う行為も該当する。
(ロ) 行為の内容は、主として次のとおり
1) 殺人、傷害、強姦、強制わいせつ、脅迫等刑法上生命、身体、自由に対する罪を構成する行為(過失によるものを除く)
2) 窃盗、強盗、横領等刑法上財産に対する罪を構成する行為
3) 麻薬取締法、覚せい剤取締法、売春防止法、軽犯罪法の罪を構成する行為その他著しく迷惑をかける行為、なお、道路交通法上の罪を構成する行為については、同法上の免許停止等による処分及びこれに基づく本法第一〇条による登録の消除又は効力の停止によりその効果が期待できるので、原則として本条の対象とはしないものとして取り扱って差支えない。
(5) 登録の取消しについて
法第九条第一項各号の一に該当する場合の登録の取消し処分は、事実関係の確認により行う。(司直の手に委ねられたときは、送付又は送致をもって事実関係の確認とするので、関係警察等と密接な連絡を保つよう努めること。)
(6) 再登録禁止期間について
本法第九条第二項及び第三項の再登録禁止期間についての基準は、概ね次のとおりとするので、各陸運局において、これに基づいた明確な内規を設け、違反状況に応じて適切な処分をされたい。
法律
|
違反事項
|
処分内容
|
|
|
|
初回
|
次回
|
タクシー業務適正化臨時措置法
|
・運転者証の表示(第一三条)
|
一〇日〜四五日
|
二〇日〜三月
|
|
・乗車禁止地区における乗車(第四三条)
|
五日〜二〇日
|
一〇日〜四五日
|
|
・不正手段による登録(第九条第三項)
|
一月〜三月
|
二月〜六月
|
|
・その他
|
二月以内
|
三月以内
|
道路運送法
|
・不当運賃・料金収受(第八条)
|
二〇日〜四五日
|
一月〜三月
|
|
・運送引受義務(第一五条)
|
二〇日〜四五日
|
一月〜三月
|
|
・その他
|
三月以内
|
六月以内
|
刑法
|
・殺人、強盗、強制わいせつ、強姦
|
一八月〜二年
|
二年
|
|
・その他
|
一年以内
|
二年以内
|
その他
|
・路上における悪質な客引行為(軽犯罪法)
|
一〇日〜二月
|
二〇日〜三月
|
|
・その他関係法令違反
|
一年以内
|
二年以内
|
II タクシーに係る運送の引受又は継続の拒絶(以下「乗車拒否」という。)の要件について
1 乗車拒否の要件については、現在道路運送法第一五条及び自動車運送事業等運輸規則に定められているところであるが、今般の本法の全面施行を機会に、次のとおり解釈の基準を示すこととした。これは、乗車拒否要件を極力明確化することによって、1)違法な乗車拒否を排除すること。2)利用者と運送者の間のトラブルを未然に防止すること。3)本法による登録の取消等の処分によって不当に運転者の生活権が侵害されることのないようにすること等のための措置である。従って各陸運局において、前記趣旨を勘案し、地域の実情に応じて各号の内容を明確にしたうえ、事業者を指導するとともに、利用者へのPRに努められたい。
イ 道路運送法(第一五条)関係
i 第一号中「運送約款によらない申込」とは、
a 認可運賃以外の運賃によるもの
b 運送の安全のための乗務員の指示に従わないもの
ii 第三号中「運送に適する設備がないとき」とは、
a トランクに入らない(蓋がしまらない。)とき。
b バックミラーによる視認を妨げたり、操縦装置を円滑に操作できない等運転に支障があるとき。
c 定員を超えるとき。
iii 第四号中「特別の負担」とは、
a 高速道路、フェリー等の料金の支払を乗客から強制されたとき。
b 現金及び当該事業者に有効なチケット以外による支払を求められたとき。
c 著しく離れた区域への運送を求められたとき。(著しく離れた区域とは、事業区域の境界からたとえば概ね五〇km以上離れた区域がこれに当たると解するが、道路状況、交通状況等各地域の実情を勘案して、その区域を決定し、必要に応じて公示する等の方法により周知を図られたい。
iv 第五号中「法令の規定又は公の秩序若しくは善良の風俗に反する」とは、
a 道路交通法上の停車禁止、一方通行等に反するとき(この場合は違反である旨を説明し、違反とならないように乗客に指示―例えば停車禁止以外の地点まで移動して乗車させる。―するよう事業者を指導すること。)。ただし、既に違法状態となっている場合(例えば既に違法に駐車している場合等)は、これに該当しない。
b 申込に際し、暴行、威かく等の行為があったとき。
c 賭博場、売春宿への案内を求められたとき。
d 当該運送を引き受けることにより、定められた乗務時間、乗務距離を超えることとなるとき。(乗務時間、乗務距離が残り少なくなった時は、すみやかに帰庫するよう指導すること。)
e 法令の規定により回送板を提出しているとき。(後述2参照)
ロ 自動車運送事業等運輸規則(第一三条)関係
第三号中「泥酔した者」とは、
a 行先を明瞭に告げられない者
b 嘔吐の跡等があり、車内を汚染するおそれのある者
c 人の助けなくしては、歩行が困難である者
2 前述の措置の一環として、食事、休憩等一定の場合に回送板の掲出を義務づけ、かつ、それ以外の場合には回送板を掲出してはならないこととした。(運輸規則第三四条の改正)これにより正当な理由により回送板を掲出している間は、運送の引受を拒絶しうるが、回送板を掲出している間に運送の引受をした場合には、本条の違反として取締の対象となるので、この旨を周知徹底を図られたい。