員基第二七九号
昭和二九年一一月三日

函館地方検察庁検事正あて

船員局長通達


船員法に定める船長の職務及び権限について(抄)


(一) 船員法は、海上航行の安全保持のため、船長に対し、厳格な義務と強力な権限を与えている。この職権は海上航行という特殊な状態において、人命、船舶、積荷の安全を図るという公益を確保するために定められたもので、船舶所有者、荷主等の意志に左右されることはない。従つて、これらの職務権限は、船舶所有者の経済的利益のために利用することはもとより許さるべきものではなく、又船舶航行の安全の目的に反するときは、労働争議を理由としてもこれを犯されることはない。

船員法の第二章に定める船長の職務権限は公法上のものであつて、企業体内部において、船長が被用者として使用主に対して負う義務域は使用主の代理人として部下の海員を指揮監督する権限とは異なるものである。
船長の職権は、法律に基いて、直接に船長に与えられるものであるから、独立不きのものである。

(二) 船長の公法上の権限

船長は航海に関する最高の指揮者としての責任を負うが故に、船内の統一を計る統制権限を有すべきであるから、船員法は、部下の海員のみならず旅客その他船内にある凡ての者に、職務執行上必要な指揮命令を行なう権限を与えると共に、命令の実行を確保するために具体的な処分、或は身体拘束をなし得ることとしている(船員法第七条、第二二条、第二五条乃至第二七条参照)。

(三) 船長の公法上の義務

船員法は、航海の安全を確保するために船長に多くの義務を課している。即ち、先ず発航前に船舶が航海に支障はないか、航海に必要な準備が整つているかどうかを検査すべき義務を有するが、此の検査は公法上の義務であるから、雇主たる船舶所有者からこの義務を軽減する許可を得ていても、船員法上は無効であることは云うまでもない。ただ船員法には、検査の結果、航海の安全に支障があることを発見した場合、船長が如何なる措置を講ずべきかは明定していない。然し乍ら、前述の如く安全確保のために船長に強い権力を認めた法の趣旨から考えて、当然船長は、安全確保のために必要な修理、積附の変更等の措置又は出航の停止をなし得るし、またしなければならないと解すべきであろう。
検査の義務の他、船長に対しては在船義務、甲板上の指揮の義務、海難の場合における最後離船の義務、他船の救助義務等が規定されているがこれらはすべて海上における船舶の安全を確保するためのもので、陸上にない特殊な義務である(船員法第八条乃至第一四条参照)。


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