海洋汚染防止法の用語の意義、解釈その他本法の施行については、左記事項に留意のうえ、運用にあたって遺憾ないようにされたい。なお本分中、法、令、規則等の語は、それぞれ次の意味で用いることとする。
・船舶の通常の活動に伴い生ずる汚水であって海洋において処分することができるものの水質の基準を定める省令第二項の運輸大臣が定める方法を定める件(昭和四七年運輸省告示第二九二号)
1 用語の意義について
(1) 油
((イ)) 油とは、法第三条第一号に規定しているように「原油、運輸省令で定める重油及び潤滑油並びにこれらの油を含む油性混合物」をいう。重油の範囲については、規則第二条で規定しているとおりであり、A重油はすべて本法でいう重油に含まれる。
((ロ)) 「これらの油を含む油性混合物」とは、原油、運輸省令で定める重油又は潤滑油(以下「原油等」という。)との混合物をいうが、「油性混合物」にあたるかどうかは、具体的には、当該物を晴天の日に平穏な海中に排出した場合において視認することができる油膜が海面に生ずるかどうかを基準として判断すべきである。
この点からして例えば船底にたまったスラッジ類は、通常油性混合物であるが、上述の視認することのできる油膜を生じない程度の原油等を含む廃酸。廃アルカリ等は油性混合物に該当しないものと解する。
(2) 廃棄物
((イ)) 廃棄物とは、法第三条第二号に規定しているように「人が不要とした物(油を除く。)」をいう。
((ロ)) 「人が不要とした」とは、人が占有の意志を放棄し、かつその所持から離脱せしめることをいう。したがって法でいう廃棄物は、例えば「汚物=廃棄物」というように物の属性として本来的に定まっているものではなく、当該排出の時点において当該物が不要物としての性格を有していることが客観的に判断されるかどうかによって個別的に定まるものである。
土砂類についても「廃棄物」の定義に従い、その投入される形態が外面上同様であっても、次のように廃棄物となる場合とならない場合がある。
1) 埋立、養浜、防波堤の基礎材等特定の事業の用に供するため、土取場等から特に採取した物を使用する場合は、その物は廃棄物とならない。
2) 航路、泊地のしゅんせつ等別の目的の事業の結果生じた土砂類で廃棄することが必要とされる物を埋立場所等に投入した場合は、その物は廃棄物となる。
3) 2)の場合においても、投入される物が埋立等の施行者側における十分な管理の下に積極的に材料等として使用される場合は、その物は廃棄物とならない。ただし、その投入される物の材質が社会通念上埋立材等として認められない場合は、なお廃棄物として排出されるものと認めるのが相当である。
((ハ)) 廃棄物となるためには、廃棄されるまでの過程において、いったん人の所持下にあることが要件であり、いまだ人の所持に入っていないもの、例えば、海底の攪拌作業に伴い生ずるにごり、水底土砂を採取する際にバケットから落ちこぼれる物、船舶に附着したカキ、藻類等は廃棄物とはならない。
((ニ)) 海水そのものは廃棄物としては取り扱わない。
また、海水と混合同化し通常海洋を汚染するおそれのないもの、例えば、タンク洗浄後にはったクリーンバラスト水等は、海水に準ずるものとして廃棄物としては取り扱わない。
(3) 船舶
船舶とは、法第三条第四号に規定しているように「海域において航行の用に供する船舟類」をいう。
船舶法及び船舶安全法でいう船舶と同意義であり、浮遊性、積載性及び移動性を有する構造物であれば、自航すると曳航されるとを問わない。したがって、このような構造物であれば、石油掘削船等のようにたとえ海域に一時定着するようなものも船舶であるが、他方、浮遊性を有しているものであっても、ブイ、バース、養殖用イカダ等の様にこのような構造物でないものは、本法の船舶ではない。
(4) タンカー
タンカーとは、法第三条第五号に規定しているように「その貨物艙の大部分がばら積みの液体貨物の輸送のための構造を有する船舶(もっぱらばら積みの油以外の貨物の輸送の用に供されるものを除く。)」をいう。したがって、現にばら積みの油の輸送の用に供されている船舶は総て本法でいうタンカーとして取り扱われる。なお、軽油、灯油等本法に規定する油以外の油性物のみを輸送する船舶は、本法のタンカーには該当しない。
(5) 海洋施設
((イ)) 海洋施設とは、法第三条第六号に規定しているように「海域に設けられる工作物(固定施設により当該工作物と陸地との間を人が往来できるもの及びもっぱら陸地から油又は廃棄物を排出するため陸地に接続して設けられるものを除く。)で政令で定めるもの」をいう。
((ロ)) 「政令で定めるもの」は、令第一条第一号及び第二号に掲げるものである。油又は廃棄物の排出は、人が存在する場合又は物が存在する場合におこると考えられることにかんがみ、第一号は「人の存在」に、第二号は「物の存在」に着目して海洋施設の内容を規定したものである。したがって、例えばシーバースのように同一工作物であっても第一号及び第二号のいずれの規定にもあてはまるものがある。
((ハ)) 第一号の「人を収容することができる構造」とは、収容される人の多数を問わない趣旨であるが、たんに物理的に人が立ち入ることができるだけのもの、例えば航路標識用ブイ、無人燈標等はこれに該当しない。なお本号に該当するものとしては、シーバース、有人燈標、地質調査塔等がある。
((ニ)) 第二号の「物の処理、輸送又は保管」とは物が定常的に存在する形態を列挙したものである。本号に該当するものとしては、シーバース、パイプライン等がある。
((ホ)) 同条第二項は、海域にある鉱山保安法第二条第二項に規定する鉱山に属する工作物(廃水及び鉱さいの排出については、附属施設を含む。)に関する特例として、これらの工作物からの廃棄物の排出については、法第一八条第一項は適用しないものとしている。これは、鉱山保安法により当該廃棄物の排出が規制されることとされており、二重の規制をさけるためである。なお、これらの工作物についても、日常生活に伴い生ずる廃棄物の排出(第一八条第二項第一号)、海洋施設の設置の届出(第一九条)及び報告の徴収等(第四八条)に関する規定は適用される点を留意されたい。
(6) 海域及び海洋
海域とは海のひろがりをとらえた概念であり、その範囲は海面及びその上下に及ぶ。海洋とは、海水、水産動植物、海底地形等を含んだ実存する海そのものをいう。
海域及び海洋の範囲は、社会通念上海とみなされているところであるが、具体的には、陸地との境界は、最高満潮線をその接点として考えるのが適当である。
海域における埋立地が海域に含まれるかどうかについては、当該埋立地について公有水面埋立法の竣工認可がなされている等社会通念上陸地として把握されている場合を除き、海域に含まれるものとして法を適用すべきである。
2 船舶からの油の排出の規制
(1) 総トン数の定めかた
法で規定する「総トン数」とは、船舶積量測度法第八条により定められた総トン数をいう。
船舶の総トン数は、当該船舶の船舶国籍証書及び船舶検査証書又は、船舶検査合格証に表示されている。船舶国籍証書又は船舶検査証書若しくは、船舶検査合格証を有しない船舶、例えば、自衛艦、はしけ、作業船等については、当該船舶の総トン数の表示がなされていない。したがって、これらの総トン数の定めのない船舶については、正確には、船舶積量測度法により総トン数を算出して法の適用を行なうこととなるが、船舶の長さ(甲板を有する船舶にあっては、上甲板梁上において、甲板を有しない船舶にあっては、舷端において、船首の前面より船尾の材の後面に至る水平距離をいう。)を総トン数に換算した場合、概算次式のとおりとなるので、これを基準として船舶所有者を指導することとされたい。
自衛艦
全長44m以上≒総トン数300トン以上
全長36m以上≒総トン数200トン以上
はしけ、作業船等
全長35m以上≒総トン数300トン以上
(2) 船舶所有者
ビルジ排出防止装置の設置、油濁防止管理者の選任等、本法による公法上の義務が課せられている船舶所有者については、法第五条の規定により当該船舶が共有されているときは船舶管理人、当該船舶が貸し渡されているときは船舶借入人が船舶所有者にかわってその義務を負うこととされている。
本条で規定する船舶借入人には、いわゆる裸用船契約における裸用船者は含まれるが、定期用船契約における定期用船者及び運航委託契約における運航受託者は含まれない。
(3) 油濁防止管理者の選任の特例
自衛艦であるタンカーについては、別途、防衛庁において定める資格要件を油濁防止管理者の資格要件とする。
(4) 油記録簿の記載の特例
法第八条第二項に規定している油の取扱いに関する作業が同一港内で同一の油について、反復かつ継続して行なわれる場合にあっては、当該一連の作業について、一日を最大限として一括して記載することも同項により「そのつど」記載したものとみなして取り扱ってさしつかえない。