第九八回国会において、船舶の活動に起因する海洋汚染の包括的な防止を目的とする「一九七三年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する一九七八年の議定書」(昭和五八年条約第三号。以下「議定書」という。)への加入が承認された。これに伴い、同国会において議定書の実施に伴い必要となる国内法則の整備を内容とする「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律」(昭和五八年法律第五八号。以下「改正法」という。)が成立し、昭和五八年五月二六日に公布された。
改正法は、規制対象物質ごとの規制を定めた議定書の五つの附属書に対応した形で五ヵ条から成っており、各条は各附属書の発効日又は実施日に合わせて段階的に施行することとしている。
○海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令及び領事官の行なう船舶法等の事務に係る処分又はその不作為についての審査請求に関する政令の一部を改正する政令(昭和五八年政令第一八三号)
また、改正法の施行に関しては、船舶局長及び港湾局長からも別途通達されることとなっており、これらの通達についても参照されたい。(なお、海上保安庁長官からは各管区海上保安本部長あて別途通達されることとなっており、これについては後日送付する。)
この通達により「海洋汚染防止法の施行について」(昭和四七年九月六日官安第二八九号。以下「四七年通達」という。)記中1(1)及び(4)並びに2(1)並びに「海洋汚染防止法施行規則の一部を改正する省令の施行について」(昭和四九年八月一三日官安第一六八号)は廃止するものとする。
1 用語の意義について
(1) 油
本法の油とは、法第三条第一号並びに規則第二条及び第二条の二に規定しているように、原油、重油、潤滑油、軽油、灯油、揮発油、及びアスファルトの他、原油から抽出される炭化水素油のうち、ベンゼン、トルエン等化学的に単一の有機化合物及びこれらの混合物であって調合され、組成が特定されているもの(これらは改正法第五条の改正により有害液体物質として取り扱われる。)を除くすべての炭化水素油並びにこれらの油を含む油性混合物(潤滑油添加剤を除く。)をいう。
従って、ナフサ熱分解残渣油(エチレンヘビーエンド、分解燃料等)、ナフサ熱分解油(TCR、分解ガソリン等)、ナフサ熱分解軽質油(いわゆるC5―留分)、ナフサ熱分解重質油(いわゆるC9―留分)、ナフテン系エクステンダー油、芳香族系エクステンダー油等は本法の油である。
なお、本法の油には、道路工事等工作物の除去に伴って生ずる固体状の廃アスファルトは含まれない。
また、コールタール等の石炭から抽出される炭化水素油は本法の油には該当しない。
(2) タンカー
本法のタンカーとは、法第三条第六号及び規則第三条に規定しているように、
1) その貨物艙の大部分がばら積みの液体貨物の輸送のための構造を有する船舶(その貨物艙が専らばら積みの油以外の貨物の輸送の用に供されるものを除く。)
及び
2) その貨物艙の一部分がばら積みの液体貨物の輸送のための構造を有し、かつ、当該貨物艙の一部分の容量が二〇〇立方メートル以上の船舶(ばら積みの液体貨物の輸送のための貨物艙が専らばら積みの油以外の貨物の輸送の用に供されるものを除く。)(兼用タンカーという。)である。
このように、今回の法改正によりタンカーの定義が拡大され、前記2)の兼用タンカーもタンカーとして取り扱われることとなるほか、油の定義の拡大に伴い、従来はタンカー以外と船舶として取り扱われていた軽質油等を輸送するいわゆる「白ものタンカー」もタンカーとして取り扱われることとなる。
なお、漁船のうち、母船及び中積船には燃料油タンクの容量が二〇〇立方メートル以上のものもあるが、当該燃料油タンクは貨物艙ではないので、当該タンクから燃料の一部を独航船等に補給する場合においても、これらの船舶はタンカーに該当しない。
(3) 海洋施設について
海洋施設については、四七年通達中記1の(5)に掲げるとおりとするが、今回法第一九条の改正により海洋施設の管理者に対し、油記録簿の備付け及び記載を義務付けることとなった。これに伴い、鉱山保安法第二条第二項に規定する鉱山に属する工作物については、同法により油の取扱い作業の記録に係る規制が行われることとなっていることから、二重規制を避けるため、法第一九条の油記録簿に関する規定は適用しないこととしている。(令第一条第二項)
(4) 総トン数
イ 日本船舶について法を適用する場合における「総トン数」とは、法第五一条の三の規定により、次表の船舶の区分に応じた総トン数をいう。
船舶の区分
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総トン数
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一 国際トン数証書又は国際トン数確認書を有する船舶
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船舶のトン数の測度に関する法律(以下「トン数法」という。)第四条第一項の国際総トン数
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二 一以外の船舶(三の船舶を除く。)
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トン数法第五条第一項の総トン数
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三 一以外の日本船舶でトン数法附則第三条第一項の運用があるもの
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トン数法附則第三条第一項の総トン数
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ロ 総トン数の定めのない船舶(自衛艦、はしけ、作業船等)については、正確にはトン数法により総トン数を算出して法の適用を行うこととなるが、船舶の全長により総トン数を概算すると、おおむね次式のとおりとなるので、これを標準として船舶所有者を指導することとされたい。
自衛艦 全長
二五メートル≒総トン数 一〇〇トン
三二メートル≒総トン数 一五〇トン
三六メートル≒総トン数 二〇〇トン
五〇メートル≒総トン数 四〇〇トン
一一五メートル≒総トン数 四、〇〇〇トン
一七〇メートル≒総トン数 一〇、〇〇〇トン
はしけ、作業船等 全長
二二メートル≒総トン数 一〇〇トン
二六メートル≒総トン数 一五〇トン
三〇メートル≒総トン数 二〇〇トン
四〇メートル≒総トン数 四〇〇トン
2 船舶からの油の排出の規制
(1) 油の排出基準
イ 令別表第一の三及び第一の四の「希釈しない場合」とは「海水、水等で薄めない場合」である。すなわち、「希釈しない場合の油分濃度が一万立方センチメートル当たり〇・一五立方センチメートル以下」の油には、なんらの処理を加えない状態における油分濃度が一五ppm以下の油及び希釈という処理を加えることなく一五ppm用の油水分離装置(技術基準省令第五条の第一種油水分離装置)を通して分離を行った後の排出水が該当し、高濃度の油を海水、水等で薄めてその濃度を一五ppm以下にしたものは該当しない。
ロ 法第四条第二項に規定する「ビルジその他の油」とは、油のうち、タンカーの水バラスト、貨物艙の洗浄水及びビルジであって貨物油を含むもの以外の油であり、具体的には、機関室ビルジ、燃料油タンクの洗浄水、燃料油タンクの水バラスト、機関室で生ずる廃油等がこれに該当する。
ハ 令第一条の四第一項第一号の「直前の航海において積載されていた貨物油の総量」とは、タンカーがバラスト航海を開始する直前のいわゆる積荷航海において現に積載していた貨物油の総量をいうものである。
この場合、当該積荷航海がいわゆる二港積みあるいは二港卸し等の形態をとるため、当該積荷航海中に貨物油積載量の増減がある場合には、その最大積載時の貨物油総量とする。
なお、従前は「積載されていた貨物油の総量」ではなく「総貨物艙積載容積」を基準値算定のベースとしており、今回の改正により規制が強化されることとなった。
また、現存旧タンカーに対する経過措置として令附則第三条第一項において基準値「三万分の一」を従前どおり「一万五千分の一」としているが、この基準値の算定のベースは従前と異なり「直前の航海において積載されていた貨物油の総量」となっている。
ニ 今回の改正に伴いタンカーの貨物艙に積載された水バラストがクリーンバラストであるための当該貨物艙の洗浄度の基準が変更されるとともにクリーンバラストの排出方法に関する基準が新たに設定された。(令第一条の四第二項、規則第八条の二、第八条の三)
a) 貨物艙の洗浄度の基準
これまでは晴天の日に停止中のタンカーから清浄かつ平穏な海中に水バラストを排出した場合に海面に視認することのできる油膜が生じないよう洗浄されていることを貨物艙の洗浄度の基準としていたが、今回の改正では、
1) 晴天の日に停止中のタンカーから清浄かつ平穏な海中に水バラストを排出した場合に海面若しくは隣接する海岸線に視認することのできる油膜を生じないよう洗浄され、かつ、油性残留物等の堆積を海面下若しくは隣接する海岸線に生じないよう洗浄されていること
又は
2) 排出された場合において油分濃度が一五ppmを超えるものが排出されなかったことがバラスト用油排出監視制御装置等の記録により明らかとなるよう洗浄されていること
のいずれかに該当するものであることとした。
b) 排出方法
クリーンバラストの排出については、これまで特に基準が設けられていなかったが、今回の改正により海面より上の位置から排出することという基準が新たに設けられた。(ただし、排出直前に当該水バラスト中の油分の状態を確認したうえ、港内で排出する場合等一定の場合には、海面下に排出することができる。)
今回このような基準を設定したのは、クリーンバラストの基準に適合しないものが排出された場合に海面上から排出していればその発見が容易であり、すぐに排出を停止する等海洋汚染防止のための措置を取り得るとの趣旨によるものである。
ホ 令第一条の四並びに別表第一の三及び第一の四において船舶からの油の排出基準として、バラスト用油排出監視制御装置及びビルジ用油排出監視制御装置の作動要件が課せられているが、現存旧船については当該装置の備付け義務についての経過措置が設けられているので、これとの整合を図るために排出基準についても経過措置が設けられ、装置の設置義務が免除されている間(装置を設置する場合にあっては、その設置日までの間)は装置の作動要件が免除されている。(令附則第三条第三項、規則附則第二条第一項)
なお、この経過措置が設けられている期間中は、法定検査を受けていない装置であって試験的運用のために船舶所有者が自発的に設置しているものについては、その作動義務は生じない。
(2) 分離バラストタンクを設置したタンカーの貨物艙又は船舶の燃料油タンクへの水バラストの積載が認められる例外的な場合
分離バラストタンクを設置したタンカーの貨物艙並びに総トン数一五〇トン以上のタンカー及びタンカー以外の船舶であって総トン数四、〇〇〇トン以上のものの燃料油タンクへの水バラストの積載は原則として禁止されているが、悪天候下において船舶の安全を確保するためやむを得ない場合その他規則第八条の一一に掲げる場合については例外的にこれを認めることとしている。(法第五条の三第二項)
規則第八条の一一各号の趣旨は次のとおりである。
イ 分離バラストタンクを設置したタンカーの貨物艙への水バラストの積載
a) ばら積みの固体貨物の輸送のための構造を兼ね備えたタンカーが港湾においてガントリークレーン等の港湾荷役機械の下で固体貨物の荷役を行う際、荷役の安全のため深い喫水を確保するためやむを得ない場合は貨物艙に水バラストを積載することが認められる。(規則第八条の一一第一号)
b) 船舶が桁下高の小さい橋その他の船舶通航の安全を阻害する障害物の下を安全に航行するためやむを得ない場合は貨物艙に水バラストを積載することが認められる。(規則第八条の一一第二号)
c) 港湾、運河あるいはシーバース等の沿岸係留施設等において船舶の安全を確保するために定められた規則又はシーバース等の施設の管理者等の要求により特別の深い喫水が要求される場合は、貨物艙に水バラストを積載することが認められる。(規則第八条の一一第三号)
ロ 燃料油タンクへの水バラストの積載
規則第八条の一一第四号の規定は、船舶の運航上の理由等から長時間海上にとどまることが要求されるため、大量の燃料油を積載するような構造を有し、かつ、船舶の復原性を保つために空になった燃料油タンクに水バラストを積載することが必要となる船舶を対象とするものであり、具体的には遠洋漁船、外航曳船等がこれに該当する。
(3) 油濁防止規程について
油濁防止規程は油による海洋の汚染を防止するため、油濁防止管理者の業務に関する事項、油の排出に関する作業の要領その他油の不適正な排出の防止に関する事項について定めたものであり、当該船舶に乗り組む船員が遵守すべきものであるが、従来、船舶内への備え置き及び乗組員等への周知について特に規定がおかれていなかったため、本来の目的である乗組員等による本規程の遵守が必ずしも徹底していない面がみられた。
このため、今回の法改正に合わせ、油濁防止規程を船舶内に備え置き、又は掲示することを義務付けることにより、いつでも乗組員等がその内容に接することができるようにするとともに、油の取扱い作業に関する責任者である油濁防止管理者によって乗組員及び乗組員以外の者で油の取扱いに関する作業を行う者に対し、本規程の内容について周知させることを義務づけることにより、不注意等による油排出事故の防止を図ることとした。(法第七条)
(4) 油記録簿の記載
イ 油記録簿への記載は、規則第一号の三様式及び第一号の四様式の備考の表に掲げる作業を行った場合に、該当する符号を記入し、さらに作業の詳細について時系列に該当する番号及び必要な詳細事項を記載しなければならない。
ロ 完了した作業については、速やかに当該作業の責任者(油濁防止管理者の選任されている船舶にあっては油濁防止管理者、その他の船舶にあっては船長をいう。以下同じ。)が日付を付して署名しなければならない。また、記載が完了したページには、速やかに油濁防止管理者(油濁防止管理者の選任されている船舶に限る。)及び船長が署名しなければならない。
ハ 備考の表に掲げる作業以外の作業であって、当該作業の責任者により記録が必要と判断された事項については、機関区域における作業にあっては符号(H)、貨物油及び水バラストに係る作業にあっては符号(O)を記入したうえで、詳細事項を記載しなければならない。
ニ 油記録簿への記載は、容易に消せない筆記用具(万年筆、ボールペン等は可、鉛筆は不可)により記載し、誤って記載した場合には誤記内容が確認できるよう一本の棒線により抹消し、当該作業の責任者が署名したうえで正しい記載を追加しなければならない。
ホ 国際海洋汚染防止証書を受有する船舶については、日本語に加え英語又はフランス語により記載しなければならないこととなっているが、この場合であっても時間、単位等を表わす数字、記号等(例えば、一六時三〇分を「一六三〇」、四〇時間を「四〇h」、一〇〇立方メートルを「一〇〇m3」、北緯五度四五分を「五―四五N」、一Cタンクを「一C」、毎時一海里の速度を「一kt」等と記載すること)については、単にその数字、記号等を記載するだけで、また、「はい」又は「いいえ」で答えるものについては単に「yes」又は「no」を記載するだけでさしつかえない。
(5) 海洋施設の油記録簿
イ 不注意な油の取扱いによる海洋の汚染を防止するため、これまで船舶に対し適用されていた油記録簿に関する制度を海洋施設についても拡大することとし、海洋施設の管理者に対してその備付け及び記載を義務付けることとなった。
ロ 規則第一二条の一七の二第一項の「油の輸送の用に供される係留施設」には、シーバースが該当する。
ハ 同条第二項の表第一号の「油の受入れ」には、タンカーから貨物油を受け入れる場合のほか、海洋施設内で発電機等の運転の用に供するための油の受入れ(ドラム缶等に収納して海洋施設に積み込む場合を除く。)を含むものとする。
ニ 同表第三号の「油性残留物」とは、油圧ポンプ等からの漏油、発電機用燃料タンク内のスラッジ等海洋施設内で生ずる油性残留物であって、海洋施設内で処理できないものをいう。
ホ オイルフェンスの展張、警戒船の配備及び監視員の配置については、別添「大型タンカーバースにおける防災対策について」(昭和五四年八月六日保警管第二三二号)を参照されたい。
ヘ 油記録簿の記載については(4)イ、ロ及びニを準用することとする。
3 権限の委任について
(1) 従来より法の円滑な施行を行うため、運輸大臣の権限の一部を海運局長等に委任してきたが、今回の法改正により次のとおり海運局長等に委任される権限が拡大される。
イ 油又は廃棄物の取扱いに関する作業の報告徴収権限(法第四八条第二項関係)
旧
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新
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海運局長等に委任される権限は、船舶の償却設備及びビルジ排出防止装置に関するものに限定されていた。
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海洋施設の焼却設備又は航空機に関するものを除き、すべての当該権限が海運局長等に委任される。
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ロ 船舶等への立入の検査権限(法第四八条第五項関係)
旧
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新
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海運局長等に委任される権限は、船舶の焼却設備及びビルジ排出防止装置に関する立入検査権限に限定されていた。
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海洋施設の焼却設備に関する立入検査権限を除き、すべての当該権限が海運局長等に委任される。
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なお、前記ロに関連して、今回の改正により地方海運局長名等の立入検査証で立入検査できる範囲が大幅に拡大されたので、今後は各海運局等にて立入検査証を交付することとされたい。
(2) 各海運局等においては、毎年四月末日までに、立入検査証が交付された者の氏名、官職、発行枚数等前年度の立入検査証発行状況を取りまとめ、総務部総務課長より大臣官房環境課長まで報告されたい。