大深度地下の公共的使用に関する基本方針


平成十三年四月四日
国土交通省告示第四百六十七号

大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(平成十二年法律第八十七号)第六条第一項の規定に基づき、大深度地下の公共的使用に関する基本方針を次のように定めたので、同条第四項の規定に基づき公表する。我が国国民が豊かさとゆとりを実感できる社会を実現するためには、良質な社会資本を整備していくことが不可欠であり、その整備に当たっては、効率的・効果的に事業を実施することが従来にも増して強く求められている。しかしながら、土地利用の高度化・複雑化が進んでいる大都市地域においては、事業を地上や浅い地下(浅深度地下)において効率的・効果的に行うことが難しい傾向にある。このため、土地所有者等による通常の利用が行われない大深度地下の利用が進められつつある。また、21世紀を迎え、国民生活の成熟化に伴い、憩いの空間の充実、都市景観の向上等による都市の環境・アメニティーの充実といった質の高い都市生活への志向が高まっていく中で、安全でうるおいのある生活空間の再生を図るためには、大深度地下を含めた地下空間を活用した社会資本整備が有効な手段の一つとなってくると考えられる。一方、大深度地下は、大都市地域に残された貴重な空間であり、また、いったん施設を設置するとその施設を撤去することが困難であること等から、大深度地下の利用に当たっては、早い者勝ち、虫食い的な乱開発を避け、適正かつ合理的な利用を図ることが強く求められる。また、安全の確保や環境の保全等に関しても十分に配慮する必要がある。これらの状況を踏まえ、公共の利益となる事業による大深度地下の使用について、国民の権利保護に留意しつつ、円滑に使用するための要件、手続等について特別の措置を講ずる「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(平成12年法律第87号。以下「法」という。)が成立したところである。本方針は、法第6条の規定に基づき大深度地下の公共的使用に関する基本的事項を定め、事業の適切な計画・調整に資するものとするとともに、事業計画が本方針に適合していることを使用の認可の要件の一つとするものである。なお、本方針は、今後の地下利用に関する技術の変化等、事情の変更に応じて、所要の見直しを行うものとする。

I大深度地下における公共の利益となる事業の円滑な遂行に関する基本的な事項

1公共の利益となる事業について近年、大都市地域において土地利用が高度化・複雑化している状況を考えると、大深度地下は大都市地域に残された貴重な公共的空間であり、また、いったん設置した施設の撤去が困難である等の特性を有するため、大深度地下を使用する事業は公益上の必要性があるものでなければならない。その公益性の考え方は以下のとおりである。(1)社会資本の効率的・効果的整備法に基づき大深度地下を使用する事業については、大深度地下を使用することにより、権利調整期間の短縮化、合理的なルートの選択、円滑な事業の実施、用地費の低減、騒音・振動の軽減等による居住環境への影響の低減、耐震性の確保等を図ることができ、良質な社会資本の効率的・効果的整備に資するものである必要がある。また、大深度地下を使用する社会資本整備事業は、国土の利用と深く関わるものであることから、全国総合開発計画その他の国土計画又は地方計画に関する法律に基づく計画及び道路、河川、鉄道等の施設に関する国の計画との調和を図る必要があるとともに、今後の社会的ニーズや需要動向をも含めた評価を踏まえたものでなければならない。(2)大深度地下を活用した地上の都市空間の再生単に良質な社会資本の効率的・効果的整備という観点だけではなく、大深度地下を活用して地上の都市空間を再生させるという観点から、地上にある施設を地下化することにより、地上をゆとりある空間として、緑、せせらぎを取り戻し、都市の美観・環境を回復するとともに、安全な歩行者空間の創出、防災空間を形成する等、質の高い都市生活の実現を目指していく必要がある。今後、大都市地域においては、比較的早期に整備された社会資本の機能の陳腐化・老朽化が見込まれることから、既存施設の更新等にあわせて大深度地下を活用した都市基盤の整備を図ることが考えられ、国、地方公共団体及び事業者は、地域・住民と連携して、都市の再生のための大深度地下の活用について検討を進めていく必要がある。2事業の円滑な遂行のための方策(1)事業に係る説明責任事業に対する国民への説明責任(アカウンタビリティー)を果たすため、事業の構想・計画段階から、事業者は、住民等に対して関係する情報の公開等を行うとともに、大深度地下の使用の認可申請を行った場合には、必要に応じ、説明会の開催等により住民への周知措置を適切に行うことが必要である。大深度地下の使用の認可を行う国土交通大臣又は都道府県知事は、事業区域にある既存物件の移転又は除却が多数必要となる等事業の内容等に照らし必要があると認める場合には、法第19条に基づき、事業者に対し説明会の開催等を求めるとともに、利害関係者から公聴会を開催すべき旨の請求があった場合等必要があると認める場合には、公聴会の開催等により広く意見を求めることとする。(2)地上・浅深度地下の施設との調整大深度地下の特性、用途によっては、地上及び浅深度地下の施設との適切なアクセスを確保することが、事業が十分に機能するために重要であり、事業者と地上及び浅深度地下の施設管理者間で、地上及び浅深度地下の施設の機能を阻害することのないよう十分留意した上で、アクセスの確保について調整を図る必要がある。また、大深度地下の事業と地上及び浅深度地下の事業との間で相互に支障が生じないようにすることも重要であり、事業者等においては、大深度地下使用協議会等を活用して、早い段階から相互に連携調整を図り、円滑な準備を行うことが必要である。(3)土地収用制度等との連携1)土地収用制度大深度地下とともに地上又は浅深度地下を使用する事業については、地上又は浅深度地下の使用も確実に担保される必要があるため、事業者は、土地収用制度等他の制度の適切な活用も視野に入れつつ、地上及び浅深度地下の部分の確実な用地取得、使用権取得に努めなければならない。国土交通大臣又は都道府県知事は、地上及び浅深度地下部分の使用権等の取得の見込みを考慮して大深度地下の使用の認可を行うとともに、土地収用法(昭和26年法律第219号)による事業認定が必要な場合には、大深度地下の使用認可と土地収用法に基づく事業認定の時期の整合をとる等、土地収用制度との間で運用面での連携を図る必要がある。2)都市計画制度大深度地下とともに地上又は浅深度地下を使用する事業については、必要に応じて、地上又は浅深度地下における合意形成や計画調整を図るためにも、都市計画制度を活用し、事業の円滑な実施を図ることが必要である。大深度地下を使用する施設のうち都市計画として定める施設については、事業の構想段階から、都市計画策定手続と大深度地下使用協議会での調整との間で連携を図り、施設の整備が円滑に行われるよう努めることが必要である。都市計画に定められた施設に関する事業については、国土交通大臣又は都道府県知事は、都市計画に適合して使用の認可を行う必要がある。また、大深度地下を使用する施設を都市計画として定める場合においては、立体的な範囲を都市計画に定めることが望ましい。(4)その他1)損害賠償事業の実施に当たり、事前に井戸枯れ等の損害の発生が確実に予見される場合には、事業者は、あらかじめ損害賠償金の支払いを行うとともに、損害が発生した場合には適切な対応を行う必要がある。2)事業区域の原状回復事業者は、事業区域の全部又は一部を使用する必要がなくなったときは、砂等で埋め戻すことにより遅滞なく原状に復すこととする。原状回復が困難な場合には、当該事業区域又はその周辺における安全の確保若しくは環境の保全のため必要な措置をとらなければならない。また、当該措置が行われなかった場合には、行政代執行法の手続により、原状回復を求めていくこととする。

II大深度地下の適正かつ合理的な利用に関する基本的な事項

1大深度地下空間の利用調整(1)大深度地下空間の施設配置・利用の基本的考え方大深度地下は大都市地域に残された貴重な空間であり、また、いったん施設を設置するとその施設を撤去することが困難であること等から、大深度地下の利用、施設配置については、早い者勝ち、虫食い的な乱開発を避け、空間の利用調整を行い、適正かつ合理的な利用を図ることが求められている。この場合において、他の事業との利用調整により設置位置が深くなる施設等については、コスト、利便性等の面での問題が生じることが想定されるため、具体的にどのように大深度地下空間での施設配置・利用を行っていくかについて、現在の地下利用、大深度地下利用の見込み等地域の現状等を踏まえ、事業間の調整を行っていく必要がある。なお、大深度地下空間の施設配置・利用の基本的考え方は以下のとおりである。1)鉛直配置現在のところ、大深度地下は鉛直方向に利用可能な範囲が地下40m~100m程度の空間であり、トンネルが数本交差すれば空間として閉塞され、利用が不可能となるとともに、交差の問題からトンネルを上下にずらす必要が生じる可能性がある。交差に当たっては、施設の方向性により配置を定める方法と施設の特性により配置を定める方法が考えられるが、施設の方向性についてみれば、環状方向と放射方向、東西方向と南北方向のように方向性をもって整備される施設ごとに、利用する深度を定めることによって、可能な限り空間を整序することとする。また、施設の特性についてみれば、利用者が不特定多数の有人施設、地上及び浅深度地下の施設へのアクセスに対して構造上の制約を受ける施設、地上及び浅深度地下の施設への移動に対して重力が作用し多大なエネルギーを必要とする施設等については、可能な限り上部に配置することとする。なお、施設の線形の自由度の高い施設については、空間の利用調整に関し、線形の融通を行うことが、大深度地下空間の有効活用に資するものと考えられる。2)平面配置大深度地下は平面的には広い空間であり、他の事業の構想・計画を踏まえ、可能な限り将来の事業に必要となる空間を確保して施設を配置することとする。また、地上とのアクセス空間が大規模となる施設は、可能な限り、アクセス空間の確保が比較的容易である道路等の公共用地又はその近傍の大深度地下に平面配置することとする。なお、公共用地をアクセス空間として利用する場合には、地上部の施設の機能を阻害することのないよう十分留意する必要がある。3)共同化大深度地下の合理的な利用を図るためには、事業の共同化が有効な手段であり、共同化することの経済性、受益に応じた適正な費用負担、維持管理の問題等に配慮しつつ、共同化等に向けた事業間調整を行う必要がある。(2)大深度地下使用協議会の活用等1)事業構想段階からの調整大深度地下の使用に当たっては、長期的・広域的視点に立った計画的かつ効率的な利用に努める必要がある。このため、事業者は、事業を実施する場合には、構想段階等の早い段階から、他の事業者との間で、事業区域の位置、事業の共同化等について、適切な調整を行うこと等により、施設の特性に応じた適切な配置、共同化等の効率的な空間利用を図り、適正かつ計画的な利用を確保することが必要である。大深度地下使用協議会については、定期的に開催することにより、大深度地下利用に関する情報収集の充実を図るとともに、必要に応じて事業者、関係市町村等に対する協議会への出席、資料提供、説明等必要な協力を求める等、早い段階から個別事業に関する情報交換、個別事業間の調整を行うこととする。事業を所管する行政機関は、事業者から、将来の大深度地下利用に関する構想・計画を調査し、大深度地下使用協議会等を活用してとりまとめ・公表する等、必要な情報収集・公開に努めるものとする。また、大深度地下使用協議会においては、関係事業者及び学識経験者の意見を十分に聴く等、適切な運用が行われるよう努めることとするとともに、広く一般への公開に努めるものとする。なお、大深度地下使用協議会の運営に関する事務については、国土交通省地方整備局が担当することとする。2)事業が具体化した時点の個別の調整事業が具体化した時点においては、事業の概ねの実施予定位置を踏まえ、近接又は同一の事業区域で事業を施行し、又は施行しようとする他の事業者との間で、施設の適切な配置や共同化等の効率的な空間利用を図る必要がある。法第12条に基づく事業間調整の手続により、他の事業者から事業施設の共同化の検討、事業区域の調整の申出があった場合には、事業者は調整に努めねばならない。調整に当たっては、客観性を高める等の観点から、大深度地下使用協議会を積極的に活用して調整を行い、調整を経た上で、事業者は法第14条に基づく認可申請を行うこととする。2既存の施設等の構造等に支障が生じるおそれがある場合の措置事業区域に近接している既存の施設又は工作物その他の物件について、当該事業の工事の実施や施設等の設置により、構造上の安全や当該施設等の機能に支障が生じるおそれがある場合には、事業者は支障が生じないよう適切な処置を講ずる必要がある。事業者は法第12条に基づく事業間調整の手続により、工事の実施等について他の事業者から調整の申出があった場合には、事業者は大深度地下使用協議会を活用して調整に努め、適切な処置を講じなければならない。また、大深度地下の使用の認可により、土地に関するその他の権利については制限されるものの、当該制限は鉱業権には及ばないため、鉱業権の移転・除却等に関する調整については、事業者と鉱業権者との間で調整がなされることを基本としつつ、大深度地下使用協議会等を活用し適切な対応を講じる必要がある。

III安全の確保、環境の保全その他大深度地下の公共的使用に際し配慮すべき事項

1安全の確保大深度地下における安全の確保は、大深度地下の施設を人間の活動空間の一つとして利用するためには非常に重要な課題である。安全上の課題となる主な災害としては、火災・爆発、停電等が挙げられる。(1)火災・爆発火災は、出火、延焼等の段階を経て重大な災害に進展していくことが懸念されるため、施設の不燃化や可燃物の減少等により火災の発生を極力抑える対策とともに、火災の初期の段階において適切な対策を実施することにより、既存の施設と同様に特に人的被害の防止を目指すなど、施設毎に用途、深度、規模等を踏まえ、施設・設備面及び管理・運用面の安全対策を確立することが必要である。1)線的施設トンネル等の線的施設については、現時点で既に利用されている長大な山岳トンネル、海底トンネル等、その規模、深度からみて、大深度地下施設と十分な類似性を有すると想定される施設の安全対策の考え方に基づいて対応する必要がある。2)点的施設ある程度の広がりを持つ施設を含む点的施設については、地表への鉛直距離、空間の閉鎖性といった特徴を有する類似の大規模施設と言える高層建築の安全対策の考え方に基づいて対応する必要があるが、重力に逆らって地上方向へ避難することから、避難時間の長時間化が懸念されるため、安全度の高い防火防煙区画を適切に採用し、火災時には水平移動等によりそこへ避難できるようにする等の工夫をするとともに、利用者への情報伝達を適切に行う必要がある。また、煙が流れる方向と消防隊の進入方向が逆行することや施設外部からの情報収集が困難であること等により消防活動が困難になることも懸念されるため、防火防煙対策がなされた消防用進入路の適切な配置、状況の確認のための各種センサーや非常用の通信設備の設置等の対策を行う必要がある。なお、点的施設と線的施設又は点的施設同士の複合施設については、単一施設と比較して火災被害を抑制するための火煙の制御、消防活動、避難誘導等の困難性が増すこともあるため、その設置に当たっては、より慎重な対応が必要である。(2)地震大深度地下は、地上及び浅深度地下よりも地震動による影響を受けにくい特徴を有しており、地震による被害は、主に地上等との接続部分で発生することが懸念されるため、これを念頭に置いた施設の設計を行う必要がある。また、地震時に大きな影響を受ける活断層上への施設の設置については、極力避けるべきではあるが、やむを得ず活断層上へ設置せざるを得ない場合においても適切な対策を講じる必要がある。なお、空気、水、エネルギーの供給ライン等への被害による施設機能の低下については、各種設備の耐震化、非常用設備の設置等の対策により信頼性の向上を図ることが必要である。(3)浸水地下施設においては重力に逆らった地上への排水が必要となるため、浸水被害への対策を十分に行う必要がある。集中豪雨、洪水等による地上からの水の流入に加え、大深度地下は地下水圧が高いため、施設の破損等が生じた場合には施設内へ漏水する可能性が高いことを考慮し、止水施設の設置、十分な容量の排水設備の設置等の地上からの水の流入に対する浸水の防止、施設内への漏水に対する止水性(水密性)の向上が必要である。また、浸水の可能性が高い場合又は浸水が起こった場合に、利用者への情報伝達及び避難誘導が迅速に行えるよう非常用設備の設置等の対策を講ずる必要がある。(4)停電地下施設は移動手段、照明、空間設備等に電力が供給されることによって成り立つ人工空間であるため、特に一般有人施設において、停電は種々の設備の停止やこれに伴うパニックの発生等の重大な事態につながるおそれがある。このため、複数系統の受配電システムの形成、十分な容量と稼働時間を持つ非常用電源の設置、また、これらの設備の耐震化、浸水対策等により信頼性の向上を図る必要がある。(5)救急・救助活動大深度地下の施設については出入口が限定されるとともに、上下方向の移動距離が長くなることから、搬送手段の確保等円滑な救急・救助活動が確保できるよう、施設面の対策、救急センターの位置表示等の情報提供、関係者の協力体制の構築といった管理面の対策を講ずる必要がある。(6)犯罪防止犯罪発生を事前に防止できるよう明るく見通しの良い空間設計に努めるとともに、防犯カメラの設置、警備員の巡回等の監視体制の充実及び通信手段の確保が効果的である。また、施設の重要度に応じて、大深度地下施設へのアクセスポイントにおける出入監視・管理の実施等を行う必要がある。(7)その他地下施設については、閉塞感、圧迫感、迷路性、外部眺望や自然光の不足等に起因する漠然とした不安感は、快適さに関する心理的な悪影響のみならず、災害時のパニックの遠因となることも懸念される。この対策として、安全性に対する平常時の利用者への周知と併せて、地下空間についてのデザインを工夫することが必要である。2環境の保全大深度地下を使用する事業については、騒音、振動、景観、動植物等に関して、地上・浅深度地下と比較して環境影響が小さくなる利点がある一方、特に配慮すべき事項として、地下水位・水圧の低下、地盤沈下等がある。大深度地下を使用する事業を円滑に進めるためには、以下の(1)~(5)に掲げる事項を踏まえ、環境影響評価法(平成9年法律第81号)又は地方公共団体の条例・要綱に基づく環境影響評価手続を行うことにより、環境への影響が著しいものとならないことを示しつつ、地域の理解を得ていくことが必要であり、環境影響評価手続の対象とならない事業についても、(1)~(5)に掲げる事項を踏まえた環境対策を行う必要がある。なお、大深度地下の実際の使用に当たっては、個々の施設毎に詳細な調査分析を行い、計画、設計、施工、供用・維持の各段階で環境対策を検討していくことが必要である。特に、供用中においては、継続的にモニタリングを実施する等により、基礎的なデータを蓄積し、環境への影響の発生を早期に発見するための方策を講じる必要がある。また、各地域で土地利用状況、地盤状況等が異なるため、それぞれの地域での正確な現状調査に基づき、実態を踏まえた対策とすることが必要である。(1)地下水1)地下水位・水圧低下による取水障害・地盤沈下地下水の取水障害や地盤沈下の影響が出ないよう、地下水位・水圧の低下を抑える必要があり、地下水位・水圧低下の原因となる施設内への漏水に対して止水性(水密性)の向上を図る等の対応が必要である。また、施工時の地下水位・水圧低下についても影響を与えないよう、慎重に施工を行う必要がある。2)地下水の流動阻害施設の設置により、地下水の流動に影響を与え、環境問題となるおそれのある場合には、シミュレーションを行う等事前に対策を行う必要がある。3)地下水の水質地下水の汚染を防止するため、地下水への影響の少ない工法の採用を検討し、やむを得ず地盤改良工法等を採用する場合においても、地下水汚染のおそれのない地盤改良剤を使用すること等が必要である。(2)施設設置による地盤変位施設の施工時に大量の土砂を掘削した場合、地盤の緩み等が生じ地上へ影響を及ぼす可能性もあるため、地盤を変形・変位させないような慎重な施工を行うことが必要である。また、施設については、長期の供用を想定し、施設の長寿命化を図り、施設の強度低下や損傷による地盤変位の発生を防止することが必要である。(3)化学反応大深度地下に存在する還元性を示す地層は、酸素に触れることにより酸化反応を起こし、地下水の強酸性化、有害なガスの発生、地盤の発熱や強度低下を生じるおそれがあるため、事前に地層に対する調査を行い、慎重に対応する必要がある。(4)掘削土の処理施設の建設により発生する掘削土については、泥水シールド工法等で発生する汚泥等の適正な処理を行うとともに、盛土材料、埋戻材料として再資源化を図る等、環境への影響が著しいものとならないようにすることが必要である。(5)その他地上との接続箇所が限定されることに伴う施設の換気等の問題については、有害ガスの早期検出、除去を行う等慎重に対策を実施する等の配慮が必要である。また、交通機関等の大深度地下の使用については、長期的な振動等が人体に与える影響を含め環境への影響について厳正な審査を行うこととする。振動等が人体に与える長期的影響については、学術研究機関等における調査研究が活発に行われるよう配慮するとともに、その知見が審査において積極活用されるよう努めることとする。3バリアフリー化の推進・アメニティーの向上(1)バリアフリー化の推進今後急速に進展する高齢化社会の到来と高齢者等の活発な社会参画に伴い、高齢者や身体障害者等の移動制約者等の円滑な移動が可能となるよう、鉄道駅等一般有人施設を大深度地下に設置する場合には、エスカレーターやエレベーターの整備をはじめ、音声誘導、表示上の工夫や高齢者等が見やすい配色等の情報伝達の対策を行うとともに、人的協力等のソフト面での対策を行うことも含め、総合的なバリアフリー化を推進していくことが必要である。(2)アメニティーの向上大深度地下施設は、太陽光を自然に取り入れることが難しいという特性があると同時に、閉鎖性が高く内部環境の要素を人為的にコントロールしやすいため、熱、空気、光等の内部環境の要素を適切に管理し、快適で安心できる内部環境の維持に努めることが必要である。また、施設内へ漏れてくる地下水から酸欠空気が発生する場合等の特殊なケースも想定されるため、地盤や地下水の調査結果からその発生が懸念される場合には、施設への漏水の制御や換気施設の設計等において十分な対策を行うことが必要である。これらの物理・化学的な対策に加えて、より快適な内部環境を創出するためには、デザインの配慮、施設利用者のための外部との通信中継施設の設置等も効果的である。4安全・環境情報等の収集・活用大深度地下利用に関する安全対策、環境に与える影響等については、十分な知見が蓄積されているとはいえず、今後、国、地方公共団体及び事業者は連携して、事業の実施に伴い得られる情報を収集・整備し、活用することが必要である。また、大深度地下の特殊性に応じた安全対策の確立、環境影響評価手法の開発等を進めていくこととする。5その他大深度地下の公共的使用に際し配慮すべき事項(1)文化財の保護大深度地下を使用する事業により、地下水位・水圧の変化、振動、周辺環境の変化等があった場合には、史跡名勝天然記念物、埋蔵文化財等の文化財の現状を変更したり、その保存に影響を及ぼすおそれがある。このため、事業者は、できるだけ早い段階から大深度地下使用協議会等を活用して、文化財保護法(昭和25年法律第214号)や条例による文化財の保護について配慮する必要がある。(2)国公有財産への影響国公有財産の大深度地下を使用する場合においても、構造上の安全や当該財産の機能に支障を及ぼさないよう配慮する必要がある。

IVその他大深度地下の公共的使用に関する重要事項

1技術開発の推進国は、大深度地下を利用する各事業が横断的に必要とする汎用性の高い技術開発を推進するため、大深度地下利用に関する技術開発のビジョンをとりまとめ、公表すること等により、民間の技術開発の促進を図ることとする。2大深度地下利用に関する情報収集・公表国は、大深度地下を適正かつ計画的に利用するため、大深度地下利用に関する情報の収集・公表を推進することとし、地盤情報、地下に設置された施設の情報等に関する情報システムの整備を推進することとする。また、国及び地方公共団体は、大深度地下の公共的使用が土地の所有権と密接な関係を持つことに鑑み、本制度が円滑に運用されるよう、その趣旨の周知徹底を図るとともに、大深度地下の使用の状況等本制度に関する情報の提供及び公開を積極的に行うこととする。

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