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平成13年度観光の状況に関する年次報告

はじめに


観光を我が国の21世紀のリーディング産業に
世界的に見ても,生活に必需的なモノがほぼ充足された成熟社会では知的・情報的要求が高まってきていることを反映し,日常生活から離れた場面を提供する観光は近年急成長している。WTO(世界観光機関)によれば全世界の観光による消費額は2020年には1995年の約5倍の規模に拡大すると見込まれ,21世紀のリーディング産業の一つになることが期待されている。
更に国連においても,観光に関連する経済活動を把握するためにGDP等の国民経済計算のサテライト・アカウントとして観光の統計(ツーリズム・サテライト・アカウント)の作成を推奨しているように,観光は関連する産業の裾野が幅広く,産業・雇用への経済波及効果も幅広く,大きい。特に,平成13年9月の米国における同時多発テロ事件は,その直後の観光客の大幅な減少に伴い地域の経済への深刻な影響を与え,観光で成り立っている国や地域の多さを証明した。
他方,バブル経済の崩壊以降の長引く経済低迷を打開するため,また製造業の海外移転等に伴う貿易輸出額の減少を回復するため,我が国では,新たな成長産業の創造,発展が求められている。
この中にあって,幅広い経済波及効果を有する観光振興による地域経済の振興への関心がこれまでになく高まってきている。
特に国内でしか消費できない地域固有の観光資源を活用して訪問外国人旅行者の増加を図ることは,空洞化しない輸出産業の振興とも捉えることができ,地域の活性化の重要な柱と考えられる。
このような観光の振興の国民経済上の意義について国民の認識を深め,我が国でも観光を21世紀のリーディング産業に育成していくことが必要である。
外国人旅行者の戦略的な誘致
第154回国会における施政方針演説で,小泉内閣総理大臣は,外国人旅行者の増加による経済面への波及効果に言及しつつ,ワールドカップサッカー大会は日本に関心を持ち,日本について理解を深めてもらうまたとないチャンスである,我が国の文化伝統や豊かな観光資源を全世界に紹介し,海外からの旅行者の増大と,これを通じた地域の活性化を図るとの方針を示した。
WTOの推計によれば,全世界の国際観光客到着数は2020年には1995年の2.8倍の規模に拡大し,その中にあって東アジア・太平洋地域における同到着数は年平均6.5%の伸び率で成長し,2020年には4.9倍の規模に拡大すると見込まれる。この規模はアメリカ地域を追い越すものである。
2002年はワールドカップサッカー大会が開催されるだけでなく,新東京国際空港の暫定平行滑走路の供用が開始されて東アジア地域向けを中心に国際航空ネットワークが拡大する。また,日韓国民交流年や日中国交正常化30周年にもあたり,国民相互が交流するイベントも多く計画されている。一方,他の東アジア・太平洋地域の諸国(地域)も,同様にイベントを開催し,観光客の誘致を推進している。
我が国としても,これらの内外のイベントにより全世界の旅行者が東アジア・太平洋地域を着目し,訪問する機会が増えるこの時期を積極的に捉える必要がある。このため,官民を挙げて,観光魅力の宣伝,観光情報の提供など外国人旅行者が国内全国を旅行し,我が国の観光魅力を体験できるよう受入体制の整備を積極的に進め,国際的に見て訪問外国人旅行者数が少ない我が国に諸外国から観光客を誘致していくことがますます重要である。
観光を活かした魅力ある地域づくり,国づくり
近年における産業構造の変化等により国内各地域において地域の活力の低下が指摘されている。同時に,地域が画一化し,地域それぞれの歴史,文化,伝統の相違に基づく地域の特徴,個性,まちの魅力が失われ,地域の潜在力が活かしきれていないとも指摘されている。
このため,地域固有の自然・歴史・文化や伝統といった既存の豊かな観光資源や,既存の地域住民向け施設等を活用しながら交流人口の増加,地域の活性化を図るという,観光を活かした個性ある,魅力ある地域づくりを実現していこうとする地域の動きを支援することが行政にとって重要である。
また,旅行形態が団体旅行から,家族,グループ,個人旅行へと変化し,更に自立した個人として主体的に社会に関わっていくことが求められている中で,観光の意義・役割も,異なる自然,歴史,文化伝統に触れ,自分の地域や国,そしてともに旅行する相手とのつながりを見直すことによる地域づくり,国づくり,そして絆づくりの機会という点がますます重要になってきている。観光は,このように地域住民と来訪者双方に,自分の住むそれぞれの地域の魅力の発見,アイデンティティの確立の機会となる。
このように海外市場や国内各地との競争の中で訪日外国人旅行者や国内旅行者の誘致を促進するための観光を活かした地域づくりは,地域住民全体が参加し,主体となった,地域らしさ,日本らしさに誇りをもった美しい地域づくり,国土づくりへの取組みであり,これを支援していくことが重要である。そしてこのような取組みは観光資源の活用と管理により,資源,定住環境,来訪者の満足をバランスさせる持続発展可能な地域づくりである。
この冊子は,観光基本法に基づき,観光の状況及び政府が観光に関して講じた施策について報告するとともに,交通政策審議会の意見を聴き,観光について講じようとする政策を明らかにするものである。
上記の考え方に立って,観光のもたらす経済波及効果の大きさ,訪日外国人旅行者数増加の国民経済上の重要性,また観光を活かした地域づくりの取組みによる地域の活性化及び持続可能な観光の発展の実現の重要性を基本的視点として講じた施策,講じようとする政策を整理している。
具体的には,まず「平成13年度観光の状況に関する年次報告」として,第1章において観光活動の経済への効果,訪日外国人旅行者の動向,米国同時多発テロ事件の影響を含む国民の旅行の動向をはじめとする13年における観光の状況をとりまとめ,第2章において我が国と韓国の2ヶ国共催により開催された第14回世界観光機関(WTO)総会の概要とそのテーマである21世紀における持続可能な観光の発展に向けた施策を記述した。また,第3章において訪日外国人旅行者数の国際比較及びその増加のための国際観光の振興施策,第4章において魅力ある観光地づくりをはじめとする国内観光の振興施策,第5章において旅行の円滑化の施策を記述した。
更に,観光関連施設の整備,自然・文化遺産の保全,観光基盤施設の整備,観光に係る安全確保に係る施策を記述した。
また,「平成14年度において講じようとする観光政策」として,第1章においてワールドカップサッカー大会開催等を契機とした外国人旅行者訪日促進のための取組みを,第2章において休暇取得促進,観光地づくりをはじめとする国民の旅行促進のための取組みを記述した。また,観光関連施設の整備,自然・文化遺産の保全,観光基盤施設の整備,観光に係る安全確保に関し,14年度において講じようとする政府の各種施策を明らかにしている。
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