平成15年度観光の状況に関する年次報告
第3章 訪日促進を中心とする国際観光交流促進施策
第1節 ビジット・ジャパン・キャンペーンを中心とした日本の魅力のPR活動
1 ビジット・ジャパン・キャンペーンの推進
外国人旅行者の訪日を飛躍的に拡大し,2010年までに訪日外国人旅行者数を1000万人にするという目標を達成するためには,まず,外国人に日本へ旅行しようという気持ちを起こさせ,また実際に日本に向けての魅力ある旅行商品が購入できる環境づくりをしなければならない。
このため,国土交通省では,平成15年度より,国,地方公共団体及び民間が共同して取り組む,戦略的訪日促進キャンペーンである「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を「YOKOSO! JAPAN」のロゴ・キャッチフレーズのもと,展開しているところである。
図3-1-1 ビジット・ジャパン・キャンペーンのロゴ・キャッチフレーズ
本キャンペーンでは,訪日促進の重点国・地域を絞り(平成15年度は,韓国,台湾,米国,中国,香港。平成16年度より,これに英国,ドイツ,フランスが追加されることとなっている。),各国・地域ごとの特性に応じて,様々な事業を組み合わせて実施している。
(2) ビジット・ジャパン・キャンペーンの実施体制 |
本キャンペーンは,国のみが事業を実施するのでは効果は薄く,各地域の魅力や商品の魅力のPR等を行う地方公共団体,民間団体・企業と共同で事業を展開することが効果的である。
このため,関係者が一体となって参加できる体制として,国土交通大臣を本部長,(社)日本ツーリズム産業団体連合会会長,国土交通副大臣,(社)日本観光協会会長,国際観光振興機構理事長を副本部長に,関係省庁,自治体,関係団体,企業等のトップで構成される最高組織としてビジット・ジャパン・キャンペーン実施本部,その下に執行委員会を整備し,関係団体,企業等の実務者が参加する実施本部事務局(VJC事務局)において,実施本部の指揮のもと,各種事業を実施している。
また,国内各地域においては,各地方運輸局等が中心となって,地方公共団体などと連携・協力して事業を実施している。さらに,海外においては,重点市場ごとに日本大使等を会長に,関係団体・企業等の代表で構成されるビジット・ジャパン・キャンペーン推進会(海外VJC推進会)を立ち上げ,国内外において,事業の効果的な実施のための体制整備を図った。
図3-1-2 ビジット・ジャパン・キャンペーンの実施体制
1)重点国・地域ごとの特性把握
事業実施に当たっては,まず,各国・地域ごとに,市場規模,ニーズ(観光魅力として求められているもの)等の特性を十分に把握する必要がある。そこで,15年度のビジット・ジャパン・キャンペーンの本格的展開に先立ち,14年度に重点国・地域を対象とした市場調査を行った。これによれば,各国・地域ごとの主な特性は以下のように整理できる。
・韓国
市場としての特性,概要
○概要
・2002年に出国者が700万人を超え,そのうち3人に2人は,アジア地域を旅行。
・主要渡航先は,中国(172万人),日本(127万人),タイ(58万人),フィリピン(28万人)。
・韓国人は,地理的に近く,割安な近隣国へ旅行する傾向がある。
○訪日旅行希望者の志向
・海外旅行経験の有無と関係なく,旅行訪問先の上位は,北海道,東京,九州,大阪,沖縄,京都等。
・日本を訪問したい最大の理由は,自然景観を楽しむための旅行。その他,大都会の魅力,歴史,文化への関心が高い傾向。
・旅先で経験してみたいことは,自然観光以外に温泉である。これに市街地の観光と文化・歴史的な雰囲気を楽しめる地域での観光,日本料理と続く。他方,日本について,物価が高いというイメージがある。
取り組み方針
・地理的に近く旅行費用が安いことから,日本の最大の競争相手になると思われる中国や東南アジア地域と,価格的な面で競争できる商品開発,日本でしか体験できないような差別化された旅行商品を造成する。例えば,文化産業,温泉などの旅行商品。
・主要ターゲットは,20代が,文化産業,ショッピング,イベント中心の都市観光。30代と40代は,研修等のビジネス観光とゴルフ,スキー等のスポーツ観光。50代以上は,温泉,伝統文化中心の休養型観光などの商品開発を行う。
・台湾
市場としての特性,概要
○概要
・1985年には,85万人であった出国者数が,2002年には,751万人と18年間で約9倍も成長。
・渡航先は,アジア地域が圧倒的に多く全体の85%を占め,そのうち約60%が香港,マカオへの出国者。(香港,マカオを中国として捉えれば,1988年以来,日本への出国者は1995年を除いて第2位を維持。出国者全体の約15%を占め,1985年から2002年の18年間で約2.5倍増)
○訪日旅行希望者の志向
・旅行者のうち,関東に約半分,関西に約1/3が訪れており,この2地域が主になっているが,北海道にも関西に次ぐ人数が訪れているものと思われる。
・日本のイメージは,近代的で工業化の進んだ国,物価が高いこと。
・訪問したい場所は,北海道。
・自然,温泉,歴史文化を目的とした旅行が過去と同様上位となっているが,日本食が訪日目的の一つとして関心が高まる。
取り組み方針
・若い女性層には,テレビ,雑誌とタイアップし,日本の観光スポットを紹介しつつ,モデルコースを提案した企画を行う。
・ファミリー層(30代~40代が世帯主)には,四季の変化に富んだ自然との接触ができる体験的なツアーのアクティビティを紹介するようなイメージ広告,新聞・雑誌等によるプロモーションを実施。
・シルバー層(60代以降男女)へは,テレビ,雑誌を通じて,自然風景,歴史的な建造物,温泉等といった自然・歴史を全面に押し出すイメージ広告を行い,訪日意向を喚起。
・米国
市場としての特性,概要
○概要
・アジアへの旅行者は,他の地域と比べると順調。ヨーロッパへの旅行は12.0%減少だが,2002年のアジアへの旅行は,2.6%増加。
・2001年9月11日以降,米国の旅行者にとって安全とセキュリティに関する問題が重要視されるようになり,国際問題が,今後もアジアへの渡航を脅かす可能性有り。
・旅行期間の制限及び国内旅行との競合が,海外旅行を抑制。一般的に米国人は他の国と比較して有給休暇が短く,海外旅行に使う時間に制限があり,多くは休暇を国内で過ごす傾向。
○訪日旅行希望者の志向
・観光目的で海外旅行する米国人の3分の1は訪日を強く希望。
・アジアの中で訪れたい国の第1位は日本。ただし,ヨーロッパへの長期旅行を含めると日本の順位はかなり後退。
・高学歴,高所得(世帯所得75,000$以上),シニア層以上の訪日希望者は,訪日実現の可能性が高い。
・居住地域は,主要都市,東海岸及び西海岸に集中。カリフォルニア州が最も多く,ニューヨーク州,イリノイ州が続く。
・日本に対し良い印象を持っており,安全に旅行できる国と認識。だが,旅行費用が多額であると考えている傾向がある。
・日本の伝統文化(神社仏閣,祭り,伝統工芸,旅館等)とともに,桜,庭園,富士山等自然に触れる活動にも強い興味をもつ。
取り組み方針
・広告,インターネット,広報活動をバランスよく利用し,効果的に市場拡大するために,高学歴,高収入のシニア層を主要なターゲットとする。
・米国において大きなマーケットであるSITツアーを造成し,訪日旅行者の開拓を図る。
・広告では,日本旅行には多額の費用がかかるという米国人の観念を取り除き,魅力的な国であることを印象づける。
・米国市場向けサイトを立ち上げ,旅行者が常時日本についての情報を入手できるようにする。
・中国
市場としての特性,概要
○概要
・世界観光機関(WTO)によれば,2020年迄に,中国は世界第4位の観光客送り出し国となり,海外旅行へ出掛ける人が延べ1億人,世界市場シェアの6.2%を占めると予想されている。
・世界観光機関(WTO)の2001年の統計によると,海外旅行の目的地は,香港(444万人),以下マカオ(107万人),タイ(69万人),ベトナム(67万人),シンガポール(49万人)。今後,成長著しい中国の海外旅行市場を巡り,各国間で競争が激化しつつある。
○訪日旅行希望者の志向
・訪日を希望する人は,北京周辺,上海周辺,広州周辺とも8割を超えており,日本は海外旅行の目的地として大きな可能性がある。
・訪日を希望する観光客のうち,初来日は68.2%と高く,これから伸びる有望な市場。
・日本に対するイメージは,「近代的で工業化の発達した国」,「生活,教育水準の高い国」と評価。
・日本での訪問希望先は,「東京,北海道,大阪」等の人気が高い。
取り組み方針
・主要ターゲットは,30~59歳(北京地域),20~49歳(上海地域),20歳~39歳(広州地域)を中心に,年収8万元以上(北京は,5万元以上)の富裕層である。
・訪問先は,東京,北海道,大阪を中心に据える。
・プロモーション媒体としてテレビ,新聞を活用。また,旅行会社や報道関係者を招いた視察旅行も新規ツアー造成に有効な手段。
・団体観光旅行以外に商務旅行,友人・親戚訪問,修学旅行,視察旅行の開発が重要。
・現地の旅行会社の企画・販売担当者など日本に関する情報が不足しているため,中国の旅行会社に日本への理解度を深めてもらうために,訪日旅行のスペシャリストを育成を図っていくことも重要。
・香港
市場としての特性,概要
○概要
・香港の海外旅行者数は,471万人(中国,マカオを除く)(居住者の69.1%)
・中国本土を除く主要渡航先は,タイ,台湾,日本の順(日本への旅行者は,海外旅行者全体の11.1%)
・「安・近・短」の志向。FIT(個人旅行者)が増加傾向
○訪日旅行希望者の志向
・訪日希望先は,1位 北海道 71.7%。以下,東京,大阪,東京TDL,九州と続く。
・訪日の目的は,温泉が51.7%。以下,ショッピング,日本の食事が続く。
・旅行形態は,団体旅行参加が51.3%と約半数を占め,エアー&ホテル型FITパッケージツアーが,33.7%。
取り組み方針
・主要ターゲットは,団体観光旅行(20代~40代の中所得層)とFITパッケージツアー(50歳代の高所得層)。
・ツアー開発・販売に向けて現地旅行会社との共同広告等を実施。
・宣伝方法は,テレビ旅行番組,広告の集中展開,雑誌のアドバトリアル広告による観光情報の提供を効果的に実施。
2)具体的な事業例
上記1)の市場特性を踏まえ,平成15年度,様々なビジット・ジャパン・キャンペーン事業を実施した。以下にその一部を紹介する。
○トップセールスの実施
・小泉総理大臣や国土交通大臣が直接呼びかける訪日旅行促進ビデオの作成
1)小泉総理大臣が日本語及び英語で訪日旅行を呼びかけるメッセージビデオを平成16年1月作成し,国際的な旅行博や国内の主要空港,国内外の航空会社の機内において放映するとともに,米国及び韓国において,TVCMとして放送した(韓国では,日本語版をベースに韓国語の字幕及び吹き替えを入れたものを放映)。なお,このビデオの日本語版と英語版は,国土交通省ホームページにて見ることができる(URL;http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanko/top.htm)。
2)石原大臣が中国語で訪日旅行を呼びかけるメッセージビデオを平成16年1月作成し,中国で開催された旅行博会場において放映するとともに,VJC事務局ホームページに掲載した。
3)扇前大臣が訪日旅行を呼びかけるメッセージビデオを平成15年5月作成し,同年8月のNFL(全米フットボール連盟)の試合会場(東京ドーム)や航空会社の機内ビジョン,国内主要空港において放映した。
COLUMN 2 小泉内閣総理大臣,外国人旅行者へ訪日促進をPR |
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「こんにちは,小泉純一郎です」。日本が誇る最先端技術や日本の魅力ある風景とともに,小泉内閣総理大臣自らが出演し,外国人旅行者に訪日旅行を呼びかけるPRビデオが完成した。このビデオは,2010年までに外国人旅行者1,000万人を目標に掲げ,官民共同で取り組まれている「ビジット・ジャパーン・キャンペーン」の一環として作成され,「ビジット・ジャパーン・キャンペーン」の関連行事をはじめ,国際的な旅行博,国内の主要空港,国内外の航空会社の機内において放映されている。2004年3月には,アメリカと韓国において,テレビ・コマーシャルとして放送され,日本の内閣総理大臣としては初めて観光PRのコマーシャルに出演し,「ようこそ,ジャパン」と訪日旅行を大きく呼びかけた。
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・「日韓観光の夕べ」の開催
羽田~金浦間の国際チャーター便(日韓首脳会談の合意に基づき,平成15年11月30日より運航を開始)の初便就航に合わせ,石原国土交通大臣が訪韓した際,「日韓観光の夕べ」(出席者約300人)をソウルで開催し,日本の観光魅力を紹介するとともに,訪日観光促進に功績のある韓国の関係者を表彰した。
○宿泊情報提供予約サイトの構築
外国人旅行者を受け入れる国内の宿泊施設について,外国人旅行者のニーズの高い詳細情報を中心に英語,韓国語,中国語(繁体字=台湾・香港向け)の3言語でインターネットにより情報提供するWebサイト「Accommodations JAPAN」を構築した。
Accommodations JAPAN
○旅行会社の招聘等,商談会の開催
・日本旅行業協会及び国際観光振興機構と連携して,訪日旅行ツアーの造成促進を図るため,15年10月に横浜において開催されたJATA世界旅行博開催に併せ,海外にある旅行会社のツアーオペレーター及びメディア関係者を招聘し,地方の観光地の視察及び商談会を実施した。
この商談会等を契機として,新たな日本向けツアーが290~390本造成され,6万4千~7万7千人の集客が見込まれる。
・16年1月に上海において「日中文化観光交流展」を地方自治体等68団体と連携して開催し,我が国の観光魅力をPRするとともに,訪日ツアー造成のための商談会を実施した。参加旅行会社からの聴取結果によれば,16年度に42社により448本,1万人余の新たな日本向けツアーの造成が見込まれている。
○メディア関係者の招聘
15年9月,韓国・中央日報(発行部数:205万部)の新聞記者を,東北地方に招聘し,訪日観光を促進するための記事掲載の支援を行った。その結果,同年10月に15段の記事が掲載された。
○新聞・雑誌・テレビ等メディアを通じたPR
・米国
一般消費者を対象に,米国の主要な新聞(ニューヨークタイムズ:発行部数170万部,ロサンゼルスタイムズ:同140万部,SFクロニクル:同55万部)や雑誌(Departures:発行部数61万部,Travel&Leisure:同34万部)に広告を掲載し,購読者に対し,ビジット・ジャパン・キャンペーン及び日本の観光魅力をアピールした。
・韓国
一般消費者を対象に,韓国の主要な新聞(朝鮮日報:発行部数240万部,中央日報:同205万部,東亜日報:同205万部)に年間を通じて,広告を掲載するとともに,韓国KBS2(ケーブルテレビ)及び韓国MBCにおいて,PR番組及びCMを放映し,新聞の購読者及びテレビ視聴者(最高視聴率24%)に対して,ビジット・ジャパン・キャンペーン及び日本の観光魅力をアピールした。
・中国
一般消費者を対象に,ビジット・ジャパン・キャンペーンの広告及びツアー広告を,日本企業等とタイアップして,新民晩報(発行部数:130万部)と申江服務導報(発行部数:60万部)に12月10日,12月17日に2回掲載し,訪日指定旅行会社5社で241名を集客した。
また,テレビ番組(18:00~18:30に放映)を制作し,視聴者(約4,000万世帯)に対して,2月下旬~3月下旬の間放送し,日本の観光魅力等をアピールした。
・香港
現地旅行会社6社とタイアップし,訪日ツアーを販売促進するため共同広告を東方日報(発行部数:47万部)と蘋果日報(発行部数:36万部)に15年11月28日,12月1日,12月5日の3回掲載し,7,642名が訪日した。
・台湾
一般消費者を対象として台湾の主要新聞(中国時報,自由時報,聯合報,民生報:購読者約360万人)に,また,若い女性を対象として雑誌(壹週間,ELLE, Vogue)にそれぞれビジット・ジャパン・キャンペーンの広告及びツアー販売支援のための広告を掲載するとともに,人気TV番組(日曜19:40~21:40)において,台湾アイドルグループの日本探訪コーナー(20分)を連続10週放映した。
○大規模な旅行博への出展
日本の観光魅力をアピールするため,重点国・地域で開催された旅行博に出展するとともに,来場者に対しアンケート調査を実施し,日本へのツアー造成に対する課題や関心度を調べ今後の事業展開へ向けて情報収集を行った。
・米国
AARP(米国退職者協会)年次総会(15年9月:シカゴ)に出展。来場者:17,480人
・韓国
韓国国際観光展(KOTFA2003)(15年6月:ソウル)来場者:90,000人
・中国
北京国際旅游展(15年10月:北京)来場者:20,000人
上海世界旅游資源博覧会(上海WTF)(16年2月:上海)来場者:50,000人
・香港
香港国際旅游交易会(ITE2003)(15年9月:香港)来場者:52,000人
・台湾
台北国際旅行博(ITF2003)(15年11月:台北)来場者:90,000人
○国内広報事業
訪日ツーリズムの重要性に対する理解を広め,外国人観光客を歓迎する機運を醸成するため,「YOKOSO! JAPAN」ロゴ・キャッチフレーズを活用して,国内イベントへの出展,新聞広告掲載,セミナー・シンポジウムの開催等各種国内広報事業を実施した。
・平成15年10月3日から5日に横浜で開催されたJATA世界旅行博に出展するとともに,「訪日ツーリズム元年シンポジウム」を日本ツーリズム産業団体連合会等観光関係団体と開催した。
また,国際観光振興機構及び日本旅行業協会との共催で,世界15カ国・地域からツアーオペレーター等を招請し,日本側の観光関係65団体・企業との商談会を実施した。海外からの参加者アンケートによると,今後290~390本造成され,6万4千~7万7千人の集客が見込まれている。
・11月,中央紙5紙(発行部数計1,871万部)及び3月,地方紙51紙(発行部数計1,900万部)に広告あるいは記事広告を掲載。
○地方連携事業
観光立国を実現するための施策を推進するにあたっては,地方自治体等との連携が極めて重要であるとの観点から,特に,訪日促進への熱意が強く,優れた企画力を有する地域との連携を強化し,地域のイニシアティブを生かした魅力のあるビジット・ジャパン・キャンペーンを推進している。具体例については,第2章第3節1(3)に示している。
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