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平成16年度 観光の状況に関する年次報告

第1章 「外国人旅行者倍増」に向け飛躍の年

第3節 今後の課題

1 外国人受入体制の整備


現在、政府は訪日外国人旅行者数を平成22(2010)年に1,000万人に増加させることを目標としているが、今後も外国人旅行者をさらに増加させるためには、いかにもてなし、訪日外国人旅行者として定着させ、リピーターとしていくかが重要な課題である。
そのためには、日本及び各地の魅力を維持、向上、創造していくとともに、外国人旅行者が日本を訪問する際の快適性を確保するための環境整備が欠かせない。観光立国懇談会報告書においても「日本は、外国人が一人歩きできる環境を整備しなければならない。この問題を解決するためには、海外からの訪問者の視点で課題を洗い出し、早急に解決する必要がある。」と述べている。
外国人がひとり歩きできる環境の整備の中でも、とりわけ観光地における案内所などの基本的なファシリティの充実は欠かせないものである。
平成15年3月の「地方公共団体及び観光関連施設等における外国人旅行者受入対応状況調査」((社)日本リサーチ総合研究所)によると、外国人旅行者の誘致・受入れを進める上で、今後、取り組むべき課題を尋ねたところ、都道府県においては86.1%(第3位)、観光関連施設においては52.3%(第1位)が「観光案内機能の強化」を挙げている。
また、案内所のほかにも、宿泊施設、お土産品の小売店、飲食店、さらには、両替・クレジットカード会社といった金融関連機関、緊急時の医療機関等、様々な主体における外国人対応の体制整備が必要とされている。
例えば、平成16年2月18日に開催した観光政策に関する観光大国・地域の大使等との懇談会では、米国大使からATMによるクレジットカードのキャッシングの利便性向上の提言がなされた。また、日本のホテル・旅館では英語、韓国語等の外国語のニュースが見られる施設がまだまだ少ないのが実態である。お土産品についても、アジアからの訪日客は「made in Japan」の工業製品を買うことがここ2、3年顕著となっており、小売店における外国人対応の充実や、付加価値、ニーズをどのように組み込んでいくかがこれからの課題である。
このように外国人旅行者の誘致に向けた観光地の活性化の要素としては、観光関係の民間事業者のみならず、ショッピング目的で来日した外国人への小売店での対応、外国語ニュースなどの放送サービス、きめ細かなインフォメーションセンターの充実、緊急時の対応、両替の利便性向上、レストランでの多言語メニュー、更には地域住民一人一人の国際感覚やもてなしの気持ちの醸成等、その内容も実施主体も、個別具体的かつ極めて多岐にわたっている。
こうした課題に取り組むに当たっては、お互いの顔が見える範囲で、地域の共感を得た明確なコンセプトのもとに、地元の行政や民間等様々な意欲ある主体が参加し、観光地の魅力向上に向けて一体的・総合的に取り組む体制を構築していくことが必須である。
そして、体制の構築に当たっては、地元の様々な主体の積極的な活動を一定のコンセプトのもとに取りまとめていく民間主体のプロモーター的な組織の存在が、成功の「核」となる大変重要な要素である。
一方、我が国の交通関係施設における外国語表示については、道路標識にはほとんどの場合ローマ字による表記等が定められているが、いわゆる公共交通機関については、外国語表記に関しては、ガイドラインにおいて「主要な用語については英語併記が望ましい」「固有名詞についてはヘボン式ローマ字を使用する」といった定め等はあるものの、具体化については事業者の自主的な対応に委ねられているのが実態である。
より具体的には、外国語による案内表示等については、実体上、一定レベルでの普及が進みつつあるものの、「乗車券購入、乗車、下車、乗換えの全体でトータルにサポートすべきであるにもかかわらず、バラツキがある。」「同じ内容を表示するのに、事業者毎、表示場所毎に異なっている場合がある。」「他社路線への乗り継ぎ部分等での案内表示が不十分である。」といった問題点が次第に顕在化してきている。また、平成16年3月の「グローバリゼーションに対応した都市鉄道サービスの提供に関する調査」((財)運輸政策研究機構)では、外国人旅行者を対象としたアンケート調査において42.9%と半数近くの旅行者が「どの路線に乗れば良いかわかりにくい」と回答した。
このようなことから、外国人が多数利用している路線や、外国人対応に努力しており外国人の訪問の増加が見込まれる観光地に至る路線などについて、各交通機関が現場の状況に応じて外国人向け案内表示の改善計画を立てることが必要となってきている。
以上のような実態を踏まえ、国としても市町村の作成する地域観光振興計画に位置づけられた観光振興に関する事業を民間が行う際に国が支援する観光ルネサンス事業を創設し、また、外国人旅行者の利用が見込まれる公共交通事業者等の事業に係る路線等について、外国語等による情報提供の促進に関する計画の策定・実施を義務付けるべく、平成17年通常国会に「通訳案内業法及び外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律の一部を改正する法案」を提出したところである。
なお、これらの取組を進めていくにあたり、民間の潜在力を最大限に引き出すための制度改革、規制改革等の施策と府省横断的な予算措置を組み合わせた「政策群」の手法も活用し、実効性・効率性の高い政策の実施に努めることが重要である。
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