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平成16年度 観光の状況に関する年次報告

第5章 観光交流空間の形成

第1節 観光地の魅力の向上

1 総合的、広域的な観光地づくり支援



  (1) 観光交流空間づくりモデル事業

地域の個性を活かした魅力ある観光交流空間づくりのための自主的な取組を国土交通省がハード・ソフトの両面から総合的に支援する「観光交流空間づくりモデル事業」を平成15年度より実施しており、平成15年度に8地域を選定している。平成16年度は新たな対象地域として、16地域を選定した。また、支援策の一環として、モデル地域においてNPO等が実施する社会実験等の調査・検討の支援を実施した。

 観光交流空間づくりモデル事業選定地域



また、観光事業の再生、地域の再生を図るとともに、訪日外国人旅行者の受け皿となる地域の魅力の増進を図るため、平成17年通常国会に「通訳案内業法及び外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律の一部を改正する法律案」を提出した。これにより、市町村や民間組織による地域の観光振興に関する計画の策定、地域限定通訳案内士制度の導入など地域の観光振興に関する枠組みの充実を図ったところである。

  (2) 都市再生・構造改革特区と一体になった観光振興

都市再生、特に身の回りの生活の質の向上と地域経済・社会の活性化を促進する「全国都市再生~稚内から石垣まで~」の取組において、観光振興を核とした取組が顕著である。例えば、都市観光の推進(稚内市、松山市、石垣市等)、歴史的たたずまいを継承した街並み・まちづくり(臼杵市、金沢市、佐原市等)、環境共生まちづくり(飯田市、日南市等)等のテーマごとに共通の制度的課題を具体的に解決するとともに、事業を集中的に実施している。また、平成15年度、16年度と二度にわたり、観光をテーマにしたもの等地域が自ら考え自ら行動する都市再生活動を「全国都市再生モデル調査」(平成16年度は566件の応募に対して、162件を選定)として推進・支援しており、そのうち幾つかはまちづくり交付金等国の支援も受けて本格的な取組に発展している。
また、構造改革特区(地方公共団体や民間事業者等の自発的な立案により、地域の特性に応じた規制の特例を導入する特定の区域を設けることで、構造改革を進める制度)では、地域限定の規制改革として、濁酒(いわゆる「どぶろく」)の製造に関する免許要件の緩和、国立・国定公園内で、自然環境を活用した催しの開催の容易化が実現している。例えば、濁酒の製造に関する免許要件の緩和の特例を活用して、農家民宿で濁酒をふるまうなど、地域の魅力を高める取組が全国で38件認定されている。
このように、「都市再生」・「構造改革特区」の取組と連携した観光振興を進めている地域がある。

  (3) 地域再生に向けた取組

平成16年度には、「地域再生推進のためのプログラム」(平成16年2月27日地域再生本部決定)に基づき、6月、12月、平成17年3月に認定を行い、観光に資する計画が76件認定されている。また、平成16年6月に、地域再生構想の提案募集を行ったところ、385の主体から652件の提案が提出された。(構造改革特区の第5次提案を含む。)この中には、地域における観光・交流の推進に関するものも多く含まれており、受け付けた提案等の検討結果について、平成17年2月15日に地域再生本部において「地域再生推進のためのプログラム2005」として取りまとめた。同プログラムには、国際競争力のある観光地づくりに向け、地域の民間と行政が一体となった観光振興の取組を総合的に支援する「観光ルネサンス事業」やエコツーリズムの推進への支援等を行うことが盛り込まれた。

  (4) 観光カリスマ百選と観光カリスマ塾

従来型の個性のない観光地が低迷するなか、各観光地の魅力を高めるためには、観光振興を成功に導いた人々の類まれな努力に学ぶことが極めて効果が高く、各地で観光振興の核となる人を育てていくため、その先達となる人々を「観光カリスマ」として選定した。
選定は島田晴雄・内閣府特命顧問を委員長とする選定委員会が行い、平成14年12月に第1回委員会を開催して以来、平成16年度末までに8回の選定を重ね、観光カリスマの人数は100人となっている。選定結果や、選定された観光カリスマの事績などは、国土交通省のホームページ(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanko/top.htm)に掲載するなどして公表している。
  COLUMN 12 愛知県足助町「観光カリスマ塾」  

愛知県足助町の小澤庄一氏は、「生活体験型観光(山里版)のカリスマ」として、平成15年に最初に選定された観光カリスマのひとりである。
小澤氏は、海外農業実習生としての経験、地域の歴史や他地域のまちづくりの状況の分析等を通じ「観光とは訪れる人達との交流の中で地域色豊かな文化遺産を公開、保存、承継しながら地場産業を育て、お金を得ながら愛郷心を高めるもの」とのまちづくりの理念を形成し、その理念に基づき、町の職員として、町並み保存運動の先頭に立ち、生活文化を伝承していくことの重要性を住民に浸透させ、その結果、現在の足助町の風情ある町並みが形成された。さらに、自給自足の生活文化や手作りの技を伝承するため、古い茅葺き屋根の建物や民芸加工施設など地域に残る文化施設を集合させ、健やかな山の暮らしを体験することもできる「三州足助屋敷」や、ハム・ソーセージ工房等で高齢者も働ける「福祉センター百年草」の建設に奔走した。その結果、山村生活文化伝承と高齢化雇用を同時に実現させ、独創的な生活文化体験型観光の浸透により、以前は、紅葉の季節だけ観光客で賑わう町であったが、今では、年間220万人が訪れる町となっている。
平成17年2月18日から20日にかけて開催した観光カリスマ塾には、全国13都道府県から19名が参加し、小澤塾長による「足助ロマンのまちづくり」をテーマにした講義、塾長案内による町中視察、ワークショップ等が行われた。全国から参加した受講生からは、「地域の魅力を見出し、将来を見据えた観光開発と地域住民の熱意、協力が必要と感じた」「高齢者の積極的な生き方を通して観光につなげることを学んだ」「強いリーダーシップとネットワークづくりが重要」等の感想が寄せられた。

ワークショップ風景




また、平成16年度から、新たに、この「観光カリスマ」らを講師として迎え、その成功のノウハウ伝授、活動の現場体験、受講生によるワークショップなどをセミナー形式で集中的に行い、次世代の地域の観光振興を担う人材育成をめざす「観光カリスマ塾」を各地で開催した。
全国の自治体職員や、観光関係者などが受講生となり、観光カリスマの講義に熱心に耳を傾け、現地視察にも意欲的に参加するとともに、受講生同士の情報交換の場として活用された。

  (5) 地域の魅力のデータベース化

平成15年7月31日に観光立国関係閣僚会議で決定された「観光立国行動計画」の重要な柱の一つとして位置付けられている「一地域一観光」の主要施策として、「一地域一観光魅力ネットサイト構築」事業を実施した。これは、全国の市区町村及び国民に地域の魅力の発見・投稿を呼びかけ、それらを集約してデータベース化し、「発見!観光宝探しデータベース」としてインターネットで公開するもので、平成17年3月現在、合計で1,141件(全国1,017市区町村・地域;国民から124件)に上る観光魅力に関する情報が掲載されており、地域別、テーマ別に検索が可能なほか、一部の掲載案件については、英語翻訳化した。(ホームページアドレスhttp://www.kanko‐otakara.jp/)

  (6) 広域観光テーマルートの整備

自動車旅行者をターゲットに点在する観光資源を魅力ある観光ルートとして紹介するため、一定のテーマコンセプトのもとに広域観光案内板等を整備する「広域観光テーマルート整備事業」を実施しており、平成16年度においては和歌山県内3市町において広域観光案内板や小規模休憩施設の整備を行った。

  (7) グリーン・ツーリズムの推進

農山漁村において余暇活動を楽しむグリーン・ツーリズムについては、都市住民のニーズに十分対応できるよう、イベント等の開催によるグリーン・ツーリズムの普及・推進、農山漁村情報提供の充実強化、農林漁業体験民宿経営者や体験指導員等の人材の育成、子どもたちの農林漁業体験活動の促進、地域ぐるみの受入システムや市民農園などの交流空間の整備等を実施するとともに、これら施策と一体的に、外国人旅行者向けに英語等によるホームページ、パンフレット及びガイドブックの作成等を行い、農山漁村に外国人を呼び込むための情報発信等を行った。

滞在型市民農園(兵庫県八千代町)



  COLUMN 13 農林漁業体験民宿  

「農林漁業体験民宿」って何でしょう。
民宿は「簡易宿泊施設」として、民家の一部を宿泊施設として活用しているものが多く、「リーズナブルな料金」「家庭的な雰囲気」「きめ細やかなサービス」が特徴として利用されております。
農林漁業体験民宿は、農山漁村の豊かな自然環境の中で、宿泊しながら田植えや稲刈り、山菜採りや魚捕りのほか、そば打ちや工芸品作り等様々な体験を行うことができ、訪れた方々に「物を作り育てていく事の大切さ」や「収穫の喜び」等を実際に味わっていただく民宿です。
また、宿泊客に採れたばかりの新鮮な野菜や魚、山菜等を食材にして自慢の郷土料理を提供したり、これらを活用した加工品等を直接販売もしています。
農山漁村は食べ物を生産したり魚を捕るだけの場ではなく、地元の人や美しい景観、お祭等伝統文化との楽しいふれあい等「ゆとり」や「やすらぎ」の空間でもあります。
このような都市と農山漁村の交流の窓口として農林漁業体験民宿が存在しています。
なお、全国の農林漁業体験民宿は(財)都市農山漁村交流活性化機構のホームページのグリーン・ツーリズムポータルサイトで紹介をしております。
(http://taiken.kouryu.or.jp)
農林漁業や田舎の生活を体験したり、郷土料理を味わったりすることができる民宿として登録された「農林漁業体験民宿」には、全国農林漁業体験民宿業協会が農林水産大臣の承認を得て定めた標識が掲示されております。

 「登録農林漁業体験民宿」の標識




  (8) エコツーリズムの推進

観光振興にも効果のあるエコツーリズムの普及・定着を推進するために「エコツーリズム推進会議」を開催し、平成16年6月開催の「第3回エコツーリズム推進会議」において次の5つの推進方策を取りまとめ、取組を開始した。1)エコツーリズムの理念をわかりやすい形で普及するための「エコツーリズム憲章」を制定、2)全国のエコツアー情報(エコツアー、宿泊施設、交通機関の3分野)をインターネットで紹介する「エコツアー総覧」の開設、3)すぐれた取組を表彰するための「エコツーリズム大賞」の設定、4)エコツーリズム推進のための基本的な手法やポイントをまとめた「エコツーリズム推進マニュアル」の環境省ホームページでの公開及び一般書籍としての出版、5)モデル地区に採択された13地区における「モデル事業」の取組への支援を行った。

西表島のエコツアー風景




  (9) 産業観光の推進

全国各地において、各種地域産業と連携を図った観光産業が推進されているが、より一層の推進を図るため、各種活動支援、産業文化遺産の活用等の手法の確立、PRの推進等の課題に対応することとし、平成16年4月に全国産業観光推進協議会が設立された。平成17年2月に札幌で開催され、約500名が参加した全国産業観光推進協議会主催による「全国産業観光フォーラム・イン・さっぽろ2005」やその他の活動の支援、産業を活用した観光振興事例の紹介を行うとともに産業観光の振興に資する施策の検討を行った。

  (10) フィルムツーリズムの振興

文化庁、経済産業省、国土交通省は、映像等コンテンツ撮影の誘致・支援やコンテンツの活用方策について、地域振興の面から検討し、地域における関連組織の実態調査、国内外の事例分析、モデル事業などを通じて、フィルムコミッションなどの役割と組織運営のあり方、観光資源としてのロケ地等の活用方向などについて検討することを目的とした「映像等コンテンツの制作・活用による地域振興のあり方に関する調査」を実施した。

  (11) サイクルツアー推進事業

サイクリングを楽しみながら地域の魅力をゆっくりと堪能する新しいツーリズム(サイクルツアー)を普及し、地域の活性化を図ることを目的に、サイクリングロードと観光施設、川の親水施設、港湾緑地等との連携を強化する各種施策を総合的に推進しており、平成16年度には15モデル地区において、自転車を利用した観光促進策などを検討した上でサイクルツアー推進計画を策定し、事業を推進した。

  (12) 北海道の観光振興

1)北海道の観光の現状
北海道は、豊かな自然、新鮮な味覚など多彩な観光資源を有し、また、各種の体験型観光、ホーストレッキングやオートキャンプ等のアウトドア活動に係る施設の充実、イベントの開催などにより、観光地として国民にくつろぎの場を提供している。
平成16年の来道者数は、前年比で50万人減の1,280万人(前年比3.8%減、北海道観光連盟調べ)と、海外への旅行者が大幅に増加したこと等の影響により減少した。
一方、海外からの来道観光客については、ビジット・ジャパン・キャンペーン事業の展開や、積極的な海外プロモーション活動の推進などにより台湾、中国を中心に増加している。
2)北海道における観光振興策の展開
第6期北海道総合開発計画においても、観光関連産業は地域経済を支える重要な産業として位置づけられており、観光基盤の整備、観光資源情報ネットワークの充実、アウトドア活動に資する施設整備や農村漁村における自然体験型活動等の積極的支援により、北海道の特色を生かした観光振興の支援を行っている。
また、地域住民の活動を中心に、沿道景観整備等による美しいドライブ環境の創造と地域資源の保全と活用による個性的な地域環境の創造により、競争力のある美しく個性的な北海道づくりを目指す「シーニックバイウェイ北海道」の本格展開に向け、その制度設計を行った。

シーニックバイウェイ北海道の展開




  (13) 沖縄の観光振興

1)沖縄観光の現状
沖縄県は、亜熱帯・海洋性気候風土のもと、美しい自然景観、独特の伝統文化や歴史等魅力的な観光資源を有しており、昭和47年の本土復帰以降、入域観光客数が約12倍に達するなど、観光・リゾート産業は沖縄のリーディング産業として大きく成長してきた。
平成16年には、沖縄の伝統芸能の保存振興と、伝統文化を通じたアジア・太平洋地域の交流の拠点となる「国立劇場おきなわ」が1月に開場したほか、12月には沖縄観光の新たな魅力であるリゾートショッピングの拠点として期待される沖縄型特定免税店の空港外店舗が、那覇市おもろまちの新都心地域に開業した。
平成16年の入域観光客数については、夏以降相次いだ台風の襲来や新潟県中越地震に伴う旅行マインドの低下等の影響により、年後半は前年実績を下回る状況が続いたものの、最終的には前年を上回る515万人に達し、過去最高を更新した。
2)沖縄の観光振興策の展開
沖縄の観光振興を図るため、沖縄振興計画等に基づき、多様なニーズに対応した通年・滞在型の質の高い観光・リゾート地の形成に向け、各般の施策を推進した。
沖縄の豊かな自然、歴史、文化等を生かし、障害者や高齢者も含めたすべての人にやさしい観光地づくりを目指したバリアフリー観光の推進や沖縄空手を通じた交流推進事業を新たに展開したほか、エコツーリズムの推進や世界遺産の周辺整備、体験滞在交流の促進等の施策を通じて、美しい沖縄の景観形成へも配慮しつつ、観光客の多様なニーズへの対応に取り組んだ。
また、国際的な質の高いリゾート地を目指して、観光振興地域等の整備をはじめ、国際的観光地としての発展を担う多様で質の高い人材の育成、国内外の観光客に充実した観光情報を提供するための共通プラットホームの構築等の取組を引き続き推進した。

沖縄空手を通じた交流の推進




  (14) 豪雪地帯における冬季の観光振興

豪雪地帯対策特別措置法に基づく豪雪地帯対策基本計画において、観光・レクリエーション産業を振興することとされており、その実現に向けて冬期間観光の推進に資する冬期利用に配慮した各種施設の整備、及び観光情報を含めた雪関連情報提供システムの構築についての検討等を実施した。

  (15) 離島地域の観光振興

多くの離島地域においては、主要産業である一次産業の低迷が続いており、観光が離島地域経済の新たな柱として期待が高まっている。しかし、離島は本土に比べて個性的で魅力的な自然環境や地域文化がある一方、アクセスの煩雑さや情報提供不足等の問題を抱え、高いポテンシャルを持ちながらも観光資源を十分生かし切れていない。
そこで、観光による離島地域経済の活性化を図ることを目的に「離島ツアー交流推進支援事業」を実施し、離島における魅力的な観光資源の再発見や観光ルートの開発をモニターツアーによる検証により行っている。また、モニターが離島へ滞在することにより、島の生活に直接触れ、新たな離島サポーターとして育つことも期待している。平成16年度においては、特徴ある地域資源の再発掘を行い、離島観光の活性化を図ることを目的として、愛知県の篠島・日間賀島において事業を実施した。

  (16) 奄美群島・小笠原諸島の観光振興

奄美群島においては、地方公共団体が行う観光拠点としての園地等の整備、地域資源を活用した健康体験交流施設整備、観光客に対して地域の歴史、自然、文化について案内できる人材育成等の事業に対する支援を実施した。
小笠原諸島においては、エコツーリズムの一層の推進を図るため、自然ガイドを養成した。また、平成17年秋には、小笠原航路にSUPER LINER OGASAWARAが就航する予定であり、観光客の増加が見込まれることから、島内の受入体制の整備や新たな観光資源の発掘等を実施した。

  (17) 半島地域の観光振興

半島地域は、その地理的条件から産業基盤等の整備が立ち後れている一方、多様な自然・文化資源を有していることから、これらの資源を活用した観光を通じた活性化を図るため、NPOや地域住民等が主体となって行う交流・連携の促進方策を検討した。また、平成16年度には、ワークショップ等を通じて、半島地域の観光を考える「半島ツーリズム大学」を西彼杵地域(長崎県西海町)及び宇土天草地域(熊本県本渡市)で開催した。

  (18) 総合保養地域のソフト面等の充実等

平成16年2月に変更された「総合保養地域整備法第一条に規定する整備に関する基本方針」を受け、道府県の基本構想の見直しの促進を図るとともに、ソフト面の一層の充実のための地域住民やNPO等による地域間交流等の取組を促進した。
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