第II部 平成21年度の観光の状況及び施策
第2章 国際競争力の高い魅力ある観光地の形成
第2節 観光資源の活用による地域の特性を生かした魅力ある観光地の形成
3 優れた自然の風景地に関する観光資源の保護、育成及び開発
自然公園は、我が国の優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることを目的として「自然公園法」に基づき指定される公園で、国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園の3種類がある。これらの公園は我が国の主要な観光地としても重要な役割を果たしている(図II-2-2-1)。
図II-2-2-1 日本全国の国立・国定公園の配置図
1) 公園計画の見直し等
自然公園の保護及び適正な利用を図るため、公園の区域や計画を定めており、おおむね5年を目途に見直し作業を実施している。平成21年度には、小笠原、白山、大山隠岐、西海及び阿蘇くじゅう国立公園並びに西中国山地国定公園において公園区域及び公園計画の見直しを行っており、今後とも全国的な見直し作業を進めることとしている。
2) 保護と管理
国立・国定公園の優れた自然の風景地のうち、特にその風致の維持を図る必要のある地域を、特別地域として指定し、各種一定の行為を規制している。
国立・国定公園の特別地域の中でも、公園の核心的な景観地については、「特別保護地区」として指定し、最も厳しい保護規制を行っている。その面積は、全国立公園面積の13.3%、全国定公園面積の4.9%である。また、我が国の周辺海域には、熱帯魚、サンゴ、海藻、干潟等の優れた海域景観が見られる。このため、「海域公園地区制度」が設けられ、その保護と適正な利用が図られている。
国立・国定公園内で自然の風景地の保護と適正な利用を図ることを目的として、一般社団法人、一般財団法人又は特定非営利活動法人をその申請により公園管理団体として指定し、風景地保護協定に基づく自然の風景地や公園内の施設の管理主体として位置付けることで、その自発的な活動を推進している。平成21年度末までに、国立公園内(知床国立公園等)で5団体が指定を受けている。
さらに、保護・管理のため以下の事業を実施した。
1) 国立公園等の貴重な自然環境を有する地域において、野生動植物の保護、登山道の補修や清掃作業、外来生物の駆除、サンゴを食害するオニヒトデの駆除等の「国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業」を行った。
2) 8月第1日曜日の「自然公園クリーンデー」に全国の自然公園で一斉に美化清掃活動を行うなど、関係地方公共団体等と協力し清掃活動を行った。
3) (財)自然公園財団を始めとする関係機関により、自然公園内での歩道、便所、休憩所等の公共的施設の清掃、補修のほか、利用最盛期に集中する自動車の整理、美化清掃活動、公園施設等の維持管理、利用者に対する自然保護思想の普及啓発等の事業を行った。
3) マイカー規制等適正な利用の推進
国立公園内においては、「国立公園内における自動車利用適正化要綱」に基づき、地方環境事務所、地元警察署等で構成する連絡協議会において、道路交通環境に応じた規制方法を検討し、一般車両通行止め等の交通規制を行って、観光地の交通安全の確保、環境保全に努めている。
また、国立公園又は国定公園の特別地域のうち環境大臣が指定する区域においては、野生動植物の生息・生育環境への被害を防止するため、スノーモービル、オフロード車あるいはモーターボート等の乗入れが規制されている。
このほか、吉野熊野国立公園の西大台利用調整地区においては、原生的な自然を有する地域を一定のルールとコントロールの下で持続的に利用するため、立入り人数の調整等を行っている。
4) 国立・国定公園における利用のための施設の整備
自然環境の保全に配慮しつつ、自然との触れ合いを求める国民のニーズにこたえ、安全で快適な利用を推進するため、平成21年度には全国28の国立公園において、国立公園の主要な入口における情報提供施設、山岳地域の適正な利用を推進するための登山道、利用拠点における施設のユニバーサルデザイン化、その他利用の基幹となる施設を整備した。
また、国定公園における自然との触れ合いの場の整備や自然環境の保全・再生を推進するため、平成21年度には、40都道府県に「自然環境整備交付金」を交付した。
5) 長距離自然歩道の整備
自然公園や文化財を有機的に結ぶ長距離自然歩道について、平成21年度には東北、首都圏、東海、中部北陸、近畿、中国、四国、九州において、四季を通じて安全で快適に利用できるように整備を進めた。長距離自然歩道の計画総延長は約26,000kmに及んでおり、平成20年には約6,200万人が利用した。
6) 利用者への指導等の推進、情報発信
国立・国定公園の保護と適正な利用のため、自然公園指導員約3,000名を委嘱し、利用者に対する自然保護思想や利用マナーの普及啓発、安全利用等に関する指導等の推進を図った。また、地方環境事務所等において約1,700名のパークボランティアの養成及びその活動に対する支援を全国25国立公園等40地区で実施した。
我が国では、「世界遺産条約」に基づき、平成22年2月現在で、3件の自然遺産が世界遺産一覧表に記載されている(表II-2-2-2)。
表II-2-2-2 日本の世界自然遺産
屋久島においては、遺産地域を順応的に保全管理するための科学委員会を設立した。知床においては、これまでの候補地管理計画を見直し、「知床世界自然遺産地域管理計画」を策定した。一方、候補地である小笠原諸島については、関係省庁・地方公共団体等が連携し、外来種対策を推進するとともにユネスコ世界遺産センターに推薦書を提出した。また、琉球諸島については、推薦の前提となる条件整備を進めた。
(3) 優れた自然の風景地を生かした地域づくりの推進 |
1) 自然保護思想の普及
1) 「自然に親しむ運動」等を通じて、自然と触れ合う各種活動を実施したほか、平成19年8月に新たな国定公園として誕生した丹後天橋立大江山国定公園及び若狭湾国定公園(京都府域)において、平成21年9月に「平成21年度自然公園ふれあい全国大会」を開催した。
2) 小中学生に自然保護の大切さを学ぶ機会を提供する「子どもパークレンジャー」を実施した。
3) 「ラムサール条約湿地」について、湿地の保全と賢明な利用を推進するとともに、水鳥湿地センター等において、普及啓発等を行った。
2) 森林等の観光への活用
森林環境教育、健康づくり等の森林利用に対応した多様な森林の整備を推進するため、「森林空間総合整備事業」を実施し、教育関連施設・健康増進施設等と連携を図った森林の整備を行った。また、風景等が優れ、自然探勝、ハイキング、キャンプ等の森林レクリエーション利用に供すること等を目的とする森林については保健保安林として、名勝、旧跡の風致の保存を目的とする森林については風致保安林として、平成21年3月末現在、合わせて73万haを指定している。さらに、観光地の周辺の森林において、山崩れ、雪崩等の災害を防止するため、周辺の景観に配慮しつつ、治山事業等を実施し、安全の向上と併せて観光資源の資質向上に寄与した。
国有林野では、自然休養林等の「レクリエーションの森」を人と森林との触れ合いの場として積極的に提供した。また、国民による森づくり活動の場を提供する「ふれあいの森」、学校等による体験活動・学習活動の場を提供する「遊々の森」の設定・活用を推進した。このほか、優れた自然環境を有する森林については、保護林として設定あるいはその拡充を行い、適切な管理を行った。さらに、自然遺産として世界遺産一覧表に記載されている屋久島、白神山地及び知床の保全対策並びに世界文化遺産と一体となった景観を形成する森林に加え、世界文化遺産推薦物件である平泉の緩衝地帯の景観回復対策や世界自然遺産推薦物件である小笠原諸島の保全対策を講じた。
3) 海の観光への活用
生態系や自然景観等周辺の自然環境に配慮した海岸整備を行うエコ・コースト事業を15箇所で実施しており、今後も引き続き実施することとしている。
4) 生物多様性の保全と持続可能な利用
生物多様性地域戦略の策定を促進させるための、「生物多様性地域戦略策定の手引き」を平成21年9月に公表した。
5) 北海道の美しい自然景観の観光への活用
北海道では、地域の活動団体が主体となり、行政と連携し、「美しい景観」「活力ある地域」「魅力ある観光空間」づくりを行う「シーニックバイウェイ北海道」を推進している。平成21年度には新たに「十勝平野・山麓ルート」が加わり、全道8ルートにおいて、沿道の花植え、景観改善、ビューポイントの整備、情報発信、観光メニューの創出等、様々な活動が展開されている。
十勝平野・山麓ルート(北海道上士幌町 ナイタイ高原牧場)
大規模自転車道の整備を行うとともに、川の親水施設や港湾緑地等とサイクリングロードとの連携を始めとした自転車と他の交通機関の連携を強化する各種施策を総合的に推進することにより、全国15箇所の「サイクルツアー推進モデル地区」においてサイクリングツアーを振興し、地域の特性を生かした魅力ある観光地の形成を図っており、今後も引き続き実施することとしている。
歩きやすさに十分配慮しつつ、周辺景観や地域の個性を生かした歩行者専用道路等を整備する「ウォーキング・トレイル事業」として、ベンチ等の休憩施設やデザイン等を工夫した案内標識、来訪者の発着拠点となる駐車場等を整備しており、今後も引き続き実施することとしている。
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