前(節)へ   次(節)へ
第II部 平成22年度の観光の状況及び施策

第2章 国際競争力の高い魅力ある観光地の形成

第2節 観光資源の活用による地域の特性を生かした魅力ある観光地の形成

3 優れた自然の風景地に関する観光資源の保護、育成及び開発



  (1) 国立・国定公園の保護と利用の推進

 自然公園は、我が国の優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることを目的として「自然公園法」に基づき指定される公園で、国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園の3種類がある。これらの公園は我が国の主要な観光地としても重要な役割を果たしている。
1)公園計画の見直し等
 自然環境や社会状況の変化及び風景評価の多様化に対応して、国立・国定公園の資質に関する総点検を行い、平成22年10月にその成果を取りまとめ、新たな国立・国定公園の指定又は大規模な拡張を行う候補地として、鹿児島県の奄美群島や沖縄県のやんばる地域等を含む、18地域が選定された。候補地については、今後10年間を目途に調査、調整等を行い、具体的な区域の指定を検討する。
 また、知床、磐梯朝日、尾瀬、上信越高原及び白山国立公園並びに蔵王、八ヶ岳中信高原及び愛知高原国定公園の8国立・国定公園において公園区域及び公園計画の見直しを実施した。
2)保護と管理
 国立・国定公園の優れた自然の風景地のうち、特にその風致の維持を図る必要のある地域を、特別地域として指定し、各種一定の行為を規制しており、その中でも、公園の核心的な景観地については、「特別保護地区」として指定し、最も厳しい保護規制を行っている。また、我が国の周辺海域には、熱帯魚、サンゴ、海藻、干潟等の優れた海域景観がみられ、海域公園地区制度を設けることにより、その保護と適正な利用が図られている。
 さらに、公益法人等を公園管理団体に指定し、自然の風景地の管理、公園利用施設の維持管理、公園内の自然情報の収集・提供等に関する市民等の自発的な活動を推進している。
 このほか、国立公園等の貴重な自然環境を有する地域においては、野生動植物の保護、登山道の補修や清掃作業、外来生物の駆除等の「国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業」等を行っている。
3)マイカー規制等適正な利用の推進
 国立公園内においては、「国立公園内における自動車利用適正化要綱」に基づき、関係機関・団体等で構成する連絡協議会において、一般車両通行止め等の交通規制を行い、観光地の適正な利用環境の確保、環境保全に努めている。
 このほか、吉野熊野国立公園の西大台利用調整地区及び知床国立公園の知床五湖利用調整地区においては、原生的な自然を有する地域を一定のルールとコントロールの下で持続的に利用するため、立ち入り人数の調整等を実施している。
4)国立・国定公園における利用のための施設の整備
 自然環境の保全に配慮しつつ、自然とのふれあいを求める国民のニーズにこたえ、安全で快適な利用を推進するため、平成22年度には全国29の国立公園において、国立公園の主要な入口における情報提供施設、山岳地域の適正な利用を推進するための登山道、利用拠点における施設のユニバーサルデザイン化、その他利用の基幹となる施設を整備した。
 また、国定公園においては、自然とのふれあいの場の整備や自然環境の保全・再生を推進するため、平成22年度には、36都道府県に「自然環境整備交付金」を交付した。
5)長距離自然歩道の整備
 自然公園や文化財を有機的に結ぶ長距離自然歩道について、平成22年度には東北、首都圏、東海、中部北陸、近畿、中国、四国、九州の長距離自然歩道において、四季を通じて安全で快適に利用できるように整備を進めた。長距離自然歩道の計画総延長は約26,000km に及んでおり、平成21年には約6,300 万人が長距離自然歩道を利用した。
6)利用者への指導等の推進、情報発信
 国立・国定公園の保護と適正な利用のため、自然公園指導員約2,900 名を委嘱し、利用者に自然保護思想や利用マナーの普及啓発、安全利用等に関する指導等の推進を図った。また、地方環境事務所等において約1,500名のパークボランティアの養成及びその活動に対する支援を全国25国立公園等39地区で実施した。

  (2) 世界自然遺産地域の適正な保全管理

 我が国では、世界遺産条約に基づき、平成23年2月現在で、3件の世界自然遺産が登録されている(表II-2-2-2)。

表II-2-2-2 日本の世界自然遺産


 知床及び屋久島に続き、白神山地において遺産地域を順応的に保全管理するための科学委員会を設立した。候補地である小笠原諸島については、世界遺産の評価機関である国際自然保護連合(IUCN)による現地調査を受け入れた。

  (3) 優れた自然の風景地を生かした地域づくりの推進

1)自然保護思想の普及
1)「自然に親しむ運動」等を通じて、自然と触れ合う各種活動を実施したほか、平成22年11月に霧島屋久国立公園(鹿児島県域内)において、「平成22年度自然公園ふれあい全国大会」を開催した。
2)小中学生に自然保護官の業務を体験してもらうなど、自然保護の大切さを学ぶ機会を提供した。
3)「ラムサール条約湿地」について、湿地の保全と賢明な利用を推進するとともに、水鳥湿地センター等において、普及啓発等を行った。
2)森林等の観光への活用
 森林環境教育、健康づくり等の森林利用に対応した多様な森林の整備を推進するため、農山漁村地域整備交付金により、教育関連施設・健康増進施設等と連携を図った森林の整備を行った。また、自然探勝、ハイキング、キャンプ等の森林レクリエーション利用に供すること等を目的とする森林については保健保安林として、名所、旧跡の風致の保存を目的とする森林については風致保安林として、平成22年3月末現在、合わせて73万haを指定している。さらに、観光地周辺の森林において、山崩れ、雪崩等の災害を防止するため、周辺の景観に配慮しつつ、治山事業等を実施し、安全の向上と併せて観光資源の資質向上に寄与した。

明治の森高尾山自然休養林(東京都八王子市)


 国有林野では、自然休養林等の「レクリエーションの森」を人と森林とのふれあいの場として積極的に提供した。また、国民による森林づくり活動の場を提供する「ふれあいの森」、学校等による体験活動・学習活動の場を提供する「遊々の森」の設定・活用を推進した。このほか、優れた自然環境を有する森林については、「保護林」や「緑の回廊」を設定し、適切な管理を行った。また、地域住民等と協力しながら自然環境の保全活動を行うとともに、グリーンサポートスタッフ(森林保護員)による巡視や利用者へのマナー啓発活動を推進した。さらに、世界自然遺産に登録されている屋久島、白神山地及び知床並びに厳島神社等の世界文化遺産と一体となった森林等の保全対策を推進するとともに、小笠原諸島や平泉等、世界遺産一覧表への記載を推薦された地域等の保全対策を講じた。
3)生物多様性の保全と持続可能な利用
 平成22年度に創設された地域生物多様性保全活動支援事業を通して、1県6市町における生物多様性地域戦略の策定を支援した。
4)北海道の美しい自然景観の観光への活用
 北海道では、地域の活動団体が主体となり、行政と連携し、「美しい景観」「活力ある地域」「魅力ある観光空間」づくりを行う「シーニックバイウェイ北海道」を推進している。
 平成22年度には新たに「~十勝シーニックバイウェイ~トカプチ雄大空間」が加わり、全道9ルートにおいて、沿道の花植え、景観改善、ビューポイントの整備、情報発信、観光メニューの創出等、様々な活動が展開されている。

トカプチ雄大空間(北海道池田町 ワイン城につながる緑のトンネル)



  (4) 自転車の活用

 大規模自転車道の整備を行うとともに、川の親水施設や港湾緑地等とサイクリングロードとの連携を始めとした自転車と他の交通機関の連携を強化する各種施策を総合的に推進することにより、全国15箇所の「サイクルツアー推進モデル地区」においてサイクリングツアーを振興し、地域の特性を生かした魅力ある観光地の形成を図っている。

  (5) 快適な散策ネットワークの整備

 歩きやすさに十分配慮しつつ、周辺景観や地域の個性を生かした歩行者専用道路等を整備する「ウォーキング・トレイル事業」として、ベンチ等の休憩施設やデザイン等を工夫した案内標識、来訪者の発着拠点となる駐車場等の整備を支援しており、今後も引き続き支援することとしている。
前(節)へ   次(節)へ
All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport