新幹線を何度も利用して気づくこと

新幹線を何度も利用して気づくこと

 私の祖母は、以前から膝関節に痛みがあり、歩行や立ち座りが不自由だ。正座や長い距離を歩くことも苦手で、まして旅行などほとんどでかけたことがない。

 私達が住んでいる仙台まで遊びに来てほしいと頼んでも、「私は膝が悪いからね」が口癖で、「新幹線なら仙台まではすぐだよ。」と何度話しても出かけてこようとしない。これまで新幹線で仙台まで来たのは、私が生まれた時と、妹が生まれた時のわずか2回だけだ。日常生活の移動を車に頼り、ひとりで生活している祖母にとって、電車に乗って移動するということはとても負担のようだ。

 今、私は寄宿に入り生活している。仙台までの移動は、新幹線を利用する。東海道新幹線と東北新幹線の2種類の列車を乗り継ぎ、三島から仙台に戻る。確かに、乗っている時間はそう長くはない。でも、毎回経験してみると、祖母が新幹線を乗り継いでやってくることは、けっして楽ではないことに気づかされる。いくつか紹介したい。

 まず、人混みに圧倒される。誰もが早足で、「お先にどうぞ」というような雰囲気は無い。のんびりと歩いていては、邪魔になるようで何だか申し訳ない気持ちになり、私もつい早足になる。これでは、祖母も気後れがしてしまうし、ひとりで旅に出る気持ちが削れるのもわかる気がする。

 また、列車とホームの間の数十センチの隙間が怖い。その中に吸い込まれそうな気がして、私も小さな頃から母に手を取ってもらってホームに降りた。足の不自由な祖母には、この隙間が不安に違いない。つい先日も、お年寄りがとても慎重にこの隙間を越えていた。私は、声を掛けることはできなかったが、祖母を見ているようで「慎重に慎重に」と心の中でつぶやいた。在来線(東海道線)では、もっとこの隙間が広く感じた。この隙間を無くす事ができないだろうか。

 さらに、階段やエスカレーターがほとんどで、ホームにおりてもエレベーターがどこにあるのかよく分からない。人の流れに乗ってしまうと、そのまま階段やエスカレーターに向かって歩いていくしかない。私が赤ちゃんだった頃、母が駅のホームでエスカレーターの場所がわからなく、ベビーカーを持ち上げて階段を下りたことが何度もあったと話していたことを思い出した。

 そこで、列車がホームに着くときに、「エレベーターは何両目付近にあります」とアナウンスがあったらと考える。車いすを利用する人々だけではなく、足の不自由な人たち、高齢者、ベビーカーを押すお母さんらに、この情報は必要なことだと思う。ただ、この情報を得ると、エレベーターを必要としない人までがそこに集まっては、本末転倒だ。スーパーの車イス用駐車場に、健常者の人が平気で車をとめ、買い物に行く姿を見かけるが、アメリカではこの行為はスピード違反より重い罰金だそうだ。人の心にも、精神のバリアフリーが今こそ求められる時だと思う。

 最後に、ホームからの転落防止用のフェンスや柵がどの駅にも設置されたら安心だ。駅によっては、すでに設置されている駅もあるが、転落事故や悲しいニュースが後をたたないのを見るにつけ、早急の対策が必要だと思う。

 確かに現在、新幹線のホームでは、駅員の方が体の不自由な方を親切に介助したり、車いすで乗車できる車両があったり、優しい心遣いが、色々なところに見られる。社会生活弱者の方への物理的な障害を取り除くバリアフリーの工夫は、公共の場では随分となされてきている。しかし、私のようにしばしば新幹線を利用する乗客から見ると、改善の余地があるようだ。世界一安全と言われる新幹線が、世界一のバリアフリーの機能を持った交通手段に進化する事を強く願う。

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