uc20-010

沿道状況センシングシステムの開発

実施事業者国立大学法人横浜国立大学 / LocaliST 株式会社 / 横須賀市 / Mobileye Vision Technologies Ltd. / 丸紅株式会社 / ESRI ジャパン株式会社
実施場所神奈川県横須賀市内の市道、国道、県道のうち実証実験実施者において選定した100kmの区域
実施期間2021年2月(データ取得開始)〜継続中
Share

車両に搭載したセンサを用いて都市活動をモニタリングするシステムを検証。さらに、3D都市モデルを用いた可視化・分析を行い、都市全体に流れる「血液の流れ」の把握を試みた。

実証実験の概要

車載センサによって、路面状況等の道路に関するデータと、歩行者や自転車の位置・量に関するデータを収集する。これを他の既存データと重ね合わせ、道路の通行安全性を多角的に評価することにより、より人間中心で安心安全な歩行環境・自転車走行環境の実現を目指す。

実現したい価値・目指す世界

従前の都市計画は道路(自動車)と街区(土地利用・建物用途)という、いわば「骨」と「肉」という側面から都市構造を検討するアプローチが主であった。これは、人口の増加を背景とした都市インフラ整備を主眼とした考え方である。

しかし、人口増の時代も終わり、社会の成熟化が求められる時代にあっては、今ある都市インフラの中での人の動きにより着目する必要がある。  今回の実証実験では、車両に搭載したセンサを用いて計測したデータから人流等を可視化することにより、都市全体に流れる「血液の流れ」を把握するものであり、都市のプランニング手法に大きな変革をもたらすものと期待される。

さらに、取得したデータを用いることで、道路上の不具合箇所の把握や、事故リスクの高いエリアにおける車両交通量や速度のコントロールなど、様々な活用可能性が存在する。

今回の実証実験で得た成果を産学官連携による実践的な研究につなげることにより、時代の要請に応じた、安心・安全で賑わいのあるウォーカブルなまちづくりにつなげていくことを目指す。

データ計測範囲(横須賀市2Dマップ+計測ルート)
データ計測範囲(横須賀市3D都市モデル+計測ルート)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

モービルアイ製 Mobileye 8 Connect は、最先端のビジュアルコンピューティングと AI を搭載した後付け型の安全運転支援システムであり、事故防止とドライバーのパフォーマンス向上に役立つ機能を備えている。また、このシステムが持つデータ収集機能により、通常通りの車両を運行するだけで、各種道路インフラの状況や他の車両・歩行者のデータをリアルタイムで収集することができる。これらのデータをGISデータとして、既存システムと連動させることでインフラ整備や保守点検作業などを効果的かつ分かりやすくサポートすることができる。

既販車への取り付けイメージ
フリートを活用したマッピング手法

検証で得られたデータ・結果・課題

横須賀市内の延べ約100kmの道路区間を対象に、道路の状態、歩行者の通行量、自転車の通行量、自動車の運転挙動を取得した。道路インフラについては、標識や信号などの沿道物件の位置及び形状データと、横断歩道やポットホールなどの路面状況データを取得した。歩行者と自転車については、車道又は歩道における平均検出数データを収集した。また、端末搭載車両の走行速度や急加減速、ニアミスデータなど、車両側の挙動データもあわせて収集した。

これらの時系列データを面的に蓄積することで、道路インフラに関するインベントリ調査の効率化や、路面性状のモニタリングの高度化、道路維持修繕業務の省力化等につながることが期待される。また、歩行者や自転車のボリュームデータと車両の挙動データ、3D表現による沿道建築物データを重畳して可視化することで、「ヒヤリハット」をはじめとした交通事故リスクの多角的な評価や因果関係の考察を深めることができ、都市内道路の安全性向上のための施策立案に寄与すると考えられる。

当面の課題は、データ収集対象道路の空間的な拡大と、時間軸方向のデータ取得密度の向上であり、そのために様々な主体と連携体制を構築し、車載端末搭載車種の多様化と台数増加を進めていく予定である。

沿道歩行者状況(3D都市モデル+歩行者データ)
沿道状況データ可視化(急ブレーキ発生位置)
時間帯別沿道状況データ(歩行者+自転車)の2D、3Dによる2画面表示
時間帯別沿道状況データの曜日/時間帯別集計グラフ表示

今後の展望

従来、道路インフラの路面状況や道路上の車両・歩行者情報等を収集・可視化するためには、カメラによって撮影された画像をサーバーに都度送信し、サーバー上で分析・可視化する必要があったが、個人情報の管理とデータ量の肥大化が大きな課題でとなっていた。本技術では、取得したデータを車載センサの端末上でAIによってエッジ処理してサーバーに送信するため、個人情報の即時の破棄とデータ量の圧縮が可能である。また、データ量圧縮は通信コストの抑制にも繋げることができ、導入のハードルを下げることで、端末を搭載する車両数の増加も期待できる。

本技術によって収集される精緻で高鮮度なデータを用いることで、ウィズ/アフターコロナ社会におけるスマートな道路維持管理や、まちづくりのための基礎知見としていくことを目指していく。