国土交通省 国土交通研究政策所 Policy Research Institute for Land, Infrastructure, Transport and Tourism

サイト内検索 English
 国土交通政策研究所は、国土交通省におけるシンクタンクとして、内部部局による企画・立案機能を支援するとともに、 政策研究の場の提供や研究成果の発信を通じ、国土交通分野における政策形成に幅広く寄与することを使命としています。
  

TOP研究成果調査研究成果報告書(年度別) > 報告書概要

 ● 報告書概要


 社会資本整備の便益評価等に関する研究

◆要旨

1. 研究の目的

本研究では、社会資本整備の執行手続きの透明化、客観性の確保、効率性の一層の向上に資するため、便益の評価手法を中心に費用便益分析について考察した。
費用便益分析は、事業の効果、効率性を表す客観的な指標となるが、近年の公共事業は、国民の高度化・多様化したニーズに対応した多様なサービスの提供を 図っており、このような事業を正確に評価するためには、金銭換算が困難とされている快適性、美観、自然環境等の便益も評価対象に加えることが望ましい。こ のため本研究では、費用便益分析の基礎理論を整理した上で、便益の評価手法に着目し、社会資本整備の便益評価に利用するという観点から、既存の各種手法を 調査した。

2. 研究結果

(1)費用便益分析の基礎理論の整理

あ る事業を実行することが社会的に望ましいかどうかを取り扱う方法として、費用便益分析がある。事業の生み出す社会的便益を現在価値に割り引いたもの(総便 益)が、事業にかかる社会的費用を現在価値に割引いたもの(総費用)を上回る限り、その投資計画を実行するのが望ましいとするものである。
純総便益=B0-C0+(B1-C1)/(1+r)+(B2-C2)/(1+r)2+・・・
=ΣN(Bi-Ci)/(1+r)i
但し,Bi:i時点の便益,Ci:i時点の費用,r:社会的割引率,N:耐用年数

(2)各種便益評価手法の特徴と社会資本の便益評価への適用

既 存の各種便益評価手法として、代替法、消費者余剰法、トラベルコスト法、ヘドニック法、CVMについて理論的な背景も含めて研究を行った。それぞれの評価 手法は、評価可能な便益の範囲、評価精度、客観性等の面で、特徴的な利点や欠点を有しており、社会資本が提供するさまざまな便益に対して、どの評価手法を 適用するのが適切かを見極めていくことが重要である。
1.代替法
評価したい事業と同等の便益を供給すると考えられる市場財を代替材とみなし、その市場価格をもって便益とする評価手法である。直感的に分かりやすいという利点を有するが、評価する事業を正確に代替しうる市場財が存在しない場合には、誤差が大きくなる。
2.消費者余剰推定法
便益を享受するに当たり一般化費用(例えば有料道路を利用する際には、通行料金の他に、ガソリン代や時間や疲労といった負担を要する。これら便益を享受す るにあたって負担しなければならない費用をまとめて一般化費用と呼ぶ。)を要する場合には、需要曲線を推定し、事業実施前と後の消費者余剰の増分を推定す ることができる。この消費者余剰の増分をもって便益を評価する手法である。市場データをもとに便益評価を行うのもので、精度や客観性が高いという利点を有 するが、一般化費用を必要としない社会資本の便益については、適用が困難である。
3.トラベルコスト法
これは、消費者余剰推定法の一形態である。便益を受けるために、特定の場所を訪問する必要がある場合に、その場所を訪問するのに必要な一般化費用を用いて消費者余剰の変化分を推定する。消費者余剰推定法と同様の利点と欠点を有している。
4.ヘドニック法
事業の便益が、関連する土地等の価格を左右すると考え(キャピタリゼーション仮説)、事業実施前と実施後の価格の変化から事業の便益を推定して評価する手 法である。かなり広範な種類の便益評価への適用が可能であるが、解析の過程において信頼性の問題が生じるとともに、適正な土地取引市場の存在が不可欠な条 件となっている。
5.仮想市場評価法(ContingentValuationMethod)
仮想市場評価法は、住民に対してインタビュー等を行い、事業の内容、効果について説明した上で、「その事業による便益と引き替えにいくらまでなら支払える か(最大支払意思額:最大WTP)」を答えてもらい、この回答結果をもとに社会全体の便益を推計するものである。基本的にあらゆるものに適用可能であると いう利点を有しているものの、評価精度や信頼性にいついては、不明確な部分がある。
以上のように、それぞれの評価手法は、特徴的な利点や欠点を有しているので、社会資本が提供するさまざまな便益に対して、どの評価手法を適用するのが適切かを見極めていくことが重要である。

(3)CVM(仮想市場評価手法:

近 年、国民の価値観が多様化する中で、快適性、美観、自然環境等に対する国民の関心が高まっている。CVMは、基本的にあらゆる便益の評価に適用可能である ため、このような便益を評価できる手法として、注目される一方で、バイアスの除去等による信頼性の向上が課題となっている。CVMの利用に先進的に取り組 んでいるアメリカにおけるCVMを巡る議論について調査を行った。
アメリカにおいては、大型タンカーの原油流出事故をきっかけとして、1990年に制定された油濁防止法(TheOilPollutionAct)で、自然 資源の損害も補償することが明記されたが、これに伴いCVMの信頼性を巡る論争が起きた。これに対し、NOAA(National OceanicandAtomosphericAdministration:海洋大気局)は、委員会を設置してパネルディスカッションを行い、NOAA が示したガイドラインに従った評価結果であれば、CVMはダメージ評価にあたって十分信頼できるベンチマークをもたらすとの結論を発表した。
NOAAの委員会によりCVMの有効性が認められたものの、依然、CVMにおいて人は自分の最大WTPを正しく回答することはできず、評価結果は根本的に 信頼できないとする主張も根強くある。CVMの社会資本整備の便益評価への適用を見極めるため、アメリカをはじめとする各国におけるCVMの利用実態や CVMを巡る議論の経緯について更に調査研究を行うことが必要である。


◆発行

PRCNOTE第14号/平成9年10月

◆在庫

<在庫有>(重量:320g 厚さ:6mm) 報告書を郵送希望の方はこちら

◆詳細

表紙、「はじめに」及び目次 (pdfファイル 609KB)
第1章本研究の目的と費用便益分析の理論 (pdfファイル 536KB)
1.本研究の目的
2.費用便益分析の理論
《参考1》公共財の供給における妥当性の評価
《参考2》内部収益率と費用便益比
第2章社会資本整備の便益の評価手法の検討 (pdfファイル 1.7MB)
1.便益評価の基本的考え方
2.便益の評価方法
《参考3》発生ベースと帰着ベースの便益の一致について
《参考4》価値の分析
第3章CVM(ContingentValuationMethod:仮想市場評価法) (pdfファイル 2.9MB)
1.アメリカにおけるCVMをめぐる論争
2.CVMにおけるバイアスとNOAAのガイドライン
3.CVMの質問方法
4.回答者のセグメンテーションによるCVMの精度向上
《参考5》CVMの信頼性に関する論文
《参考6》社会資本整備の便益評価の諸手法に関する講演会要旨
第4章まとめ (pdfファイル 260KB)