交通分野における企業の社会的責任(CSR)に関する研究
◆要旨
企業が社会的責任を果たすためには、社会がそれぞれの企業に何を求めているのかを常に意識し、社会のニーズに従って取り組みを進めていくことが重要である。
この調査では、国内外の主要な交通事業者約40社のCSR報告書(環境報告書などを含む)を分析、その比較検討を行った。一言に交通事業者といっても、社会が期待する事項は、航空、海運、陸運といった交通モードによっても異なっているが、業種、企業を問わず、交通事業に対して求められている社会的責任の最大の課題は環境問題である。交通事業者の多くは、化石燃料の直接、かつ主要な消費者であるため、温室効果ガスの削減に向けたその取り組みは社会の強い関心を引いている。交通事業者は燃費の良い船舶、機材の導入や、より効率的な運行といった取り組みを行っているが、特に陸上交通においては、公共交通サービスの提供そのものが持続可能な社会の実現に貢献しているという点を、より強調しても良いのではないかと思われる。
企業にとっては基本的に「守り」の行動ととらえられやすいリスクマネジメントと異なり、CSRへの取り組みは、より積極的な「攻め」の行動である。CSR活動に伴う経費は、企業の信頼性を向上させるための「投資」であり、CSR報告書は、企業のPRのためのツールとしての活用を考えていかなければならない。交通事業者のステークホルダーには株主、消費者、交通施設周辺の住民など多くの人が含まれる。これらの人がすべて、CSRレポートの潜在的読者であり、従って、CSRレポートは読みやすく、理解しやすい物でなければならない。従業員もまた、重要なステークホルダーであり、CSRレポートは、企業の社会的課題に対する姿勢を社内に浸透させるための教育ツールとしても重要である。
また、我が国における交通事業者の大半は中小企業であるため、社会全体へのインパクトを考えると、これら中小事業者の取り組みは重要である。中小事業者に対する社会の期待は、大企業に対するそれとは自ずと異なり、大部な報告書を作成したり、あらゆる項目で網羅的な取り組みをしたり、といったことが必ずしも求められているわけではない。むしろ、その企業が自慢できるような特色ある取り組みを積極的に紹介し、他社の参考にも資するといった姿勢が重要ではないかと思われる。また、中小交通事業者においても、環境問題への取り組みの重要性にかわりはなく、CO2排出の現状や削減努力の効果を定量的に把握できるような仕組み作りに行政の支援も期待される。
交通事業におけるCSRの取り組みは企業の短期的な利益とは直結しておらず、このことが取り組みの広がりを遅らせる原因にもなっている。今後その促進にあたっては、CSRへの取り組みが企業の信頼性の向上につながり、従って長期的には企業の利益に反映されるものである、ということに対する期待度を上げることが行政の役割であると考えられる。多くの企業がCSRに熱心に取り組み始めたが、社会における一般的な関心はまだまだ低いと言わざるをえない。具体的には、企業の積極的な取り組みを、その社名とともに政府機関のウェブサイトで公表する、特に優れた企業に対する表彰制度を設ける、といったことが考えられよう。
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