事業目的別歳入債券の有効活用に関する研究
◆要旨
本研究では、投資家および発行体にとっての「規律付け」と「魅力付け」という観点を中心に、ミニ市場公募債やPFI等の我が国における金融市場からの資金調達による社会資本整備手法の特徴を整理した上で、文献調査及び事例調査を踏まえて、米国のレベニューボンド制度の特徴を整理している。さらに、我が国における金融市場からの資金調達による社会資本整備手法とレベニューボンドの特徴について比較分析を行った上で、今後の我が国における社会資本整備手法としてのレベニューボンドの導入に向けての課題整理を行っている。
国および地方公共団体の財政状況が厳しい中で、国民のニーズに対応した社会資本を効率的に整備するため、資金調達について多様な選択肢を準備しておくことの重要性が増している。考えられる多様な選択肢のうち、金融市場からの資金調達は、投資家によって事業の収益性や安定性等の観点から事業及び事業スキームが評価されるといった規律が働くという点において、社会資本の効率的な整備にも寄与すると期待されている。
レベニューボンドは、米国等において、空港、港湾、道路、上・下水道等のインフラ整備をする際に、当該事業で必要となる資金を民間から調達する手段として発行される債券である。レベニューボンドでは、調達資金の元利償還財源は事業収益等に特定され、元利償還は事業の成否に大きく依存しており、この部分は我が国のミニ市場公募債との重要な相違点である。また、債権がデフォルトした場合のリスクは、一義的には債券投資家が負うこととなっている。そのため、投資家によって事業が評価され、金融市場を通した規律が働く仕組みとなっている。
このように、レベニューボンドは、市場メカニズムによる規律付けが十分に働きうる社会資本整備の資金調達方法と言える上、利子所得の免税措置や保証会社や各種の手続き規定による信用補完などにより、投資家や発行体にとっての魅力付けもなされ、その結果、米国の公債市場に一定の地位を得ている。
一方で、我が国における金融市場からの資金調達による社会資本整備手法のうち、ミニ市場公募債等については、元利償還が保証されていることから、事業の収益性とは無関係に資金が調達され事業が実施される、すなわち、金融市場メカニズムを活かした規律が働きにくいという問題点がある。また、PFIについても、最終的に行政が破綻時の事業継続リスクを負うといった事例が発生しており、事業経営破綻後の処理の不明確さなど市場の規律が十分に働いていない恐れがあるものも見受けられる。
以上より、レベニューボンドは、今後、我が国において、資金調達の多様化、社会資本整備の効率化を図っていく上で参考となりうる資金調達手法と考えられる。しかしながら、レベニューボンド制度とそれを取り巻く米国の状況は、現在の我が国の状況と大きく異なっている。レベニューボンドは、免税制度、情報開示制度、破産法制などの関連諸制度・各種社会システム及びモノライン保険会社、格付会社及び機関投資家などの関係主体といった、「規律付け」と「魅力付け」を成立させるための要素があってはじめて適切に機能する側面が強いものである。
今後、我が国へレベニューボンドの導入可能性を検討していく際には、これらの「魅力付け」「規律付け」を支える関連諸制度、各種社会システム等についてさらなる検討を行うことが重要となる。
|