平等をめぐる議論と社会資本整備に関する一考察
◆要旨
戦
後復興期から高度成長期、そして現在に至るまで「国土の均衡ある発展」というスローガンに代表される概念である「地域間公平性」は公共投資政策上、大きな
意義を果たしてきた。それは、市場に委ねることにより最も実現されるはずの「効率性」の追及により発生する弊害を抑制し、国民の「最大多数の最大福祉」を
達成するべき政府の存在意義であったとも言える。
しかしながら、21世紀を迎えた公共投資政策は、総人口の減少、人口の急速な高齢化、東京一極集中問題の沈静化、社会資本整備率の上昇、価値観の一層の多
様化及び情報公開等国民の行政に対する参加意識の拡大など、従来のパラダイムを覆す状況に直面しており、抜本的な改革を迫られている。特に厳しい財政制約
の下、都市部と地方部の対立が顕著となってきており、「国土の均衡ある発展」論のよって立つ基盤と公平、平等概念の再確認が必要とされているところであ
る。
本研究においては、戦後の公共投資政策を振り返り、当初その目的が所得格差是正施策であったこともその後内容を変えてきたことを確認し、今後の「格差是
正」施策のためには、「個人の公平」に目を向け、「公平」の内容を明らかにすべきことを論じる。その上で、アリストテレス以来様々に論じられている公平論
についてその概観を説明し、特に従来とは異なる平等の理論として、アマルティア・センのcapabilityアプローチに注目し紹介する。さらにセンの自
由論もあわせて紹介すると共に、センの考え方により地域間格差を論じる場合の手法を議論し、社会資本整備に対する示唆を得る。また、補論では、イギリスの
ブレア政権の唱える「第三の道」の考え方及びその内容にも含まれるNPM(ニューパブリックマネジメント)の考え方との比較において分析を行い、
capabilityアプローチのイメージの獲得の一助とする。
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