社会資本ストックの経済効果に関する研究
−都市圏分類による生産力効果と厚生効果−
◆要旨
環境問題の深刻化、財政状況の悪化、談合の存在等の理由による社会資本整備への批判の中には、社会資本整備の効果が低減しているのではないかというものもある。このため、本研究では、公共投資の一時的なフロー効果ではなく、社会資本本来の効果であるストック効果について分析を行う。
本研究では、社会資本のストック効果を、生産力効果(社会資本が経済活動における生産性を向上させ、経済成長をもたらす効果で、例えば、移動時間の短縮、輸送費の低下、貨物取扱量の増加などが含まれる。)と、厚生効果(社会資本が国民の生活水準の向上に寄与し経済厚生を高める効果で、例えば、アメニティの向上、衛生状態の改善、安心感の向上などが含まれる。)に区分し、分析を行う。
分析の範囲として、都道府県を基準とする考え方もあるが、社会資本のストック効果は、行政区域区分である都道府県界を超えたり、逆に狭い範囲にとどまる場合もある。したがって、本研究では、一連の社会経済活動が行われている地域として都市雇用圏を設定し、社会資本ストックの分野別の経済効果の分析を行う。
生産力効果は、1974年度〜1998年度の25年度の、大都市雇用圏・小都市雇用圏(DID人口を基準とした中心都市及び中心都市への通勤率を基準とする郊外都市により構成される都市雇用圏)の社会資本ストック額、民間資本ストック額及び就業者数を説明変数、域内総生産を被説明変数として、生産関数のパネル分析を実施した。その結果、大都市雇用圏で産業基盤、生活基盤について生産力効果が見られ、産業基盤の限界生産性(生産力効果)が最も大きいことが見られた。
厚生効果は、1990年度の、大都市雇用圏・小都市雇用圏に属する市町村の一人当たり所得、通勤時間、社会資本ストック額及び当該市町村が属する都市雇用圏の就業者数を説明変数、各市町村の住宅地地価を被説明変数として、地価関数のクロスセクション分析を実施した。その結果、社会資本全体で厚生効果が確認され、分野別に見ると、小都市雇用圏ではすべての分野で厚生効果が見られ、大都市雇用圏では国土保全、産業基盤、生活基盤で厚生効果が見られた。地価で測った限界効用(厚生効果)で見ると、小都市雇用圏の社会資本全体の限界効用のほうが大都市雇用圏より大きく、また、いずれの都市雇用圏でも、産業基盤、生活基盤、国土保全の順で限界効用が大きい。
本分析では、同時性バイアスの問題、付け値関数における都市規模の扱い方、都市雇用圏の範囲を超える社会資本ストックの便益が捕捉されていない点、住民が認識しにくい社会資本の便益を十分に捕捉しがたい点、これまで行われてきた社会資本整備の平均的な効果を示したものである点などの限界を踏まえると、本研究における分析結果のみによって、必ずしも公共事業の投資配分等今後の社会資本整備のあり方を一律に決定することができないことは論を待たないが、マクロ的な観点からみた社会資本ストックの経済効果を示す点で、今後の社会資本整備のあり方を考える上で有益な情報を提供するものと考えられる。
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