政策効果の分析システムに関する研究III
−空間経済学の手法を応用した国際物流需要予測モデルの開発−
◆要旨
近年のアジア諸国の急激な経済成長や、経済連携協定(EPA)の締結の動き等を背景として、わが国の貿易構造が今後大きく変化することが見込まれている。特にアジア諸国との水平分業の進展に伴い、輸送コストの差異や経済連携協定の動向が、貿易に大きな影響を及ぼすことが想定されている。
こうした状況に対して、これまで実務に適用されてきた国際物流需要予測モデルは、時系列データ等を用いて将来の交易係数を外生的に設定し、その係数に基づき国際物流需要量を予測するものが多かった。しかし、こうしたモデルでは交易係数の設定の根拠が希薄であり、また経済連携協定の締結等の急激な交易条件の変化を表現することが難しい。また、モデルにおいて輸送コストを明示的に表現していない場合もあり、輸送コスト縮減のための各種交通政策の効果を把握することができなかった。
そこで本研究では、交易条件の変化や、輸送コストのドラスティックな変化を表現可能なSCGEモデル(Spatial Computable General
Equilibrium Model)を用いて、将来の我が国の国際物流需要を予測することを目的とした検討を行う。本SCGEモデルは、将来の貿易変化を時系列的に予測することを可能とするために、1時点における各市場の需給均衡を表現する「均衡モデル」と、5年毎の資本移動を表現する「資本移動モデル」の2つのモデルから構成される準動学的モデルとなっている。このことにより、既存のGTAPモデル等では表現できない時系列的な資本蓄積を考慮した貿易予測が可能となった。
構築したモデルを用いてシナリオ分析を行った結果、東アジア圏を中心とした将来貿易の増加を定量的に予測することができた。その結果、アジア諸国が製造業の競争力を高め、世界のマーケットにおけるシェアを高めていくこと等が定量的に示された。
本モデルは、今後の国際物流政策の検討・立案に当たり、大いに参考になるものと考えられる。
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