国土交通省 国土交通研究政策所 Policy Research Institute for Land, Infrastructure, Transport and Tourism

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 国土交通政策研究所は、国土交通省におけるシンクタンクとして、内部部局による企画・立案機能を支援するとともに、 政策研究の場の提供や研究成果の発信を通じ、国土交通分野における政策形成に幅広く寄与することを使命としています。
  

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 ● 報告書概要


 地方分権社会における広域的観点からの都市整備に関する研究(中間報告)

 ―大規模小売店舗の立地における広域的観点―

◆要旨

 本報告書は、大規模小売店舗の立地規制・誘導について、日本(山形県、京都府、兵庫県)、ドイツ及び英国において、 国、自治体等の間で行われる調整に関する制度や方策を調査し、比較考察したものである。

我が国において、大規模小売店舗の立地に関しては、改正都市計画法等の平成19年11月施行を控え、各都道府県が独 自の制度等を整備している又は準備している最中である。その取組みの中から山形県、京都府、兵庫県の事例を取上げ、 立地規制における広域的な判断基準、都道府県と市町村の役割等について考察している。制度等の内容は都道府県間 でそれぞれ特徴がみられ、立地規制・誘導型と広域調整型に分類することができる。
山形県の「市町村土地利用計画の広域調整要綱」は全国に先駆けて、立地自治体、周辺自治体、県の間で大規模開発に関する情報及び意見を交換する規定を設けている。この調整結果として立地自治体から出される対応方針は、制度上は特に位置づけられていないものの、運用上県との複数回のやり取りを経て出されている。しかし、判断の基準が示されていないため、調整による決着をどのようにつけるかについて問題を残している。
 京都府の「地域商業ガイドライン」は、京都市を除く府全域を対象として、ガイドラインにおいて大規模小売店舗の立地を誘導する区域を空間的に明確に設定し、その他のエリアを抑制区域としていることが特徴である。この区域設定の原案は自治体から提案され、府がそれらを取り纏めて区域を設定している。
 兵庫県は都市構造に対して広域的に影響を与える大型商業施設の立地の誘導・抑制を、「広域商業ゾーン」と「地域商業ゾーン」の設定により行っている。県はゾーニングを都市計画区域マスタープランに位置づけ、市町にも都市マスタープランへの位置づけと、大規模な集客施設の立地の規制を図るべき地域について、特別用途地区などの都市計画や条例・要綱などの活用により、具体的な土地利用規制を行うよう求めていくこととしている。
 欧州の大規模小売店舗の立地規制の先進事例として、ドイツと英国を取上げ、関連する都市計画制度及び運用状況について取り纏めている。
 ドイツでは、大規模小売店舗の立地規制に関して、広域計画の枠組みの中で調整を行っている。大規模小売店舗は、原則として中心地区または地区計画(Bplan)に指定された大規模小売店舗特別地区においてのみ立地を認められ、同特別地区の指定は、自治体レベルのマスタープランであるFplanにおいて「大規模小売店舗特別地域」に指定されている地域に限定されている。しかし、どこにおいてもこの地域指定が可能というわけではなく、自治体の意見が広域的観点から調整されたり、州との協議を重ねたりした上で決定されている。調整の際の主要な基準としては、開発による地域の商圏構造への影響が重視されている。
 英国では、開発案件に対して、自治体は国の指針や地域レベル及び自治体レベルの計画に即した判断を下しているが、その判断が正しいとはいえないケースに対しては、国が強制介入し自治体に代わって許可又は不許可の決定を行うコールイン制度がある。大規模小売店舗の立地は広域的な影響を派生させる問題であるが、これに関して国の計画指針(PPS6)の中で示されている観点は、@中心地間のネットワークと序列、ARSSの位置づけ、の2点である。これらの観点は、広域計画との整合性や、規模・立地の妥当性等の事項において評価される。許可/不許可の判断の際には、地域活性化や雇用創出といったその他の考慮事項も併せて評価され、総合的に判断されている。
 ドイツ及び英国と国内の制度や方策について、@調整メカニズム、A広域行政組織と自治体の役割、B広域的観点、C実効性の確保の観点において比較し考察を加えた。
 調整メカニズムについてみると、ドイツでは計画の変更手続きの枠組みにおいて、定められた広域調整の基準と手続きに基づいて、周辺自治体からの意見聴取や州管区政府の許可/不許可の判断が下されている。また、自治体連合での協議という形で水平方向の調整が図られる仕組みとなっている。英国では、広域計画であるRSSの策定主体が自治体の代表者で構成される地域議会(RA)であることから、複数自治体による水平調整が実現されている。一方、コールイン制度は、自治体と国の間で直接的な調整が行われる非定型な制度といえる。また、コールイン制度では、周辺自治体、住民や民間企業の誰でもがコールインを要求できるという点において、直接的な協議はないにしても異議を唱える機会が与えられている。我が国では、広域調整の手続きの整備を進めている都道府県がいくつかみられるが、すべての事例で調整の基準も同時に整備されているわけではない。広域調整に関わる基準の有無や内容は各都道府県の判断に任されていることから、都道府県ごとに運用にばらつきがみられる。広域調整の実現性は基準を明確にできるかどうかが成功の鍵となることから、今後の検討の余地を残している。
 広域行政組織と自治体の役割についてみると、ドイツ及び英国では、国が定める方針等に基づき、州又は地域レベルの広域的な組織が大規模小売店舗の立地を含めた広域計画を策定し、自治体がそれと整合をとって都市計画を策定している。一方で、我が国では、都道府県が都市計画区域マスタープランを策定し、市町村がそれに即して都市マスタープランを定めることが規定されている。また、大規模小売店舗立地に関しては、都道府県が別途、立地規制・誘導や広域調整方策を整備し、その中で市町村に計画間の整合や店舗の立地に関する意見の提出、対応を求める取組みが始まっているが、市町村の役割は都道府県の方策ごとに異なっている。
 広域的観点についてみると、ドイツと英国では中心地の活性化に重点をおいた政策と、広域計画と都市計画との整合において確保されている。ドイツは「中心地構造」、英国は「中心地間のネットワークと序列化」という、中心地への小売機能の集中の考え方が広域計画及び都市計画に原則的には位置づけられ、大規模小売店舗の立地規制・誘導が行われている。コールインされた開発案件に対する許可/不許可の判断も、これらの観点は重要な評価の一つとなっている。一方、我が国では、広域的観点に基づいて設定された大規模小売店舗の立地規制・誘導地区が都市計画区域マスタープランに位置づけられ、市町村の都市マスタープランとの整合が図られることはまだ稀であるが、これらの整合を図ろうとする試みも始まっている。
 広域的観点の実効性の確保についてみると、ドイツ及び英国においては、大規模小売店舗の中心地以外での立地を厳しく制限する国の方針が、計画システムにおいて一貫性を保つことが担保されている。一方、我が国においては、開発案件の許可に関する判断において、都市計画マスタープランにおける位置づけは必ずしも求められていない。そのため、広域的な観点から好ましくないと思われるような場合でも許可せざるを得ないケースが発生する可能性を孕んでいる。広域的観点が開発コントロールにまで効力を発揮するか否かは、都道府県の自発的なイニシアティブに大きく依存しているのが実情である。



 

◆キーワード

地方分権、大規模小売店舗、広域調整、立地規制・誘導、強制介入

◆発行

国土交通政策研究第78号/平成19年10月

◆在庫

在庫有(重量:430g 厚さ:8mm) 報告書を郵送希望の方はこちら

◆詳細

詳細(PDF:2.25MB)

◆事後評価

内部評価シート(PDF:8.10KB)
有識者評価シート(PDF:10.9KB)