不確実性を考慮した交通行政の新たな運営方式に関する研究
◆要旨
不確実性やリスクという言葉は、今日のキーワードになっている感がある。紙面を見ると、景気動向の不確実性、テロのリスク、食の安全にまつわる不確実性、天候や自然災害のリスク、医療事故のリスクなどの文字が登場しない日は皆無に近いと言える。
こうした状況を反映してか、内閣府の国民生活に関する世論調査によれば、日常生活において悩みや不安を感じている国民の割合は、感じていない国民の割合を
平成4年に上回り、それ以降も増加傾向が続いて、昨年には調査開始以来最高の65%に達した。老後の生活や自分と家族の健康、将来の収入などが不安の内容
である。翻って、行政内部にある者の一人としても、将来を見通すことはますます難しくなる一方、国民が行政を見る眼はますます厳しくなっており、今後仕事
を進めるにあたり、どのように対処すべきか困惑と不安を覚える。不確実性を考慮した新しい「やり方」を考える必要があるとすると、どのように取り組んだら
よいのであろうか。身近に接する行政官の多くも同じように悩んでいるように思える。
本研究においては、こうした問題意識から、国土交通行政の分野において、不確実性やリスクの意味をどのように理解したらよいのか、不確実性の増大は行政に
どう関係し、今後行政の運営方式をどのように変えてゆくべきなのかについて考える際の基礎的な材料を提供することを目的とした。
具体的には、地震等の自然災害と、交通市場に関係する投資判断や規制を例として、不確実性のゆえにますます重要になると考えるリスク・コミュニケーション
や、不確実性に対処して安定をもたらす技術革新としてのリスク・ファイナンス、不確実性を十分考慮し判断の誤りを防ぐ新たな意思決定方式であるリアル・オ
プションについて、関係する理論を整理し行政への応用時の注意点などを説明することを試みた。
本報告書により、不確実性に関する認識が少しでも深まり、行政の運営方式について不確実性に対応するため必要な改善がなされて行政サービスが質的に向上し、国民・行政の不安を幾許かでも和らげることにつながれば幸いである。
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