国土交通省 国土交通研究政策所 Policy Research Institute for Land, Infrastructure, Transport and Tourism

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 国土交通政策研究所は、国土交通省におけるシンクタンクとして、内部部局による企画・立案機能を支援するとともに、 政策研究の場の提供や研究成果の発信を通じ、国土交通分野における政策形成に幅広く寄与することを使命としています。
  

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 ● 報告書概要


 次世代交通フォーラム提言[第1次]

―ICカードを活用した都市交通のCRM(顧客マネージメント)及び携帯端末を活用した大規模イベント時の交通対策について―

◆要旨

1.はじめに

都 市における日々の暮らしや海外との交流において、私たちは必ず移動を伴う環境の中にある。規制緩和を承け、交通産業では各種サービスの改善が進んでいるこ とは事実であるが、都市交通などの分野ではより一層顧客である利用者との関係を充実させる余地があると考えられる。また、環境問題や高齢化社会への対応等 社会的な課題に対応するためには、企業をはじめとする関係者間の相互連携を強化し、シームレスな交通システムを構築していくことが必要である。さらに、本 年開催されるサッカーワールドカップ大会のような大規模イベント開催時に、安全で円滑な移動を確保する方策の必要性にも直面している。
このような要請に対して、ICカード、携帯端末等の最近の情報通信技術(IT)がさまざまな可能性を切り開きつつある。このため、ITを活用した交通サー ビスの改善を図って行くことが必要であるが、ITの発展は日進月歩であり、かつ、その担い手は学界や産業界に広く及ぶため、関係者が取り組むべき方向性を 行政がまとめていくという従来型の手法では適切な対応が困難であると考えられる。
「次世代交通フォーラム」は、最先端の知見を有する学識経験者及び民間企業と行政機関が意見交換をする「場」として設けられた。今回の提言では、ICカー ドと都市交通のCRM及び大規模イベント時における交通対策について、フォーラムのメンバーによる自由な意見交換の結果、今後進むべき方向として共通の認 識が得られたものをとりまとめた。今後、このビジョンに沿って、関係者がそれぞれの立場で取り組んでいくことが期待され、行政部門においても、社会実験を 通じて得られた知見をまた社会にフィードバックしていくこと等が望まれる。本フォーラムは、このような循環型の取組みを通じて「政策形成プラットフォー ム」としての機能を果たしていく試みである。

2.交通分野におけるITの活用に対する期待

交通の分野におけるITの活用には、大きく1.「安全で円滑な交通機関の確保」と2.「交通機関を利用しやすくするための方策」の2つの視点が考えられる。
このうち、1.については、高度道路交通システム、いわゆるITSを始め、道路交通、航空、鉄道、海運など交通の様々な分野に、ITは既に相当程度取り入れられてきており、安全で円滑な交通機関の確保に役立っている。
また、2.については、「利用者にたくさん乗ってもらいたい」という輸送機関側と「早く、安く、快適に移動したい」という利用者側を結びつけることに関 し、インターネット等によりネットワーク化されたパソコンや携帯電話、或いは、支払い等の各種処理を電子的に行うことができるICカードが効果を発揮し、 この分野に革命的な変化が起きつつあり、同時に、交通が抱える課題に対し新たな可能性を切り開くものと期待されている。

3.検討経過と提言の性格

次 世代交通フォーラムにおいては、2.の2つの視点のうち、交通機関を利用しやすくするとの観点からITをいかに活用していくのか、について焦点を絞って意 見交換を行い、次のような視点から、最初の検討テーマとして、1.ICカードと都市交通の顧客マネージメント、2.大規模イベント時の交通対策を取り上げ た。

1.ICカードと都市交通の顧客マネージメント

顧客マネージメント(Customer Relationship Management以下「CRM」という)とは、マーケティング、セールス、サービス等 の顧客接点(コールセンター、インターネットチャネル等)を高度化し、顧客との間に長期的に良好な関係を構築することで、顧客及び事業者にとっての価値向 上を目指すものである。
近年、ITの活用により顧客のニーズに俊敏に対応することが可能となったため、CRMは経営手法として急速に脚光を浴びることとなっている。
特に、乗車券機能を有する交通系ICカードにより得られる顧客情報は、その「量」及び「質」(即時性、履歴情報等)において特筆すべきものがある。その情 報を有効に活用することによって、様々な都市交通における顧客ニーズに対応していく新たな可能性を切り開くものであることから検討テーマとした。

2.大規模のイベント時の交通対策

本年5月にサッカーワールドカップ大会の開幕が迫り、各会場において具体的な交通対策がまとまり始めている。このような大規模イベント時における交通上の 課題は、会場に向けて多数の観客が一時に集中することにより、通常では問題とならない道路、歩行空間や交通結節点等において局所的な渋滞が発生することに ある。このような対策についてのITの活用に関しては様々なものが考えられるが、近年、普及が著しい携帯端末に着目しこれを活用した交通動態の把握並びに ICカードをテーマとして検討を行った。

上記の2つのテーマについて検討を進めるとともに、1月には、欧州、米国及びアジアから有識者をゲストとして招き、次世代交通フォーラムインターナショナルを開催し、広く国際的な見地から意見交換を行った。
さらに、このような意見交換に資するため、昨年11月、札幌において、ICカードや携帯端末を活用した位置把握システムに関する社会実験を行った。
以上の次世代交通フォーラムにおける意見交換の成果を、ここに第1次提言としてまとめた。その内容は、意見交換の結果を踏まえ、次世代交通フォーラムメンバーが、今後進むべき方向としての共通認識が形成されたものを取りまとめたものである。
今後、この提言を広く社会に発信していくとともに、その内容に沿って社会実験等を実施していくこととする。特に、本年5〜6月のサッカーワールドカップ大会の開催を機に社会実験を行うこととしている。

4.ICカードと都市交通の顧客マネージメント

(1)顧客のニーズに俊敏に対応し、顧客との間に長期的に良好な関係を構築する手段として、ICカードを活用していくため、必要となる考え方は次のとおりである。

1.交通系ICカードシステムの導入の推進

乗車券機能を有する交通系ICカードシステムについては、既に一部の事業者で導入されているが、キャシュレス化等による移動のバリアフリー化が図られるの みならず、運賃設定の弾力化や利用データの活用による顧客サービスの充実に道を開くものであり、その導入の推進が期待される。

2.交通系ICカードの共通化

交通系ICカードの共通化により、一枚のカードで利用できる範囲が拡大され、一層の移動のバリアフリー化に寄与する。特に、交通機関を通勤、買い物等生活 圏内の移動に利用する者の利便性を改善する観点から、地域内の同一・複数交通機関の共通化を図る必要がある。また、ビジネス等中長距離の利用者の利便性を 重視する観点から、異なる地域や幹線の交通機関におけるICカードの共通化を図ることも必要である。

3.CRM(顧客マネージメント)戦略としての顧客情報の活用

ICカードは従来の磁気式のものに比べ、利用者ごとに詳細なデータの管理が可能となり、都市交通分野においてより顧客のニーズに沿ったマーケティング戦略 を展開できる可能性を切り開くものである。CRM戦略の一環としての交通系ICカードの利用者情報について様々な活用方法が考えられるが、その活用に当 たっては、利用頻度、時間帯、乗継状況等に応じた利用者へのインセンティブの付与など情報提供者への利益の還元や公共輸送のサービスの向上に資するような 方策の検討がなされるべきである。また、このような観点から、利用頻度に応じて弾力的なインセンティブの付与が可能となる事後精算方式の活用も検討される べきである。
さらに、公共輸送の現状や課題を把握するための基礎資料として必要となる交通調査への交通系ICカードの顧客情報の活用方策についても検討がなされるべきである。

4.交通系ICカードのマルチアプリケーション化

交通系ICカードのマルチアプリケーション化については、1枚のカードで全ての機能を持ちたいという意見と、用途に応じて複数のカードを持ちたいという意 見があるが、それぞれに対応できるよう、自分のニーズにあわせてカスタマイズできるような仕組みとすることが望まれる。例えば、身分等を証明する公共カー ドの機能を、常時持ち歩く交通ICカードに搭載したくないという意見もあり、交通系ICカードのマルチアプリケーション化に当たっては、こうした声に配慮 することが必要である。また、ICカードのマルチアプリケーション化に当たり、諸施設との連携を図ることにより、公共交通機関の利用が促進され、地球環境 にもやさしい交通体系の構築にも寄与することが期待される。

5.国際交流の拡大に向けたマルチ・カレンシーICカード化

海外を訪問した際に、乗車券購入や小額の買い物のために両替及び小銭を取り扱う煩わしさから開放されれば、国境を超えたバリアフリー化が進み、より一層、 国際交流の増進に資することから、今後、複数通貨対応の交通系ICカードについても研究が必要である。

(2)(1)を実現していくために必要となるシステムは次のとおりである。

1.交通系ICカードの共通化

同一地域内のみならず他の地域との互換性を確保しやすいようなシステム・アーキテクチャーとすることが必要であり、精算等について、相互接続方式やセン ターサーバー方式などによる効率的なデータ交換の方法の検討が必要となる。なお、共通化の観点から、交通系ICカードの技術的な規格については、鉄道事業 者等で構成される日本鉄道サイバネティクス協議会の標準規格に準拠することが適当である。また、国際的な規格として発展していくことが望まれる。

2.交通機能を核とする総合情報プラットフォームの構築

交通、各種施設の利用、買い物等さまざまな支払いを1枚のカードでこなすことのできる総合情報プラットフォームの構築を目指して、産学官が連携して取り組むことが必要である。
この場合、関連する法規制については、可能な限り自己責任の原則に基づいて弾力的に対応することが適当である。

5.大規模イベント時の交通対策

1.携帯端末の活用

携帯端末により所持者の位置情報の把握や情報提供が可能であることから、大規模イベント時の交通対策として、携帯端末を活用し、交通に関する情報の収集や提供を行うことは有効である。
今後、事業化を進めていくに当たっては、情報を集中的に集め、管理するシステムが必要であり、その主体として様々な可能性が考えられる。また、位置情報の 把握に関しては、電波の確保、通信コストの問題などが、情報提供に関しては、案内情報の充実等携帯端末を持たない者への情報提供の方法等について更に検討 されることが必要である。

2.携帯端末へ提供する情報

携帯端末へ提供する情報として、以下のようなものが必要である。
・所有者に関するもの(位置情報等)
・交通情報(シャトルバスの運行情報、混雑情報、最適経路情報等)
・イベントに関する情報(内容、混雑情報、会場等)等が考えられる。

3.ICカードの活用

乗車時や乗継ぎ時のキャシュレス化やバスターミナルにおける処理能力の向上等による円滑な移動が確保されることから、大規模イベント時の交通対策という観 点からも、交通系ICカードシステムの導入が推進される必要がある。また、大規模イベント時における活動の円滑化のため交通系ICカードを物品の購入にも 使用できるようにすることも検討されるべきである。さらに、国際的なイベントへの対応として、前述のとおり複数通貨対応のICカードの研究も必要である。

6.ICカードと都市交通の顧客マネージメント及び大規模イベント時の交通対策に関する共通の課題(個人情報保護との関係)

ICカードにより得られる顧客情報のCRM戦略や交通調査などの用途や携帯端末の活用により得られるデータの交通対策などへの活用については、他分野にお ける利用者の個人情報や事業者の顧客情報に関する保護の考え方、個人情報の保護に関する法律(現在、国会提出中)等を参考にしつつ、検討されることが必要 である。

次世代交通フォーラムメンバー

(敬称略、50音順、◎座長、○副座長、()は前任者)
(学識経験者)
朝倉康夫神戸大学大学院自然科学研究科教授(前愛媛大学工学部環境建設工学科教授)
有村幹治(財)運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員
〇石田東生筑波大学社会工学系教授
植原啓介慶應義塾大学政策・メディア研究科講師
佐藤喜子光立教大学観光学部教授
◎杉山武彦一橋大学大学院商学研究科教授
須藤修東京大学大学院情報学環教授・社会情報研究所教授
中村文彦横浜国立大学大学院助教授
三谷宏治アクセンチュアパートナー
村井純慶應技術大学環境情報学部

(民間企業等)
雨宮正英山梨交通株式会社運輸事業部長
池田博日本航空株式会社行執行役員経営企画室副室長
潮田邦夫株式会社NTTドコモ取締役法人営業部長
大井明東京急行電鉄株式会社鉄道事業部営業部長
大賀公子東日本電信電話株式会社営業部Lモード推進室長
納村哲二ソニー株式会社ブロードバンドネットワークセンターi-カードシステムソリューション事業部事業推進部総括部長
小松哲也マスターカード・インタナショナル・ジャパン・インク営業開発部ディレクター
冨田哲郎東日本旅客鉄道株式会社取締役総合企画本部経営管理部長
野村英一名古屋市交通局営業本部企画営業部長
柳川宏株式会社NTTデータ公共システム事業本部公共営業本部第一企画開発部長
矢吹静西日本旅客鉄道株式会社鉄道株式会社執行役員鉄道本部副本部長営業部長
横江友則スルッとKANSAI協議会事務局長

(自治体関係)
横山直満札幌市総務局職員部長(前札幌市企画調整局総合交通対策部部長)
野村英一名古屋市交通局営業本部企画営業部長

(行政機関)
田村雄一郎国土交通省国土交通政策研究所長
大竹重幸国土交通省総合政策局交通計画課長
(赤井祐司)
山下章国土交通省鉄道局業務課長
福代倫男国土交通省鉄道局技術企画課技術開発室長
石指雅啓国土交通省自動車交通局総務課企画室長

(オブザーバー)
谷口眞司金融庁監督局銀行第二課金融会社室課長補佐
小笠原陽一総務省情報通信政策局総合政策課課長補佐

フォーラムの経緯:
次世代交通フォーラム(第1回):平成13年9月28日(金)16:00〜18:00
1.世代交通フォーラムの設立趣旨の説明
2.ICカードと都市交通における顧客マネージメントの説明

次世代交通フォーラム(第2回):平成13年10月29日(月)15:00〜17:00
1.ICカードの取組状況に関する交通事業者からの説明
2.ICカードに関する諸外国の動向に関する説明

次世代交通フォーラム(第3回):平成13年11月9日(金)15:00〜17:00
1.携帯端末を活用した交通行動調査に関する説明
2.札幌における実証実験に関する説明

次世代交通フォーラム(第4回):平成13年12月11日(火)15:00〜17:00
1.論点に関する整理
2.札幌における実証実験結果

次世代交通フォーラム・インターナショナル:平成14年1月14日(月)13:00〜15:40
1.基調講演
杉山武彦一橋大学大学院商学研究科教授
「日本における次世代交通への取組み」
2.海外招聘者による講演
ピエールラコンテベルギー都市環境財団総裁
「公共交通における先端的取組み:諸外国におけるベストプラクティス」
エドワードL.トーマス米国運輸省連邦公共交通局調査開発担当審議官
「移動円滑化に関する新しいビジョン」
エリックタイオクトパスカード社CEO
「香港におけるオクトパスカードの現状と将来展望」
3.フロアディスカッション
「ITを活用した次世代交通の将来展望:持続可能な都市交通の実現に向けて」
コーディネーター:杉山武彦一橋大学大学院商学研究科教授
パネリスト:石田東生筑波大学社会工学系教授
冨田哲郎東日本旅客鉄道株式会社取締役総合企画本部経営管理部長
雨宮正英山梨交通株式会社運輸事業部長
大賀公子東日本電信電話株式会社サービス開発部Lモード推進室長
ピエールラコンテ、エドワードL.トーマス、エリックタイ

次世代交通フォーラム(第5回):平成14年4月23日(火)15:00〜17:00
1.次世代交通フォーラム提言に関する検討
2.今後のフォーラムに関する検討



◆発行

平成14年7月

◆在庫

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