第3回土地収用制度調査研究会 議事概要
                               
日時: 平成12年9月7日(木)14:00〜16:20
場所: 中央官庁合同会議所
議事: 公共事業の課題と土地収用法制度見直しの基本的方向性
出席者: 法学界、環境、マスコミ等の分野の有識者16名
議事要旨:
  フリートーキングにおける意見の概要は以下のとおり
  早期段階からの情報公開と住民参加という議論については、早期というよりもむしろ初期段階までさかのぼって、情報公開とか住民参加ということを認めることが望ましい。その場合、事業によって状況が千差万別なので、かえって微妙な混乱を招くという事態もあり得るので、事業認定の際にまた改めて問題が起きないよう、住民参加や情報公開の在り方を考えていく必要がある。また、事業認定における第3者機関の関与については、その第3者機関をかなり権威のあるもの、場合によっては準司法的な機関にすれば、微妙な混乱が尾を引かないのではないか。
  事業認定における第3者機関の関与は、どのような場合に行うのか。異議を唱える意見書が出た場合なのか。非常に大事な事項については意見書が出なくてもやる必要があるのかないのか。ないとすれば、意見書が出たというときだけどうして必要なのか。例えばごく軽易な事業で意見書が1通出てきたら、必ず第3者機関にかけるのか、あるいは大きな事業で、仮に第3者の利害なしに、国の利害というか、いろんな別の面での利害が大きい場合には認定庁だけで決定して、第3者機関にかけなくていいのか。その辺の整理をし、整合性のある説明が必要である。
  自然保護のための土地取得に収用適格を与えるという議論については、環境保護のために地域を収用するということは、例えば古都の特別保存区域や緑地保全法による緑地保全区域というのは、都市計画の地域地区として設定して、行為制限で目的を達しようとしているわけで、それよりももっと緩やかな環境一般を目的として土地収用を用いるということは、比例原則に反する可能性があるのではないか。
  事業認定における第3者機関について、異議があった場合にかませるというやり方では何をねらっているのかがいま1つはっきりしない。単なる第3者であるのか、何らかの専門家、専門的な見地からやるということなのか、その辺もはっきりしない。そもそも事業認定庁そのものの構造をどうするかということを考えるのが先である。外国の例を見ると、事業認定庁そのものが専門の第3者機関であるという例はないようだが、ただ少なくともフランスやドイツの場合は、事業認定のための調査の手続において職能分離がされている。これは日本の今の事業認定庁の、特に建設省の場合には運用上は厳重に分離されていると理解しているが、そこのところが法律上明文で出てくれば、一般国民からしても、信頼の度合いが格段に違うのではないか。
  事業認定申請前の説明会の義務化についてであるが、日本の場合、それぞれの収用に入る以前の制度の中での住民参加や情報公開が今まで非常に不十分であり、法律制度の手続上も住民参加についてはごく概略の規定しかなく、具体的にどういうふうな手順でどういうふうに住民がきちんとそこに参加すべきかということについての規定がない。例えば、通常の行政でいうと、普通の場合は町内会・自治会とか、そういうところから声をかけるので非常に高齢の方ばかり出てくる。しかし、そこにはもっと若い人や子供を持った人たちとか、いろいろな人たちがいるので、そういう人たちの構成も反映したような形できちんと住民の参加がされないと、それは公正な参加とはいえない。都市計画法の改正により都市計画マスタープランをつくる際の住民の参加が法律上決められたところだが、自治体によっては単にアンケート調査をやって、住民の参加を得たと称しているところもあるという。したがって、住民参加そのものの内容が非常に重要になる。
  公聴会という制度も、日本の場合には非常に形式的な運用になっている。本当に実質的な討議をそこでしっかりやって、内容を深めて、それによって計画、事業の当事者自身がさらにクリエイティブな結果に導いていこうという熱意があるというふうにはとても思えないのが実態である。そういうことの結果として、土地収用の制度にいろいろな問題が持ち込まれて、収用制度の中でそれがもう一度検討されざるを得ないような非常にゆがんだ状態になってしまうということは既に議論になっているが、そういった状態に対して、情報公開や住民参加の内容をもう少ししっかり考え、かつその中身に踏み込んだ形ではっきりさせていかないといけない。非常に心配している事態は、情報公開や住民参加のところがしっかりしないままに、収用委員会裁決関係手続の簡素化というところに入ってしまうということになると、これは社会的にもかえって問題を起こしかねない。
  事業認定に第3者機関の関与については、個別の事業における住民参加や情報公開については、それぞれの事業法に定めるところによるということに基本的にはなっているので、土地収用法としては、事業についての異議の有無にかかわらず、関係する住民や関係者による実質的な参加が得られているかどうかについての審査を第3者機関がするとか、そういうはっきりした役割を負わせるべきである。
  事業認定の透明性の確保ということで、情報公開や住民参加などの措置をとることは非常に結構なことだと思うが、こういう時代なので、各個別法がそれぞれ施設の設置段階や計画の策定段階で、法律が新しければ新しいほど、住民参加や情報公開に関する手続を踏むようになって来ていると思うが、今度、土地収用法の方にそういう手続を義務付けるということになると、他面では二重の手続になるという問題もあるのではないか。
  事業認定に際し、申出があった場合に公聴会の開催を義務付けるとすると、申出があれば無限定に開催ということになるが、各事業法により計画策定段階で情報公開や住民参加をやっているような例があるように、同じようなことが実施されているような場合に、もう一度土地収用手続の中で再度手続をやるということが必要なのか。
  個別の法律に基づく住民参加や情報公開が、制度として不十分ながらあるものや、単に運用に任されているものもあるという、非常にばらばらな状況なので、少なくとも事業認定の段階では、それなりのしっかりした内容のものにしておくということによって、一応の水準が達成されるということが保障されるようにした上で事業認定がなされるという仕組みになっていないと、後々、非常に具合が悪い。別に二度、三度、同じ手続をやるということでなく、一定の水準を達成できるような仕組みが欲しい。もとより、事業認定という独自のその段階での問題も当然あるから、そういう意味での十分な住民参加や情報公開はぜひとも必要だと考える。
  事業認定の実体的な基準の問題であるが、土地収用法の第20条に4つぐらい項目があって、あれだけが要するに明確なる基準だと思うが、もう少し詳細化する必要があるのではないかと思う。例えば、環境問題も考慮するなんていうことは、土地収用法ができた当時にはそんなに考えられていなかったことで、日光太郎杉判決なんかあって、それから解釈で読み込まれるようになった。したがって、行政手続法が定めているような意味での内部基準ということ以前において、もう少し事業認定の基準を法令に詳細化できるのではないか。
  自然環境保全のための区域の収用について、例えば風穴みたいなものがあり、そこに代表すべき植物や動物が住んでいる。それをどうしても守りたいというケースも出てくる。そこで、例えば希少種みたいなものであれば、種の保存法でやればいいわけだが、そうでないものもある。ただ、日本の国立公園制度はよくできていて、私有地も国有地も全部国立公園に含まれて、それで普通地域と特別地域と特別保護地域と3つの段階に分かれている。例えば特別保護地域みたいなものがあって、それが私有地である場合に、それを収用したいという場合には、自然公園法の事業ということでうまくやることは可能だと思うが、それですべてがうまくいくわけではない。
  特別に保存すべき自然のある地域について、個別に審査して決めていくのがいいのか、あるいは従来のようにそのための特別な立法があって、それが土地収用法に乗ってくるという仕掛けがいいのかということだが、後者の方がわかりやすいと思う。
  自然環境を面として保護する仕組みは現在あまりない。種の保存法みたいに特別な動植物種が生息しているところを保存する法律はできているが、例えば小さな生態系みたいなものを保存する仕組みがない。
  ミティゲーションのための場所を確保していかなければならない場合もあるはずだが、そうすると、現在の土地収用法の収用対象にミティゲーションの場所というのは入ってこない。だから、そういうものも含められるような形にしたほうがいい。
  事業認定手続について、大規模な公共事業、ダムや発電所、高速道路などと、市町村が行う生活道路の整備のような小さなものとを同列に扱うのがいいのか検討すべき。現場の立場からいえば、人員等の制約等で、今以上に時間がかかるようであれば、迅速化のための対策を考えていただく必要があると思う。
  事業認定における公益性の判断基準は、かつては実体的なものと考えてきたが、最近は、適正な手続ということに変わってきたのではないか。
  手続が公共性をつくるということもいわれているが、そうではなく、つき詰められるところまでは実体基準があるべきであり、その余は手続で埋めていくということになると考える。
  猛禽類マニュアルなどのマニュアルの運用を、建設省は非常に機械的にとら えているのが気になっている。例えば、猛禽類というのはイヌワシとクマタカとオオタカだけではなく、非常にたくさんある。一例では、ハヤブサも実は都市の近郊で営巣をし子供を育てる種類だが、こういうものが出てきたときにマニュアルにないという。マニュアルというのは手続が書いてあって、そのとおりにやればよろしいと書いてあるから、ないものをどうするというのでみんな困ることになる。そういうことがあるので、単にマニュアルに頼るということではなくて、それを基準にして、ほかの猛禽類が出てきたときに対応できるだけの心得をマニュアルに書いておかないと、それは本当の意味のマニュアルにならない。マニュアルを作って何かをやろうとする場合には、十分考えてつくる必要がある。
  収用委員会審理における事業認定に関する事由の主張制限については、そもそも、現行法の解釈としても、当然主張できないのではないか。判例は違法性の承継は広く認めているが、これは別物で、収用委員会で審理すべしということではない。実際上の必要性があるなら、必ずしも反対ではない。
  今求められているのは、効率性である。また、次の時代には公平性ということがより求められるということだろうと思うので、素人の目から見て、今までいろいろ問題があったことを1つずつ解決する方向に向かっているのはいいことだと思う。
  事業認定における情報公開や住民参加などがしっかりした内容になった上で初めて収用委員会の裁決に係る手続の合理化が社会的に受け入れられるということであるので、公益性の内容について、それなりにしっかりした内容のものにしておかないと、これは問題が発生するおおもとになるのではないかと思う。おそらく今、紛争真っ只中にあるような当事者にとっては、片や事業を進める方はこれができれば万歳であるが、収用される方にとっては自分たちの武器が一挙に失われるという恐ろしい事態であることは明らかであるので、そういう意味で社会的にはこの問題がいろいろ話題にされやすいため、公益性の基準については、法律の中で内容をできるだけクリアにしていくべきではないかと思う。
  情報公開や住民参加という手続的なことが言われているが、環境ということと比較して地域社会の維持とか、あるいは地域社会の中で培われてきているいろんな意味での人間関係、あるいは地域社会の非常に微妙なバランスの、ある種生態的な関係と社会生態的な関係といってもいいようなものが、事業によって大きく破壊されることによる問題をどうカバーできるのか。特に非常に心配なのは、日本の都市計画なりの法律の中にはそういった地域社会の社会的な生態というか、コミュニティをいかに生かし、持続させるかということについて、これが非常に重要であるということが明確には出されていない。そういったことを含めて公益性の内容や基準をぜひクリアにして行く必要があると思う。
  第1回研究会に、行政不服審査法にあるような代表者の選定制度を取り入れることができるのかどうか、それによってまた一坪運動等に対処できるのかどうかということを提案したのだが、今まで議論のあったとおり、一坪運動のような事態が起こらないようにすることが重要であることは当然としても、だからといって一坪運動が今後皆無になるとはどうも考えられない。その場合に、もちろんそういうものをなくすという努力は当然しなきゃいけないが、もしあった場合に総代制度のような対策がとれるのであれば、収用制度について大きな改善になるのではないかと思う。
  収用委員会裁決関連の手続について、補償基準の法定化も可能であれば是非盛り込んで欲しい。また、土地・物件調書作成の簡素化、代表当事者制度の導入、補償金支払方法の簡素化は、是非実現すべきだ。これらは、大変な手間がかかるので、できる限り簡素化の方向で進めていくべき。
  代表当事者の選定制度だが、救済を求めてくる人たちに対して1人でまとまってこいよというのは通りがいいんだけれども、公共の側から何かぶったくろうというときに、あなたたちのものを取るけれども、1人だけしか相手にしないよというのはなかなか抵抗がある。これは必要ならそれもしようがないと思うが、所有者等の固定ということで代替できないか。こちらのほうがさらに大鉈なのかもしれないが、理屈としては通りやすいと思う。
  多数当事者に対する収用委員会裁決関係手続の簡素化というのは、一坪地主だけが対象ではない。相手方がわかっておって、その人たちが協力を拒否しているわけではないとしても、関係者が多過ぎてどうしようもないという場合もある。もめるような案件ではなく、相手もある程度理解しておって、ただ戸籍を見ると関係者が数百人いる。こういう事例がざらにある。したがって、こういう場面でも、簡素化した手続が求められている。
  収用委員会の場での総代制のようなものは必要だと思うが、相手方が選定しなかった場合にはどうするかという問題は、克服できないのではないか。審理がストップするだけの話で、まさか代わりに収用委員会が選定するわけにはいかないだろうし、選定しなかった場合の歯どめまではどうも立法的に無理ではないか。
  補償金の支払いの合理化について、ITにより銀行がなくてもお金のやり取りが行われる時代に、一々現金を持っていくというのは、諸外国に比べても一層後れをとるだけであり、そんなばかばかしいことは今の実情に合うように改めるべきだ。
  収用委員会裁決関係手続における多数当事者の問題について、実務的な観点からいえば、相手方から一切協力がいただけないという前提で物事を考えていくべきである。何とか説得をして協力をしてもらえれば、ということはあり得ないのであって、徹頭徹尾協力してもらえないという前提に立って、なおかつ法律的効果が生まれるような仕組みにすべきだ。


[本議事要旨は暫定版のため、今後修正の可能性があります。]


前ページに戻る