大臣会見

繰り上げ前田大臣会見要旨

2011年12月22日(木) 16:51 ~ 17:23
国土交通省会見室
前田武志 大臣

閣議・閣僚懇

本日の閣議案件については、私の方から特に申し上げることはありません。
 八ッ場ダムについて報告をさせていただきます。
本日の14時前に行われた国交省政務三役会議において、八ッ場ダム事業の継続を決定いたしました。
その旨を、15時から行われた閣議の後の閣僚懇談会において、私の方から総理をはじめ、全閣僚に御報告を申し上げました。
中身については、配布している資料をご覧下さい。
なお、この直前に、この流域の1都5県の知事さん方、地域の安全に責任を持っておられる自治体の長の皆様方に電話でご一報申し上げました。
また、このダムサイトの地元の町長さん方にもご連絡を申し上げました。
中身については配布している資料の通りですが、考え方を申し上げます。
まずは、この八ッ場ダムが安全装置として働くべき利根川の流域の特性についてでございます。
治水事業の歴史というものも大きな背景にあるわけです。
この地域というのは、利根川、荒川、江戸川及びそれらの支川が入り乱れて乱流していた氾濫域でありました。
徳川家康による利根川の東遷事業は有名な事業でありますけれども、明治、大正、昭和にかけては、内閣に臨時治水調査会が設けられて、一番多いときには一般会計予算の5%相当もの治水事業費を投じて、長大区間の堤防であったり、河道掘削であったり、放水路であったり、遊水地などの事業を営々と積み重ねて、ようやく現在の治水の安全レベルに至ったという流域でございます。
安全レベルの向上につれて、人口資産の集積があり、そして首都圏の、いわば日本の心臓部ということになっているわけでございまして、災害ポテンシャルというのは、資産、人口の集中ということによって、依然として非常に高いわけです。
また、戦後の経済成長に必要な工業用水を大量にくみ上げた時期がございまして、埼玉県の南部から東京の下町にかけて、随分と地盤沈下が発生をして、そのために海面下のゼロメートル地帯というところが随分と広がっているわけでございます。
そういうような状況の中で、即効性のある効果的な治水の施設というものが望まれているわけでございまして、八ッ場ダムが既に全体の8割程度まで事業が進捗しております。
あとは本体工事ということなのですが、本体工事は大体6年から7年くらいで完成すると予想されておりますけれども、その7年程度が経つと、想定によると70分の1から80分の1くらいの確率の洪水に対して、降雨パターンによって随分変わる訳ですが、大雑把にいうと大体1000m3/Sの洪水調節能力を、基準地点に対して持つだろうと考えております。
この基準地点の上流に、今、矢木沢ダムをはじめ、9つのダムがありますけれども、その全てを合わせての洪水調節効果というのが、同じ70分の1から80分の1の降雨に対して平均的に考えて、2500m3/Sくらいだと見積もられているわけです。
それに対して、八ッ場ダムひとつで約1000m3/Sくらいの効果があるという、単独では非常に大きな効果があるという特性がひとつあります。
もちろん、この遊水地、あるいは河道掘削、あるいは堤防の強化といったダムに頼らない治水というもの併せて、これからも続行じて続けていかなくてはなりません。
ちなみに、利根川は、既にあらゆる手を尽くして、遊水地も今まで確保して行っているわけです。
例えば柏市に、国道6号線に利根川を超える手前の左岸側に田中遊水地という非常に大きな遊水地があります。
もちろん民有地で、田圃だとか畑になっているわけです。
それから、柏市から取手市に渡った少し上流部にある守谷市においては、そこは稲戸井遊水地という大きな遊水地があります。
さらに鬼怒川の合流点には菅生遊水地というものがあります。
そういうところを遊水地に取り込んで、随分と調節効果を出しているのです。
さらに、古河市に至ると、渡良瀬川と利根川の合流点に渡良瀬遊水地という広大な遊水地があります。
そういうことを先ほど申し上げたように、江戸時代から東に東にと付け替えていった上に、明治、大正、昭和に渡って多大な治水事業を行って、それでも万全というわけにはいきませんが、今の安全度を確保しているわけであります。
次の私自身が大臣に赴任した時に頭の中にあったのは、3.11の東日本大震災というものが、今まで、既に忘れ去られていたような自然の猛威に対して、いささか謙虚さが足りなかったということがあって、その教訓というものをどう治水に反映していくかを随分と考えました。
そういう意味で、事務次官を長とするタスクフォース作っていただいて、治水であり、危機管理であり、あるいは火山、あるいは土砂関係といった分野の、非常に高度な広い知見を持っておられる賢人の方々にも御意見を伺うと共に、関連するいろんな資料も集めていただきました。
そういう中で、やはり、災害というものには上限がないわけでございまして、ハード面である施設だけでは安全を確保するというのは無理があります。
そういう場合には、予めどれだけ予知をして、人の命が大事だということで、ソフトの施策も組み合わせて、流域の安全度を確保していくかということになるかと思います。
そのような意味で、八ツ場ダムはハードの施設ですが、もう一つ、ダムにあらかじめ要請されている機能ではありませんが、考えなくてはいけないのは、吾妻川の流域が火山地帯であるということです。
特に浅間山は何百年に一回は、必ず大噴火を起こして、火砕流、泥流、岩屑雪崩を天明3年、1763年ですか、起きたわけです。
その時には、利根川の合流点まで10メートルくらいまでの段波が来たと推定される記録も残っています。
そういったことが万が一起きたとしても、八ツ場ダム、専門家の見立てだと、安全装置として働くという感触を得ております。
それから利根川の上流域、特に群馬県、さらには長野原町を含めて、地元の方々に犠牲を強いてきたわけでございます。
しかも、この八ツ場ダムの計画は60年くらいたっているわけですから、3代4代にわたってそれぞれの個人であり、ご家族であり、あるいは地域の方々の生活、あるいは、ライフサイクルそのものに犠牲を強いてきたということは誠に申し訳ないことだと思っております。
そのような中で、あえてその犠牲を地元、更には群馬県、上流側が下流の安全のために引き受けていただいた。
これは上下流の信頼関係が何とか成り立っているから、このような犠牲を引き受けてくれたのだと思います。
そういった意味では生活再建については万全の対応が必要だろうと思います。
それから、この地域、1都5県に関わるわけですが、1都5県の知事さん方が、それぞれの自治の範囲の安全についての責任を負っておられます。
その1都5県の知事さん方にとっても八ツ場ダム事業というものは、調査着手以来、随分長い年月を経て、その間、流域内の上下流のバランスや、最初のうちは大反対が地元にあったわけです。
そういう中で、上下流のバランスであったり、左右岸のバランスであったり、あるいは、本支川のバランスといったことも含めて、この流域の知事さん方が一つの信頼感で構築されて、なんとか利根川の安全、この流域の安全度を上げて欲しいと言っておられます。
この1都5県の知事さん方のご判断は自治の原則に照らしても、そのように互いに協力しあって、この事業に対してぜひ進めて欲しいというご判断は、やはり重いものがあると思います。
有識者会議等検証のプロセスは今までも何回か申し上げたとおりです。
政権交代があったときに前原国交大臣の下で有識者会議を組織しまして、メンバーそのものも前原大臣がお選びになりました。
その有識者会議において何度か会議を重ねて、11回目に中間とりまとめ案を決められて、12回目に結論をつけられた。
検証のプロセスを決めたわけです。
そのときはちょうど馬淵大臣に代わられたときです。
この検証のプロセスを通じて、関東地方整備局に検討の場が設けられ、そのプロセスに従って、事業を執行する当事者が検討の場をというのは客観性がないのではないか、とかいろいろな議論があったようでございます。
しかし、あまりにも広い、そして、長い、しかも専門的な膨大な調査検討が必要になってくるものですから、そこの透明性というのをしっかり持たせるのと同時にしっかりチェックを入れていくという、その前提のもとに関東地方整備局に検討の場が設けられた。
そして、その検討の場を通じて、いろいろな案を比較検討した上で、八ツ場ダム続行が妥当という結論をつけられた。
もちろんこの検討の場には、1都5県の知事さん方が入っておられて、その幹事会的なものには各都県の関係専門部局の責任者が入っていたということを承知しております。
最終的には本省に設けられた有識者会議において、この検討のプロセスに瑕疵はなく、中身については色々と御議論の上で結論をつけられたわけでございます。ということで、冒頭申し上げたように、八ツ場ダム建設事業は継続するという対応方針を決定いたしました。
そして平成24年度政府予算において本体工事に入るための経費を計上させていただくことになりました。
この決定に対してはもちろん、私ども民主党の中にもマニフェストとの関係で、これはいかがか、というような納得されない方々も大勢おられます。
私自身も、そういう方々のお話を直接お聞きしたりもしております。
そのような意味では、当初のマニフェスト通りの結果が得られなかったということは非常に残念ですが、今申し上げてきたような私の考え方に沿って、ある意味、苦渋の決断をさせていただいたということでありまして、これからも整備計画の作成を加速化いたしますし、そして、犠牲を強いられた地元の方々の生活再建に対するスキームを何とか法制化しようということで、次の国会の提出を目指すことにしております。
今後の取り組みについて申し上げますと、生活再建には万全の措置を講じますし、避難誘導などのソフト関係も整備いたします。
出来るだけダムによらない治水を更に希求して、その内容を河川整備計画に反映させて参りたいと思っております。
その作成過程においては、色々とここでも御質疑があったかと思いますが、河川整備計画相当の目標流量についてあらためて検証を行いたいと思っております。
そして、申し上げたとおり生活再建に関する法案を、川辺川ダム等がモデルになると思いますが、そのスキームを作成して通常国会に提出をいたします。
さらには、全ての国土交通政策において持続可能で活力ある国作りということを示しておりまして、その方向に政策を転換して参ります。
既にその方向に舵を切っておりまして、ご承知いただいているかと思いますが、低炭素循環型社会、そして、この治水におきましてもダムによらない治水のあり方というのを更に模索して参りますし、河川空間が持つ、生物多様性に対するポテンシャルといったものも是非引き出したい。
具体的には、コウノトリが住まう、そういう流域を目指して既に4県の地域の方々、ここは野田市を含めて随分と色々な動きが出ておりまして、そのようなことを通じて、新しい利根川流域のあり方についても是非切り開いていきたいと思います。
以上、こういう結論に至る私の考えについて申し上げたわけですが、ぜひ、国民の皆様にもご理解をいただいて、これからの国土交通行政、持続可能、低炭素・循環型についてご理解、ご支援をいただきたいということを申し添えて報告といたします。
以上です。

質疑応答

(問)前原政調会長が国交省が来年度予算を計上した場合に、国交省来年度予算案そのものを認めないといった、まだ現状においても反対されていると思いますが、その辺りの調整状況について、あと、二年前のマニフェストで八ツ場ダム中止を掲げて、今回方針を転換させたマニフェスト違反について改めて大臣の所見をお願いします。
(答)09年のマニフェストに掲げて、政権交代になったわけです。
八ツ場ダムというのは無駄な公共事業を廃止するというところで、川辺川ダム、八ツ場ダムと大型の公共事業をやめて、無駄な公共事業をやめて財源を生み出すというようなことで、掲げられていたと思います。
これについては川辺川ダムは中止ということになったわけですが、八ツ場ダムはずっと検証を重ねて、今のような結果となりました。
これは継続させていただきますが、無駄な公共事業をやめるということは徹底させたいと思っておりまして、これまでの段階で既に19のダム事業を検証して6事業を中止と言うことになっております。
その他、ダム以外の公共事業においても、無駄な公共事業というよりも、公共事業そのものが新規にはなかなか難しい時代がもうすぐくるわけです。
むしろ既に今まで整備してきた公共施設の更新、あるいは維持管理が非常に重要な、こちらのほうが予算の大半を要するような時代が目の前に来ています。
その辺りのことについては、実は、まさしく無駄も排せなくてはなりませんし、出来ている施設、作るときは全国一律の規格で作るわけですが、これをその時代の変化に応じて、地域の人口構造も、地域の経済社会構造もどんどんかわっていきます。
その変わっていく構造に対応して既に作ってある施設が、かわっていく構造に最も効率的に役に立つようにはどうしたらよいか、それは知恵が非常に重要ですし、そこで無駄を排して知恵を出して、たぶんそこは、民間の知恵と活力といったものも同時にする、PPPといったものも想定されるわけですが、そういったことで新しい国土交通省の役割というものが随分と出てくるのではないか、そしてまた自治の大きな役割というものが、そこに出てくるのではないかと思います。
前半の方ですが、これは予算は内閣において取りまとめて、そして国会に提出するわけです。
予算を決めるのは国会です。
来年の通常国会、予算国会が始まったときに、どうゆう御判断になるのか。
しかし、あくまでも決まった予算を執行するのは政府の役割であって、その担務の大臣が国交大臣だということであります。

(問)整備新幹線なのですが、昨日党の方から早期に整備というような申し入れがあったと思いますが、それを受けて、今後調整会議、省の検討会議が開かれると思いますが、具体的なスケジュールが決まっていたらお願いいたします。
(答)整備新幹線の事については、三つの地域があります。
地域活性化など新幹線に対する非常に大きな期待が込められておりますので、これはしっかり受け止めて行っていかなければならないと思います。
そして現在の整備新幹線に係る公共事業費の増額を図るわけではありません。
図ることなく財源の見通しは立てるべきだということを前提に進めておりまして、調整会議、これは財務省、総務省、国交省の政務官によって構成されると思いますが、これは早速始めていただけるものと期待しておりまして、その後、国交省の政務三役による新幹線問題検討会議にかけて、少なくとも年末、今年中には決めさせていただきたいと思っております。

(問)苦渋の判断だということですが、苦渋の判断をするにあたって、いくつか判断にあたって考慮した事項を述べられていますが、一番大きかった、重かったというのは、このうち何なのかということと、来年度予算に計上されるということですが、どの位の金額をどういう名目で計上されるのかということを教えてください。
(答)後半については、事務的なところは、今さっき決めたところでありましして、まだ私は掌握しておりません。
一番目のどこがということですが、あえて言うと、やはりこの流域は本来は低湿地で、申し上げたように、利根川、荒川、江戸川、中川、綾瀬川だとか乱流していて、これが全部東京湾にそそいでいたわけですから、そこを家康入府依頼、営々として住める状況にもっていって、この地域がポテンシャルを上げてきた先人達の努力、歴史、これは畑村洋太郎先生のタスクフォースでのお話などを伺っていると、どうしても、そういった歴史を忘れてしまうというわけです。
特に治水の安全度というものは、どんどん良くなればなるほど、日常から忘れ去られてしまってきているのではないか。
そこで、あえて申し上げたのは、一時期、国家予算の5%も治水費にお金をかけて、流域の安全度も 、荒川の放水路などは昭和に入ってから、やっと開通したわけですから。
しかも遊水池をどんどん造っているのです。
もの凄く広い遊水池を最下流の戸田の辺りから上流の熊谷の辺りまで、そういう歴史をずっと調べて、またそういった有識者のお話を聞くにつれ、ここで短期的に即効性のある代替案無きままに中断するというのは良くないなということがありました。
それともう一つが、これまた3.11の反省です。
やはり、非常に700平方キロをカバーする、しかも、あの場所の、いつ泥流が発生するのかわからない所で、安全装置として働くのではないかというような期待もありました。

(問)政官業の利権に税金が吸いとられていくというところが無駄の構図だと、それを何とかして欲しいというのが国民の願いだったと思いますが、それをどう思われるのかということと、水基本法に取り組まれてきました。
それを提出されますか。
水の権利を地域で融通しあって無駄を省いていこうと。
(答)私、これから電車に乗って長野原町に行くこととしております。
これは非常に迷惑をかけておりますから。
短く返答申し上げますと、政官業の癒着、これは政治を挙げて排除しなければなりません。
それからもう一つ水基本法というのは、私は大きく期待しております。
大きく期待をしておりまして、これは多分、与野党を通じて超党派で、議員連盟的な勉強会もかつてありましたから。
多分、議員立法で出してくれるのではないかと期待しております。

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