担い手・人材
ウェルビーイング
宮城県蔵王町
地域の悩みを一転、活性化につなげる農泊ワーケーション
■実施主体:蔵王町蔵王農泊振興協議会
◆蔵王町は新たな取り組みに意欲的だ
東北の霊峰・蔵王連峰の東麓に位置する刈田郡蔵王町は町域の6割が山林と原野で占められる自然豊かな土地だ。農業と観光に強みを持つ蔵王町では「ずっと愛にあふれるオンリーワンなまち・ざおう」をビジョンとして掲げ、地域活性化に力を注いでいる。
中でも注目すべきは空き家や耕作放棄地の有効利用だ。宿泊施設としての利用を中心とした食事や農業体験、「ワーケーション」「マイクロツーリズム」といった比較的新しい枠組みを導入して常にオンリーワンの蔵王町を目指している。その背景には、蔵王町が経験した幾度の苦境があった。


◆バブル崩壊、東日本大震災、コロナの苦境を逆手に取る
高度経済成長期には避暑地として好調だった蔵王町の別荘地はバブル崩壊により手放す人が増え、空いた土地の利用について悩まされることとなった。再生に向けて町と共同で打ち立てたのが「蔵王福祉の森構想」という理念だ。「生涯の安心と生きる歓びのあるまちづくり」をテーマとした当構想は多くの福祉施設と団体から賛同を得、多くの雇用を創出した。
雇用増により移住者も増えてきたことから、開発業者や管理組合が共同して町の活性化を目指す「みやぎ蔵王別荘協議会」を立ち上げたが、奇しくも被災者受け入事業を県と調印した数日後に東日本大震災が発生。延べ300世帯の被災者を受け入れることとなった。被災者の中には福祉施設で就労し定住者になった人も多く、現在では650施設のうち2拠点居住も含めると約200世帯が定住者という状況だ。
マンパワーも集まり次の施策として農泊を盛り上げようと蔵王農泊振興協議会が立ち上がった翌年、コロナウイルスの流行が始まった。インバウンドがほぼゼロ状態になったコロナ禍でも蔵王町は好機と捉え、施策に対してターゲット層やリードタイムといった問題の洗い出しを敢行。稼働が8割近く上がるという成果を挙げた。
◆農福、農観の連携が今後のカギに
農林水産省が主管の農泊ワーケーションは農泊で長期滞在し、余暇を楽しみながらリモート環境で働く過ごし方だ。蔵王町では宿泊施設内に高速Wi-Fiや仕事用スペースがあるのは勿論のこと、コテージ1棟貸しや温泉付きロッジといった豊富なバリエーションを用意している。だが、それだけではない。
保養所だったところを学校とし、学生たちが今度は耕作放棄地を田畑として再生して採れた作物を販売する取り組みが行われている。農泊ワーケーションに来た客がそれを楽しみに購入する、といったサイクルだ。また、隣の村田町では国際基準のレース場でカートを楽しむことができる。
農業と福祉、農業と観光の連携は手探りながらも蔵王町の魅力のひとつとして発展途上にある。


◆宿だけではなく食にもこだわる
農泊ワーケーションは宿泊施設にフォーカスが当たりがちだが、食へのこだわりも忘れてはならない。蔵王町では「食の名物を作ること」「農家の所得アップ」の2つの目的のために、「行者ニンニク摘み」と「チョウザメ養殖」を始めた。棚田の一番上でチョウザメを飼えば、そこから下に流れていく水にはチョウザメの有機分が含まれたものが行くので、栄養価が高い水になり、コメの収穫が良くなる。景観の保全にも役立つ活動として期待が寄せられている。
また、移動販売車の運用や地場産品の商品ラインナップ強化を行っており、買物がしにくい方へのサービスも充実している。その買い物に対しても、QRコードで一括決済できるキャッシュレス化などデジタルトランスフォーメーションにも意欲的だ。
蔵王町の強さは逆境に負けない心と、時代に先立つチャレンジ精神にあるだろう。

