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ファンづくり

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群馬県嬬恋村

観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ

■実施主体:群馬県嬬恋村未来創造課

◆データとLINEを活用した地域活性

高原野菜の生産が盛んで、キャベツ全国生産量1位として有名な群馬県嬬恋村では、都市OSを活用した観光スマートシティとして、観光客の人流やパネルアンケートなどのビッグデータ分析と防災スマートシティとのデータ共有、集約した観光データを活用したクーポン等のプッシュ通知などでの情報提供を行ってファンを増加させている。

2020年よりモバイルメッセンジャーアプリ「LINE」を使った仕組みを構築し、防災規制情報や避難所開設・ライブカメラなどの情報を発信している。その翌年からは、ビッグデータの分析から始め、観光と防災を1つのLINEアカウントで実装することで、観光データを集約し、観光客にチャットボットやプッシュ通知などで、現在位置からの周辺施設や店舗と言った観光情報の提供を実施している。

嬬恋村LINE公式アカウントから発信されている情報嬬恋村LINE公式アカウントから発信されている情報

◆台風をきっかけとした「嬬恋ブランド」強化の対策

2019年10月21日に起きた台風19号により、国道が1キロにわたり消滅し、河川は決壊するなど、嬬恋村には大きな被害が出た。その際に情報が錯綜してしまい、村民に迅速で適切な情報提供ができなかったことから、村役場では防災情報通信網強化の機運が高まっていた。そこで、現場と対策本部と現地のパトロールとそれぞれが情報共有していく中で、誰でも情報が発信できるような状態にしたい、時系列で情報を整理できるような仕組みを作りたいというところから取り組みがスタートした。

加えて、嬬恋村は万座温泉、鹿沢温泉などの温泉地があり、スキーやゴルフ、キャンプ場などのレジャー施設も充実している観光地だが、1993年には300万人いた観光客が減少し、2019年時点で200万人となっていた。それが、台風19号で被害を受けた直後のコロナ禍が追い打ちをかけ、観光客の数は80万人に落ち込んでしまっていた。村で観光客からの問い合わせ状況を調査したところ、紙やネット上で大量の村の観光情報が散在していたことに加え、337km²の広範囲に観光施設が点在しており、そのため軽井沢や草津町といった近隣町村へ観光客が逃げてしまっていることが判明した。そこで、「嬬恋ブランド」を強化してファンを増加させ、観光活性を実現していく必要性があったのだ。そこで2021年には観光客向けのメニューを考案し、NTTのモバイル空間統計による人流データ・プレミアパネルアンケートの情報収集からはじめた。現在は、防災と観光でシステムは分離しているものの、防災で構築したプラットフォームを活用し、試行錯誤しながら活用を進めている段階だ。

嬬恋村内風景嬬恋村内風景

◆取り組みの成果

嬬恋村の取り組みは、システム構築直後は上手く稼働しなかったものの、観光への活用が決定した時点で、総務省の「地域活性化起業人」という企業人材派遣制度により富士通から派遣された人材に手直ししてもらい、より使いやすく改善された。現状、台風19号以降大きな災害は発生していないため、実践での活用はされていない。しかし、村民が防災情報提供のため、現地で撮影した写真をLINE上にアップするといった仕組みによって、情報が集まりやすくなっている。観光についても、2023年のGW観光客数の一部が27,500人から55,000人と前年比100%UPするなど一定の成果を残している。

LINEの「お友達登録」登録者を増やすための取り組みとして、メッセージを添えた名刺サイズのカードをイベント会場で村の名産品であるキャベツと一緒に配布している。また、登録者に対して毎月アンケートを実施し、回答者の中から抽選で、地元の野菜や名産品をプレゼントしている。事業がはじまって間もない時の登録者は約400人だったが、2023年には約4,700人にまで増加している。防災からスタートした取り組みなのもあり、登録者の内3,000人以上は村民だ。登録者からは「週1くらいで情報がほしい」という要望が多くあるため、月1回の発信から頻度を増やして新着情報やリマインド情報などコンスタントに発信している。

これらの嬬恋村の取り組みは、令和4年度「夏のDigi田甲子園」実装部門(村・町)で受賞するなど、高く評価されているが、今後に向けて費用面・運用面における課題もある。まず、費用面としては、毎年のサーバーの保守管理費や更新時の費用、観光情報の発信のための観光協会への委託費などで、村の負担が大きくかかってしまっている。そして運用面においては、現状LINE上で防災と観光を一緒に発信しているが、防災からはじまったプラットフォームに観光をのせているだけのため、システムとしては完全に分かれており連携しているとはいえず、このままでいいのかという課題がある。獣害情報など、村民の興味に合わせた情報の提供などの方向に発展させていくべきかなど、考えていく必要がある。

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ヒアリングの様子と、ヒアリング場所である嬬恋村村役場。

◆その他

・嬬恋村では「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ(キャベチュー)」といったイベントも開催しているが、地域内での消費に結びつけることが課題となっている。