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担い手・人材

資金調達

山口県長門市

住民の想いが後押しするクリエイティブで心地よい暮らしの拠点づくり。

■実施主体:株式会社SD-WORLD

◆思いある人材による自立した地域を作る

長門市の南端部に位置する俵山地区は、標高672mの一位ケ岳を中心に約440mの連山に囲まれ、平地でも約140mの渓谷型高冷地だ。全国的に有名な湯治場「俵山温泉」を有しているものの、近年は医療技術の進歩や常連客の高齢化によって客足が減り、高齢となった旅館経営者も終活に入っているような状況だ。

株式会社SD-WORLD(代表取締役 藤永義彦氏)は、「生まれ育った俵山を守りたい」という地域住民の想いから、住民出資によって令和2年4月に設立され、「地域に存在する思いある人材による、自立した地域を作る」を原点に活動し、地域の魅力向上や雇用創出に寄与している。

同社の業務内容は、「そば居酒屋 たべ山」を運営する飲食業、「ゲストハウスねる山」を運営する宿泊業、そして特産品の製造・販売だ。「そば居酒屋 たべ山」では、俵山産食材である蕎麦、米、野菜、ジビエ肉などを使用した、地産地消の郷土料理と、そのアレンジメニューを手打ち蕎麦と共に提供している。「ゲストハウスねる山」では、コンセプトルームという一部屋ごとに別の作家によりデザインされた宿泊部屋、開かれた休憩所やサロンスペース、簡易ゲストキッチンなども整備されており、旅人だけでなく、温泉街で暮らす人々も旅人と出会い・交流できる場所としての活用も見据えたつくりになっている。サロンスペースでは、月に1回程度、地域おこし協力隊のメンバーでもある女将が企画したイベントを開催し、地元の人と旅人が同じ場所で楽しめるような場づくりを行っている。特産品には、俵山産食材・素材を使用した加工品「俵山の手仕事シリーズ」を展開し、「俵山温泉ゆずきちフェイスマスク」や「しし汁フリーズドライ」といった若者も視野に入れた商品を開発している。

俵山温泉街の風景。俵山温泉街の風景。
「たべ山」では、俵町で獲れた猪肉、鹿肉、俵山の水で打った蕎麦など、俵山産食材をふんだんに使用したメニューを提供する。「たべ山」では、俵町で獲れた猪肉、鹿肉、俵山の水で打った蕎麦など、俵山産食材をふんだんに使用したメニューを提供する。
温泉施設「白猿の湯」「町の湯」が目の前という絶好のロケーションにあるゲストハウス「ねる山」。温泉施設「白猿の湯」「町の湯」が目の前という絶好のロケーションにあるゲストハウス「ねる山」。

◆地域住民が出資して株式会社を立ち上げ

2019年開催したラグビーW杯で、俵山地域がカナダチームのキャンプ地になったことから、外国人客の増加に備えて飲食店を作りたいという地域の思惑もあり同年9月に「そば居酒屋 たべ山」が試験的にオープンされた。店舗は、市が国の補助金で温泉街に建てたものの休業してしまった焼鳥屋の店舗をリニューアルした。外国人は来なかったものの、温泉客から好評を得たので、その後も10月からの3カ月間、月に1週間ずつ試験営業を続け、手ごたえを感じたことから、2020年1月より正式に「たべ山」をオープン。同年4月には、株式会社SD-WORLDを設立した(従業員4名)。また、同年7月には、閉鎖してしまった旅館の建物をリノベーションしたゲストハウス「ねる山」をオープン。同社は、初年度に2,173万円を売り上げた。

同社は、2011年の山口国体を契機に発足した交流拠点施設「里山ステーション」の指定管理等を実施するNPO法人「ゆうゆうグリーン俵山」が母体となっている。同法人は農村地域を中心に、都市農村交流や福祉事業を含めた総合的な地域支援を行っていたが、高齢化や後継者不足といった課題を抱える俵山温泉街への支援には至っていなかった。そんな折に、山口県より「県のモデルケースとして株式会社化すれば、支援が受けられる」という提案を受け、株式会社化を進めることになった。株式会社化するに当たって、利益が出る部門を株式会社に、暮らしに関する部分をNPOに残している。社名の「SD」は「スパドリーム」を略したもので、「温泉を核に夢を描き、俵山を世界に発信したい」という願いが込められている。

株式会社の立ち上げ時には「小さな拠点税制」を活かし、地域住民84人が出資した800万円出資と、県・市からの補助金約1,100万円、融資約500万円を当面の運転資金と主に宿泊施設改修に活用した。出資金は運営方針を経営者ら自身が決められるよう、取締役で半額の400万円出資し、残りの400万円はNPO法人ゆうゆうグリーンの広報誌で呼びかけ住民から募集した。住民に出資を募る際には、「小さな拠点税制」の所得税免除等についてはほぼ説明していなかったが、住民たちは「温泉街をなんとかしたい」という思いから、寄附に近い感覚で出資してくれたという。

ヒアリングを受ける株式会社SD-WORLD代表取締役の藤永義彦氏。ヒアリングを受ける株式会社SD-WORLD代表取締役の藤永義彦氏。
「たべ山」のメニュー。「たべ山」のメニュー。

◆各事業が相乗効果を生み出す

「そば居酒屋 たべ山」は、株式会社化を決めた時点で飲食業を行うことが早々に決まっていたため、運営は母体となったNPO法人ゆうゆうグリーンで配食用弁当を製造していた人材が担い、メニュー開発は市の補助金を利用して外部の専門家を招聘した。昼は蕎麦を提供し、夜は居酒屋として営業し、温泉街へ宿泊する観光客の食事処として機能することで、人手不足に悩む各旅館の負担軽減を狙っている。「たべ山」の開店3カ月後にオープンした「ねる山」は、「たべ山」の正面にあった空き旅館をリノベーションしたゲストハウスだ。「ねる山」の設備投資費用の4分の3は、山口県からの補助によって賄われた。加工品の商品開発については、長門市から紹介された食品加工などの専門家にアドバイスを受けながら行っているが、地域課題解決型ワーケーション(企業の従業員が地域関係者との交流を通じて共に地域の課題を考え、解決アイデアを出したり、実際に解決に取り組んだりしていくスタイルのワーケーションスタイル)で訪れた「ねる山」の利用客が、地域おこし協力隊メンバーと協力して、フェイスパックやアイスクリーム、あめといった、若年層にも受ける商品の開発をしてくれている。また、地域おこし協力隊のメンバーにクリエイティブ方面に強い知人が多く、映像や写真の撮影をして、SNSやネットでの発信に協力をしてくれている。これらの同社の取り組みは、中国四国農政局「令和3年度 ディスカバー農山漁村の宝」奨励賞などの評価を受けている。

しかし、販路の確保ができず「鹿肉ハンバーグ」などの冷凍食品の製品化ができなかったり、「しし汁フルーズドライ」が俵山のみそ加工場の閉鎖からのOEMへの切り替えが上手くいかなかったりと、商品開発における課題があるので、今後の解決に期待したい。

山口県長門市の柑橘特産品である「長門ゆずきち成分」と湯治場として名高い「俵山温泉の天然湧泉(温泉水/保湿成分)」を配合した「俵山温泉ゆずきちフェイスマスク」山口県長門市の柑橘特産品である「長門ゆずきち成分」と湯治場として名高い「俵山温泉の天然湧泉(温泉水/保湿成分)」を配合した「俵山温泉ゆずきちフェイスマスク」
中国四国農政局から「令和3年度 ディスカバー農山漁村の宝」奨励賞の認定証が授与される様子。中国四国農政局から「令和3年度 ディスカバー農山漁村の宝」奨励賞の認定証が授与される様子。