[検証]1999年の災害
10月の末豪雨
【REPORT9】 青森県八戸市

 台風並みの
 低気圧がもたらした
 季節外れの水害

 再度災害防止のために浅水川放水路計画を推進
Assess the disaster damage that occurred in Hachinohe in Aomori on Oct. 28, 1999

恒例の青東駅伝も中断


10月といえば全国的に好天が続く行楽シーズンで、毎日のようにどこかしらで屋外イベントが企画されている。青森県でも、本来ならば10月28日は秋晴れの青空の下、青森―東京間855.2 kmで争われる青東(都道県対抗東日本縦断)駅伝が行われるはずだった。しかし、前日の27日夜から“台風並み”に発達した低気圧により記録的な集中豪雨に見舞われ、県内は八戸市を中心に家屋の浸水、崖崩れ、道路の冠水などの被害が続出したため、第42回目を迎える伝統ある大会も途中でやむなく競技を中断する羽目となった。

泥水で%れた町では、消防署員による懸命の救出活動が続けられた



青森県八戸土木事務所の観測では、27日夜の降り始めから雨が止むまでの各地の総雨量は、南郷村295 mm、福地村279 mm、南部町259 mm、新郷村戸来214 mm、五戸町304 mmを記録。220 ha以上が浸水した八戸市内の是川では194 mmだったが、八戸ニュータウンでは市のポンプ場にある雨量計で250 mmを記録した。これは八戸市の年間降雨量の約3分の1にあたる異例の降雨量であった。 この豪雨により、死者1人、行方不明者1人、負傷者2人の人的被害や全壊3棟、半壊1棟、一部損壊45棟、床上・床下浸水1392棟の住宅被害、崖崩れや道路の冠水等の被害が発生。馬淵川やその支川の浅水川などが氾濫した八戸市など9市町村では、一部地域の住民を対象に避難勧告を出し合計1146人が避難し ている。

予想以上に早かった水位の上昇
浅水川の出水状況。わずか3時間の間に一面が泥水の中に浸かってしまった。中央やや右の緑の屋根が三条小学校

今回の災害について、被災者の間からは、「これまでと水の量が違った」「今までこんな大水はなかったのに」という声とともに、「あっという間に水嵩が増した」「見る見るうちに水位が上がっていった」などの証言が相次いだ。 北城廣威さんは氾濫した浅水川の左岸、根市橋のたもとに妻と子の3人で暮らしている。28日朝は雨が降り風は強かったものの、近所に住む孫たちはそれぞれ幼稚園や小学校に普通に登校できた程度だった。しかし、午前9時半過ぎには道路は冠水し、水は北城さん宅の玄関まで押し寄せた。 「わずか30分ほどの間に、水位は145 cmまで上がりました。うちは床下が少し高いから玄関までしか水は来なかったけど、それでも1階にいるわけにはいかず、大切なものに手をつける間さえなくて、すぐに2階に逃げました。その時にはもう、川の向こう岸は越水していました」 60年間この地で暮らす北城さんは、道路の冠水を過去3回ほど経験していたため、ここまで来るだろうと覚悟はしていたものの、短時間でこれほど増水するとは思いもよらなかったという。 予想以上に増水のスピードが早かったのは、山の樹木の伐採による保水力の低下や舗装の範囲の広がりによる地面への浸透力の減少が、そのスピード化にいっそう拍車をかけたという見方もある。
突然の出水にあわてながらも、救助隊員に誘導され避難する住民
jrの橋脚にぶつかり、さらに勢いを増していく増水した浅水川


待たれる浅水川放水路の完成

根市橋付近の氾濫状況。この左岸に、被害にあった北城さんと兼平さんの家がある
腰の高さまで浸水した兼平さん宅では、普通の暮らしに戻るまでに数か月かかった


今回の災害では、情報不足を指摘する人も多い。やはり浅水川の左岸に50年間住んでいる兼平金次郎さんも「事前の情報が乏しかった」と言う。「朝の9時前後に町内のサイレンが鳴ったんですが、水害なのか何なのか、鳴った理由が分からなくて...。上流の情報を流してくれれば、避難の準備とか心構えもできたんですが...」。 市によれば、広報車による巡回と各消防団からのサイレンで注意を呼び掛けたというが、雨風の音がすごく、聞こえない人も多かったようだ。また洪水警報だと分かってはいても、低気圧を軽くとらえ、ふだん通り過ごしていた人もいたらしい。 大きな反省点としては、せっかく作成された洪水ハザードマップが十分に生かされなかったことだろう。このマップは、「防災都市」を掲げる八戸市が国と県の協力を得て、平成11年3月に作ったもので、100年に一度の確率の大雨で堤防が決壊した場合の浸水状況や避難場所、避難方法などが示されている。4000部作成されたマップは、これまで市の関係団体や福祉施設などに配付されたが、住民の手元にはまだ届いていない所が多い。市では「ハザードマップの配付をしている最中でした。部数の関係で各戸に配付できず、それで町内会での回覧という形になりましたが、今後は、特に今回被害を受けた区域を含め、浸水予想区域の皆さんに配付したい」と語っている。 また、今回大きくクローズアップされたのが、県が進める「浅水川放水路計画」である。八戸市内の尻内町根市渡ノ葉の浅水川から同町上川原の馬淵川までの2.8 kmの水田地帯に、川幅約50 mほどの「水のない川」を造成、浅水川の水量が多い時に馬淵川に)回させて流すというバイパス計画だ。完成すれば、現在の浅水川の3.5倍もの流下能力を発揮、今回程度の災害はほぼ防げるという。県は平成4年に事業を着手し、平成20年度の完成を目指していたが、未だ用地確保は17.6 %に留まっている。 しかし、今回の豪雨被害を機に完成への機運は一気に高まり、県は予定より4、5年早い完成を目指している。また、浅水川放水路より上流約4.4 kmについても、現在の川幅30 mを2倍近くに広げるよう建設省と協議を進め、河川災害復旧等関連緊急事業及び災害復旧助成 事業として、2月中旬に採択されている。