「わかる・伝わる」ハザードマップのあり方について ~あらゆる主体に向けたハザードマップの更なる普及に向けて~ 令和5年4月 ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 目次 はじめに 3 第1章 水害ハザードマップとは 6 1.1 ハザードマップについて 6 1.2 水害ハザードマップの定義 7 1.3 ハザードマップに関する現状と課題 11 1.3.1 ハザードマップの認知状況 11 1.3.2 ハザードマップに関する現状と課題 12 1.3.3 障害の特性に応じたハザードマップの作成状況 13 1.3.4 障害の特性に応じたハザードマップの障害当事者への提供方法 14 1.3.5 障害の特性に応じたハザードマップの現状と課題 14 第2章 「わかる・伝わる」ハザードマップのあり方 15 2.1 検討に向けた議論の方向性 15 2.2 支援者への理解促進 17 2.3 避難計画作成における理解促進 17 第3章 あらゆる主体のアクセシビリティを高めるために 18 3.1 アクセシビリティを高めるための議論の方向性 18 3.2 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップ実現のための論点 21 3.2.1 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップの構成の論点 21 3.2.2 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップの構成 22 3.3 ハザードマップの「地図面」の充実 23 3.4 ハザードマップの「情報・学習編」の充実 25 3.4.1 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップ(情報・学習編)の構成 25 3.4.2 必要最低限伝えるべき情報・学習編の基本的な考え方 27 3.5 アクセシビリティの対応 30 3.5.1 アクセシビリティについて 30 3.5.2 Webアクセシビリティの現状 30 3.5.3 ハザードマップにおけるアクセシビリティ 34 3.5.4 新たなツールを活用したアクセシビリティの向上 47 第4章 今後の「わかる・伝わる」ハザードマップの姿 62 4.1 地図面の理解を促進するためのツールの整備 62 4.2 今後の「わかる・伝わる」ハザードマップWebサイトの姿 64 4.2.1 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップ実現のためのWebサイトの構造 64 4.2.2 情報・学習編Webサイトの具体的な構成イメージ(シンプル版) 67 4.2.3 情報・学習編Webサイトの具体的な構成イメージ(一般的な市町村サイトに沿った多階層版) 68 まとめ 70 おわりに 73 参考資料 75 (3ページ) はじめに いのちを守るために必須のハザードマップの活用は十分ではない  ハザードマップは、被害軽減や防災対策に資する目的で、浸水想定区域、避難場所・避難経路、防災関係施設の位置等を表示した地図のことである。特に、避難までのリードタイムがある洪水・土砂災害においては、発生が予想される段階から、早めの避難行動をとることがいのちを守るために重要であり、ハザードマップを活用した避難行動を考える機会を平時から持つことが期待される。ところが「ハザードマップを見たことがない(31%)」「ハザードマップは役に立たない(12%)」とする人が一定数いることは、課題である。 ハザードマップのユニバーサルデザイン化は進んでいない  全国でハザードマップの作成・公表は進んでいる(洪水ハザードマップ作成対象1,403市区町村のうち、1,378市区町村で公表済)が、障害等の個人特性に配慮したハザードマップの公開を行っている地方公共団体は非常に限定的である(令和3年7月末調査時、回答のあった1,591市区町村のうち、41市区町村で作成済み)。令和4年5月には、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が施行され、これまで以上にあらゆる主体が、情報を得る際、他者と意思疎通を図る際の障壁を減らすことで、共生社会を実現することが求められている。 「わかる・伝わる」ハザードマップをいかに実現するのか  災害による被害を軽減するためには、想定される地域のリスクと災害時に取るべき対応を可視化したハザードマップをあらゆる主体に「わかる・伝わる」ものとすることが重要である。また、併せてあらゆる主体におけるハザードマップへのアクセシビリティ(利用しやすさ)を高めることが重要である。本検討会では「わかる・伝わる」ハザードマップの実現のために「地図面」のみならず、地図面の利用の前提知識となるべき「情報・学習編」をいかに充実させるか、あらゆる主体の情報基盤として活用されるスマートフォンやパソコンを活用したハザードマップのアクセシビリティ(利用しやすさ)をいかに向上するかを検討した。 本検討会では、あらゆる主体にとって「わかる・伝わる」ハザードマップの姿を検討  本検討会では、視覚障害者、聴覚障害者などの協力を仰ぎ、あらゆる主体に向けた「わかる・伝わる」ハザードマップの更なる普及に向けて、ハザードマップのユニバーサル化の議論を深めた。本報告書が、水害ハザードマップ作成の手引き(国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水防企画室、初版平成28年4月)などへと反映され、地方公共団体や関係団体の取組に波及することを期待する。 被害の軽減に向けたハザードマップの活用促進社会の実現  平成23年に発生した東日本大震災では、障害者の死者率が住民全体の2.5倍と言われ、平成30年7月豪雨では、倉敷市真備町において犠牲者となった方の80%が高齢者であるなど、要配慮者の被災はあとを絶たない。気候変動により水害の頻発化・激甚化が進む日本において、ハザードマップがあらゆる主体の避難行動に有効に活用され、減災につながることを期待したい。 ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会/座長 (4ページ) 【ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会:開催主旨】 ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 開催趣旨  ハザードマップは、一般的に「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」であり、その情報は、災害時の住民における安全確保に役立つことが期待されている。 一方で、いざというときを想定して避難行動を検討する際に、ハザードマップを活用することには一定のハードルがあり、ハザードマップの存在を知っていても活用には結びついていない場合があることが知られている。加えて、現在のハザードマップは、利用者の特性、例えば視覚障害に対応しておらず、そもそもハザードマップに示している紙面の情報へのアクセスが困難な場合もある。 こうした課題を踏まえ、あらゆる主体が避難行動に必要なハザードマップ情報を活用できることを目指した、「わかる」ハザードマップのあり方や、あらゆる主体がハザードマップにアクセスすることができる「伝わる」ハザードマップについて検討するため、本検討会を設置する。 図1 ハザードマップユニバーサルデザイン検討会開催趣旨 ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料3より抜粋 (5ページ) 【ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会:委員】◎:座長 (敬称略) (以下、氏名、所属の順に記載) ◎田村 圭子 新潟大学 危機管理本部 危機管理室 教授 磯打 千雅子 香川大学 地域強靭化研究センター 准教授 梶谷 匡佑 ヤフー株式会社 メディア統括本部 メディア企画デザイン2本部 天気・災害企画デザイン部デザイン リーダー 阪本 真由美 兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 教授 柴田 健剛 日本放送協会 報道局 災害・気象センター 副部長 中野 泰志 慶応義塾大学 経済学部 教授 三宅 隆 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 組織部長 奥寺 弓子 大田区役所 総務部危機管理課 防災支援担当課長 (前任)河井 英隆 大森消防署 警防課長 消防司令長 【ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会:概要】 (以下、開催時期、会議名等、概要の順に記載) 令和3年12月23日 第1回検討会 ・課題の認識、論点整理  ・「わかる・伝わる」ハザードマップを目指す 令和4年 3月11日 第2回検討会 ・「印刷物」「ICT(情報通信技術)」「点字や音声による代替手段」で伝えることが可能なこと/今後可能になることの整理 令和4年 5月23日 第1回ワーキング会議 ・「チャットボット」「触地図」「3Dマップ」のツールを活用したアクセシビリティ向上の検証 令和4年 7月22日 第3回検討会 ・「情報・学習編の充実」「Webアクセシビリティへの対応」の両面で検討を進めることで合意 令和4年11月29日 第4回検討会 ・「情報・学習編の充実」「Webアクセシビリティへの対応」の検討(その2) ・検討会報告書の骨子案の検討 令和4年12月20日 第2回ワーキング会議 ・「情報・学習編の充実」「Webアクセシビリティへの対応」の検討を反映したツールの検証 令和5年 3月17日 第5回検討会 ・検討会報告書案の検討 【ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会:ワーキング会議協力者・組織】 協力者・組織 大田区防災危機管理課 大田区福祉管理課 大田区視覚障害者とその支援者 大田区聴覚障害者とその支援者 大田区特別支援学校教員 日本工学院専門学校の教員と生徒 株式会社ニシムラ精密地形模型 株式会社GK京都 NPO法人防災デザイン研究会 (6ページ) 第1章 水害ハザードマップとは 1.1 ハザードマップについて 〇ハザードマップとは、リスク情報のうち、主に、「平時」に提供している基礎的資料であり、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、浸水想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図のことを示す。 〇ハザードマップには、「地震」「火山」「土砂災害」「洪水」「内水」「高潮」「津波」などの種類がある。 〇その中で、「洪水」「内水」「高潮」「津波」のハザードマップを総称して、水害ハザードマップと呼ぶ。 〇水害発生時に住民が適切な避難行動をとれるよう、市区町村により各種水害ハザードマップの公表が進められているところ。 〇洪水ハザードマップは、98%の市区町村で作成が完了している。 [図2 水害ハザードマップの公表状況] ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-1より抜粋し一部改変 ○洪水ハザードマップ R3.7末時点(※1)計画規模降雨相当を含む  対象 1,403市区町村  公表済 1,378市区町村(98%)  未公表 25市区町村(2%) ○津波ハザードマップ R3.9末時点(※2)津波防災地域づくりに関する法律に基づかないハザードマップを含む  対象 687市区町村  公表済 652市区町村(95%)  未公表 35市区町村(5%) ○高潮ハザードマップ R3.10末時点  対象 147市区町村  公表済 42市区町村(29%)  未公表 105市区町村(71%) ○雨水出水ハザードマップ R3.3末時点(※3)水防法に基づかないハザードマップを含む  対象 1,071市区町村  公表済 418市区町村(38%)  未公表 653市区町村(62%) 〇なお、本検討会では、水害ハザードマップの中の「洪水」を主体に検討を進めてきた。 (7ページ) 1.2 水害ハザードマップの定義 〇水防法第15条では、市町村が、浸水想定区域ごとに避難場所等を定め、住民等に周知することが規定されている。 [図3:水防法第15条] ※☆☆内は追記事項 (浸水想定区域における円滑かつ迅速な避難の確保及び浸水の防止のための措置) 第十五条 市町村防災会議(災害対策基本法第十六条第一項に規定する市町村防災会議をいい、これを設置しない市町村にあつては、当該市町村の長とする。次項において同じ。)は、第十四条第一項若しくは第二項の規定による洪水浸水想定区域の指定、第十四条の二第一項若しくは第二項の規定による雨水出水浸水想定区域の指定又は前条第一項の規定による高潮浸水想定区域の指定があつたときは、市町村地域防災計画(同法第四十二条第一項に規定する市町村地域防災計画をいう。以下同じ。)において、少なくとも当該洪水浸水想定区域、雨水出水浸水想定区域又は高潮浸水想定区域ごとに、次に掲げる事項について定めるものとする。ただし、第四号ハに掲げる施設について同号に掲げる事項を定めるのは、当該施設の所有者又は管理者からの申出があつた場合に限る。  一 洪水予報等(第十条第一項若しくは第二項又は第十一条第一項の規定により気象庁長官、国土交通大臣及び気象庁長官又は都道府県知事及び気象庁長官が行う予報、第十三条第一項若しくは第二項、第十三条の二又は第十三条の三の規定により国土交通大臣、都道府県知事又は市町村長が通知し又は周知する情報その他人的災害を生ずるおそれがある洪水、雨水出水又は高潮に関する情報をいう。次項において同じ。)の伝達方法  二 避難施設その他の避難場所及び避難路その他の避難経路に関する事項 ☆避難場所等を定める☆  三 災害対策基本法第四十八条第一項の防災訓練として市町村長が行う洪水、雨水出水又は高潮に係る避難訓練の実施に関する事項  四 浸水想定区域(洪水浸水想定区域、雨水出水浸水想定区域又は高潮浸水想定区域をいう。第三項において同じ。)内に次に掲げる施設がある場合にあつては、これらの施設の名称及び所在地   イ 地下街等(地下街その他地下に設けられた不特定かつ多数の者が利用する施設(地下に建設が予定されている施設又は地下に建設中の施設であつて、不特定かつ多数の者が利用すると見込まれるものを含む。)をいう。次条において同じ。)でその利用者の洪水時、雨水出水時又は高潮時(以下「洪水時等」という。)の円滑かつ迅速な避難の確保及び洪水時等の浸水の防止を図る必要があると認められるもの   ロ 要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設をいう。第十五条の三において同じ。)でその利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図る必要があると認められるもの   ハ 大規模な工場その他の施設(イ又はロに掲げるものを除く。)であつて国土交通省令で定める基準を参酌して市町村の条例で定める用途及び規模に該当するもの(第十五条の四において「大規模工場等」という。)でその洪水時等の浸水の防止を図る必要があると認められるもの  五 その他洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な事項 2 市町村防災会議は、前項の規定により市町村地域防災計画において同項第四号に掲げる事項を定めるときは、当該市町村地域防災計画において、次の各号に掲げる施設の区分に応じ、当該各号に定める者への洪水予報等の伝達方法を定めるものとする。  一 前項第四号イに掲げる施設(地下に建設が予定されている施設及び地下に建設中の施設を除く。) 当該施設の所有者又は管理者及び次条第九項に規定する自衛水防組織の構成員  二 前項第四号ロに掲げる施設 当該施設の所有者又は管理者(第十五条の三第七項の規定により自衛水防組織が置かれたときは、当該施設の所有者又は管理者及び当該自衛水防組織の構成員)  三 前項第四号ハに掲げる施設 当該施設の所有者又は管理者(第十五条の四第一項の規定により自衛水防組織が置かれたときは、当該施設の所有者又は管理者及び当該自衛水防組織の構成員) 3 浸水想定区域をその区域に含む市町村の長は、国土交通省令で定めるところにより、市町村地域防災計画において定められた第一項各号に掲げる事項を住民、滞在者その他の者(第十五条の十一において「住民等」という。)に周知させるため、これらの事項(次の各号に掲げる区域をその区域に含む市町村にあつては、それぞれ当該各号に定める事項を含む。)を記載した印刷物の配布その他の必要な措置を講じなければならない。 ☆住民等に周知☆  一 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成十二年法律第五十七号)第七条第一項の土砂災害警戒区域 同法第八条第三項に規定する事項  二 津波防災地域づくりに関する法律第五十三条第一項の津波災害警戒区域 同法第五十五条に規定する事項 (8ページ) 〇国土交通省では、市町村が水害ハザードマップを作成及び利活用する際の参考となるよう、作成にあたっての考え方や推奨される事例等を示すものとして、「水害ハザードマップ作成の手引き」を策定しており、その中でハザードマップは住民目線で作成されるべきものであり、「災害発生前にしっかり勉強する場面」と「災害時に緊急的に確認する場面」の両方のシチュエーションを意識して、作成するものとされている。 [図4:水害ハザードマップのあり方]水害ハザードマップ作成の手引き 第1章より抜粋 1.1 水害ハザードマップのあり方  「水害ハザードマップ」は、地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民等に提供するツールであり、主に水害時の住民避難に活用されることを目的とし、第一に住民目線で作成されるべきものである。  住民等が避難に関して水害ハザードマップを見たり、読んだりするシチュエーションとしては、「災害発生前にしっかり勉強する場面」、「災害時に緊急的に確認する場面」がある。  そのため、水害ハザードマップを作成する市町村は、これら両方のシチュエーションを意識して、住民等へわかりやすく情報提供できるよう水害ハザードマップを作成するものとする。 〇なお、水防法第14条では、国や都道府県が洪水浸水想定区域図を指定するとされている。 [図5:水防法第14条] ※☆☆内は追記事項 (洪水浸水想定区域) 第十四条 国土交通大臣は、次に掲げる河川について、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、国土交通省令で定めるところにより、想定最大規模降雨(想定し得る最大規模の降雨であつて国土交通大臣が定める基準に該当するものをいう。以下同じ)により当該河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域を洪水浸水想定区域として指定するものとする。☆浸水想定区域を指定☆ 一 第十条第二項又は第十三条第一項の規定により指定した河川 二 特定都市河川浸水被害対策法(平成十五年法律第七十七号)第三条第一項の規定により指定した河川 三 前二号に掲げるもののほか、河川法第九条第二項に規定する指定区間外の一級河川のうち洪水による災害の発生を警戒すべきものとして国土交通省令で定める基準に該当するもの 2 都道府県知事は、次に掲げる河川について、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、国土交通省令で定めるところにより、想定最大規模降雨により当該河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域を洪水浸水想定区域として指定するものとする。 一 第十一条第一項又は第十三条第二項の規定により指定した河川 二 特定都市河川浸水被害対策法第三条第四項から第六項までの規定により指定した河川 三 前二号に掲げるもののほか、河川法第九条第二項に規定する指定区間内の一級河川又は同法第五条第一項に規定する二級河川のうち洪水による災害の発生を警戒すべきものとして国土交通省令で定める基準に該当するもの 3 前二項の規定による指定は、指定の区域、浸水した場合に想定される水深その他の国土交通省令で定める事項を明らかにしてするものとする。 4 国土交通大臣又は都道府県知事は、第一項又は第二項の規定による指定をしたときは、国土交通省令で定めるところにより、前項の国土交通省令で定める事項を公表するとともに、関係市町村の長に通知しなければならない。 5 前二項の規定は、第一項又は第二項の規定による指定の変更について準用する。 〇国や都道府県が浸水想定区域を指定し、それに基づき市町村が避難場所等を定め、ハザードマップとして作成・公表することとなる。内水や高潮についても同様である。 〇水害ハザードマップ作成の手引きにおいて、水害ハザードマップは、地図面と情報・学習編で構成することとされている。以下に、地図面と情報・学習編の一例を示す。 (9ページ) [図6:水害ハザードマップの構成]水害ハザードマップ作成の手引き 第1章より抜粋 1.2 水害ハザードマップの構成  水害ハザードマップは地図面と情報・学習編で構成することとし、「災害発生前にしっかり勉強する場面」と「災害時に緊急的に確認する場面」を意識して作成するものとする。  水害ハザードマップの構成は、「災害発生前にしっかり勉強する場面」と「災害時に緊急的に確認する場面」を意識して、「地図面」と「情報・学習編」で構成するものとする。 〇ハザードマップの事例紹介 ・地図面と情報・学習編を紙面形式で表面・裏面において掲載している事例(東京都新宿区) [図7:新宿区洪水ハザードマップ]新宿区洪水ハザードマップより引用 (10ページ) ・地図面と情報・学習編を紙面形式で右・左に掲載している事例(東京都大田区) [図8:大田区洪水ハザードマップ]大田区ハザードマップ風水害編より引用 ・地図面と情報・学習編を冊子形式で掲載している事例(東京都千代田区) [図9:千代田区洪水ハザードマップ(冊子版)]千代田区ハザードマップ(冊子版)より引用 (11ページ) 1.3 ハザードマップに関する現状と課題 1.3.1 ハザードマップの認知状況  〇令和3年8月に、ハザードマップが作成されている市区町村に居住する一般住民1500人に対しWebアンケートを実施。  〇水害ハザードマップを見たことがある人は、約7割。逆に見たことのない人は、31%。  〇閲覧のきっかけは、①「避難に備える」、②「市町村から配布された」の順。  〇閲覧しない理由は、①「これまで水害の危険が迫ってない」、②「水害の危険が無いと思っている」の順であり、防災意識の低い住民への周知・啓発が課題である。 [図10:水害ハザードマップの認知状況]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-1より抜粋 ※アンケート内容は割愛 (12ページ) 〇水害ハザードマップを見たことがある人のうち、ハザードマップは避難や避難判断に、「大いに役に立っている」「ある程度役に立っている」と回答した人は、約8割である。 〇「まったくに役に立っていない」「あまり役に立っていない」と回答した人のうち約4割は理由として、「自宅にとどまってよいか避難所に行く必要があるか分からない」「どのような危険があるか分からない」等 を回答しており、平時の普及啓発の取組が住民の身の回りの水害リスクの正しい認識に繋がっていないことが課題である。 [図11:ハザードマップの役立度]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-1より抜粋 ※アンケート内容は割愛 1.3.2 ハザードマップに関する現状と課題 (現状)  〇ハザードマップに示している情報は、住民の避難に必要な基礎的かつ標準的な情報であり、多くの市区町村において、紙面によるハザードマップの提供は進められている。また、デジタル技術を活用したハザードマップの提供も広がっている等、様々な手段を通じて、ハザードマップを周知・利活用する取組みが進められている。 (課題)  〇ハザードマップは、住民の避難に役立っていると考えられる一方で、ハザードマップの情報だけでは自分自身がとるべき避難行動がわからないという意見もあり、より一層、「身の回りの自然災害のリスクを正しく認識し、避難行動につなげる」ことが課題 ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-1より引用 (13ページ) 1.3.3 障害の特性に応じたハザードマップの作成状況  〇あらゆる主体に伝えることを目的とし、障害の特性に応じた水害ハザードマップの作成市区町村は、41 市区町村と非常に少ない。  〇作成している41市区町村のうち、記載内容の伝達方法は、地図情報を取得しづらい視覚障害者等への対応となる「音声対応」が最も多い。 [図12:障害の特性に応じた水害ハザードマップの作成状況]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-1より抜粋し、一部改変 障害の特性に応じた水害ハザードマップの作成状況 ※令和3年6月に実施した「障害に対応した水害ハザードマップに関するアンケートの結果より  全体:1747市区町村  作成済:41(2.3%)  作成中:53(3.0%)  作成の予定なし:1471(84.0%)  無回答:26(10.4%) (14ページ) 1.3.4 障害の特性に応じたハザードマップの障害当事者への提供方法 〇障害の特性に応じた水害ハザードマップを作成している41市区町村のうち、障害に対応した水害ハザードマップの公表方法は、直接配布:22回答、市区町村HPで公表:20回答、福祉部局で配布:10回答の順で対応されている。 〇市区町村HPで公表している作成済の20市区町村のうち、障害者へのWebアクセシビリティに配慮している市区町村は、8市区町村であった。 [図13:障害の特性に応じたハザードマップの公表方法]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-1より抜粋  Q.障がいの特性に応じた水害ハザードマップの公表方法※複数回答あり   直接配布:22   自治体HPで公開:20   福祉部局の窓口での配布:10   その他:6  [国土交通省調べ]  HPで公開している自治体のウェブアクセシビリティ対応の状況   全体:20市区町村   配慮している:8   特別配慮していない:10   わからない:2 1.3.5 障害の特性に応じたハザードマップの現状と課題 (現状)  〇障害の特性応じたハザードマップの作成に取り組んでいる市区町村は多くない。 (課題)  〇市区町村からは、「どのような情報を優先的に提供すれば良いのかが分からない」ため、手引き等に明示してほしいという意見もある。  〇視覚に障害を有する方に対して、紙面のハザードマップによる情報提供には限界がある。また、提供する手段は、一様ではない。  ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-1より引用 (15ページ) 第2章 「わかる・伝わる」ハザードマップのあり方 2.1 検討に向けた議論の方向性  〇前章で述べたとおり、ハザードマップには以下のような課題があることがわかった。 ・ハザードマップは、住民の避難に役立つことが期待されている一方、掲載情報の理解には専門的内容や情報量など一定のハードルがあり、活用に結びついていない場合もある。 ・現在のハザードマップは、利用者の特性、例えば視覚障害に対応しておらず、ハザードマップに示している紙面の情報へのアクセスが困難な場合がある。  〇本検討会では、ハザードマップの機能として「わかる・伝わる」の確保をいかに実現すべきか議論した。議論の枠組みについては、次頁に示した図の通りである   ・水害ハザードマップにおいて提供される情報:水害ハザードマップにおいて提供される情報には、「地図面」「情報・学習編」に分かれ、主な提供されている情報は以下の内容となる(洪水の場合)。なお、下記に示した情報内容はあくまで一例であり、各市町村が取捨選択し、数多くの情報を提供している。  「地図面」   ・想定最大規模の洪水浸水想定区域と浸水深※   ・避難場所※   ・早期の立退き避難が必要な区域   ・地下街等※ ・要配慮者利用施設※ ・大規模工場等※ ・水位観測所の位置  「情報・学習編」   ・洪水予報等、避難指示等の伝達方法(プッシュ型の情報)※   ・水害時に得られる情報と、その受信や取得の方法(プル型の情報)※   ・浸水が想定される区域における避難行動の解説と留意点 ・避難指示等に関する内容   ・避難場所等の一覧 ・水害シナリオ ・他の災害のハザードマップ作成状況に関する事項※ ・避難訓練の実施に関する事項※   ※:水防法で記載が義務づけられている事項 ・「わかる」:利用者の理解につながるための情報の整理、抽出、変換等が必要であり、河川管理者等から提供される情報をそのまま伝え、「わかる」ことを国民に期待するのは難しい。よって、いかにしてハザードマップをわかるものにするかを議論する必要がある。 ・「伝わる」:利用者の特性に応じた複数の提供方法が必要であり、さらにハザードマップを水害時の避難に有効に活用するには、提供するだけでなく、様々な機会を通じて利活用しなければ、ハザードマップの情報が「伝わる」ことは難しい。よって、ハザードマップの提供方法とリスクコミュニケーションのあり方について議論する必要がある。 ・「わかる・伝わる」をバランスよく実現:「わかる」ハザードマップを作り、それを「伝わる」ようにし、避難行動に結びつき国民の安全安心を実現する必要がある。これらを検討会の検討事項とする。 ・あらゆる主体に「伝わる」:これまであらゆる主体に「伝わる」ことを意識したハザードマップの作成・公開は必ずしも十分であったとは言えない。そもそもあらゆる主体のアクセシビリティ(利用しやすさ)を高めるためにはどのような配慮が必要か、を議論する。 ・「わかる・伝わる」対象者:ハザードマップについて「わかる・伝わる」対象者としては、当事者やその家族(自助)だけでなく、平時より、当事者の支援に携わり、避難行動を共に検討し、いざとなったときに避難の支援を行う者となりうる支援者(共助)に対しても「わかる・伝わる」ことが重要である。また、市町村においても、防災のみならず医療保健福祉担当部局等や医療保健福祉の関係事業者や団体の支援を得ること(公助)、も考えると、自助・共助・公助の主体との共通理解醸成も必要である。つまり、それらの全てに対して、「わかる・伝わる」ことを目的にハザードマップの検討が必要である。 ・避難行動:ハザードマップは事前に想定されるリスクを確認し、当事者・家族や支援者が避難行動を検討するために活用されるものである。残念ながら、全ての人が、平時からハザードマップを確認する社会は実現できていない。また、出張や旅行など、平時からハザードマップの確認ができていない地域に滞在している際に、災害の危険が迫る場合も想定される。事前にハザードマップを確認できていないために、災害の発生が想定される事態となった際には、その居場所の位置情報から、ICT技術等を活用し、安全確保のために必要な最低限の情報を、ハザードマップから取り出して、即時に提供できる仕組みの検討も必要である [図14:「わかる・伝わる」ハザードマップと避難行動との関係]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第1回 資料7-2より抜粋し一部改変 ※図の詳細は割愛 (17ページ) 2.2 支援者への理解促進 〇ハザードマップの情報をあらゆる主体に対して「わかる・伝わる」ものにしていくためには、情報へのアクセシビリティに配慮が必要な当事者の視点が重要になる。それと同時に、平時から当事者の生活に関わり、災害時には、当事者の避難行動を支援する当事者の家族や支援者に対しても、ハザードマップの情報が「わかる・伝わる」ようにしていくことが不可欠である。 〇災害時に支援者が被害に遭うことも考えられることから支援者の災害対応のための資源(リソース)の選択肢を出来るだけ多くし、ハザードマップに掲載される情報への様々なアプローチ方法を用意しておくことが重要である。 〇いざという時に避難行動を支援するために、平時より当事者と支援者が一緒に避難について検討しておくことが期待される。また、災害により厳しい状況に陥った場合には、市町村や関係団体の支援が必要になることも考えると、自助・共助・公助のそれぞれに関して各主体が安全確保のための資源について共通の理解を図ることも重要である。つまり、それら全てに対して、「わかる・伝わる」ハザードマップの実現が必要であり、そのための検討は継続的に行わなければならない。 2.3 避難計画作成における理解促進 ○マイ・タイムラインとは、住民一人ひとりのタイムライン、避難行動を含む防災行動計画であり、台風等の接近による大雨によって河川の水位が上昇する時に、自分自身がとる標準的な防災行動を時系列的に整理することにより、自ら考え命を守る避難行動のための一助とするものである。マイ・タイムラインの検討は、洪水ハザードマップ等を用いて居住地などの自ら関係する水害リスクや入手する防災情報を「知る」ことから始まり、避難行動に向けた課題に「気づく」ことを促し、どのように行動するかを「考える」場面を創出することである。 ○マイ・タイムライン作成において、前提となる水害リスクを知るためのハザードマップの役割は重要であり、そのことを意識したハザードマップの検討を推進する必要がある。 ○高齢者や障害者など、災害時に一人で避難することが困難な人(避難行動要支援者)に対して、誰が支援するか、どこに避難するか、避難するときにどのような配慮が必要かなどについてあらかじめ記載した計画(個別避難計画)の作成が、市町村に努力義務化されている。 ○個別避難計画作成時においても、前提となる水害リスクを知るためのハザードマップの役割は重要であり、それを意識したハザードマップの検討を推進する必要がある。 (18ページ) 第3章 あらゆる主体のアクセシビリティを高めるために 3.1 アクセシビリティを高めるための議論の方向性 〇アクセシビリティを高める議論の背景 ・行政機関から公開されている報告書やガイドラインは、PDFデータ等のみファイル公開されていることが一般的であり、1)音声読み上げ対応がされていない 2)画像として図や表が張り付けられている場合の説明文や代替テキストがなく、記載されている情報内容が読み取れない 等の理由から、視覚障害者にとって、使いづらいものになっている。対応としては、別途テキストファイルを用意するなどの配慮が必要である。 ・Webページにおいても、1)Webページが多階層にわたっており認識が難しい、2)Webページの中にも図や表が説明文や代替テキストがなく張り付けられているため認識できない 等の視覚障害者にとって課題が多い状況である。 ・最近では、Webページにおいて少数ではあるが、表示画面上は図や表を多用しているが、代替テキストなどにより表示画面上では認識できないが、図や表の説明等を音声読み上げ対応している工夫もあり、同一のWebページにおいて、視覚障害者とそうでない方が同じように理解が進むように配慮しているものもあるが、まだまだ少数であり、自治体のWebページにおいてはさらに少数である。 ・いのちに関わる情報を提供しているハザードマップにアクセスできないことに不安を抱えている障害者は多い。  〇検討会では、「わかる・伝わる」を実現するために、様々な意見が出たが、大きくは以下の3つに大別される。  〇ハザードマップの地図面の充実   ①重ねるハザードマップの活用 居住している市町村の自然災害のリスクを知ることは重要であるが、それ以外の 場所、全国どこにおいても自然災害のリスクが「わかる・伝わる」ことが重要である。洪水のリスクだけをハザードマップで確認して、「水害の心配がある範囲ではない」と判断すると、内水氾濫や高潮などの浸水域だった、ということもあるため、想定される自然災害のリスクをもれなく確認する必要がある。通常、単独の市町村毎に作成されるハザードマップでは、隣接する市町村状況が把握できないことから、市町村境に居住する方等が、近傍の市町村にある避難場所や浸水しないエリアを知ることが可能となる。 ②市町村ハザードマップの標準化 ハザードマップは、住民のみならず当該地域に訪れる通勤・通学者、旅行者等にも「わかる・伝わる」ものとする必要があり、浸水深の閾値、配色等の最低限のルールはすべきである(水害ハザードマップ作成の手引きを参照)。 ③ICT技術の活用 今いる場所でどんな災害発生が想定されており、どのような被害が起こる可能性があるかを知るために、全国どこでも今いる場所の自然災害のリスクを確認できることが必要である。  〇ハザードマップの情報・学習編の充実   ①「わかる」ハザードマップの前提 地図面に記載されている自然災害のリスク情報を理解し、避難行動につなげるには、 ハザードマップを理解するための前提となる河川や水害に対する基本的な理解が不可欠である。水害発生の基本的なメカニズム(雨から氾濫発生までの流れ)等を「わかる」しかけが必要である。   ②「伝わる」ハザードマップの前提 地域における過去の水害発生の様子等を示すことで、洪水の特性や怖さなどが「伝わる」ことが重要である。 ③避難行動につながるハザードマップ 水害への理解を深めることで、個人の生活環境に即した避難行動を選択することに繋がる。避難行動の選択肢の提示にあたっては、避難場所への移動 or 垂直避難・屋内安全確保等は欠かせない。 ④「わかる・伝える」ハザードマップの実現 共通理解が必要な事項については、可能な限りわかりやすくかつシンプルなものとする。情報・学習編については、その内容について、市町村の裁量に任されている。全国標準化されることが望ましい事項について整理が必要である。  〇ハザードマップのアクセシビリティの向上   ①あらゆる主体のアクセス実現を意識 印刷物やICTを活用したハザードマップによる情報提供は、あらゆる主体がアクセスできることを根底に考える。 ②複数の手段による発信 ハザードマップの情報を伝える際の手段としては、デジタルは情報量を多く格納できる、紙は一覧性がある、点字や点図は表や図の情報を伝えるには一定のハードルがあるなど、それぞれの特徴があるため、組合せや使い方の議論が必要である。 ③情報・学習編のアクセシビリティ向上 ハザードマップのWebサイトのアクセシビリティを高めるために、音声読み上げソフトを利用することを前提としたWebサイトの構成とする必要がある。 ④地図面へのアクセシビリティ向上 ある地点の浸水可能性・深さを読み上げるなど、音声によるハザードマップ情報の発信を検討する。 ⑤複数の手段で発信 ハザードマップの形態については一つに縛られず、あらゆる主体が共に理解を促進するために複数の手段で周知することが理想である。 (21ページ) 3.2 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップ実現のための論点 3.2.1 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップの構成の論点 ①水害時に適切な避難行動を判断し、行動をとるためには、あらゆる主体がハザードマップの「地図面」と「情報・学習編」の両面の理解が必要である。 ②多様な情報が網羅的に含まれている既往のハザードマップを、あらゆる主体に対して、更に避難行動に直結した「わかる・伝わる」ハザードマップとするために、「地図面」・「情報・学習編」の記載内容を基に、順序立てた情報の受取り・判断が可能な構成案を提示する。      1.あらゆる主体にハザードマップが「わかる・伝わる」ための地図面の充実    (ハザードマップの「地図面」の充実)   2.あらゆる主体にハザードマップが「わかる・伝わる」ための情報・学習編の充実    (ハザードマップの「情報・学習編」の充実)   3.あらゆる主体にハザードマップが「わかる・伝わる」ための環境づくり    (アクセシビリティ対応) [図15:議論の方向性]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第3回 資料3より抜粋し一部改変 ハザードマップの「地図面」の充実】  重ねるハザードマップの活用   ①水害リスクを全国で切れ目なく「わかる」「伝わる」仕組みの充実   ②想定される水害リスクをもれなく確認する仕組みの充実   ③広域避難を想定したマップ活用  市町村ハザードマップの活用   ④浸水深さの閾値、配色等のルールの標準化  ICT技術の活用   ⑤今いる場所での想定災害リスクを即時的に確認する仕組みの開発 【ハザードマップの「情報・学習編」の充実】  「わかる」ハザードマップの前提   ①水害発生のメカニズム(雨から氾濫発生までの流れ)の理解  「伝える」ハザードマップの前提   ②洪水の怖さの理解  避難行動につながるハザードマップ   ③避難行動の選択肢の提示とその選択方法の提示  「わかる・伝える」ハザードマップの実現   ④シンプルでわかりやすい   ⑤全国標準化して伝えるべきことの整理 【アクセシビリティへの対応】  あらゆる主体のアクセス実現を意識   ①行政から発信される情報は、あらゆる主体がアクセスできるを根底に  複数のメディアによる発信   ②デジタル、紙、点字などを用いて、複数の方法で発信  情報・学習面のアクセシビリティ向上   ③音声読み上げに対応  地図面のアクセシビリティ向上   ④地点の浸水想定・深さの読み上げ  複数のツールで発信   ⑤1つの形式にとらわれないハザードマップ 【ハザードマップの「地図面」の充実】 【ハザードマップの「情報・学習編」の充実】 【アクセシビリティへの対応】  ↓めざす展開 あらゆる主体に「わかる」「伝わる」ハザードマップの実現 (22ページ) 3.2.2 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップの構成 ・ハザードマップは、地図面とその地図面を理解するための「情報・学習編」で構成されていることが一般的である。 ・ハザードマップは自分の居場所のリスクを確認し、水害時の適切な避難行動に役立てるために作成されている。 ・ハザードマップを理解するプロセスとしては、「情報・学習編」から1)「水害を知る」ための基礎知識を取得した上で、地図面を活用して2)「自分の居場所のリスクを知る」、3)「自分の居場所における適切な対応を知る」、という「リスクを確認する」流れとなる。 ・そのため、情報・学習編においては、地図面で「リスクを確認する」ために必要となる3つの理解「①水害を知る」「②リスクを知る」「③対応を知る」ということについて知識を習得することが求められる。 ・多様な情報が網羅的に含まれている既往のハザードマップを、あらゆる主体に対して、更に避難行動に直結した「わかる・伝わる」ハザードマップとするために、「地図面」・「情報・学習編」の記載内容を基に、順序立てた情報の受取り・判断が可能な構成案を提示する。 [図16:地図面と情報・学習編の構成案]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第3回 資料4より抜粋し一部改変 【ハザードマップ】 地図面  リスクを確認する   1)基礎知識:水害を知る   2)地図面を活用して自分の居場所のリスクを知る   3)地図面を活用して自分の居場所の対応を知る 情報・学習編  ①水害を知る   1.水害を意識する    ・国土の特徴    ・水害の可能性   2.現状を認識する    ・気候の変化    ・災害の頻発化  ↓  ②リスクを知る   3.自分の居場所の危険度を知る    ・水害の危険性    ・居場所のリスク   4.避難を考える    ・避難の方法    ・避難先の選定  ↓  ③対応を知る   5.行動に移す    ・避難のきっかけとなる情報   6.個人に応じた避難行動・避難生活    ・個人の特性に応じた避難行動    ・個人の特性に応じた避難生活 → ハザードマップは、水害時の適切な【避難行動の判断】に役立てるためにある (23ページ) 3.3 ハザードマップの「地図面」の充実 地図面においては、「情報・学習編」から「水害を知る」ための基礎知識を取得した上で、「自分の居場所のリスクを知る」、「自分の居場所における適切な対応を知る」、という「リスクを確認する」行動が期待される。 1) 地図面:リスクを確認する 地図面で「リスクを確認する」ためには、以下の3つの行動が必要となる。  1)「水害を知る」ための基礎知識を取得する  2)地図面を活用して「自分の居場所のリスクを知る」    今いる場所でどんな被害が起こるのかを知る    ・浸水の有無 ・浸水深、家屋倒壊の有無  3)地図面を活用して「自分の居場所における適切な対応を知る」    ・避難する場所や避難経路を知る    ・市町村が指定する避難場所 ・浸水しない場所 ・避難経路で危険な場所 水害の発生頻度の高い日本においては、あらゆる主体、すべての住民がこれら3つの行動をあらかじめ取ることが望ましいが、1.3.1に示したようにハザードマップを確認していない人も多い。また、居住地以外の旅行先や出張先において、その市町村毎のハザードマップを確認することにはハードルがある。そのような場合には、日本全国どこにいても、必要最低限、自分の居場所のリスクを確認できるしかけが必要である (24ページ) 2) 必要最低限伝えるべき「地図面」の基本的な考え方 ①誰でも・簡単に・どこでも今いる場所の自然災害のリスクを確認することができるように、各地方公共団体のリスクを重ねて閲覧できるWeb地図サイトである「重ねるハザードマップ」を活用すれば、全国の災害リスク情報を確認することができる。(ただし、地方公共団体等から最新データの提供を受けて確認・反映するために一定の期間が必要で、情報の掲載にタイムラグが生じるため、公式な情報である市町村のハザードマップを確認することも必要である。) ②住所入力の操作のみで、該当箇所のリスクを音声もしくはテキスト情報で提示することにより、あらゆる主体へのアクセシビリティを高めることを目指し、現在改良中(令和5年3月時点)。 [画像:Webアクセシビリティの改良イメージ] 重要な情報にスムーズにアクセスできるようレイアウト変更 住所入力の他、現在地検索により地図画面に移動し、災害危険度を表示  ・読み上げ機能への対応を意識したシンプルな構造  ・テキスト情報だけで構成や内容が把握できるよう工夫  ・多くの人に理解できるよう、平易な言葉遣いを使用  ・画像ファイルには代替テキストを表示する [図17:重ねるハザードマップの改良イメージ]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第5回 資料2より抜粋し一部改変 ○住所を入力後、または現在地を検索後に遷移する地図画面では、その地点の自然災害の危険性、浸水深の凡例等を自動的に表示。 ○音声読み上げソフトを使用した際に優先的に災害リスクが読み上げられるよう表示形式を工夫 ○災害時にとるべき行動(立退き避難、屋内安全確保)が分かるようコメントを色分けして表示 ○令和5年度出水期までの実装を目指す [PC版サイトイメージ、スマホ版サイトイメージ] (25ページ) 3.4 ハザードマップの「情報・学習編」の充実 3.4.1 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップ(情報・学習編)の構成  情報・学習編では、「水害を知る」・「リスクを知る」・「対応を知る」という事項について整理することが重要である。  1) 水害を知る   「水害を知る」上で必要な要素を以下に列記する。    ①水害を意識すること     ・国土の特徴 ・水害の可能性    ②現状を認識すること     ・気候の変化 ・災害の頻発化  2) リスクを知る   「リスクを知る」上で必要な要素を以下に列記する。    ①自分の居場所の危険度を知ること     ・水害の危険性 ・居場所のリスク    ②避難を考えること     ・避難の方法  ・避難先の選定  3) 対応を知る   「対応を知る」上で必要な要素を以下に列記する。    ①避難のきっかけについて知ること     ・避難のきっかけとなる情報    ②個人に応じた避難行動・避難生活について知ること     ・個人の特性に応じた避難行動  ・個人の特性に応じた避難生活 [図18:情報・学習編の構成案]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料3より抜粋し一部改変 地図面 ←「地図面」と「情報・学習編」の両面の理解により避難行動に直結する→ 情報・学習編 情報・学習編  【水害を知る】   1 水害を意識する    ・国土の特徴    ・水害の可能性   2 現状を認識する    ・これまでの対策    ・気候の変化    ・災害の頻発化    ・これからの対策  【リスクを知る】   3 自分の居場所の危険度を知る    ・水害のリスク    ・居場所のリスク   4 避難方法を考える    ・避難の方法    ・避難場所の選定  【対応を知る】   5 行動に移す    ・避難のきっかけ   6 個人に応じた避難・避難生活    ・個人の特性に応じた避難行動    ・個人の特性に応じた避難生活 (27ページ) 3.4.2 必要最低限伝えるべき情報・学習編の基本的な考え方 ・「地図面」と「情報・学習編」の両面の理解により避難行動に直結する。 ・「情報・学習編」コンテンツを標準的な情報で整理・作成しWeb公開することで、市町村の情報発信内容のバラつきを補完し、ハザードマップ作成の負担軽減に寄与する。また、読み上げ対応の仕様により、あらゆる主体へのアクセシビリティを高める。 ・文章案は、「水害を知る」「リスクを知る」「対応を知る」の構成に対して、特に重要な情報については優先度を高めて掲載することを念頭に、できる限り端的に説明する文章を構築。 ・文章案作成の基本的な考え方は以下のとおり。なお、基本的な考え方を基に作成した標準となる文章案を次頁に提示する。 1.あらゆる人に、「災害発生前にしっかり勉強する場面」において、いのちを守るための行動についてわかるようになるよう、ポイントを絞った解説文を掲載する 2.解説文は、文章だけで理解できるよう、端的な文章に努める 3.市町村のハザードマップや内閣府、気象庁等の公的機関に記載されている内容を参考に解説文を検討 ・「水害を知る」「リスクを知る」「対応を知る」の構成に対して、特に重要な情報を取捨選択して掲載 [ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料3より抜粋し一部改変] (28ページ) [表1:ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会が推奨する洪水ハザードマップの情報・学習編に記載すべき事項(共通)] (以下、構成、解説文案の順に記載) 【水害を知る】  ○水害を意識する   ・国土の特徴    (解説文案)日本は水害・土砂災害が多発する特徴を持った国です。   ・水害の可能性    (解説文案)いつどこで水害が発生するかわからず、あなたも他人事ではありません。  ○現状を認識する   ・これまでの対策    (解説文案)これまでの河川整備で水害に対する安全度は高まっています。   ・気候の変化    (解説文案)しかし、気候変動のため雨の降り方が激しくなっており   ・災害の頻発化    (解説文案)全国で水害が頻発化しています。   ・これからの対策    (解説文案)大規模な豪雨に対しては避難対策が命を守るカギです 【リスクを知る】  ○自分の居場所の危険度を知る   ・水害の危険性    (解説文案)水害の一般的な発生パターンとその怖さを知りましょう。   ・居場所のリスク    (解説文案)あなたの居場所は、次のどれですか。          A.家屋倒壊等氾濫想定区域 家が流されるかもしれません。          B.浸水想定区域 家の中まで水につかるかもしれません          C.浸水が想定されていない区域  ○避難を考える   ・避難の方法    (解説文案)あなたの居場所によって避難方法は異なります。          A.家屋倒壊等氾濫想定区域内の場合は、立退き避難が必要です。          B.浸水想定区域内の場合は、立退き避難が必要です。ただし、想定される浸水の深さより高い場所で、水が引くまで我慢でき、水、食糧などの備えが十分であれば屋内で安全確保することも可能です。   ・避難先の選定    (解説文案)立退き避難には、以下の避難先が考えられます。          1.行政が指定した避難場所          2.安全な親戚・知人宅/安全なホテル・旅館等の自主的な避難先 【対応を知る】  ○行動に移す   ・避難のきっかけ    (解説文案)避難のきっかけとなる3つの情報を意識してください。          (1)気象情報 (2)河川情報 (3)市町村から発令される避難情報          (1)気象情報には、以下の3つの情報があります。           ①注意報は、災害が発生するおそれのあるときに発表されます。              ②警報は、重大な災害が発生するおそれのあるときに発表されます。           ③特別警報は、重大な災害が発生するおそれが著しく高まっているときに発表されます。          (2)河川情報には、以下の4つの情報があります。           ①氾濫注意情報は、氾濫の発生に注意を求めるときに発表されます。           ②氾濫警戒情報は、避難準備などの氾濫発生に対する警戒を求めるときに発表されます。           ③氾濫危険情報は、いつ氾濫してもおかしくない状態のときに発表されます。           ④氾濫発生情報は、すでに氾濫が発生しており、氾濫水への警戒を求めるときに発表されます。          (3)市町村から発令される避難情報には、以下の3つの警戒レベルがあります。           ①警戒レベル3の高齢者等避難は、高齢者や障害者等が危険な場所から避難することを促す情報です。           ②警戒レベル4の避難指示は、対象地域の全員が危険な場所から避難することを促す情報です。           ③警戒レベル5の緊急安全確保は、命の危険があり、直ちに安全確保することを促す情報です。   ○個人に応じた避難行動・避難生活   ・個人の特性に応じた避難    (解説文案)個人の状況に応じて適切な避難を考え、3つの準備をしましょう。          1. 避難の方法・避難先を決める          2. どうやって移動するかを考える 3. 支援者を探す          いつどこへだれと避難するか整理し、訓練しましょう          1.自分や家族で、マイ・タイムラインをつくる          2.市町村や地域と訓練を行い、避難経路の検証を行いましょう   ・個人の特性に応じた避難生活    (解説文案)個人の状況に応じて、避難行動後の避難生活を考え、2つについて考えましょう。          1.避難先で生活できるのか 2.自分にとって必要なものは何か (29ページ) [表2:ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会が推奨する洪水ハザードマップ情報・学習編に記載すべき事項(地域特性)] (以下、構成、解説文案の順に記載) 【水害を知る】  ○水害を意識する   ・河川    (解説文案)     (一級河川の場合)●●川は、規模も大きく、洪水等による災害が発生した場合の被害が大きくなります。     (二級河川の場合)●●川は、 規模も大きく、洪水等による災害が発生した場合の被害が大きくなります。     (準用河川の場合)●●川は、規模は小さいが、限定的な地域に甚大な被害を及ぼす可能性があります。     ●●市/町/村は、多くの河川に囲まれています。●●市/町/村を流れる●●川だけでなく、●●川など離れた河川からも氾濫した水が流れてきます。   ・土地    (解説文案)市の北東部は比較的土地が高く、南西部は土地が低くなっています。          周囲の土地より低い●●地域では、浸水が深くなる傾向があります。          地域には土地の高い低い場所が混在化しています。   ・過去    (解説文案)     ●●年に●●水害が発生し、●●の被害がでました。 (最近水害がない地域の場合)河川整備が進み、水害の発生が抑えられてきましたが、昨今の地球温暖化の影響で、また同じような水害が起こらないともいえません。     (過去にも目立った水害がない地域の場合)これまで目立った水害は発生していませんが、昨今の地球温暖化の影響で、水害が起こらないともいえません。     (最近水害があった地域の場合)●●年に経験したように、地球温暖化の影響で、また同じような水害が起こらないともいえません。 【リスクを知る】  ○自分の居場所の危険度を知る    (解説文案)     河川の水位情報は、●●市/町/村のホームページやテレビ、国土交通省の川の防災情報や気象庁ホームページなどから入手できます。     大雨の時は、水位を確認し、自分の居場所の危険度を知り、避難行動を開始する目安を確認しましょう。  ○避難を考える    (解説文案)     水害に対しては、避難場所を●●箇所、避難場所兼避難所を●●箇所、事前に指定していますが、全ての市/町/村 民を受け入れることは困難です。立退き避難先、屋内避難先は事前に確保しておきましょう。     早い段階で安全な場所へ避難することが大原則ですが、逃げ遅れてしまった場合には、近くの高い建物など最も安全と思われる場所で身を守りましょう。     いざという時に慌てず行動できるように、普段から水害時のとるべき行動を考えておくことが大切です。どのタイミングでどこに避難するのかを整理するマイ・タイムラインを作成しましょう。●●市/町/村では、「マイ・タイムライン」作りを支援しています。ご自身で作成が難しければ●●担当まで連絡ください。 【対応を知る】  ○避難のきっかけ    (解説文案)     ●●市/町/村では、水害の危険性があるときは、避難情報を警戒レベル3?5に整理して発令します。     ●●(防災行政無線/エリアメール等)でお知らせしますので、避難の目安としてください     ただし、早めの避難が重要ですので、●●市/町/村からの情報を待つことなく、行動してください (30ページ) 3.5 アクセシビリティの対応 3.5.1 アクセシビリティについて ・アクセシビリティを向上させることは、誰一人取り残さない社会の実現において前提とすべき事項であり、アクセシビリティ対応を行うことで、あらゆる主体が必要な情報にアクセスできる。また、普段使っているデバイス(スマートフォンやパソコン)を活用し、インターネットを通じた行政サービスを円滑に利用できる環境整備の実現が喫緊の課題である。 ・本検討会では、あらゆる主体に対し、その年齢や能力の違いに関わらず、可能な限り最大限に使いやすい製品や環境のデザインを向上させることを目的として、ハザードマップのアクセシビリティ向上を議論した。特に、防災や災害の情報など命にかかわる情報のアクセシビリティの向上は必須である。 ・インターネットの普及により、健常者と同様に高齢者や障害者にとってWebページ等は重要な情報源となっている ・多くの市町村が、Webページにおいて、ハザードマップを公開している。その点は情報公開の面からも情報発信の面からも、効果的である ・ところが、多くの市町村においては、あらゆる主体のWebアクセシビリティへの配慮は未だ十分でない ・市町村がハザードマップの地図面や情報・学習編を画像PDF(スキャナーでスキャンしたもの等)のみで掲載している事例は多いため、視覚障害者がリスク情報を得ることができない。なぜなら、画像は、特別な説明文を埋め込まない限り、そのままでは音声読み上げソフトが使用できず、障害者にとってはアクセスできないものとなっているからである。 ・情報を提供する側が、Webアクセシビリティに配慮して適切に対応をしていないと、高齢者や障害者が、ホームページ等から情報を取得できない、Web上の手続きができないという問題が発生する。ひいては社会生活で多大な不利益が発生する。万が一、災害時等に必要な情報が届かない状況となれば、生命の危機に直面する恐れがある。 3.5.2 Webアクセシビリティの現状 1) 標準化の流れについて(国際的な現状) ・Webサイトのアクセシビリティ対応に関する基準には、W3C(World Wide Web Consortium)勧告されたWCAG 2.0、国際規格の ISO/IEC 40500:2004、国内独自のウェブアクセシビリティの規格であるJIS X 8341-3:2016の3つがあったが、JIS X 8341-3:2010でWCAG2.0とほぼ同一になり、JIS X 8341-3:2016でWCAG2.0と一致規格になった。 ・公的機関がウェブアクセシビリティ確保・維持・向上に取り組む際の取組の支援を目的として作成された手順書は、総務省が公開している「みんなの公共サイト運用ガイドライン」がある。  参考URL: https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/guideline.html ・この中で、達成すべきウェブアクセシビリティの基準を「JIS X 8341-3:2016 適合レベルAA」としている。 ・ウェブアクセシビリティ基盤委員会は、JIS X 8341-3:2016に適合したことを証明するための独自の方法・ドキュメントを公開している。 ・ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン  参考URL: https://waic.jp/docs/jis2016/compliance-guidelines/202104/ ・ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン  参考URL: https://waic.jp/docs/jis2016/accessibility-plan-guidelines/202112/ ・JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン  参考URL: https://waic.jp/docs/jis2016/test-guidelines/202012/ ・ウェブアクセシビリティを担保されるような要件を調達仕様書などに盛り込むためのガイドラインとして「JIS X 8341-3:2016 対応発注ガイドライン」を公開している。  参考URL: https://waic.jp/docs/jis2016/order-guidelines/201604/ [図19:Webアクセシビリティに関する基準とガイドライン]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料2より抜粋し一部改変 Webサイトのアクセシビリティ対応に関する基準  Webサイトのアクセシビリティ対応に関する基準には、W3C(※1)勧告(※2)されたWCAG2.0、国際規格のISO/KEC 40500:2012、国内規格のJIS 8341-3:2016の3つがあるが、2016年に全て技術的に同じ内容になり、一致規格となった。  (※1)Wold Wide Web Consortiumの略。  (※2)国際的に十分な信頼性があると認められた技術文書が完成したこと Webアクセシビリティにおける参考となるガイドライン 名称:JIS X 8341-3:2016対応度表記ガイドライン  概要:『JIS X 8341-3:2016』への適合の表明が困難な場合においても、ウェブコンテンツが『JIS X 8341-3:2016』にどのように対応しているかを表記するための方法として定めたもの 名称:ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン  概要:ウェブコンテンツ(ウェブアプリケーションを含む)のウェブアクセシビリティ方針を作成する際に、文書に明記すべき事項を示すためのもの 名称:JIS X 8341-3:2016試験実施ガイドライン  概要:JIS X 8341-3:2016 の「附属書JB(参考)試験方法」に基づく試験を行う際に、どのように理解して実施すればよいかを補足するためのもの 名称:JIS X 8341-3:2016 対応発注ガイドライン  概要:JIS X 8341-3に対応したウェブコンテンツ制作を制作会社等に外注する際、調達仕様書、提案依頼書などの書面に明記すべき事項を示すためのもの (32ページ) 2) 障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法(我が国の現状)  ・令和4年5月に「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」が施行され、障害者による情報の取得利用・意思疎通に係わる施策を総合的に推進することとなった。   参考URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jouhousyutoku.html [図20:障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の概要]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料2より抜粋 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法) 令和4年5月施行 【目的(1条)】 全ての障害者が、あらゆる分野の活動に参加するためには、情報の十分は取得利用・円滑な意思疎通が極めて重要  ↓ 障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策を総合的に推進し、共生社会の実現に資する 【基本理念(3条)】 障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策の推進に当たり旨とすべき事項  ①障害の種類・程度に応じた手段を選択できるようにする  ②日常生活・社会生活を営んでいる地域にかかわらず等しく情報取得等ができるようにする  ③障害者でない者と同一内容の情報を同一時点において取得できるようにする  ④高度情報通信ネットワークの利用・情報通信技術の活用を通じて行う(デジタル社会) 【関係者の責務・連携協力・意見の尊重(4条~8条)】 ・国・地方公共団体の責務等(4条) ・事業者の責務(5条) ・国民の責務(6条) ・国・地方公共団体・事業者等の相互の連携協力(7条) ・障害者等の意見の尊重(8条) 【基本的施策(11条~16条)】※国・地方公共団体の取組 ・障害者による情報取得等に資する機器等(11条)  障害者・介助者への情報提供・入手支援、利用方法取得のための取組(居宅支援・講習会・相談対応等) ・防災・防犯及び緊急の通報(12条)  障害の種類・程度に応じた迅速・確実な情報取得のための体制の整備充実、設備・機器の設置の推進  等 (33ページ) 3) みんなの公共運用サイトガイドライン(我が国の現状) ・「みんなの公共サイト運用ガイドライン」は、国及び地方公共団体等の公的機関のホームページ等が、高齢者や障害者を含む誰もが利用しやすいものとなるように、公的機関によるウェブアクセシビリティの確保・維持・向上の取組を支援することを目的として作成された手順書である。 参考URL: https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/guideline.html [図21:「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の位置づけ]総務省HP https://www.soumu.go.jp/main_content/000428057.pdfより抜粋 「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の位置づけ 〇「みんなの公共サイト運用ガイドライン」とは  ウェブアクセシビリティ(高齢者や障害者を含め、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できること)の維持・向上に向けた公的機関の取組を支援することを目的にした手順書 〇ウェブアクセシビリティに関する問題事例 ? 避難所等の情報や地図が画像PDF(スキャナーでスキャンしたもの等)のみで掲載され、音声読み上げソフトが使用できず、視覚障害者が避難情報を得られない。 ? 知事の会見の模様が動画のみで掲載され、字幕や会見録がないため、聴覚障害者が内容を把握できない。 ? 背景と文字のコントラスト比が確保されておらず、高齢者や色覚障害者等が判読できない。 〇ウェブアクセシビリティに関する法令等 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 2016年4月施行 ・ウェブアクセシビリティは、「合理的な配慮を的確に行うための環境の整備」の一環と位置付けられ、事前的改善措置として計画的な推進が求められている。 JIS X 8341-3(ウェブアクセシビリティに関する日本工業規格)2016年3月改正 ・ウェブアクセシビリティを確保するための61項目の達成基準は、A(最低レベル)、AA、AAA(最高レベル)の3つの適合レベルに分類。 みんなの公共サイト運用ガイドライン 総務省 2016年4月改定 ・公的機関におけるウェブアクセシビリティの維持・向上に向けた取組の支援を目的とした手順書。2017年度末までにJIS X 8341-3の適合レベルAAに準拠することが目標。 (34ページ) 3.5.3 ハザードマップにおけるアクセシビリティ  ハザードマップのアクセシビリティについての委員からの意見を以下に示す。 1)アクセシビリティについて ・「アクセシビリティの向上」とは、より多くのユーザーがより多くの利用環境からより多くの場面や状況でコンテンツを使えるようにすること。 ・Webアクセシビリティだけでなく、当事者が水害を体感・体験等できるようなアクセシビリティの向上が大切である。 ・より多くのユーザーがより多くの利用環境からより多くの場面や状況でハザードマップの利活用を促進するために、2つの方向性で議論を進めた。 ・水害を体感・体験等できるようなアクセシビリティの向上 ・電子媒体によりハザードマップを利活用するためのWebアクセシビリティの向上 ・ハザードマップのアクセシビリティについて、各委員から多角的な意見がでた。  以下にカテゴリー別に意見を示す。 (ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料2より抜粋) 【ユニバーサルデザイン】 ・カラー、文字、イラスト、コントラスト等に配慮した紙面のユニバーサルデザイン化が必要である。 ・カラーユニバーサルデザインについては、地図面は対応していくことが必要。 ・フォントについては、ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)を使用することが望ましい。 【紙媒体】 ・印刷物には、配色やフォント、コントラストなどについて、しっかりと定義づけすることは弱視の方には役立つものとなる。 【〇〇とICT】 ・ICTはデバイスありきのため、その代替手段として紙は必要である。 ・ICTの種類や障害の種類によっては、一部の方は使用できないということもあるため、人的支援とICTの両輪で考えていく必要がある。 ・ ICTは、特にアクセシビリティが重要である。 【QRコードの可能性】 ・紙面のハザードマップからQRコードにより必要な情報に導くことも視覚障害者には有効である。 ・印刷物には、QRコードを付けることで、視覚障害者は情報が更に取得しやすくなるために、必須事項とすべき。印刷物はなかなか改変することはできないかもしれないが、QRコードで到達する情報は必要に応じて改変でき、タイムリーな情報を提供できるというメリットもある。なお、QRコードの到達先は、ホームページなどの形態で、アクセシビリティが確保されたものになっている必要がある。 【国・地方公共団体HP】 ・地方公共団体のHPそのものはWebアクセシビリティの規格に準拠することとなっているため、従来通りWebアクセシビリティに対応していくことで良いと考えている ・視覚障害者と周囲の人達とをつなげる工夫が重要である。そのために、ハザードマップには視覚障害者目線で情報を記載すべきか、それとも、周囲の方に視覚障害のある方々のことを気づいてもらうような内容を記載すべきなのかは判断が難しい。 ・「重ねるハザードマップ」などの国が運営しているサイトについても、さまざまな方に対応したWebアクセシビリティ対応をしていくことも重要である。 【オープンデータ】  ・浸水想定区域図の作成対象河川が増える中、速やかにそれらに対応したハザードマップを作成・公表するためには、基礎となる浸水想定区域の「データ」の正確性の担保と一元的な管理が重要である。その体制や環境が整えば、データの速やかな活用が実現し、ハザードマップの民間活用が加速化され、活用事業者の創意工夫と切磋琢磨によって、さまざまな利用者に対して活用場面を増やすことで、使いやすいハザードマップを届けることが可能になると考える。 【標準化】 ・「Webアクセシビリティ規格(JIS X 8341-3:2016)は、全部でチェック項目が61あり、以下の3段階のレベルで評価される。  1)レベルA(25項目):シングルエー(読み方)   最低限の基準。この基準を達成していないと、ホームページを閲覧できない人が存在しうる。  2)レベルAA(13項目):ダブルエー(読み方)   望ましい基準。この基準を達成していないと、ホームページの閲覧が困難な場合がある。  3)レベルAAA(23項目):トリプルエー(読み方)   発展的な基準。この基準を満たすと、よりホームページが閲覧しやすくなる。 ・総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」によれば、自治体のWebページ等は公共性が高いため、レベルAAに準拠することとしている。ハザードマップをWebページにより提供する場合は、いのちにかかわる非常に重要な情報であるため、レベルAA以上を目指すべきである。 【スクリプト化】 ・スクリプト(動画の内容を説明したもの)をダウンロード可能としておくことが重要である。 ・画像や動画には字幕や副音声、手話等をつけることが望ましい。 【点字】 ・点字の活用は視覚障害者にとって、非常に重要な対応である。一方で、視覚障害者の中でも点字の触読が困難な方もおり、対応について配慮する必要がある。 【拡大文字】 ・視覚障害者のうち弱視の方の中には、ルーペや拡大鏡の機能を使って文字やウェブサイトを読む場合があるため、ユーザー自らが文字サイズやコントラストを変更できるような対応は必要である。 ・ウェブサイト側でフォントや文字サイズを指定するとユーザー側で変更できないため、少なくともユーザーが自分で文字を拡大できるような対応が重要である。 ・画像は拡大できないため、見やすい書体や大きさに配慮が必要である。 ・その他、印刷物や写真などについても拡大したり背景と文字色のコントラストを強調したりする拡大読書器等があり、情報発信の際、そのような機器への対応を意識することが重要である。 【音声読み上げ】  ・OSによって音声を読み上げる機能もかなり充実してきている。  ・地図にはテキストデータも読み込めるため、スクリーンリーダー等で音声で読み上げることもできる。 【副音声】  ・テレビで流れる音声の中で、副音声は視覚障害者にとってわかりやすい提供方法である。  ・画像や動画には字幕や副音声、手話等をつけることが望ましい。 【ソフトウェア】  ・パソコン画面の情報を音声で読み上げる画面読上げソフト、パソコン画面の情報を拡大する画面拡大ソフト、スキャナで印刷物や写真などを読み込ませて文字情報を音声で読み上げたり、拡大読書器と同じように文字を拡大したりするなどの機能を併せ持つ活字音訳・拡大読書ソフトなどがある。 【避難経路の言語化】  ・地図面の音声対応については難しいこともあるため、例えば、避難経路の言語化をし、最低限押さえておく必要がある部分をガイドラインに掲載することも重要ではないか。 【言葉の使い方】  ・「補助手段」といった表現で、補助的に障害のある人達を扱うような考えはやめるべきである。ただし、印刷物やICTだけで、全ての障害のある人達への情報提供を解決することはできないため、「代替手段」という考えに変える必要がある。  ・「事前想定の可視化」という表現は、目に見えることを示すため、視覚に障害のある方が除外されているように捉えられるため、誤解がないように、「事前想定の具現化」などの表現に変更することが良い。 【機会均等】  ・障害のある人達が、障害の無い人達と同じように情報を提供されることが非常に重要な課題であることを、認識する必要がある。  ・印刷物やICTを活用したハザードマップによる情報提供にあたっては、全ての障害のある人達がアクセスできることを根底に考えておく必要がある。 【活用場面】  ・「図書館での展開」:点字図書館での展開や、サピエ図書館や国立国会図書館等の視覚障害者の情報が集まる場所にも情報をとりそろえることも重要である。 【リスクコミュニケーション】  ・リスクコミュニケーションの視点は重要である。例として、大学生が小学生の避難計画を一緒に作成するという研究もされている。  ・特別支援学校で:誰もがわかるハザードマップを作成している事例がある。生徒が考え、避難経路や防災意識を高めるための教材を生徒自身が作っている。  ・視覚障害者に水害について学ぶには、防災館などで水害を疑似体験・体感できるような方法が有効ではないか。 【その他】  ・盲導犬の情報もまとめると良い。  ・「加工可能な白地図等の提供」:市町村では自ら加工することが可能なもの(白地図や3次元データ等)を提供していく方向性が良いのではないかと考えている。 (38ページ) 2)アクセシビリティに関する先進事例の紹介  ①視覚障害のある中学部の生徒自らが、誰もが分かる防災マップとして、触地図形式の防災マップを作成した事例 <広島県立広島中央特別支援学校> 【主な特徴】  ・視覚障害のある中学部の生徒自らが、誰もが分かる防災マップとして、触地図形式の防災マップを作成した。  ・視覚障害者自身の視点で作成された防災マップは、小学部の生徒も含め校内全体に発信され、あらゆる生徒に対し、水害リスクおよび避難場所についての情報が提供された。  ・生徒自らが防災マップの情報を読み取りながら最適な避難場所を考察し、実際に現地を歩くことで妥当性の検証を行った。 [図22:視覚障害のある生徒自らが作成した「誰もが分かる防災マップ」の事例]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料2より抜粋 視覚障害のある生徒自らが作成した「誰もが分かる防災マップ」(広島県立広島中央特別支援学校) 【特徴】  ・視覚障害のある中学部の生徒自らが、誰もが分かる防災マップとして、触地図形式の防災マップを作成した。  ・視覚障害者自身の視点で作成された防災マップは、小学部の生徒も含め校内全体に発信され、あらゆる生徒に対し、水害リスクおよび避難所についての情報を提供した。  (工夫した点)   道路は紙やすりでアスファルトを再現   河川・水路はセロファン紙で再現   建物は地図記号の立体シールと点字を添付   水害・土砂被害予測範囲は二ので表現  ・生徒自らが防災マップの情報を読み取りながら最適な避難場所を考察し、実際に現地を歩くことで妥当性の検証を行った。 (39ページ) ②視覚障害者が暴風体験など全身で災害を疑似体験した事例 <東京都盲人福祉協会> 【主な特徴】  ・東京都盲人福祉協会では、視覚障害者にとって物理的、精神的にもバリアのない社会、すなわち障害者が障害を意識せず暮らすことが出来る社会の実現を目指し、視覚障害者が様々な取り組みを体感できる環境を提供している。  ・台風シーズンには、防災体験ツアーや暴風体験といった災害疑似体験に参加する等、全身で体感・理解することで視覚障害者の理解を促進している。  ・全身を覆うレインコートを着て、風速30メートルの風と、50ミリの雨に1分間耐える体験、水圧がかかっているドアの開放体験などを行っている。 [図23:視覚障害者が暴風体験など全身で災害を疑似体験した事例]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料2より抜粋 全身で体感・理解する災害疑似体験の提供(東京都盲人福祉協会) 【特徴】  ・東京都盲人福祉協会では、視覚障害者にとって物理的、精神的にもバリアのない社会、すなわち障害者が障害を意識せず暮らすことが出来る社会の実現を目指し、視覚障害者が様々な取り組みを体感できる環境を提供している。  ・防災関連にも力を入れており、台風シーズンには、防災体験ツアーや防風体験といった災害疑似体験に参加する等、全身で体感・理解することで視覚障害者のアクセシビリティを向上している。  ・具体的には、全身を覆うレインコートを着て、風速30メートルの風と、50ミリの雨に1分間耐える体験、水圧がかかっているドアの開放体験などを行っている。  ・本福祉協会では、障害のある人たちがいざ被災した時にどう対処すべきか?助け合える和の構築を目指し、活動している。 [写真:暴風雨体験(東京消防庁 本所防災館)] [写真:ドア開放体験(東京消防庁 本所防災館)] (40ページ) ③大学における障害のある学生を対象とした防災に関するワークショップの事例<京都大学 学生総合支援機構 障害学生支援部門> 【主な特徴】  ・多くの大学では、避難計画や避難に関するマニュアルの中に障害者に関する記述はほとんどないというのが実情であり、個別の避難計画書づくりや避難訓練は行われていない。  ・上記のような課題を背景に、障害のある学生(車いす利用の学生、全盲の学生、聴覚障害のある学生)を対象とした災害時の避難行動を考えるワークショップを実施している。  ・大学という組織としての対応を検討していくことに加えて、障害のある学生らが自らのことを知り、必要な支援を周囲の方に発信していくことができるきっかけとなるような内容を目指す。  ・障害のある学生らが中心となり、災害時の避難行動を考えることの重要性や、周囲の方が気付いたことを本人と話し合うことで、避難時に危険となる点やその回避方法など、様々な気づきが生まれている。 [図24:大学における障害のある学生を対象とした防災に関するワークショップの事例] 大学における障害のある学生を対象とした防災に関するワークショップ(京都大学 学生総合支援機構 障害学生支援部門) 【特 徴】 ・多くの大学では、避難計画や避難に関するマニュアルの中に障害者に関する記述はほとんどないというのが実情であり、個別の避難計画書づくりや避難訓練は行われていない。 ・上記のような課題を背景に、障害のある学生(車いす利用の学生、全盲の学生、聴覚障害のある学生)を対象とした災害時の避難行動を考えるワークショップを実施している。 ・大学という組織としての対応を検討していくことに加えて、障害のある学生らが自らのことを知り、必要な支援を周囲の方に発信していくことができるきっかけとなるような内容を目指す。 ・障害のある学生らが中心となり、災害時の避難行動を考えることの重要性や、周囲の方が気付いたことを本人と話し合うことで、避難時に危険となる点やその回避方法など、様々な気づきが生まれている。 [写真:地図で大学内の避難経路を確認している様子] [写真:白杖で避難経路である廊下の継ぎ目の位置を確認] (41ページ) ④障害学生等の災害時対応ハンドブックの作成事例<立命館大学 障害学生支援室> 【主な特徴】  ・障害学生等が、大学内で災害に遭ったとき、慌てず安全に避難を行うためには、どのような支援が必要か、みんなで考えるためのツールとして本ガイドブックを作成。  ・本ガイドブックには、個別避難計画書を作成するためのワークショップの実施方法や、記載フォーマット等が掲載され、障害学生に作成した個別避難計画書を常に携帯することを薦めている。  ・その他、ワークショップは、障害学生が自分のことを知らない人に支援してもらうためにはどのように伝えるべきかを考える機会となること、参加した人が災害時に支援が必要な学生が身近にいることを知る機会になること等、伝える場として機能する重要性について記載されている。 [図25:障害学生等の災害時対応ハンドブックの作成事例] 障害学生等の災害時対応ハンドブックの作成(立命館大学 障害学生支援室) 【特 徴】 ・障害学生等が、大学内で災害に遭ったとき、慌てず安全に避難を行うためには、どのような支援が必要か、みんなで考えるためのツールとして本ガイドブックを作成。 ・本ガイドブックには、個別避難計画書を作成するためのワークショップの実施方法や、記載フォーマット等が掲載され、障害学生に作成した個別避難計画書を常に携帯することを薦めている。 ・その他、ワークショップは、障害学生が自分のことを知らない人に支援してもらうためにはどのように伝えるべきかを考える機会となること、参加した人が災害時に支援が必要な学生が身近にいることを知る機会になること等、伝える場として機能する重要性について記載されている。 [写真:障害学生等の災害時対応ハンドブック] [写真:個別避難計画書のフォーマット及び作成事例] [写真:ワークショップの実施方法] (42ページ) 3)Webアクセシビリティに関する先進事例の紹介  ①音声認識しやすいよう文字のみのシングルページで構成されたWebサイトの事例 <公益財団法人広島市視覚障害者福祉協会HP> 【主な特徴】  ・音声認識しやすいように文字のみで構成されている。  ・1ページで完結しているシングルページで構成されているため、クリック操作をしなくても、全ての情報を取得できる構造となっている。  ・サイト上部に情報項目を記載していることで、知りたい内容の有無が最初に確認できる構成とされている。  ・行間・字間に余裕を持たせることにより、認識しやすい構成とされている [図26:音声認識しやすいように文字のみのシングルページで構成されたWebサイトの事例]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料2より抜粋 公益財団法人広島市視覚障害者福祉協会ホームページ 【参考サイトURL】  https://shisyokyo.jp/ (43ページ)  ②サイトの階層を深くせず、知りたい情報の有無を最初に確認しやすい構成、視覚障害者のリーディング機能に配慮したWebサイトの事例 <京都大学 学生総合支援機構 障害学生支援部門HP> 【主な特徴】  ・サイトの階層を深くしない。  ・知りたい内容の有無が最初に確認できるように、メニュー一覧を表示している。  ・ユーザーが不要なメニューは、カスタマイズできる機能を設置している。  ・認識しやすいように、文字のサイズの大小などでコンテンツを構成している。 [図 27サイトの階層を深くせず、知りたい情報の有無を最初に確認しやすいサイトの事例]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第4回 資料2より抜粋 京都大学 学生総合支援機構 障害学生支援部門ホームページ 【参考サイトURL】  https://www.assdr.kyoto-u.ac.jp/drc/ (44ページ)  ③あらゆる利用者のニーズに沿った工夫を施しているWebサイトの事例 <京都市HP> 【主な特徴】  ・やさしい日本語対応を実施している。  ・音声読み上げ対応を実施している。  ・JIS X 8341-3:2016の適合レベルAAAに一部準拠している。 [図28:あらゆる利用者のニーズに沿った工夫を施しているWebサイトの事例]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第3回 資料5より抜粋 上記に示したWeb ページでは、1)文字サイズを自由に変更できる、2)Webページの文字の色と背景色に配慮し、見やすい組み合わせとしている。弱視(ロービジョン)の対応として、上記2つが設定されているが、その他の対応についても紹介する。 文字サイズについては、多くの弱視(ロービジョン)の方々は、使用するデバイス(パソコンやスマートフォンなど)を各自の見やすさに応じた設定を行い、使用している例が多い。 よって、個別のWebページ上での文字サイズの変更機能は、他のWebサイトに移動した際に混乱し、弱視対応としては必要ない場合もあるため、留意が必要である。色や背景の変更機能についても、全体がぼやけたり、文字とのコントラストが壊れたりする場合もあるため、同様の注意が必要である。 (45ページ)  ④役所までのアクセスを視覚障害者への配慮として「言葉」で示しているWebサイトの事例 <江戸川区HP> 【主な特徴】  ・周辺の駅やバス停から区役所までのアクセスを地図と併用して、テキストで説明し、音声読み上げによるアクセスルートを複数用意している。  ・NPO法人の協力・支援により作成されている。  ・JIS X 8341-3:2016の適合レベルAAに一部準拠している。 [図29:役所までのアクセスを視覚障害者への配慮として「言葉」で示しているサイトの事例]ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 第3回 資料5より抜粋 (46ページ)  ⑤Webページ内で図によって情報発信されている箇所を音声読み上げする事例 <墨田区HP> 【主な特徴】 ・Webページの中で図を貼り付けている場合、音声読み上げソフトで読まれずにスキップされてしまう場合がある。 ・そこで、「alt属性」(画像の代わりとなるテキスト情報)設定を行うことで、図の中に書かれている情報についても漏らさず読み上げることができる。 ・「alt属性」についてはWeb内にソースコードを設定することで、実装可能になる(参考となるサイト:https://waic.jp/qa/map-alt/)。 [図30: Webページ内で図によって情報発信されている箇所を音声読み上げする事例] 墨田区ホームページ 【参考サイトURL】  https://www.city.sumida.lg.jp/anzen_anshin/bousai/suigai/suigai.html (47ページ) 3.5.4 新たなツールを活用したアクセシビリティの向上 1)ハザードマップのアクセスしやすい提供方法について  ハザードマップのアクセスしやすい提供方法の試行版として、新たな5つのツールを作成・改良した。5つの試行版は以下のとおり。  【試行版1】音声対応版「重ねるハザードマップ」   様々なリスク情報をWeb上で重ねて閲覧できる「重ねるハザードマップ」に音声読み上げ対応機能を付加するものである(現在、国土交通省が開発中)。住所入力または現在地確認ボタンの操作のみで、該当箇所の災害リスクと災害時にとるべき行動をテキスト情報で提示する機能を追加し、音声読み上げに対応する。 [図31:音声対応版の「重ねるハザードマップ」(テストサイト)] トップページイメージ  ・読み上げ機能への対応を意識したシンプルな構造  ・テキスト情報だけで構成や内容が把握できるよう工夫  ・多くの人に理解できるよう、平易な言葉遣いを使用  ・画像ファイルには代替テキストを表示する イメージ  ■トップページで住所を入力するだけで、その地点の自然災害の危険性が自動的に文章で表示  ・目の不自由な方でも音声読み上げソフトを利用することで災害リスクを認知できるようになる。  ・①「ハザードマップ」で検索、②住所を入力という2ステップで、誰でも簡単に全国の災害リスクと、災害発生のおそれがある時に取るべき行動を把握できるようになる。 「重ねるハザードマップ」は、様々な防災に役立つ情報を、全国どこでも1つの地図上に重ねて閲覧できるウェブサイトであり、各種災害種のハザードマップを閲覧することができる。 災害種別ごとに初期表示されるレイヤーは以下のとおり。 ・洪水:洪水浸水想定区域(想定最大規模、計画規模(現在の凡例)、計画規模(旧凡例))、浸水継続時間(想定最大規模)、家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流、河岸侵食)ため池決壊による浸水想定区域 ・土砂災害:土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊、土石流、地すべり)、土石流危険渓流、急傾斜地崩壊危険箇所、地すべり危険箇所、雪崩危険箇所 ・高潮:高潮浸水想定区域 ・津波:津波浸水想定 ・道路防災情報:道路冠水想定箇所、事前通行規制区間、予防的通行規制区間 ・地形分類:地形分類(自然地形) ・その他:航空写真、指定緊急避難場所 操作方法マニュアルは以下のサイトを参照されたい。 参考URL:https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/pamphlet/sousa2.pdf  【試行版2】情報・学習編Webサイト   本検討会で議論してきたハザードマップの「情報・学習編」をテキスト情報のみで整理し、音声出力に特化したテストサイト。 [図32:情報・学習編Webサイト(テストサイト)]  【試行版3】触地図   地域の地形の高低差、河道形状、浸水リスクなどのハザードマップ情報を視覚障害者の方にも指先の触覚で把握できるようにしたもの。地形は、凹凸で表現し、浸水範囲と家屋倒壊等氾濫想定区域を点字ブロックの模様を加工して表現した。 [図33:触地図] (49ページ)  【試行版4】チャットボット型ハザードマップ   スマートフォンにより、ユーザーのピンポイントな所在地の住所を入力するまたは位置情報(GPS)を読み取ることで、該当箇所の災害リスク情報と避難行動をチャットボット形式で提供するツール。音声での情報提供も可能。 [図34:チャットボット型ハザードマップ] (50ページ)  【試行版5】3Dマップ   国土交通省が主導する、3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」を活用し、建物単位で浸水情報を立体的に提供。 [図35:3Dマップ]  作成した試行版を、視覚障害者、聴覚障害者、特別支援学校の教員、健常者(専門学生・中学生・社会人)の方々が体験し、率直な感想等を聞く場として、ワーキング会議を開催した。 [図36:ワーキング会議の様子] 【概要】  ・開催日時:令和4年5月23日 15:00~17:00(2時間)  ・開催場所:大田区民プラザ会議室3階 【参加者】  ・視覚障害者:2名 →WGのコア対象者  ・特別支援学校の先生(小・中学生の知的障害):2名 →WGのコア対象者に平時から関りのある対象者  ・大学生(20代):3名 →WGのコア対象者との比較対象者  ・一般住民(30~50代):3名 →WGのコア対象者との比較対象者  ・オブザーバー:田村座長、柴田委員、三宅委員、奥寺委員 ※WEB参加:磯打委員、梶谷委員 【試行版】  Ⅰ.スマートフォンを活用したチャットボット(音声による読み上げ対応可)  Ⅱ.3Dマップ(PLATEAU)  Ⅲ.触地図 【会議の進め方】  ・3つの試行版について、各進行係がデモンストレーションを行った後に参加者が試行版を体験等し、意見交換を実施した [写真:視覚障害者が水害リスクの音声読み上げを聞く様子] [写真:大学生が3Dマップで水害リスクを確認している様子] (51ページ) 2)ハザードマップの様々な情報発信方法に関する対応方針 ワーキング会議において、視覚障害者等から頂いた率直な感想や意見を参考に、ハザードマップの様々な情報発信方法に関する対応方針について議論した。以下に、委員の意見を列記する。 ・紙媒体やICTを活用したハザードマップによる情報提供にあたっては、全ての障害のある人達がアクセスできることを根底に考えておく必要がある。 ・ユーザーがどのようなハザードマップの提供方法を求められているか、もしくは普段から使用している情報媒体は何かを確認することが必要である。 ・行政側で一方的に作成して公表するのではなく、ユーザーと一緒に意見交換し、当事者とリスクコミュニケーションを図りながらハザードマップを作成していくような形をとることが大切である。 ・紙媒体、ICT、触地図といった複数の情報発信方法によるハザードマップは、単独で完結せずに、相互にシームレスにつながる工夫が必要である。 ・紙媒体やICT、触地図といった伝達手段には、それぞれの特性に応じて提供しやすい情報があるといったことを作成側は理解することが必要である。 ・多くの市町村では、ホームページにおいてハザードマップをPDFデータとして提供しているが、音声出力できない形式であるため、音声出力できる形でホームページで提供するなど、当事者の状況に応じてカスタマイズして情報取得できることが必要である。 ・提供する情報量は、必要最低限に絞って提供することを前提に、更に詳しく知りたい場合は、別途提供できる仕組みや工夫を行うことが大切である。 ・視覚障害者のみならず、聴覚障害者やこどもなど、あらゆる主体に対してわかりやすくするための工夫として、文字情報のみならずイラストや画像の配置、動画(テロップ付)なども大変有効な手法である。 (52ページ) 3) 各試行版の詳細とワーキング会議における体験者の主な意見 【試行版1】音声読み上げ対応版「重ねるハザードマップ」  <概要>   様々なリスク情報をWeb上で重ねて閲覧できる「重ねるハザードマップ」に音声対応機能を付加したWebサイト(現在、国土交通省が開発中)。住所入力または現在地確認ボタンの操作のみで、該当箇所の災害リスクと災害時にとるべき行動をテキスト情報で提示する機能を追加し、音声読み上げに対応。  <使用方法>   1.「重ねるハザードマップ」のサイトを開く   2.住所入力欄に住所を入力   3.音声により、当該住所の各水害による浸水ランクなどを提示  <効果>    旅行中や通勤中など自身の居住地以外の場所の各種水害の浸水リスクをいつでも・どこでも容易に確認でき、音声でも確認できる。 <情報内容>   ・洪水、内水、高潮の浸水深 ・土砂災害警戒区域 ・津波浸水想定区域   ・ため池決壊による浸水想定区域 <効果的に「わかる」「伝わる」ことができる項目>   ・地図面(リスクを確認する) <体験者の意見>   ・洪水だけでなく、内水・高潮・津波などの各種水害の情報が一度に分かるのは良い。   ・説明文章が長い場合がある。   ・自然災害のリスクはわかるが、どのような避難行動をとったら良いか具体の情報提供がなかった。   ・音声で情報を教えてくれるのは良い   ・住所検索してコメントを表示させるところまでは簡単に操作できたが、機能が多すぎて凡例の表示内容や災害種別を重ねるなどがわかりづらかった。   ・凡例を最初から提示してほしい。   ・ユーザーインターフェイス や使い方がかなり分かりにくいと思った。 <留意点> ・国土交通省において、開発中である。 <ワーキング会議の様子> [写真1:「重ねるハザードマップ」を体験する視覚障害者の様子] (54ページ) 【試行版2】情報・学習編Webサイト  <概要>   ハザードマップの「地図面」を補足する必要最低限伝えるべき「情報・学習編」の内容について、テキスト情報のみで記載し、音声対応可能としたウェブサイト。  <使用方法>   1.情報・学習編Webサイトを開く   2.音声により、サイト内の目次構成から読みたい内容を選択することで、音声により聞くことが可能 <効果>   地図面での水害リスクを確認する上で、必要な基礎知識をあらゆる主体にわかりやすく学べる。音声対応によりあらゆる主体が情報を取得できる。 <情報内容>  〇「水害を知る」を知る   ・国土の特徴 ・水害の可能性  ・気候の変化 ・災害の頻発化  〇リスクを知る   ・水害の危険性 ・居場所のリスク ・避難の方法 ・避難先の選定  〇対応を知る   ・避難のきっかけとなる情報  ・個人の特性に応じた避難   ・個人の特性に応じた避難生活 <効果的に「わかる」「伝わる」ことができる項目>   ・情報・学習編(水害を知る)(リスクを知る)(対応を知る) <体験者の意見>   ・地図面を補足する情報として、大切な情報内容だと思った。   ・音声でわかる内容であったのが良い。   ・音声だけでなく、イラストなどもあると更に、分かりやすくなると思う。   ・ハザードマップの地図面を見る上で、体験した情報・学習編サイトで示された情報を知ることは大切だと思った。   ・操作は簡単で、情報量も適切であった。   ・視覚障害のある方にはテキスト情報だけで良いが、健常者や聴覚障害者の場合は、イラストがほしい。 <留意点> ・国土交通省において、開発中である。 <ワーキング会議の様子(写真)> [写真2:情報・学習編テストサイトを体験する聴覚障害者の様子] (56ページ) 【試行版3】触地図  <概要>   地域の地形の高低差、河道形状、浸水リスクなどのハザードマップ情報を視覚障害者の方にも指先の触覚で把握できるようにした。地形は、凹凸で表現し、浸水範囲と家屋倒壊等氾濫想定区域を点字ブロックの模様を加工して表現している。点字を読める方には、点字で概要を記載し、QRコードには、情報・学習編の内容を音声で聞ける工夫を施し、視覚障害者のガイドの方がリスクコミュニケーションを交えながら、ハザードマップ情報を提供できるように、触地図に着色を実施している。 <使用方法>   1.触地図を触り、様々な情報を触覚で感じ取る   2.QRコードから音声での情報内容を聞く   3.ガイドの方などと一緒に、避難場所の場所などについても話しながら、リスクコミュニケーションを図る <効果>   メンタルマップの作成:触地図の効果は、視覚障害者が地域の広がりや高低差を含めたメンタルマップ(認知地図)を頭の中で構築できることにある。これによって、地域の災害リスクを認識しやすくなり、避難の考え方や水のある場所から遠く、高く避難することの重要性を認識できる。特にガイド役の説明によって、触地図を体験することが効果的であり、視覚障害を持たない人も触地図を触ることで共通認識が醸成され、リスクコミュニケーションが推進される効果がある。   ※メンタルマップ(英: mental map)とは、認知心理学において記憶の中に構成される「あるべき姿」のイメージをさす言葉である。地理学では、「心の中の地図」を描いたものを指し、「イメージマップ」や「認知地図」とも呼ばれる。 <情報内容>  <触覚でわかる情報内容>   ・地形の高低差 ・河道形状 ・浸水範囲 ・家屋倒壊等氾濫想定区域   ・触地図の概要  <視覚でわかる情報内容>   ・鉄道や主要道路 ・地名 ・浸水深 ・避難場所 <効果的に「わかる」「伝わる」ことができる項目>   ・地図面(リスクを確認する)   ・情報・学習編(水害を知る)(リスクを知る)(対応を知る) <体験者の意見>   ・触地図を触ること自体が楽しい。   ・触ることで、地形を理解することができるため、わかりやすい。   ・川の曲がり方や地域の高台など明確に分かった。   ・小学校低学年も触って地図を理解することはわかりやすいと思う。   ・浸水する範囲と地形が一致していることがわかった。 <留意点>   ・作成範囲の選定   ・図面内の河川の形がわかる比高とする。   ・背景地図の選定   ・真空成型した際に平面の図面が引き延ばされるため、印刷前後にそれぞれズレがないか確認する必要があり、特殊な技術が必要である。   ※株式会社ニシムラ精密地形模型 技術者への意見聴取結果 <ワーキング会議の様子(写真)> [写真3:触地図を体験する視覚障害者の様子] (58ページ) 【試行版4】チャットボット型ハザードマップ  <概要>   スマートフォンにより、ユーザーのピンポイントな所在地の住所を入力するまたは位置情報(GPS)を読み取り、該当箇所の災害リスク情報と避難行動をチャットボット形式で提供するツール。音声での情報提供も可能。LINEのチャットボットを活用したもの。 <使用方法>   1.スマホでLINEを起動   2.所在地を入力(GPS可)    3.浸水リスクが提示される   4.自分の居る場所の建物形状を選択    5.浸水リスクと建物形状から屋内安全確保、もしくは水平避難のどちらかが提示される     水平避難の場合は、最寄りの避難場所も提示される <効果>   普段使用しているスマホで、自身の居る場所の水害リスクを瞬時にわかり、推奨する避難行動と近傍の避難場所を簡便に取得できる。   いつでも・どこでもスマホがあれば取得できる。 <情報内容>   ・浸水深、家屋倒壊等氾濫想定区域、浸水継続時間   ・自分の居る場所の建物形状と浸水深から判断した避難行動(屋内安全確保か水平避難)   ・最寄りの避難場所  <効果的に「わかる」「伝わる」ことができる項目>   ・地図面(リスクを確認する)   ・情報・学習編(リスクを知る)(対応を知る) <体験者の意見>   ・自宅の情報が分かる点、音声操作で情報が得られる点が良かった。スマホで見られるのは良い。   ・紙のハザードマップを見るより、必要な情報だけを得られて簡単で良い。   ・住まいの状況から避難行動を教えてくれるところが良かった。   ・LINEの機能で文字の大きさなどが変えられるため、自分に合わせられるので良い。   ・情報量も適当でとても良いと感じた。   ・文字情報として、記録される点が良い。   ・今後、リアルタイム情報との連携があると良い。 <留意点>   ・浸水深、家屋倒壊等想定区域、浸水継続時間及び避難場所等のGISデータの整備が必要   ・LINEを使用する場合一定の費用が掛かってしまう   ・スマートフォンのLINEを使用する場合の音声読み上げ機能がiPhone(Voice Over)とAndroid(Talk Back)で異なる。  <ワーキング会議の様子(写真)> [写真4:チャットボット型ハザードマップの音声読み上げを体験する視覚障害者の様子] (60ページ) 【試行版5】3Dマップ  <概要>   鳥瞰的な視点や歩行者視点から見ることができるため、浸水リスク情報を立体的に確認できるツール。   国土交通省が主導する、3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」を活用し、建物単位で浸水情報を立体的に提供。 <使用方法>   1.3Dマップのサイトを開く   2.当該箇所をスクロールして浸水状況などを確認   3.自身の居場所の建物の属性情報を確認することで浸水深、浸水継続時間などの詳細情報を確認 <効果>   建物単位で詳細な水害リスク情報を取得できる。   3D表示であるため、水害リスクと町の状況を一瞥しやすい。 <情報内容>   ・建物単位の浸水深、浸水継続時間   ・浸水範囲   ・地形や建物の状況 <効果的に「わかる」「伝わる」ことができる項目>   ・地図面(リスクを確認する) <体験者の意見>   ・平面のハザードマップでは、1つ1つ見なければわからないものでも、建物をクリックするだけで浸水深、浸水継続時間など様々な情報がまとめられていて使いやすかった。   ・建物ごとの浸水の深さが分かるのは良い。   ・立体で見ることができるため、逃げる方向などが分かりやすい。 <留意点>   ・PLATEAUデータは国全体のデータが整備されていないため、未整備箇所については早急に作成することが困難である。   ・建物データのデータ取得時期は市町村によっても異なるため、更新時期に留意   ・当該市町村のHP等へ掲載するための、GISデータをWeb上に表示可能なプラットフォーム(ArcGIS Onlin等)から3Dデータを整備する必要があること。 <ワーキング会議の様子(写真)> [写真5:3Dマップを体験する専門学生の様子] (62ページ) 第4章 今後の「わかる・伝わる」ハザードマップの姿  これまでの検討を踏まえ、今後の「わかる・伝わる」ハザードマップの姿として、地図面と情報・学習編をわかりやすく伝わりやすいように整備し、あらゆる主体がハザードマップを様々な方法で容易に体験・体感し、当事者と支援者らが一緒になり、防災行動を考えられるようになることを目指す。 4.1 地図面の理解を促進するためのツールの整備  地図面の理解を促進するためのツールとして、以下のようなツールが世の中に普及し、ユーザーが利用しやすいツールを選択する流れになることを期待する。  〇音声読み上げ対応版「重ねるハザードマップ」   様々なリスク情報をWeb上で重ねて閲覧できる「重ねるハザードマップ」に音声読み上げ対応機能を付加したWebサイト(現在、国土交通省が開発中)。住所入力または現在地確認ボタンの操作のみで、該当箇所の災害リスクと災害時にとるべき行動をテキスト情報で提示する機能を追加し、音声読み上げに対応。  [図37:「重ねるハザードマップ」の改良] [画像:PC版サイトイメージ、スマホ版サイトイメージ] 〇チャットボット型ハザードマップ  スマートフォンにより、ユーザーのピンポイントな所在地の住所を入力するまたは位置情報(GPS)を読み取ることで、該当箇所の災害リスク情報と避難行動をチャットボット形式で提供するツール。音声での情報提供も可能。なお、参考資料に本ツールのソースコードのダウンロード方法などを公開する。 [図38:チャットボット型ハザードマップ] 〇触地図  地域の地形の高低差、河道形状、浸水リスクなどのハザードマップ情報を視覚障害者の方にも指先の触覚で把握できるようにしたもの。地形は、凹凸で表現し、浸水範囲と家屋倒壊等氾濫想定区域を点字ブロックの模様を加工して表現する。 点字を読める方には、点字で概要を記載し、QRコードには、情報・学習編の内容を音声で聞ける工夫を施す。 視覚障害者のガイドの方がリスクコミュニケーションを交えながら、ハザードマップ情報を提供できるように、触地図に着色を行っている。 [図39:触地図] (64ページ) 4.2 今後の「わかる・伝わる」ハザードマップWebサイトの姿   4.2.1 あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップ実現のためのWebサイトの構造 ・Webサイトの構造については、ハザードマップに「地図面」「情報・学習編」の2つがあることがわかるように構成する。 ・地図面については、市町村が作成したハザードマップに加え、国が作成し公開している「重ねるハザードマップ」をあわせて紹介することで、  1)住民の市町村域を越えた移動(出張・旅行等)に対応できる  2)位置情報検索機能の活用により、迅速に現在地の災害リスクを把握できる  3)読み上げ機能によって音声による災害リスク情報の提供の促進が期待できる という利点がある。 ・情報・学習編については、あらゆる主体が基礎的な知識として理解できるよう、検討会で整理した「洪水ハザードマップの情報・学習編に記載すべき事項(共通)」を最低限掲載することを推奨する。 ・「洪水ハザードマップの情報・学習編に記載すべき事項(地域特性)」についても、市町村の特性に合わせて提示することを推奨する。 ・音声読み上げ等に対応したWebアクセシビリティの配慮が求められる。 ・Webアクセシビリティの配慮し、「やさしい日本語」対応や音声読み上げ対応を行うことで、「外国語」対応への変換が容易になる。 ・JIS規格の中のレベルAA以上のアクセシビリティ対応を実施することを推奨する。なお、ハザードマップに関する情報は、命にかかわる非常に重要な情報であるため、「みんなの公共サイト運用ガイドライン」に記載されたレベルを保つことに留意する必要がある。 (65ページ) [図40:Webサイトの構造案] ○市町村HPトップページ ↓ ○ハザードマップ掲載ページ ↓ ○地図面(市町村)  地震の居住地の市町村が公表している地域に特化したハザードマップの地図面の情報内容が取得可能 ○地図面(全国版)重ねるハザードマップ  自身の居住地以外のハザードマップの地図面の情報内容が取得可能 ○情報・学習編  情報・学習編の情報内容が取得可能 (66ページ) 〇「市町村のハザードマップ」と「重ねるハザードマップ」を使い分ける  ・「重なるハザードマップ」は、国や都道府県の関係各機関などが作成した様々な地域の災害リスク情報等をまとめて閲覧できるようにしたウェブサイトであり、一覧性が高い。  ・「市町村のハザードマップ」は、水防法に基づき、避難場所、地域特性、留意事項について丁寧に記載されており、普段暮らしている場所からの避難行動を考える上では最適である。  ・2つのハザードマップを以下のような目的で使い分けることが適切である。   「重ねるハザードマップ」:様々な地域の災害の危険性を速やかに把握する   「市町村ハザードマップ」:具体的な避難行動を考える  ・ハザードマップは、浸水想定区域の指定が行われてから河川管理者からデータの提供を受け、マップに反映する作業を行うため、一定のタイムラグが発生する。特に、「重ねるハザードマップ」は全国の情報を集約し公表しているため、それらの情報を反映するにも一定の時間がかかることについて留意しておく必要がある。  ・また、上記に示したように、ハザードマップ用途の違いから、知ることのできる情報にも差異があり、また、活用場面にも差異が生じることも知っておく必要がある。  ・「重ねるハザードマップ」と「市町村ハザードマップ」の情報の違いに関して、利用者の混乱を避けるため、市町村のホームページ等が重ねるハザードマップのリンクを貼る場合には、以下の留意事項を記載することが望ましい。 ○留意事項  「重ねるハザードマップ」は国や都道府県の関係各機関などが作成した災害リスク情報等をまとめて閲覧できるようにしたウェブサイトです。各災害リスク情報におけるメッシュの大きさ、描画方法、凡例等が関係機関の作成する災害リスク情報・ハザードマップと同一の表示でない場合や災害リスク情報が未整備の場所があります。最新かつ詳細な情報については「市町村ハザードマップ」をご確認ください。  また、法律にもとづき市町村が作成したハザードマップでは無いため、宅地建物取引業者が重要事項説明をする際にご利用いただけません。  掲載されている個々の情報の引用・利用については、作成した機関が利用規約等を定めている場合がございます。個々の情報の詳細や利用条件などについては、データの出典元の機関にご確認ください。 ・今後、「重ねるハザードマップ」と「市町村ハザードマップ」の利用者がさらに増え、様々なニーズが顕在化し、改善を繰り返すことで、さらに使いやすいものとなっていくことが期待される。 (67ページ) 4.2.2 情報・学習編Webサイトの具体的な構成イメージ(シンプル版)  本検討会及びワーキング会議では、主に視覚障害者から、情報・学習編の内容を音声により伝える際にどのような点に留意する必要があるか確認してきた。その結果、以下のようなことが確認できたため、情報・学習編Webサイトを構築する際には留意されたい。  1.Webサイトを読み上げる音声ソフトの多くは、左上から順に読み上げる。  2.複雑な表形式の情報は、音声での理解は難しい。  3.複数に重なる階層的な構成を章番号や枝番号などで割り振ると、音声によりその構成を理解することは難しい。2段階程度までの表現とすることが望ましい。(例:1章、1(章)-1,まで)  4.図版は、通常音声ソフトでは読み飛ばされてしまうため、その画像がどのような情報を提供するために示されているかを音声で読み上げるためには、画像の代わりとなるテキスト情報を準備しておくことが必要である(htmlのalt属性を使い、図版が表示している内容を明記し、読み上げ対応させる)。  5.目で見えている画面と音声で読み上げる内容・順番は、Webサイトを構築する際にソースコードによる編集等で変えることも可能である。  なお、あらゆる主体に対して同様の情報を出来るだけ分かりやすく提供することを目的とするが、これらの情報については基礎的な情報であるため、視覚障害者へのアクセシビリティの確保と同時に、一般の方や支援者に対しても、視覚障害者が確認しているものと同様の情報量を提供することも一案であり、あえて図表等は付加せず、基本的な情報のみを発信することも考えられる。   〇音声対応の情報・学習編Webサイトの構成(例)  右記に示す情報・学習編Webサイトの特徴は以下のとおり。  ・テキスト情報のみで構成されている。 ・上から下に情報・学習編の必要な内容が記載されているため、音声ソフトで読み上げると①~④の順に読み上げられるシンプルな構造となっている。  ・上段に目次を配置することで、本サイトに記載されている全体の構成がわかる。  ・情報・学習編の必要な内容が上から下に記載されている複雑なサイト構造ではないため、サイト構築も難しくない。 [図41:情報・学習編Webサイトの構成(案1)] (68ページ) 4.2.3 情報・学習編Webサイトの具体的な構成イメージ(一般的な市町村サイトに沿った多階層版) 市町村の現状のサイト構成に合わせて発信する場合は、読み上げに対応したシンプル版ではなく多階層版となることもあるため、視覚障害者には、目の見える人が見ているサイトとは違う形で情報が伝わることについて留意する。  〇一般の方にも分かりやすく、音声対応にも留意した情報・学習編Webサイトの構成(例)  右記に示す情報・学習編Webサイトの特徴は以下のとおり。  ・テキスト情報の他に、イラストを添付し、一般の方にも情報・学習編の内容をわかりやすく伝える。  ・情報・学習編の記載情報が増えた場合に、目次を上段に配置すると下方向 にスクロールした場合に見えなくなるため、目次を常時左側に配置する。なお、音声対応の場合は、ソースコードの指示により、最初及び各情報内容の終わりに目次を読み上げる設定するような配慮が必要。(目で見えている画面と音声対応の順番は異なる構造形式とする) ・音声ソフトで読み上げると①~⑤の順に読み上げられる構造となっている。 ・本ホームページのレイアウト案では、ページの左側にメニューは設置されているがソースコードの指示により最後に読み上げるよう設定をすること想定している。今後、水害に関しての詳しい情報を追加していくことがあることを想定し、メニュー部の下側の空間を空けている。 [図 42情報・学習編Webサイト構成(案2)] (69ページ)  これまでに、2つの情報・学習編Webサイトの構成例を記載したが、色や文字などのその他に留意するポイントを記載する。    〇色や文字については以下の点に配慮する。   ・背景と文字の色のコントラストを高くする   ・背景色を選択できるようにする(ライトモード&ダークモード)(光過敏症特定対応等)   ・色に頼らずテクスチャ(パターン)での区別も考慮する(先天色覚異常対応など)  〇レイアウトについては以下の点に配慮する。   ・左から右、上から下という構成に配慮する(スクリーンリーダーの特性に合わせる)  〇技術について(ソースコードでの設定)   ・画像を使用する場合の代替テキスト(alt属性)の対応を行う。   ・ページの左側にメニューを設置する場合は、音声ソフトが繰り返し読み上げることがないように、ソースコードの指示により最後に読み上げるなどの対応を行う。   ・見出しを設定する

のタグを使う場合は、コンテンツの構造に応じ使用する。文字の大小の設定で使用すると間違った構造での理解につながる可能性があるため、注意する。  〇ハザードマップに係るWebサイト構築の体制   ・多くの自治体では、防災部局がハザードマップを作成し、情報担当と調整の上、自治体ホームページ上に公開を行っている。    ・あらゆる主体のアクセシビリティの向上を図るためには、公開前に福祉部局や関連部局の意見や協力を仰ぐなどの連携も今後は重要となってくる。   ・障害にかかわる医療保健福祉サービスの関連事業者や関係機関への周知も重要な観点であり、その面においても福祉部局との連携が必要である。   ・災害からの避難を促す取組として、マイ・タイムライン(個人や世帯の避難計画)作成や個別避難計画(避難行動要支援者のための避難計画)の作成が推進されており、特に個別避難計画の作成については令和3年度の災害対策基本法の改正により市町村の努力義務となっている。どちらも、前提となるのは平時からのハザードの理解とリスクの認知であり、ハザードマップをあらゆる主体に理解できるものとするために、部局連携が必須である。 (70ページ) まとめ  国土交通省では、水害ハザードマップ作成の手引き(平成 28年4月公表、令和3年12月一部改定)を作成し、各市町村は手引きを参考にハザードマップを作成・公表してきた。その一方で、ハザードマップを活用する住民にとっての分かりやすさに対する配慮が十分とは言えず、加えて、現在のハザードマップは、利用者の特性、例えば視覚障害に十分に対応できていない。紙面のハザードマップにおいては、アクセシビリティを高める余地は非常に限定的である。一方で、ICT技術の進展により、Webを活用することで、あらゆる主体が利用可能なハザードマップの整備に一定の期待が持てるようになってきた。検討会では、これらの背景をふまえ、市町村が取り組みやすい「あらゆる主体に向けたハザードマップ普及」に向けた推進の方向性について、とりまとめた。  主な検討事項については以下に示す通りである。 ○ハザードマップの役割分担  ・「わかる・伝わる」ハザードマップ(地図面):避難に役立つ情報を取り出せる  ・「わかる・伝わる」ハザードマップ(情報・学習編):地図面を理解するための枠組みを提供する ○ハザードマップ(地図面)  ・「重ねるハザードマップ」で全国の情報をいつでもどこでも手に入れられるよう(47頁)、位置情報を入れるだけで浸水リスクが文章で表示される機能の提案(47頁) ○ハザードマップ(情報・学習編)  ・シンプルでわかりやすい構造の例示、Webページの読み上げ例文の提案(27~29頁) ○アクセシビリティの向上  ・あらゆる主体がハザードマップにアクセスしやすくなるための提案(47~50頁) ○「わかる・伝わる」ハザードマップ  ・当事者・家族(自助)だけでなく、支援者や地域組織(共助)、行政や関係団体(公助)がともに理解し、マイ・タイムラインや個別避難計画の取組が進む機会となることを目指す (71ページ) [図43:検討会でとりまとめられた概要]  今後はさらに、以下の方向性により普及が促進されることを期待したい。 (ハザードマップに掲載する情報内容)  ・ハザードマップには、様々な情報が含まれている反面、理解しにくいという声もあるため、伝えるための手段も大切だが、理解するために、最低限必要な情報は何かということを整理することが重要である。  ・福祉避難所の情報や、避難経路の支障箇所、避難する際の人的支援情報などの情報の充実について、ニーズを踏まえた検討が求められる。 (「わかる・伝わる」ハザードマップの作成方法と利活用)  ・障害者の方に様々なハザードマップを体験・体感していただき、課題をもらいながら、目指すべきハザードマップを確認していくような形で作成を進めていくことが望ましい。  ・中学生の防災教育でハザードマップについての学びが義務付けられているため、そのような場面でも使いやすいハザードマップを目指すことが望ましい。  ・大学などでも個別避難計画に基づいたワークショップなども行うなどの事例もでてきており、様々な場面でハザードマップの利活用が期待される。  ・また、特別支援学校においても、障害のある児童生徒が主体的に行動する態度の育成や避難行動要支援者の避難、医療を必要とする児童生徒への対応を中心に教職員の取組に関する実践などの防災教育も進められており、そのような場面でも使いやすいハザードマップを目指すことが望ましい。なお、障害のある学生の支援にあたり、教育現場の教員に参考となる「教職員のための障害学生修学支援ガイド」を参考にされたい。  ・障害者と周囲の人達とをつなげる工夫が重要であり、そのために、ハザードマップには周囲の方が障害のある方々のことに気づくような内容についても記載することが大切である。 (ハザードマップのアクセシビリティ対応の展開)  ・ハザードマップの地図面は、特に視覚障害者への対応を念頭にICT を最大限活用した検討を行うことで、結果として誰にとってもわかりやすい情報を提供できる方策につながる可能性がある。  ・近年は、地方公共団体や民間会社による防災系のアプリなども多く開発されおり、それらについても、アクセシビリティ向上を図ることにより、あらゆる主体に情報を提供できるようになることを期待したい。  ・視覚障害者の中でも、普段から ICT を使っている方、使っていない方、また点字がわかる方、分からない方など、個々人で特性は様々であり、それぞれの特性に応じた配慮をするなど、多様性への対応が重要である。 (73ページ) おわりに 本報告書の意義  気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化等を踏まえ、堤防の整備、ダムの建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)にわたる流域単位での治水・防災対策として「流域治水」という枠組みが推進されている。  河川管理者が進めるハード対策に加えて、水害に強い地域を目指し、水害からの犠牲者をゼロにするためには、あらゆる主体が自ら水害について知り、考え、主体的に対応行動をとることができる社会の実現が望まれる。そのための重要なツールとして、地域に潜むリスクを事前に知ることができるハザードマップがある。 本報告書の概要  ハザードマップをあらゆる主体に「わかる」「伝わる」ものとするためにハザードマップについて議論を重ね、4章にわたり本報告書にとりまとめた。本報告書の主な内容は以下の通りである。   〇あらゆる主体のアクセシビリティを高めるために(第3章)    ・ハザードマップへのアクセスしやすい提供方法の検討(47~50頁)    ・あらゆる主体に共通して認識すべき事項として、ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会が推奨する洪水ハザードマップの情報・学習編に記載すべき事項(共通)(地域特性)(27~29頁)   〇今後の「わかる・伝わる」ハザードマップの姿(第4章)    ・情報・学習編Webサイトの具体的な構成イメージ(シンプル版、多階層版)(64~68頁) 未来に向けて:ハザードマップを通じた教育の姿  未来社会の担い手である子どもたちが、将来どのような災害にあっても、自分の命を守り、共に助け合い、生き抜いていくことができるように、防災について考え、行動し、人とのつながりを大切にしていけることを教育現場において学ぶ機会を設けることは非常に重要であり、その中でハザードマップの情報内容を「わかる・伝わる」防災教育とすることが大切である。 未来に向けて:あらゆる主体が自立して避難行動を取ることができる社会  洪水に関する標準的な情報整理とわかりやすい表現検討とともに、視覚障害への対応に配慮し、紙面でのハザードマップだけでなく、音声出力や触地図など様々な方法によりハザードマップ情報を提供するなど新たな取組を進めていくことが必要である。それと同時に、各市町村のハザードマップ掲載サイトのWebアクセシビリティ向上に、直ちに対応していくことを望む。 ハザードマップに関わる情報の周知  あらゆる主体に対し、ハザードマップの存在と在りかを周知することも、継続して行うべき大変重要なポイントである。例えば、視覚障害の方への周知方法としては、特別支援学校への防災教育や、点字図書館、サピエ図書館、国立国会図書館等の視覚障害者の情報が集まる場所にもハザードマップの情報をとりそろえるなど、市町村だけでなく国や県・関係機関や更には民間企業など多様な機関が連携し、あらゆる機会を捉えて、しっかりと周知を行うことが必要になる。 ハザード情報の理解  ハザードマップ情報の提供側である行政の努力だけでは、誰もがいのちを守る行動がとれる社会になることは難しく、情報の受け手側の機運の醸成は大切であり、そのためには、「共助」や「地域の力」が必要不可欠である。例えば、障害のある方と一緒にハザードマップを作成し、理解を拡げ深め、安全確保行動につなげていく工夫など、障害のある人と周囲の人たちとをつなげていくことなどが非常に重要である。 今後に向けて  本報告を踏まえ、国や都道府県においては、あらゆる主体にハザードマップ情報が提供され、理解されるよう、「わかる・伝わる」ハザードマップを提供するための更なる努力を惜しまず、各市町村の参考となる有効な取組については情報発信等の支援を続けることを期待すると同時に、「重ねるハザードマップ」のさらなる進化に期待する。また、本検討会では、地図から情報を得ることが特に困難な視覚障害への対応を主体に検討を進めてきたが、他の障害への対応など様々な主体に対して「わかる・伝わる」ハザードマップが提供されるための検討が進むことについても期待する。 あらゆる主体における議論を通した今後のハザードマップの展開  各市町村及び関係機関においては、地域の状況を十分に踏まえた上で、あらゆる主体に「わかる・伝わる」ハザードマップを防災部局だけでなく、福祉部局や関連部局が連携しながら提供し、更に効果的に活用されるよう当事者や関係機関と議論を重ね、あらゆる主体が自身の自然災害のリスクを確認し、防災行動について考えるきっかけの場を創出することで、誰もが命を守る安全確保行動がとれる社会になることを強く望むものである。 (75ページ) 参考資料 ①チャットボット型ハザードマップを作るためのデータ チャットボット作成に使用するデータファイル一覧 (以下、No.、ファイル名、概要、備考の順に記載) 1.kwbLineBot.js  (概要)本システムのソース  (備考)国土交通省HPにて別途ダウンロード可 2.setting.json  (概要)本システムの設定ファイル  (備考)データ定義書を提示 3.街区レベル位置参照情報.csv  (概要)入力住所から緯度経度を取得するために使用  (備考)データ定義書を提示 4.避難所.csv  (概要)避難所の照合に使用  (備考)データ定義書を提示 5.家屋倒壊等氾濫想定区域.geojson  (概要)家屋倒壊区域の照合に使用  (備考)データ例を提示。なお、各データは、国土数値情報のHPよりダウンロード可能(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) 6.浸水継続時間_想定最大規模.geojson  (概要)浸水継続時間の照合に使用  (備考)データ例を提示。なお、各データは、国土数値情報のHPよりダウンロード可能(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) 7.浸水想定区域_想定最大規模.geojson  (概要)最大浸水深の照合に使用  (備考)データ例を提示。なお、各データは、国土数値情報のHPよりダウンロード可能(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) 【データ定義書】※表は割愛  ・setting.json  ・街区レベル位置参照情報.csv  ・避難所一覧.csv (77ページ~79ページ) 【データ例】※画像のため割愛  ・浸水想定区域(GeoJSON)の画面イメージ及び属性情報  ・浸水継続時間(GeoJSON)の画面イメージ及び属性情報  ・家屋倒壊等氾濫想定区域(GeoJSON)の画面イメージ及び属性情報