米国における道路交通の情報化に関しては、1960年代後半に取り組まれたERGS(Electronic Route Guidance System:電子経路案内システム)があり、路側との双方向通信によって経路誘導の指示をするものであったが1970年に中止された。この後、こうした取り組みがしばらく行われていなかったが、1988年に非公式のスタディチームMOBILITY 2000が組織され新たな取り組みが始まり、こうした動きを本格化するものとして、1990年IVHS AMERICA(Intelligent Vehicle Highway Society of America)が設立された。さらに1991年12月にISTEA(Inter-modal Surface Transportation Efficiency Act:総合陸上輸送効率化法)が成立し、ITSが道路交通政策の中心的な一つのプロジェクトとして位置づけられた。
こうしたITS推進の環境が整えられる中、まずITS推進に係る計画づくりが注力され、1992年5月にはIVHS AMERICAにより今後20年間にわたるITS推進のグランドデザインとしてIVHS戦略計画(Strategic Plan for Intelligent Vehicle-High-way Systems in the United States)が策定された。また、1995年3月には連邦DOT(Department of Transportation:連邦運輸省)とIVHS AMERICAが1994年9月に改称したITS America(Intelligent Transportation Society of America)により国家的な計画として全米ITSプログラムプラン(NATIONAL ITS PROGRAM PLAN)が策定され、ITSの開発や展開における最終目標等ITS導入に関する総合的な計画資料が提供された。
さらにISTEAの成立により具体的なシステム開発の推進が積極的に行われており全米80カ所以上でフィールドテストが実施されているほか、NAHSC(National Automated Highway System Consortium)による基幹プロジェクトであるAHS(Automated Highway System)が政府の積極的な関与のもと推進されている。また、ITSによって実現されるサービスの網羅的な枠組みやシステム間の相互関係を明らかにすべく連邦DOTが中心となってシステムアーキテクチャーを開発中で、1996年6月に最終報告が予定されており、ITS推進の計画に関する集大成が完成することとなっている。
さらにシステムアーキテクチャー構築の動向を踏まえ、米国のITSの推進は計画策定の段階からインフラ整備への段階に移行しつつあり、1996年1月には今後10年の目標として75の大都市にITSを実現するためのITI(Intelligent Transportation Infrastructure)を導入するとした「オペレーション・タイムセイバー」が連邦DOTにより発表された。
(2)欧州の動向
欧州においては、双方向通信による経路誘導を行うALI(Autofahrer Leit und Informations System)の開発が1970年代中葉にドイツにて進められ、その後、1986年には民間主導のPROMETHEUS(Programme for a European Traffic with Highest Efficiency and Unprecedented Safety)、1988年には官主導のDRIVE(Dedicated Road Infrastructure for Vehicle Safety in Europe)が始まった。両プロジェクトはそれぞれ、PROMOTE(Programme for Mobility in Transportation in Europe)、TELEMATICS APPLICATIONS PROGRAMMEとして現在推進されており、欧州のTransport Telematicsプロジェクトの調整や実用化に向けての支援を行う官民合同の機関としてERTICO(European Road Transport Telematics Implementation Coordi-nation Organization)が設置されている。
また、欧州では標準化の問題が積極的に取り組まれており、ISO(国際標準化機構:International Organization for Standardization)/TC(Technical Committee)204に先立って1990年にCEN(欧州標準化委員会)/TC278が発足し、標準化作業を開始している。
我が国のITSへの着手時期は世界的に見ても早く、1973年には通産省によりCACS(Comprehensive Automobile traffic Control System:自動車総合管制システム)への取り組みを開始し、経路誘導システム等の開発と試験運用を行った。この時代をITS開発の第1期と位置づけることができる。
(2)第2期
1980年代には建設省によるRACS(Road/Automobile Communication System:路車間情報システム)、警察庁によるAMTICS(Advanced Mobile Traffic Infor-mation and Communication Systems:新自動車交通情報通信システム)が手がけられ、電波システムの開発、標準化を手掛けてきた郵政省と共にVICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)へと発展した。
また、1980年代末から1990年代にかけて、道路と車両の一体化による道路交通の高度化に関する全体概念を構築したARTS(Advanced Road Transportation Systems:次世代道路交通システム)(建設省)、自動車交通システムの高知能化を目指したSSVS(Super Smart Vehicle System:高知能自動車交通システム)(通産省)、自動車安全技術の研究・開発の推進を目指したASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)(運輸省)、道路交通の発生にまで踏み込んだ総合交通管理を目指したUTMS(Universal Traffic Management Systems:新交通管理システム)(警察庁)、などのプロジェクトを進めてきた。また、具体的なシステムあるいは技術開発への取り組みとして、自動車の衝突防止等に重要な役割を担う小電力ミリ波レーダー(郵政省)、有料道路等の料金所で一旦停止することなく自動的に料金の支払いを可能とするノンストップ自動料金収受システム(郵政省、建設省)、ノンストップ自動料金収受システム等への応用が期待されるワイヤレスカードシステム(郵政省)の研究開発などを進めてきた。
一方、産学により道路・交通・車両インテリジェント化推進協議会(VERTIS)が組織され、ITS America、ERTICOとともに、世界会議の事務局、欧米との情報交換等ITSに関するさまざまな活動を行っている。また、民間企業によるITSの市場形成に向けた努力も積極的になされ、官民が共同で開発したデジタル道路地図等をベースにGPS等を利用したカーナビゲーションシステムが商品化されたことによって、1995年度には累積出荷台数が100万台を突破するなど新たな有望市場を築いている。この1980年から1995年初頭までをITS開発の第2期と位置づけることができる。
ITSは世界規模での取り組みを要するものであるため、標準化の必要性が国際的な課題として認識されており、その取り組みが国際的組織のもとで行われている。
ISO/TC204*及びITU-R**(International Telecommunication Union-Radio Comm-unication Sector:国際電気通信連合無線通信部門)では、TICS(Transport Information and Control Systems)の名称のもとでITSに係わる標準化について取り組んでいる。
我が国においても、ITSの効率的かつ着実な推進を図るため、国内のITS関連産業における開発動向を反映させつつ、世界の中で主体性をもち積極的に標準化活動への取り組みを進めていく必要がある。
*ISO:鉱工業等の産業分野の国際的な標準化を図る非政府間機構
**ITU:電気通信分野における国際連合の専門機関