
第2章 ITSが描く世界
2.1 高度情報通信社会とITS
2.2 ITSの利用者サービス
2.1 高度情報通信社会とITS
1)高度情報通信社会とは*
2)高度情報通信社会におけるITSの位置づけ
1)高度情報通信社会とは*
高度情報通信社会とは、人間の知的活動の所産である情報・知識・知恵の自由な創造、流通、共有化を実現し、生活・文化、産業・経済、自然・環境を全体として調和し得る新たな社会経済システムである。
このシステムは、制度疲労を起こした従来のシステムにとって代わり、かつての市民革命や産業革命に匹敵する「情報革命」とも言える変革の潮流を生み、経済フロンティアの拡大、国土の均衡ある発展の促進や、真のゆとりと豊かさの実感できる国民生活が実現されるものと期待される。
21世紀に向けてこうした高度情報通信社会の構築に向けた動きを加速・推進するためには、情報・知識の創造・流通・共有化を支える高度な情報通信インフラを早急に整備しなければならない。これは多大な投資を伴うものであり、情報通信に関連した産業の市場規模を拡大し、リーディングインダストリーとしての役割を強めるだけではなく、人間の知的生産活動の活性化を通じ、多くの新規事業を全国各地に創出し得るものである。
*「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」より引用
2)高度情報通信社会におけるITSの位置づけ
ITSは、国民生活に密着した道路交通問題解決の切り札等として重要な役割を果たすものである。このためITSは、高度情報通信社会推進に向けた基本方針(平成7年2月、高度情報通信社会推進本部決定)において、国民誰もが充実した公共サービスを享受できるよう、政府が先導的な役割を果たし、総合的、計画的に施策を講じていくこととされた公共分野の一つとしても位置づけられている。
一方、高度情報通信社会は、ITSを含め、様々な分野の情報化を包含する社会であり、ITSと他の分野の情報化との連携が重要である。具体的には、高度情報通信社会の実現のためには、光ファイバーをはじめとする情報通信インフラの整備、情報の受発信端末である道路や車両等の高度化、及び情報内容の拡充が不可欠となるが、ITSの推進にあたっては、高度情報通信社会においてITSと調和させるべき領域を広範囲に見据え、ITSの領域内のみならずITSと調和させるべき領域とのインフラ、受発信端末、及び情報内容に関する相互運用性や相互接続性の確保に配慮していくことが重要である。
図表2.1.1 高度情報通信社会におけるITSの領域
2.2 ITSの利用者サービス
1)利用者サービス設定の意義
2)ITSの利用者と利用者サービスの枠組み
3)利用者サービスの内容
1)利用者サービス設定の意義
ITSを目的に沿った有効なシステムとして具体化していくためには、ITSに係る様々な利用者のニーズを的確に捕捉し、体系化することが重要である。このため、本全体構想においては、「道路・交通・車両分野における情報化実施指針」で示された9つの開発分野ごとに、ITSの利用者を設定し、今後ITSとして提供していくべきサービスを、利用者サービスとして提示する。
ITSの利用者サービスは、ITSによって実現される世界を具体的に提示するものであり、ITSの実用化を進める関係者にとって効率的かつ体系的な研究開発、事業化等を行っていくための指針としての役割を担うとともに、国民がITSの必要性を理解する上での参考となるものである。
なお、ITSの利用者サービスに関しては、今後の社会状況の変化等に応じて適宜見直しを行っていく。
2)ITSの利用者と利用者サービスの枠組み
- (1)ITSの利用者
- ITSの利用者としては、道路の利用者であるドライバー、歩行者等、公共交通利用者、輸送事業者、及び道路交通を管理する立場からITSを利用する管理者の5者を位置づけた。
図表2.2.1 ITSの利用者
- (2)利用者サービスの枠組み
- ITSの利用者サービスは、9つの開発分野ごとに利用者を設定し、各利用者のニーズ及びそのニーズが発生する状況を考慮して設定した。
図表2.2.2 利用者サービスの枠組み
利用者サービス |
開発分野 |
利用者サービス設定の視点 |
主な利用者 | ニーズ | 状 況 |
(1)交通関連情報の提供 |
1.ナビゲーションシステムの高度化 |
ドライバー |
ナビゲーションシステムを用いた移動に関連する情報の入手 |
出発地から目的地までの移動 |
(2)目的地情報の提供 |
目的地の選択・情報入手 |
(3)自動料金収受 |
2.自動料金収受システム |
ドライバー 輸送事業者 管理者 |
一旦停止のない自動的な料金のやり取り |
料金所での料金の支払 |
(4)走行環境情報の提供 |
3.安全運転の支援 |
ドライバー |
安全な運転 |
走行環境の認知 |
(5)危険警告 |
危険事象の判断 |
(6)運転補助 |
危険事象回避の操作 |
(7)自動運転 |
運転の自動化 |
(8)交通流の最適化 |
4.交通管理の最適化 |
管理者 ドライバー |
交通流の最適化 |
交通の管理 |
(9)交通事故時の交通規制情報の提供 |
交通事故への適切な対応 |
(10)維持管理業務の効率化 |
5.道路管理の効率化 |
管理者 |
迅速かつ的確な道路の維持管理 |
道路の管理 |
(11)特殊車両等の管理 |
管理者 ドライバー 輸送事業者 |
特殊車両の通行許可の迅速・適正化 |
(12)通行規制情報の提供 |
管理者 ドライバー |
自然災害等への適切な対応 |
(13)公共交通利用情報の提供 |
6.公共交通の支援 |
公共交通利用者 |
交通機関の最適な利用等 |
公共交通の利用 |
(14)公共交通の運行・運行管理支援 |
輸送事業者 公共交通利用者 |
公共交通機関の利便性向上 事業運営の効率化 輸送の安全性向上 |
運行管理の実施 優先走行の実施 |
(15)商用車の運行管理 支援* |
7.商用車の効率化 |
輸送事業者 |
集配業務の効率化 輸送の安全性向上 |
運行管理の実施 |
(16)商用車の連続自動運転 |
輸送効率の向上 |
(17)経路案内 |
8.歩行者等の支援 |
歩行者等 |
移動の快適性の向上 |
歩行等による移動 |
(18)危険防止 |
移動の安全性の向上 |
(19)緊急時自動通報 |
9.緊急車両の運行支援 |
ドライバー |
迅速・的確な救援の要請 |
救援の要請 |
(20)緊急車両経路誘導・救援活動支援 |
ドライバー |
災害現場等への迅速かつ的確な誘導 |
復旧・救援活動 |
*業務用車両の運行の管理を対象とする。
それぞれの利用者サービスの実現を通じて、ITSは交通事故の削減、渋滞による多大な時間損失の軽減、信頼性や利便性の高い快適な移動等を可能とし、その結果ITS全体として、沿道環境や地球環境に対する負荷を軽減することが可能である。さらに、それぞれの利用者サービスを複合的に提供することにより、一層の利用者サービスの向上と効果拡大も期待される。
図表2.2.3 利用者サービスの効果
3)利用者サービスの内容
設定したITSの20の利用者サービスの内容は次の通りである。
- (1)ナビゲーションシステムの高度化
- ・交通関連情報の提供
ドライバーが移動中に、経路、移動時間等について最適な行動の選択を可能とし、交通流の分散等によりドライバーの利便性の向上等を図るため、各経路の渋滞情報、所要時間、交通規制情報、駐車場の満空情報等をオンデマンド等に対応したナビゲーションシステムや情報提供装置により提供する。また、移動に際して、同様の情報を家庭、オフィス等において事前に提供することにより、効率的な移動計画の策定を支援する。
・目的地情報の提供
- ドライバーが移動をする際に、適切な目的地の選択を可能とし、かつドライバーと同乗者の移動を、より楽しく、快適にするため、目的地の地域情報等のサービス情報を、車載機や高速道路上のパーキングエリアやサービスエリア、一般道路上の道の駅等においてオンデマンド等で提供する。
- (2)自動料金収受システム
- ・自動料金収受
有料道路の料金所渋滞の解消及びキャッシュレス化によるドライバーの利便性の向上、管理コストの低減等を図るため、有料道路等の料金所で一旦停止することなく自動的に料金の支払いを可能とする。
- (3)安全運転の支援
- ・走行環境情報の提供
日中はもとより夜間、悪天候などにより視界が低下した状況での事故等を未然に防ぐため、道路及び車両の各種センサにより道路や周辺車両の状況等の走行環境を把握し、車載機、情報提供装置により、リアルタイムで運転中の各ドライバーに情報を提供することにより、ドライバーの走行環境の認知を支援する。
・危険警告
衝突や車線逸脱等による事故を未然に防ぐため、自車両及び周辺車両等の位置や挙動、道路前方の障害物の情報を迅速に道路及び車両の各種センサにより収集し、車両位置、車間距離、走行速度等から危険と判断した場合に警告を与えるなど、ドライバーの運転操作の判断を支援する。
・運転補助
衝突や車線逸脱等による事故を未然に防ぐため、危険警告レベルの利用者サービスに車両の自動制御機能を付加することにより、自車両及び周辺車両の位置や挙動、障害物を考慮して危険な場合には自動的にブレーキ操作等の速度制御、ハンドル制御を行うなど、ドライバーの運転操作を支援する。
・自動運転
ドライバーの負荷を軽減し、交通事故の危険性を限りなく低減するため、自動制御が可能な運転補助機能を発展させ、周辺の走行環境に応じて、自動的にブレーキ、アクセル操作等の速度制御、ハンドル制御を実施することにより、安全な速度、車間距離を保ち安全かつ円滑な自動走行を可能とする。
- (4)交通管理の最適化
- ・交通流の最適化
交通の安全性、快適性の向上と環境の改善を図るため、渋滞や環境悪化が著しい地域のみならず、道路ネットワーク全体として最適な信号制御を実現する。また、交通の管理を行うために、車載機や情報提供装置によりドライバーの経路誘導を行う。
・交通事故時の交通規制情報の提供
交通事故にともなう二次災害を防止するため、交通事故の発生を素早く検出し、それに係わる迅速な交通規制を実施するとともに、交通規制情報を車載機、情報提供装置等により、ドライバーに提供する。
- (5)道路管理の効率化
- ・維持管理業務の効率化
各地域の自然、社会条件に応じて、安全、円滑、快適な道路走行環境の維持を図るため、路面の状況や作業用車両の位置等を的確に把握し、最適な作業時期の判断・作業配置の策定、車両への指示等を行うとともに、災害時には、道路施設や周囲の被災状況を把握し、道路復旧用車両の効率的配置等、迅速かつ的確な復旧体制の構築を行うなど適切な道路管理を行う。
・特殊車両等の管理
道路の構造を保全し、交通の危険を防止するとともに、利用者サービスの向上、物流コストの低減等を図るため、特殊車両の通行許可申請及び事務処理の電子化、通行許可経路のデータベース化及び許可車両の実際の通行経路の把握、車重計、積載重量計(自重計)による通過車両の積載量等の自動的な把握により、特殊車両の許可手続きの迅速化、通行許可の一層の適正化等を行う。
・通行規制情報の提供
各地域の自然条件に応じて、安全かつ円滑な交通の確保を図るため、雨、雪、霧、風、越波等の状況やこれによる通行規制に係る情報をすみやかに車載機、情報提供装置等によりドライバーに提供する。
- (6)公共交通の支援
- ・公共交通利用情報の提供
公共交通利用者のニーズに適した移動手段、乗り換え、出発時間帯等の選択を支援し、利用者の利便性の向上を図るとともに、交通機関の最適な利用分担の実現を図るため、公共交通機関の運行状況、混雑状況、運賃、料金、駐車場等の情報を出発前の家庭やオフィスの端末、あるいは移動中の車載機、携帯端末機、道路やターミナル、バス停、高速道路のサービスエリア等に設置された情報提供装置などにより提供する。
・公共交通の運行・運行管理支援
公共交通機関の安全で円滑な運行による利便性の向上と、事業運営の効率化を図るため、公共交通機関の運行状況等をリアルタイムに収集し、必要に応じて優先通行を実施するとともに、公共交通事業者に基礎データとして提供すること等により、公共交通機関の運行・運行管理を支援する。
- (7)商用車の効率化
- ・商用車の運行管理支援
輸送効率の向上、業務交通量の低減、輸送の安全性向上を図るため、トラック、観光バス等の運行状況等をリアルタイムに収集し、輸送事業者等に基礎データとして提供すること等により、運行管理を支援する。また、高度化・自動化・システム化された物流センターの整備、共同配送・帰り荷情報等の提供等により物流の効率化を支援する。
・商用車の連続自動運転
輸送効率の飛躍的な向上、業務交通量の低減、輸送の安全性向上を図るため、自動走行機能を持った複数の商用車等が適切な車間距離を保ちながら、連続走行を行う。
- (8)歩行者等の支援
- ・経路案内
高齢者・障害者等の交通弱者をはじめ歩行者等が安心して利用できる安全で快適な道路環境の形成を図るため、携帯端末機や磁気、音声等を用いた施設・経路案内や誘導等により歩行者等の支援を行う。
- ・危険防止
高齢者・障害者等の交通弱者をはじめ歩行者等が安心して利用できる安全な道路環境の形成を図るため、携帯端末機等による歩行者用信号の青時間の延長等により歩行者等の支援を行う。また、車両前方の歩行者を検知し、衝突の危険が予測される場合には、ドライバーに警告したり、自動的にブレーキを作動させることにより歩行者等の交通事故に対する危険防止を行う。
- (9)緊急車両の運行支援
- ・緊急時自動通報
災害、事故等に伴う迅速かつ的確な復旧・救急活動の実現を図るため、車両等自らが自動的に緊急メッセージを関係機関へ通報し、災害、事故等の認知と地点等の特定までに要する時間を飛躍的に短縮する。
・緊急車両経路誘導・救援活動支援
災害、事故等に伴う迅速かつ的確な復旧・救援活動の実現を図るため、交通状況及び道路の被災状況等をリアルタイムに収集し、関係機関への伝達、復旧用車両等の現場への誘導等を迅速に行う。