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I.高度情報通信社会に向けた基本的な考え方
(1)高度情報通信社会の意義
  @ 高度情報通信社会の定義

 高度情報通信社会とは、人間の知的生産活動の所産である情報・知識の自由な創造、流通、共有化を実現し、生活・文化、産業・経済、自然・環境を全体として調和し得る新たな社会経済システムである。このシステムは、制度疲労を起こした従来の大量生産・大量消費を基礎とするシステムにとって代わり、「デジタル革命」とも言える変革の潮流を生み、経済フロンティアの拡大、高コスト構造の打破、活力ある地域社会の形成や真のゆとりと豊かさを実感できる国民生活等を実現するものである。


A 前基本方針策定時からの状況変化と改定の必要性

 ここ数年間の全世界的なインターネットの爆発的な普及、電子メールの活用、携帯電話をはじめとする携帯情報端末の普及、グローバルな移動通信システムの出現等に見られるように、前「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」策定時には想定し得なかったスピードで経済・社会の諸分野におけるネットワーク化が進展してきている。
 また、前「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」では触れられなかった電子商取引についても、数次の補正予算に基づく先導的な実証実験の実施や民間団体等によるガイドラインの策定等官民を挙げた取組みにより、本格的な実用化への気運が高まりを見せており、先進企業の中には、実際に電子商取引により利益を上げるところも出てきている。
 さらには、「行政情報化推進基本計画の改定について」(平成9年12月20日閣議決定)において、申請・届出等手続の電子化を原則として平成10年度末までに可能なものから行うことが決定され、また「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)において、平成10年度末までに原則としてすべての指定統計の調査結果について、行政から国民への電子的提供を可能とすることが決定される等、「電子政府」の実現に向けた取組みがここ数年で進展を示しているところである。
 このように、我々は今日、産業革命以降の「大量生産・大量消費」を至上命題とする経済社会から、「デジタル革命」による「情報の創造・流通」を基礎とする経済社会への移行、つまり新しい価値へのパラダイム・シフトをまさに目の当たりにしようとしている。
 このような変革期において、新たに生じてきた種々の政策課題への取り組み方を含めて我が国の高度情報通信社会の構築に向けた基本的な考え方と基本的な方向性を示す「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」を真摯に見直し、前回策定時からの状況の変化を踏まえて新方針を内外に明確に示すこととした。この新方針の下、高度情報通信社会の構築を一層強力に推進する。


B 高度情報通信社会実現の効果

i) 経済構造改革の達成等
 高度情報通信社会の実現により、産業の生産性の向上、企業組織の改革、流通の合理化、仲介業務の効率化等がもたらされ、我が国経済の構造改革が推進される。
 また、情報通信ネットワークを通じたボーダーレスな最適化を目指す経済活動が発展することにより、全世界的な競争が促進され、我が国のみならず、地球規模での経済構造の変革が進展する。

ii) 真のゆとりと豊かさを実感できる国民生活
 高度情報通信社会の実現により、様々な社会コストの低減を通じ、国民生活全般にわたり、高コスト構造の是正による実質所得の増加、生活の利便性の向上による快適な暮らしの実現やストレスの低減、様々な取引の高速化・効率化等による余暇の創出等がもたらされる。

iii) 多様なライフスタイルの実現と新たなコミュニティの形成
 情報通信ネットワークの拡大等による新たな人間関係の形成等を通じ、従来の地理的な制約の枠を超えた新たなコミュニティの形成が促進されるとともに、在宅勤務やインターネットを通じた消費活動等、個人の価値観に応じた多様なライフスタイルが実現する。

iv) 次代の戦略産業である情報通信関連産業の発展
 電子商取引等の活用をはじめとして、経済活動や国民生活の様々な場面で情報化が進展し、旺盛な需要を背景とした情報通信関連技術の浸透が進む中で、情報通信産業が急速に拡大し、リーディング・インダストリーとしての役割を強めるとともに、情報通信関連技術を活用した様々な分野における新規産業が創出され、雇用の拡大がもたらされる。

v) 全国規模での社会構造の変化
 高度情報通信社会の実現により、物理的に移動することを必要とされる局面の減少、人口集積や規模の経済の優位性の低減等がもたらされ、東京圏をはじめとする大都市において過度に集積してきた人口、諸機能の地方への拡散、地域の自立的な発展が期待される。

vi) 国際化の一層の進展

 ネットワークを通じ、最適な条件を求めたボーダーレスの取引等が瞬時に行われることとなり、従来の社会・経済構造が大きく変貌を遂げ、また、様々な局面における国際的な関係が進展し、国際化の動きが加速化される。


C 高度情報通信社会推進の一層の加速化の必要性

i) 経済構造改革等の強力な推進
 「デジタル革命」によるパラダイム・シフトが起きようとしている今日、「情報の創造・流通」が経済活動において重要であるという新しい価値観に基づき、我が国の経済構造や産業構造の改革を一刻も早く強力に推進することが必要である。情報通信の高度化を通じて産業・生活の効率化や活性化を図っていくことこそが、硬直的な産業構造の変革に当たっての重要な点であり、国を挙げて取組むべき課題である。仮にこれを怠るようなことがあれば、情報化により効率的な経済構造・産業構造への転換の進む米国をはじめとする諸外国に遅れをとり、新しい価値観の支配する21世紀において、中長期的な国際競争力の低下を招くことは必至である。

ii) 国際的なリーダーシップの発揮
 新しい価値観に基づく国際経済社会において中核を占めることになる電子商取引等の国際的なルール作りについて、米国と欧州が昨年基本政策を発表し、本年5月には日米政府間で電子商取引共同声明を発表し、さらには日本、米国、欧州の三極内での二国間協議やOECD、WTO、APEC等の多国(地域)間協議の場で活発な議論が行われる等、電子商取引等をめぐる国際的議論は急速に深化しつつある。我が国もこのような新時代のルール設定を積極的にリードしていかなければ、たちまち新ルールの下での落伍者となり、国際経済社会における従前のプレゼンスを失うことになりかねない。

iii) 新規産業の創出とそれによる雇用の創出
 昨今の米国の好景気と歴史的な低失業率の大きな部分は、革新的な情報通信関連技術の開発とそれを活用した創造的な新興企業に支えられており、我が国においても情報通信分野は新たなリーディング・インダストリーとして今後最も発展が期待される分野の一つである。また、情報通信関連技術の発達とその活用により、「デジタル革命」に対応したベンチャーなど新規産業の創出とそれによる雇用の創出が期待される。「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)にも述べられているように、平成13年度(2001年度)までの間に各種の必要な対応策のすべてを集中的に講ずることにより、民間の努力と相まって世界最高レベルまで我が国の情報通信を高度化することが重要である。

iv)社会的な弱者への配慮・地理的な制約の克服
 高度情報通信社会を高齢者、身体障害者等に十分配慮した、人に優しい社会として早急に構築するため、これらの人々の自立や社会参加を容易にし、知的で文化的な生活を享受することができるよう誰でもいつでもどこでも使える、低廉で使い勝手のよいサービスや機器の普及に配慮すること等が必要である。