II.高度情報通信社会の実現に向けた課題と対応 | |
(1)電子商取引等推進のための環境整備 | |
本年6月に、高度情報通信社会推進本部電子商取引等検討部会報告書「電子商取引等の推進に向けた日本の取組み」が最終的に取りまとめられ、今般同本部に報告されたことを受けて、政府としては、この報告書の提示した方向性に沿って、電子商取引等の推進に向けて積極的に環境整備を行っていく必要がある。 @ 電子認証 電子認証は、情報通信ネットワークを介してデータのやりとりをしている相手が真に本人であること、及びデータが改変されていないことを確認するためのものであり、電子商取引等の信頼性を確保する上で基本的な要素である。 しかし、求められる認証のレベルや機能は取引形態によって千差万別であること、様々な認証方法や技術が急速に発達していること、また、本件に関する国際的議論も引き続き活発に行われていることから、取引当事者同士がその取引形態に応じて、必要な認証を自由に選択できるようにしつつ、公的関与のあり方も含め、認証システム全体のあり方について引き続き検討を行っていく必要がある。 もちろん、電子認証の信頼性について判断材料となる情報が提供されることは重要であり、民間でのガイドラインの整備等による自主的な対応が促進されるべきである。 政府としては、このような電子認証技術の発展やガイドラインの整備等の自主的取組みを促進するとともに、海外に法規制を導入する国がある場合にも、それが必要最小限であり、かつ、他国の認証を差別的に取り扱って国際電子商取引等の障壁となるようなものにならないよう働きかけていく必要がある。さらに、信頼できる電子認証の公正かつ中立な国際標準を確立する動きを積極的に支援していくとともに、商業登記制度など現行取引においても認証等の用に供されている公的制度に基礎を置く電子認証制度や電子公証制度の整備についても検討を行っていく必要がある。 いわゆる電子署名については、手書きの署名や記名押印と少なくとも同等の法律効果を与えることとすべきであり、関係当事者の権利義務及び責任に関する基本的なルールの明確化を含め、そのための検討を進める必要がある。 なお、UNCITRALにおいて1996年より行われているモデル法作成作業に引き続き積極的に参加するとともに、こうした国際的な議論との整合性にも十分留意する必要がある。 A プライバシー保護 情報通信関連技術の発展により、電子化された情報を情報通信ネットワークを介して大量かつ迅速に処理することが可能となっており、また、蓄積、検索、利用、改竄も容易であることから、プライバシー保護の必要性が以前にも増して急速に高まっている。電子商取引等の発展には自由な情報流通が不可欠であるが、その前提として、プライバシーについては確実な保護が図られなければならない。 しかし、個人情報の内容や用途、収集の方法は、業種業態毎に異なるため、基本的には、業種業態別に民間によるガイドラインの整備、登録・マーク付与制度の実施等の自主的対応が早急に推進されるべきである。一方、個人信用情報や医療情報等、機密性が高く、かつ、漏洩の場合の被害の大きい分野については、法規制等の公的関与が十分検討されるべきである。 政府としては、民間による自主的取組みを促進するとともに、法律による規制も視野に入れた検討を行っていく必要がある。また、プライバシーの侵害に対する消費者の不安感を除去するため、事業者に対し個人情報の保護内容について消費者に十分な情報を提供するよう促すとともに、消費者相談窓口の充実に努める。こうした取組みにおいては、1980年に既に合意を得ているOECDプライバシー保護ガイドラインや、昨今OECD等で行われている国際的議論との整合性にも十分配慮する必要がある。 B 違法・有害コンテンツ対策 違法・有害コンテンツの問題は、情報通信ネットワークの急速な普及により大量の情報が広範囲に流通し、居ながらにして様々な情報を即時に受発信できるようになった結果、一層大きな問題となってきている。これを放置することによって、ネットワークに対する社会的信頼性が失われ、電子商取引等の発展が阻害されるとともに、青少年に対する悪影響が生じることが懸念される。 現行法でいうわいせつ物の頒布や名誉毀損に当たる違法なコンテンツの発信は、情報通信ネットワーク上でも当然違法であり、規制されなければならない。 違法ではないが青少年に悪影響を与える等の有害なコンテンツについては、新たに整備された法律による性的なコンテンツをインターネット等を用いて客に見せる営業の規制等のほかは、利用者(保護者等)の側がフィルタリング・システム等の技術的手段を使用することや民間の自主規制を基本とした対応を促進することとする。 政府としては、違法コンテンツの取締の実効性を高め、上記の法律の適正な運用等に努めるとともに、フィルタリング・システム等技術の向上やネットワーク・プロバイダーの自主的なガイドライン作成の促進、さらには発信者・利用者双方の啓発等を図っていかなければならない。 C 消費者保護 従来の商取引同様、電子商取引等においても消費者は知識や情報の偏在等により弱い立場に置かれることが多い。電子商取引等における消費者トラブルは近年増加しており、取引に関する十分かつ適切な情報の提供や、トラブルの未然防止措置・救済措置等透明で効果的な消費者保護策を整備することにより、消費者が従来の商取引と同水準の保護を得られるようにすべきである。また、消費者自身が適正な判断を行えるよう、消費者に対する教育及び啓発を行っていくべきである。 従来の消費者保護法制が様々な取引実態や事業者による自主的対応等を基に構築されてきたことにかんがみれば、現行法制における解釈の明確化や先般、広告の適正表示の観点から強化された法律の適正な運用、苦情処理体制の整備と並行して、引き続き事業者によるガイドラインの整備等の自主的対応を促進し、また、必要に応じて法的制度の見直しを行うこと等についても引き続き検討していくべきである。さらに、取引が国境を容易に越えてしまうこと等の電子商取引等の特性に鑑み、OECD等においてガイドライン策定等に向けて行われている活発な議論に積極的に参加し、国際的整合性の確保や国際的な協力体制の確立に努める必要がある。 なお、情報通信ネットワークを介して消費者に直接送信される宣伝・広告については、誇大広告・虚偽広告等の広告の内容自体の問題は基本的に既存の法的枠組みで対処されるべきであるが、宣伝・広告の一方的送り付けについては、広告審査、苦情処理に関する体制の整備やフィルタリング技術の開発・普及が促進されるべきである。 D セキュリティ・犯罪対策 電子商取引等の発展のためには、その基盤インフラである情報通信ネットワークが、不正アクセスやコンピュータウィルス等の侵害的行為の脅威から守られ、安全性が確保されていることが極めて重要であり、このような侵害的行為に対しては、その的確な防止・検挙・訴追がなされるよう、法整備のあり方を含め、取締りの徹底方策について検討するべきである。 政府としては、今後情報通信ネットワークにかかる新たな犯罪への対応に前向きに取組む必要があるが、このような情報通信ネットワーク上の犯罪行為においては、行為者の特定が事実上極めて困難であり、その取締りには限界があると考えられ、犯罪の発生自体を抑止することが重要であることから、犯罪の脅威を受ける側の防御措置の確立が肝要である。そのためには、これらの犯罪行為への対策の必要性に関する啓発はもとより、技術開発の促進や不正アクセス対策、暗号技術の不正利用対策等のセキュリティ対策について、ガイドラインの整備のほか、必要に応じた法的環境整備の検討を行っていく必要がある。なお、その際、1992年のOECD情報システムのセキュリティに関するガイドラインや昨年採択されたOECD暗号政策に関するガイドラインに定められた諸原則に従うべきことは言うまでもない。 また、情報通信ネットワークを利用したマネー・ロンダリング等、情報通信ネットワーク固有ではない従来型の犯罪についても、その対策について、現実の商取引等についての規制との均衡に十分配慮しつつ、必要最小限の法的規制を視野に入れた検討を進めるべきである。 E 取引一般に関わる制度 取引当事者間のルール設定は、従来の取引同様、私的自治を原則として当事者間において行われるべきである。ただし、取引当事者間によるルール設定の際に参照すべき電子商取引等における慣行等がまだ確立していない現時点においては、モデル約款やガイドラインは、法律関係を明確にし、取引についての不確実性を除去する点で特に有用であり、これらの策定にかかる取組みが促進されるべきである。 また、電子商取引等は、対面・書面による意思表示を前提とした現行民商法が想定していない局面が考えられるため、既存の方式要件や、無権限取引、債権譲渡の第三者対抗要件等については、新たに検討を行って、ルールの明確化が図られなければならない。また、約款の効力や契約への取込みについても十分検討が行われる必要がある。ただし、取引の多様性と急速な技術進歩や、1996年採択されたUNCITRAL電子商取引モデル法等の国際的な議論との整合性にも十分配慮し、取引実態の蓄積を見極めつつ、電子商取引等の円滑な発展を阻害することがないように留意すべきである。 F 電子決済・電子マネー 電子決済・電子マネーは、現在揺籃期にあり、未だ典型的な形態が確立しておらず、今後も様々な新たな形態が生じていくものと思われる。その意味で、民間部門の技術開発や創意工夫など自由活発な試みを促進することが当面重要となる。他方、利用者の保護と決済システムの安定性の確保は、電子決済・電子マネーが利用者からの信認を得て、発展するために不可欠の前提である。 政府としては、この二つの要請のバランスを取りながら、当面、民間の動きを見守りつつ、この新たな分野について必要最小限の法的環境整備の検討を行っていく必要がある。 具体的には、今後、電子マネー・電子決済にかかる公正な取引ルールと利用者保護のあり方、電子マネー発行体の適格性要件、電子マネー発行体の破綻時の対応等について、十分な検討を行う必要がある。 G 知的財産権 電子化された情報はそもそも複製、改竄が容易であるとともに、情報通信ネットワークや大容量電子媒体の普及によって、特段資金も技術もない一般人でも容易にコンテンツを発信できる環境が整ってきている。電子商取引等の発展には、こうした情報技術の特性を踏まえた知的財産保護に関するルール作りが必要である。しかし、電子商取引等と関連する知的財産権問題においては、関係当事者間の利益の調整が複雑で、かつ、技術的解決が困難なものも多い。 政府としては、1996年に採択された新条約など世界知的所有権機関(WIPO)における検討の成果を踏まえつつ、知的財産権法制の見直しを推進するとともに、その他関連法制度等も含めた幅広い観点から適切な知的財産保護のあり方を検討していくべきである。また、知的財産権の保護に資する電子透かし等無権限利用防止に関する技術や知的財産管理技術の開発を積極的に支援することも求められる。 特に、著作権制度は、電子商取引等の発展に必要なコンテンツの質的・量的な充実を図る上で、必要不可欠な法的基盤であり、コンテンツの創作活動へのインセンティブを維持し、更に向上させるとともに、実際にソフトの利用が適切かつ円滑に行われるようにするために、著作物の利用をコントロールする措置等に関する望ましい制度上の対応や利用者のニーズに応じた円滑な権利処理に資する著作権権利情報の提供体制の整備等について早急に検討を進める。 なお、電子商取引等の発展のためには、これを支える基盤技術の工業所有権の保護も不可欠である。 H ドメインネーム ドメインネームはインターネットに接続されるホスト・コンピュータを表すインターネットにおける住所としての役割を有しており、インターネットを介した通信を行う上で、その重要性は日々高まっている。しかしながら、現状ではドメインネーム及びIPアドレスの不足、ドメインネームの国際的登録・管理の必要性の高まり、ドメインネームと商標に関する権利をめぐる紛争等、ドメインネームの抱える様々な課題が浮き彫りになってきている。 政府としては、インターネット利用者の利便性を向上させるため、これらの課題の解決に向けた検討を進めていくが、その際、ドメインネームの登録、管理制度については、国際的に開かれ、公平で、かつ、市場原理に基づいたものとすべきである点に留意する。また、登録された商標権の侵害が生じないよう、ドメインネームの登録の際の商標権への配慮や苦情処理体制のあり方等の検討が必要である。 I 税 電子商取引等の発達により、経済取引が複雑化・国際化し、誰が、いつ、どこで、どのような取引を、どれだけ行ったか、といった取引の実態を正確に捉えることが今後更に困難になっていくと考えられ、それに伴って、適正な課税のあり方を検討していく必要がある。 電子商取引等への課税は、公平、中立、簡素であるとともに、電子商取引等が国際的規模で行われることから、国際的に見て二重課税や課税漏れがないよう、国際的整合性を確保することも重要である。こうした観点から、OECDにおける課税の基本的枠組に関する報告を踏まえた更なる検討等に向けて我が国としても努力していくべきである。 J 関税 我が国においては、電子的に伝送されるコンテンツには関税がかかっていない。電子商取引における関税の取扱いについては、本年5月のWTO第2回閣僚会議において、来年の第3回閣僚会議までに包括的な検討を行うとともに、それまでの間、電子送信に関税を賦課していない現状を維持する内容の閣僚宣言が採択され、これを受けて9月に作業計画が策定されたところであるが、今後も引き続き、国際的な電子商取引等を促進する観点から、WTOの場等における具体的な議論に積極的に参加するべきである。その際には、WTO協定との関係を十分整理する必要がある。また例えば、各国の実務において、ソフトウェアがCD等の媒体に記録されて輸入される場合とインターネットを通じて伝送される場合とで、課税の取扱いについての整合性をどう考えるかといった点を含め、関税にかかる法的・実務的観点からの検討を早急に行う必要がある。 |
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