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高度情報通信社会推進に向けた基本方針

平成7年2月21日
高度情報通信社会推進本部決定

高度情報通信社会に向けての基本的な考え方

(1)高度情報通信社会の意義

i. 新たな社会革命
 高度情報通信社会とは、人間の知的生産活動の所産である情報・知識の自由な創造、流通、共有化を実現し、生活・文化、産業・経済、自然・環境を全体として調和し得る新たな社会経済システムである。このシステムは、制度疲労を起こした従来のシステムにとって代わり、かつての市民革命や産業革命に匹敵する「情報革命」とも言える変革の潮流を生み、経済フロンティアの拡大、国土の均衡ある発展の促進や、真のゆとりと豊かさの実感できる国民生活が実現されるものと期待される。
vii. 情報通信インフラ整備の必要性
 21世紀に向けてこうした高度情報通信社会の構築に向けた動きを加速・推進するためには、情報・知識の創造・流通・共有化を支える高度な情報通信インフラを早急に整備しなければならない。これは多大な投資を伴うものであり、情報通信に関連した産業の市場規模を拡大し、リーディングインダストリーとしての役割を強めるだけではなく、人間の知的生産活動の活性化を通じ、多くの新規事業を全国各地に創出しうるものである。
(2)高度情報通信社会実現のための行動原則

 政府としては、配慮すべき事項として、以下の行動原則に基づき、高度情報通信社会の実現を図る。

i. 誰もが情報通信の高度化の便益を安心して享受できる社会
 高度情報通信社会の最大の特徴は、シームレスなネットワークを通じて、その先にある全ての情報をあたかも自分のところにあるかのように共有でき、また自分の情報をいつでもどこにでも迅速かつ的確に伝達できることにある。こうした便益を誰もが享受できる社会の実現を目指す。その際、国内の治安、防災、安全保障にも配意することが必要である。
ii. 社会的弱者への配慮
 高度情報通信社会を高齢者、身体障害者等にも十分配慮した人に優しい社会とするために、誰でもいつでもどこでも自由に使える、低廉で使い勝手のよいサービスや機器の普及に配意する。
iii. 活力ある地域社会の形成へ寄与
 距離的障壁の克服を可能とする情報通信インフラは、中央と地方の情報ギャップを解消し、国土の均衡ある発展を達成するともに、地方の情報受発信能力を大きく向上させることができる。従って地理的、歴史的に多様な地方公共団体、地域住民、企業等の協力による地域情報化にも十分配慮する。
iv. 情報の自由な流通の確保
 高度情報通信社会では、情報の価値が一層高まるとともに、その情報を前提に取引、生活など全ての行動が決定されていくことから、現在以上に、情報についての安全性、信頼性とプライバシーの保護が要求される。高度情報通信社会の脆弱性を克服するため、情報の安全性、信頼性とプライバシーの確保に努める。
 あわせて、高度情報通信社会の推進に当たっては、国内の治安、安全保障に配慮する。
v. 情報通信インフラの総体的な整備
 高度情報通信社会は、光ファイバーや衛星通信を始めとするネットワークインフラ、この上に展開し、現実の事務、業務を行うためのシステム機器やソフトウェア、データベースに蓄積されている情報資源(コンテンツ)、技術者やユーザー、以上を利用していく上での諸制度などが重層構造をなしており、これら全体を「情報通信インフラ」として捉え、その総体的な整備を図る。
vi. 諸制度の柔軟な見直し
 近年の急速な情報通信の高度化に対し、従来の各種制度はこうした事態を想定してないことから、十分な対応ができておらず、その結果として、これらの制度の中には情報通信の高度化の進展を阻害するという事態を生ぜしめているものもある。情報通信の高度化のメリットを最大限に活かすため、情報通信の技術の飛躍的な向上を踏まえ、諸制度の目的に配意しつつ、検討を行い、その結果を踏まえて、柔軟な見直しを常に行っていくこととする。
vii. グローバルな高度情報通信社会の実現
 我が国としてグローバルな高度情報通信社会の実現にも貢献していくため、国際間の共同プロジェクト等のデモンストレーションの実施に協力することにより、情報通信の活用によっていかなる効用が生じるかを明確に示すとともに、途上国に、自らの有する情報通信に関する技術、ノウハウ等を積極的に提供していくことにより、世界的にバランスのとれた情報通信インフラの整備を図る。
(3)高度情報通信社会の構築に向けての官民の役割

i. 基本的な考え方
 高度情報通信社会の構築は、公正有効競争の下に基本的には民間主導で進めるべきであり、サービスやネットワークの提供者が、企業家意識を持ち、具体的な効用を生むユーザーニーズを的確に捕捉し、事業化することにより経済効率を追求していくことが望まれる。
 以上の認識に立って、政府としては、広域性への対応、経済的・法制的な側面などのバックアップ、基礎的・先端的な研究開発の推進、あるいは基盤整備に対する公的支援等、所要の環境整備を総合的、計画的の行っていくこととする。
iii. 公的支援の在り方
 国債残高が200兆円を越えるという厳しい財政状況を踏まえれば、真に必要な施策に対し効率的な支援を行っていく必要がある。こうした認識に立って、政府としては、昨年10月に策定した「公共投資基本計画」においても「光ファイバー網の整備をはじめとした民間主体による通信に関連した社会資本の高度化を促進するとともに、必要性を勘案しつつ、行政・教育・医療・福祉・図書館などの公的分野の情報化を進める」としたところであり、これを踏まえ、情報通信の高度化を着実に推進していくこととする。
(4)高度情報通信社会の構築に向けての政府の取組の在り方

総合的、計画的な推進の必要性

 安全・豊かで活力のある社会の実現という国民の期待に応え、また国際社会に積極的に貢献していくためには、高度情報通信社会の構築は国づくりの基幹のひとつであるという視点に立った施策の推進が不可欠である。こうした認識に立って、政府としては、施策の充実を図り、それを総合的、計画的に推進していく。特に、主要地域の光ファイバー網整備と、これを活用した公的アプリケーションの導入、実用化、及び基礎的汎用的技術開発については、2000年までを先行整備期間として進める。光ファイバー網については、その後も情報通信インフラの総体的整備を図る中で需要の顕在化や高齢化の進捗等を勘案しつつ、2010年を念頭において早期の全国整備を目指す。

 なお、今日は技術革新のめまぐるしい時代であり、高度情報通信社会の構築に当たっては、政府が未来についての正確な見通しを立てたり、望ましい未来を計画的に構築していくことは困難さが伴う。また、長期的な計画の策定にあたっては産業政策の妥当性、財政支出の増大や行政の肥大化等のリスクについて十分な検討を行う必要があることはいうまでもない。さらにこうした困難さを克服するためにも状況に応じた見直しが必要である。

 こうした立場から施策の推進にあたっては、次の点に留意する。

 第一に、施策の内容を明確に国民に示すとともに、実施した措置をフォローアップすることで国民負担の透明性を高める。

 第二に、従来の枠組みにとらわれることなく、ソフトやネットワーク、人材等に対する施策を重視する。


高度な情報通信社会の実現に向けた課題と対応

 当面対応すべき具体的な政策課題と、講ずべき施策の基本的方向については、以下のとおりとする。

(1)公共分野の情報化等(公共分野のアプリケーションの開発・普及等)

i. 基本的な考え方
 公共分野の情報化については、我が国社会全体の情報化推進の起爆剤として期待されているところであり、政府は、国民誰もが充実した公共サービスを享受できるよう、自らユーザーとして先進的アプリケーションの開発・導入など先導的な役割を果たしていく必要があるため、総合的、計画的に施策を講じていくこととする。

 年内に本基本方針を受けて各省庁が分野毎の目標、中期的施策、その進め方等を内容とする実施指針を策定し、明らかにする。

ii. 行政の情報化
 行政の情報化は、行政の事務・事業及び組織を改革するための重要な手段であり、その積極的な推進を図ることにより、国民の立場に立った効率的・効果的な行政の実現につながるものである。

 このため、行政のあらゆる分野において、情報システムの利用を行政の組織活動に不可欠なものとして定着させ、行政内部のコミュニケーションの円滑化、情報の共有化による政策決定の迅速化等の行政運営の質的向上と、国民への情報提供の高度化、行政手続の効率化等の行政サービスの向上を図るため、セキュリティの確保等に留意しつつ、「紙」による情報の処理からネットワークを駆使した電子化された情報の処理へ移行し、「電子的な政府」の実現を進める。

 かかる観点から、行政の情報化については、行政情報化推進基本計画(平成6年12月25日閣議決定)に基づき、平成7年度から以下のような施策を総合的、計画的に推進する。また、これらの施策を具体的に実施するため、各省庁が共同・分担して取り組む共通実施計画及び各省庁別計画を早急に策定する。

  • 職員一人一人がいつでもパソコン等の利用が可能となる環境を整備し、一般行政事務における文書の作成・保管・伝達等の事務処理について情報システム化を総合的に進めるなど、行政情報の広範な電子化と高度利用を推進する。

  • 行政情報の省庁間での共有及び円滑な流通を図るため、データ項目等の基本的な事項についての標準化、省庁の枠を超えた総合的な政策の企画立案を支援する省庁間電子文書交換システムの整備、省庁間で共同利用できるデータベースの整備などを行う。

  • 各省庁の発表する報道資料等の行政情報を国民等に提供する情報システムの整備、申請、届出等の国民との間の行政手続の電子化・オンライン化の推進など、行政サービスの高度化を行う。

  • 技術進歩に対応した情報システムの高度化、施設のインテリジェント化等の執務環境の整備及び省庁間ネットワークの整備など、各種の基盤整備を行うとともに、情報化に対応した制度・慣行の改善を図る。

iii. 教育・研究・学術・文化・スポーツ分野の情報化
イ.教育分野の情報化
 全人的な人格形成を目指した教育活動の中で、高度情報通信社会の進展に対応して、コンピュータ等の情報機器やネットワーク、データベース等を適切に活用することにより、子供一人一人の個性に合わせた学習を充実し、創造力、思考力、表現力の一層の涵養を図る。さらに遠隔教育やへき地教育における活用等を通じて、教育機会の拡大や教育方法の充実を図る。

 このため、以下のような施策を総合的、計画的に推進する。

  • 基礎的な条件整備として、小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校、高等専門学校、大学等において、コンピュータ等の情報機器やソフトウェア等の整備を一層推進する。

  • 国立の高等教育機関の学内LANの整備を推進するとともに、公私立大学等における学内LANの整備についても積極的に支援する。

  • (i)広域的な生涯学習の推進のための学習情報提供システムの整備、(ii)教育用ソフトウェアを試用できる拠点として、教育用ソフトウェアライブラリセンターの設置、(iii)教育、文化等に関する総合的な情報提供のナショナル・センター機能の整備を推進する。

  • (i)ネットワークを活用した適切な遠隔教育の在り方等について、先導的な調査研究を推進、(ii)図書館、博物館、美術館等におけるマルチメディアの活用方法や関連するソフトウェアの研究開発を進める。

ロ.研究分野の情報化
 我が国が将来にわたり持続的経済発展を遂げていくためには、科学技術振興のための基盤を未来への発展基盤として整備していくことが重要であり、このため研究分野の情報化を推進することにより、世界最高レベルの研究開発環境を整備・維持し、常に研究水準の向上を図ることが不可欠である。

 また、研究情報ネットワークとして米国から始まったインターネットがその後様々な分野における利用へと発展したように、高度情報化における研究者の先駆的活動は、社会全般の情報化を促進し、高度情報通信社会を実現するための先導的役割を果たすことが期待される。

 このため、以下のような施策を総合的、計画的に推進する。

  • 研究機関、省庁、国の枠を超えた研究機関間を結ぶ研究情報ネットワーク及びコンピュータ等の研究情報基盤を中長期的な視点に立ち、回線の高速化を図りつつ、継続的な整備・充実を図る。

  • データベース等のネットワークを流通する情報資源(コンテンツ)を質的・量的に充実するとともに、ネットワークを介した高性能コンピュータの利用技術の高度化等を推進するなど、ハードとソフトのバランスのとれた発展を図る。また、情報資源の積極的な国際発信を図る。

  • 科学技術会議の場を積極的に活用することにより、各省庁、各機関相互間の協調の下に連携協力を深める。

ハ.学術分野の情報化
 学術研究の高度化に伴う学術情報の増大・多様化、特にマルチメディア情報の円滑な流通に対応するとともに、我が国で不足していると指摘される学術情報の海外への情報発信機能を強化する観点から、学術情報基盤の整備・充実を図る。

 このため、以下のような施策を総合的、計画的に推進する。

  • 学術情報流通のための基幹ネットワークである学術情報ネットワークの高度化・高速化、国際接続の拡充を実施する。

  • 大学等における学術情報の全学的な流通を促進するキャンパス情報ネットワーク(学内LAN)の高度化を図る。

  • マルチメディアに対応したデータベース及び情報関連機器の整備・充実を図る。

  • マルチメディア機能を持った電子図書館システムやマルチメディア情報の高速伝達に必要な通信方式等の研究開発を推進する。

  • 学術情報センターをはじめ、大型計算機センター、総合情報処理センター、大学図書館など、大学等の学術情報流通の促進に中心的な役割を担う機関の一層の整備・充実を図る。

ニ.文化・スポーツ分野の情報化
 国民の文化志向の高まりと広がりの中で、文化財、芸術作品、舞台芸術などをより身近に観賞できるような環境を整備し、また、近年のスポーツニーズの多様化・高度化に対応する環境整備を図る。

 このため、以下のような施策を総合的、計画的に推進する。

  • 文化財、美術品、地域文化、現代舞台芸術の各分野をはじめとする文化に関する情報システム、ネットワーク、データベースについて整備の一層の充実を図る。

  • 地域スポーツに関する情報提供システムの整備、スポーツ指導や指導者養成における効果的な学習システムの在り方に関する研究の推進等を図るとともに、競技スポーツにおけるトレーニング面でのマルチメディアの応用を進める。また、スポーツ科学に関する研究や情報の収集・提供についてのナショナル・センター機能を有する施設の設置を検討する。

iv. 保健・医療・福祉の情報化
 今後高齢化が進展する中で、国民の誰もが身近に利用する保健・医療・福祉分野のサービスについて積極的に高度情報通信技術を活用して、国民の健康や福祉の確保、生活の質の向上を図る。

 このため、以下のような観点から施策を総合的、計画的に推進する。

  • がん診療総合支援システムの充実や保健医療カードシステムの普及など保健医療福祉サービスの質の向上を図る。
  • 在宅医療支援システムの整備など新しい保健医療福祉サービスへのニーズに対応する。
  • 保健医療福祉情報のネットワーク化を図り、住民に身近な市町村を中心とした総合的できめ細かなサービスの提供体制を確保する。
  • へき地医療への支援など、地域による保健医療福祉サービスの格差是正を図り、公平さを確保する。
  • 診察等に要する待ち時間の短縮や医療サービスの適正化など、保健医療サービスの効率的な提供を行う。

 上記施策の推進に当たっては、i.医療施設間での情報の交換を可能にするための標準化により、情報の共通利用性を確保する、ii.情報が誤りなく再現されるよう再現性を確保する、iii.プライバシーの保護が図られ、情報の改ざんや不正利用が防止されるなど安全性を確保する、必要がある。

v. 道路・交通・車両の情報化
 最先端の情報通信技術を用いて道路と車とを一体のシステムとして構築し、安全性の向上、輸送効率の向上、快適性の向上を達成し、環境保全に資する高度道路交通システムの推進を図る。

 このため、以下のような施策を総合的に推進する。

  • 技術開発・普及を推進するために、政府において、学民と連携を図り、ナビゲーションシステムの高度化、自動料金収受システムの確立、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化等高度道路交通システムの全体構想を策定し、これに基づき、システムを構成する車載機・インフラ等に関する研究開発、フィールドテスト、普及を推進する。
  • 自動車に道路・交通等の状況を提供する道路交通情報通信システム(VICS)の積極的な展開を図る。
  • 高度道路交通システムについて、ITS国際会議等における国際情報交換、国際標準化等の国際協力を積極的に推進する。
vi. 気象・航空管制部門等公共輸送部門の情報化
 気象・航空管制部門等公共輸送部門では、国民へのタイムリーな情報提供、安全性の確保、物流の効率化等を確保する必要がある。

 このため、以下のような施策を展開する。

  • 運輸多目的衛星等の衛星システムの開発整備により、航空交通容量の拡大、気象情報の充実やその利用促進を図る。
  • 旅客・貨物の移動に際し、必要かつ有益な情報を提供する運輸関連の情報ネットワークの整備等に努める。
  • vii. 防災の情報化
     防災対策において情報の迅速な伝達などを図るため、最先端の情報通信技術を用いた基盤作りを積極的に推進する。

     このため、以下のような施策を総合的に推進する。

  • 災害時において、被害状況を始めとする各種情報の収集を円滑に実施するため、機動性の高い衛星通信システム等の情報通信基盤の整備に引き続き努める。
  • 現地における被災者の救助、道路交通の確保等の活動を的確に実施するため、システムを適切に維持・運用できる体制のもとに災害に強いシステム構成を有する情報通信システムの整備に引き続き努める。
  • 国と都道府県、都道府県と市町村、市町村と住民それぞれを結ぶ「災害に強い」高度な防災情報通信システムを構築するため、消防防災通信ネットワークの整備を推進する。
  • 災害時の状況をリアルタイムで確実に把握するため、地域衛星通信ネットワークを活用した映像伝送システム等情報収集機能の高度化を図る。
  • 防災情報を迅速に伝達し、災害時の情報不足を解消するため、住民に確実な情報を提供する市町村防災行政無線のより一層の充実・高度化を推進する。
  • 地震等のデータを集中化し、リアルタイムで処理する地震活動等総合監視システム(EPOS)や地震津波監視システム(ETOS)により、地震・津波等の防災情報の迅速な提供に努める。
  • 気象データを収集、解析、予測し、その結果を広く配信する気象資料総合処理システム(COSMETS)を更新し、数値予報モデルの高度化など空間的・時間的によりキメ細かい防災情報の提供などを図る。
  • 光ファイバーケーブル、衛星通信等を活用した防災情報システムの整備を推進する。
  • 防災情報の各家庭への配信に向けた情報システムの開発を推進する。
  • 高齢者や障害者など災害弱者にとっても分かりやすい防災情報の提供を推進するための、ソフト開発を行う。
  • 災害及びこれに伴う道路交通状況の情報を迅速かつ的確に収集・提供し、緊急交通路・輸送路等を適切に確保するため、ITV、車両感知器、強震計、道路交通についての情報提供装置等の整備を引き続き推進する。
  • 被災者関連情報の円滑な提供のため、コンピューター・ネットワークの活用を図る。
  • 引き続き行政情報総合通信網の利用地区の拡大及び質の向上を図ることにより、災害時における行政機関間での行政情報の迅速かつ的確な伝達に資する。
  • (2)情報通信の高度化のための諸制度の見直し

     高度情報通信社会においては国民へのサービス向上の観点から、様々な事業者が自らの創意工夫により世の中のニーズに応え、従来の枠組みをこえた幅広いニーズに基づく自由な市場を創出する必要がある。こうした市場の創出には、新たなビジネスやサービスがタイムリーに実施できるような仕組みや実現に取り組まねばならない。このため、情報通信技術の飛躍的な進展を踏まえ情報通信に関連した産業の市場を拡大し、ユーザーである国民に多様なサービスを提供するための視点に立った規制緩和を、諸制度の目的に配意しつつ、大胆に進める必要がある。

     現在では、情報通信技術の飛躍的な進展に伴い、現行法体系自体が情報通信の利用を想定しておらず、実行することが困難な利用形態が多く出現している。かかる状況に鑑み、規制緩和の推進に情報通信の高度化のための制度の見直しを明確に位置づけ、情報通信技術の飛躍的な進展を踏まえ、諸制度の目的に配意しつつ、どうすれば利用が可能になるかを、ユーザーである国民の視点に立ってこうした分野の法制度を体系的に総点検するなど、諸制度の検討結果を踏まえ、見直しを行い、所要の規制緩和措置を実施する。

     当面、以下の施策等の検討を推進する必要がある。

    (3)ネットワークインフラの整備

     高度情報通信社会の実現に向けて、アプリケーション整備と同時にネットワークインフラについても、i.全国的均衡のとれた整備、ii.地震等の災害に対する脆弱性の克服、iii.諸外国の動向を踏まえた整備が必要である。特に光ファイバー網については、今日の交通ネットワークのごとく、我が国の社会経済活動に不可欠になることが予想され、経済の持続的発展と国民生活の質の向上と地域間の情報格差の是正に大きく貢献するものであって、早期に全国整備を行う必要がある。 しかしながら、ネットワークインフラは、敷設当時の需要に比べて相当大きな需要に耐え得る整備の敷設を行うなど表に出ない大きな投資負担を負う必要があり、その構築については民間主導を原則とするとしても、巨額の資金調達が必要であることを勘案すれば、短期的な立ち上げにおいては投資促進のための政策支援が不可欠である。

     このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。

  • 先行整備期間である2000年までの間に光ファイバー網整備を行う民間事業者に対し、新たな低利融資制度の創設等の公的支援措置を講ずる。
  • 地震等に対する情報通信網のセキュリティ確保等のため、公的支援により電線類の地中化を推進するとともに、安全かつ円滑な交通の確保と景観の整備のため、電線共同溝の整備を図るものとする。
  • ネットワークインフラの整備に当たっては、電気通信事業の役割とともに、地域の総合的な情報通信基盤であるCATV事業の役割も重要であり、今後CATV事業についてその基盤を整備していく必要がある。

     また、ネットワークインフラの整備に当たっては、災害の多い国土の特性に鑑み、地上回線と衛星回線といった多様な通信インフラの長所、短所を踏まえた幅広い整備が必要である。

    (4)情報化の進展に対応した著作権等の施策の展開

    i. 基本的な考え方
     著作権等の制度は、ソフトの創作活動にインセンティブを与えるために不可欠な法的基盤であり、高度情報通信社会実現の成否の鍵を握っているといっても過言ではない。即ち、高度情報通信社会の実現のためには、ハード面の整備に併せて、国民の多様なニーズに応え、新しい魅力あるソフトが積極的に創作・供給される環境及びソフトを適切かつ円滑に利用することができる環境の実現が極めて重要であり、このような観点から、高度情報通信社会における著作権等の在り方について、国際的調和に留意しつつ早急に検討を進める。
    ii. 著作権等の施策の展開
     高度情報通信社会の進展に伴い、既存の音楽、言語、美術、写真、映画などの多様なソフトが大量にデジタル・データとして流通することにより、ソフトが、複製、加工、送信など、多様な形態で利用されるようになることが予想される。また、新しい技術を利用して、従来の著作物のカテゴリーの枠を超える新しい形態のソフトの創造も盛んになるものと考えられる。

     このようなソフトの創作及び利用の多様化、高度化の中において、ソフトの創作活動へのインセンティブを維持し、さらに向上させるとともに、実際にソフトの利用が適切かつ円滑に行われ、また、著作物等の無許諾複製や無許諾利用を防ぐために、以下のような対応を行う。

    • 望ましい著作権等の制度上の対応について、早急に検討を進める。
    • 権利の所在等の情報提供体制を整備する。
    • 権利処理のルールを確立する。
    • 著作物の利用を技術的にコントロールする等を可能とするシステムの普及・高度化等を促進するとともに、利用をコントロールする措置に関する制度上の対応の在り方について検討する。
    • 著作権等の制度の国際的調和を図ることが重要であり、世界知的所有権機関(WIPO)等の場において、このための具体的かつ本格的な検討作業を行うべく、我が国としても引き続き積極的に対応する。

    (5)セキュリティ対策、プライバシー対策

     高度情報通信社会においては、地震等の災害により情報システムのダウン等の障害などが発生した場合、国民生活全般に重大な影響が生じるほか、個人に関する情報が本人の知らない間に収集・蓄積され、あるいは本人の予想しない目的に利用・悪用される可能性が増大する。このため、情報システムのセキュリティ対策の実施や個人情報の適正な保護が極めて重要となる。

     特に、近年のコンピュータのダウンサイジング化やオープン化の進展といった情報関連技術の急速な発展や、現在急速に発展しているインターネットのようにオープンなコンピュータネットワークの出現により、セキュリティ対策及びプライバシー対策の重要性は一層増大しており、分散処理やネットワーク化の進展という状況の下、以下のような対応を図る。

    (6)相互運用性・相互接続性の確保

     相互運用性・相互接続性の確保は、企業、個人等のユーザーがネットワークを用いて様々な事務・業務を行う高度情報通信社会の基盤となるものであり、その重要性は高まってきている。

    情報通信分野の標準化は、公的標準のみならず、民間レベルのフォーラムや個別企業など様々な主体により提供されるようになっており、その現状を踏まえた対応が重要となっている。

     こうした中で、標準化については、ITUやISO等の国際的な標準化機関の動きと整合しつつ、システムやサービスの提供者のみならず、ユーザーの利便性の向上の観点に立ち、オープンなインターフェースの確保に重点をおきつつ、官民が協力して、相互運用性・相互接続性の確保及びそのための標準化を推進していく。かかる認識の下、以下のような施策を講ずる。

    (7)ソフトの供給

     ソフトの充実を図るためには、ソフト制作者の権利及びソフトの作成の際に利用される既存の著作物の権利を適切に保護しつつ、その利用が円滑に行われる体制を整備、確立しながら、ソフトの再利用、多面的な利用を確保する必要がある。

     また、情報通信の普及を促進しうる誰にでも操作できる簡便なソフトの制作及び、様々なニーズに応える多彩なソフト制作に向け、ソフト産業の分野で、資金調達の円滑化や才能開発を含めた人材教育など制作環境整備が必要である。

     以上の認識に立ち、以下のような施策を講ずる。

    (8)基礎的な技術開発

     民間事業者の創意工夫による新サービスの開発やインフラ整備を一層促進するため、政府は基礎的研究開発を促進するとともに、高度情報通信社会において必要となる機器やソフトの開発にインセンティブを与えていく必要がある。また、技術開発は世界全体の課題やフロンティアを切り開くことにつながることからも重要である。

     このため、以下のような施策を講ずる。

    (9)人材の育成

     全ての人々が基礎的な情報処理・活用能力を身につけることができる環境の整備に努めるとともに、高度情報通信社会の発展を支える専門的な人材の育成や、情報通信技術に関する実務者の育成を推進する。また、人材の育成にあたっては、コンピュータ等の情報機器の操作能力を向上させるのみではなく、知的所有権制度やコンピュータセキュリティ等の高度情報通信社会におけるルールについて正しく理解させることも重要である。かかる観点から以下のような取り組みを行う。


    国際的な貢献

    1. 世界情報インフラに向けた動き

       持続的な経済成長の実現、雇用の拡大、地球的環境問題への対応等の課題を解決する上で、情報通信の果たす役割が重要であるとの観点から、各国において高度情報通信社会に向けた取り組みが進められてきたところであるが、最近、こうした取り組みを世界的な規模で実施しようとする世界情報インフラ構想の実現に向けた動きが急速に進展しつつある。

    2. 全世界的な取り組みの必要性

       真の意味でグローバルな高度情報通信社会を実現するためには、先進国のみならず開発途上国においても情報通信の高度化が進むことが重要であるが、そのためには先進国政府が、適切な協力策を講じていくことが必要である。また、各国共通のグローバルなビジョンを策定し、各国がその国内施策に反映させていくことも必要であり、その前提として、関係国際機関も含め、円滑な政策協調・情報交換体制の整備を早急に行わなければならない。具体的には、民間投資の促進、競争原理の一層の導入、技術革新の成果を踏まえた規制の見直しに配慮する必要がある。

    3. 世界的規模の共同プロジェクトの実施

       国際的な整備目標を設定し、様々なアプリケーション開発のパイロットプロジェクトを世界的規模の共同プロジェクトとして実施することを通じて、一般の人々に対し、高度情報通信社会のもたらすメリットを示し、高度情報通信社会に関する理解を深めることは大きな意味を持つ。

    4. 情報の適切かつ自由な流通のための環境整備

       著作権等の在り方に関する国際的なルールの検討と国際的調和、プライバシーの尊重・個人データの保護、セキュリティの確保、ハードウェア・ソフトウェアを通じた世界的な相互運用性・相互接続性の確保に関する制度面での国際調和のための検討・配慮が必要となる。

    5. G7会合に向けた我が国の対応

       本年2月、ブラッセルにおいてG7の閣僚会議が開催されることとなっているが、我が国としても、以上の観点から、この機会にグローバルな高度情報通信社会の実現のための基本原則を合意・確立するとともに、国際的に協力可能なプロジェクトを立ち上げ、その成果を示してグローバルな高度情報通信社会の構築に向けた国際的なインセンティブの醸成に可能な限り貢献していくこととする。


    これからの進め方

     政府は、高度情報通信社会推進本部及び有識者会議において、本指針のフォローアップを実施していくこととする。

     このため、具体的に以下のフォローアップ体制をとる。

    1. 行政情報化推進計画の進捗状況については、行政情報システム各省庁連絡会議で取りまとめ、総務庁行政管理局が年1回、内閣官房内閣内政審議室に報告することとする。各省庁が本基本方針に基づき実施するその他の施策の進捗状況については、各省庁が、内閣官房内閣内政審議室に年1回報告することとする。
    2. 内閣官房内閣内政審議室は、各省庁からの報告を受け、本基本方針に基づく情報化施策の実施状況全体を郵政省、通商産業省等の協力を得て、とりまとめ、高度情報通信社会推進本部に報告する。
    3. 高度情報通信社会推進本部は、内閣官房内閣内政審議室からの報告を公表するとともに、有識者会議からの意見を求める。
    4. 有識者会議は各省庁の実施状況に対する意見をとりまとめ、高度情報通信社会推進本部に具申する。高度情報通信社会推進本部は、有識者会議の意見等を踏まえ、所要の措置を講じる。