II.高度情報通信社会の実現に向けた課題と対応
(2)公共分野の情報化
  [基本的な考え方]
 公共分野の情報化は、政府自身の情報化による行政サービスのコスト低減や国民の利便性の向上に資するものであり、社会経済全体の情報化を進める上でも重要な役割を担っている。また、政府自らがユーザとして先進的アプリケーションの導入を行うとともに、行政、教育、交通等公共サービスの基礎となる情報通信システムの関係省庁一体となった効率的な研究開発を行い、国民誰もが充実した公共サービスを享受できるようにすることが必要である。さらに今後、公共分野の情報化をより一層効果的なものとするためには、各省庁、地方公共団体等が連携して総合的・計画的に取組むことが必要である。

@ 行政の情報化

 行政の情報化は、情報通信関連技術の成果を行政のあらゆる分野で活用し、行政の事務・事業及び組織を改革するものであり、その積極的な推進により、国民の立場に立った効率的で効果的な行政の実現を図るものである。
 現在、インターネットの急速な普及、電子商取引の実用化の動き等に見られる社会経済の情報化の進展に伴い、申請・届出等手続に係る国民負担軽減に対する要請が顕在化するとともに、行政と国民との間のコミュニケーションの活性化への期待が高まるなど、行政の情報化を取り巻く環境も急速に変化している。このような環境変化に的確に対応していくため、セキュリティの確保等に留意しつつ、「紙」による情報の管理から情報通信ネットワークを駆使した電子的な情報の管理へ移行し、21世紀初頭に高度に情報化された行政、すなわち「電子政府」の実現を目指す。
 このような観点から、行政の情報化については、「行政情報化推進基本計画の改定について」(平成9年12月20日閣議決定)に基づき、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。また、地方公共団体固有の事務・事業に係る行政の情報化については、「地方公共団体における行政の情報化の推進に関する指針」等を踏まえ、その一層の推進に努める。
  • インターネット等の活用による統計や報告書等行政情報の電子的提供の拡充、タイムリーな提供、行政情報の所在案内システムの整備等による国民から行政情報へのアクセスを改善する。
  • 申請・届出手続に係る国民負担の軽減を図るため、手続の電子化、申請地制限の緩和、アクセスポイントの拡大を推進する。また、電子文書の原本性、受発信者の認証の仕組み、手数料の納付方法等の共通課題の早期解決を図る。
  • 各家庭・企業のパソコン又は身近な場所で各種の行政サービスを受けることができるようにする「ワンストップサービス」については、既存の公共施設である郵便局等も活用した実験を行うなど、制度的・技術的課題を解決しつつ段階的に実施する。
  • 電子商取引等国内外の情報化の進展に対応した調達手続、歳入歳出の電子化等、民間部門との整合性の取れた情報化を推進する。
  • LAN、霞が関WANを活用した予算要求資料や公文書等の電子交換システム、総合的な文書管理システム等各種システムの整備を推進する。
  • 事務・事業の形態に応じ、情報システムの運営管理の外注化を積極的に行い、運営の簡素化・効率化・高度化を推進する。
  • まちづくり、地域づくり等に関する都市計画情報等の総合的な提供や、住民の意見を円滑に聴取するための情報システムの整備を進める。
  • 住民基本台帳ネットワークシステムの構築や利用方策の検討等、国・地方公共団体を通じた総合的な行政の情報化を図る。
  • 公共事業の情報化において、設計図面、仕様書等の各種情報の電子化・標準化を図るとともに、電子調達システムや公共施設の維持管理システム等を導入することにより、公共工事の受発注者をはじめとする関係者において情報の交換・共有を可能とする環境を構築する。


A 文化・スポーツ分野の情報化

 国民の文化志向の高まりと多様化に対応するため、文化財、美術品、地域文化、舞台芸術等に関する情報がより身近に得られ、かつ国内外に提供・発信される環境を整備するとともに、近年のスポーツニーズの多様化・高度化に対応する環境整備を図る。
 このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。
  • 地域の伝統文化や産業、歴史的遺産等に関するデータベースの整備や情報提供体制の充実を図る。
  • 国立のスポーツ科学関連施設の整備等を通じ、スポーツ科学に関する情報の収集・分析・提供を推進する。


B 研究分野の情報化(学術の情報化を含む)

 我が国の将来にわたる持続的経済発展を可能とする観点から、人類の知的資産形成のための基礎となる科学技術の振興のための基盤をさらに整備することが重要である。また、大学などの研究者に学術情報の迅速かつ的確な提供及び国内外への普及を図るため、学術情報基盤の整備を推進することが重要である。このため、研究分野における情報化を促進することにより、世界最高レベルの研究開発環境を整備・維持し、研究水準のより一層の向上を図る。また、先駆的な研究活動は、社会全般の情報化を促進し、高度情報通信社会を実現するための先導的役割を果たすことが期待される。
 このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。
  • 研究機関、省庁、国の枠を超えた研究機関間を結ぶ研究情報ネットワーク及び大学等を接続する学術情報ネットワークの高度化、高速化を図るとともに、アジア太平洋地域のネットワーク資源を相互に有効活用するなど国際協力によるネットワークの構築、充実を図る。併せて、研究機関におけるコンピュータ等の研究情報基盤の整備・充実、大学の学内LANの高度化を引き続き推進する。また、テストベットとして超高速の研究開発用ネットワークの構築を図る。
  • 研究情報基盤の整備に併せて、ネットワークや高性能コンピュータの利用技術の高度化及び利用研究等を推進するなど、ハードウェアとソフトウェアのバランスの取れた発展を図る。
  • ネットワークを流通するデータベース等の情報資源(コンテンツ)を質的・量的に充実するとともに、情報資源の積極的な発信を図りつつ、情報資源の所在を的確に案内して統合検索を可能とするほか、大学及び試験研究機関の図書館に電子図書館的機能を整備するなど情報資源の円滑な流通を促進する。
  • 科学技術会議の場を積極的に活用することにより、各省庁、各機関相互間の協調の下に連携協力を深める。
  • 研究分野の情報化に関する研究開発を抜本的に強化するとともに、情報通信ネットワークを活用した研究開発成果の普及を促進する。


C 保健・医療・福祉分野の情報化

 少子・高齢化の進展に対応し、国民の誰もが情報通信の便益を享受できる社会を実現するため、国民生活に密接に関連する保健・医療・福祉分野について積極的に情報通信関連技術を活用し、保健・医療・福祉分野のサービスの向上を図る。
 このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。
  • 健康や安全に関する情報、各種サービスの利用に関する情報など保健医療福祉情報のネットワーク化を図り、地域における総合的できめ細かなサービスの提供体制を確保する。
  • 診療支援システムの充実やICカード等を活用したシステムの整備、普及、各分野間、施設間での情報交換を可能とするための標準化などにより保健医療福祉サービスの質の向上、効率化を図る。
  • マルチメディアを活用し、遠隔医療、在宅福祉(介護等)での新しい保健医療福祉サービスへのニーズに対応する。また、そのために必要な技術開発を行う。
  • 高齢者・障害者が使いやすい情報通信関連機器・システムの開発等により、これらの人々に十分に配慮した、人に優しい情報バリアフリー環境の整備を推進する。
  • 国際機関における保健・医療情報等の標準化に向けた検討に対し、積極的に貢献する。


D 道路・交通・車両分野の情報化

 最先端の情報通信関連技術を活用して、道路と車両を一体のシステムとして構築し、渋滞、交通事故、環境の悪化などの道路交通問題の解決、物流の効率化、新たな産業の創出等幅広い社会経済効果が期待される高度道路交通システム(ITS)の推進を図る。
 このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。
  • 既に実用化されている道路交通情報通信システム(VICS)について、情報提供サービスエリアの全国展開やシステムの高度化を推進する。
  • 自動料金収受システム、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化、公共交通の支援、商用車の効率化等について、高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想に基づき、ITSの情報通信関連技術等に関する研究開発・実証実験の実施や地域におけるITSの推進、ITSに関する国内外における標準化活動等を推進する。
  • ITSについて、国際会議等における国際情報交換、国際標準化等の国際協力を積極的に推進する。


E 公共輸送分野の情報化

 情報通信関連技術を活用して、旅客や貨物の輸送に関連する分野において利便性、安全性、効率性等の向上を図る。
 このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。
  • ワイヤレスICカードを活用した汎用電子乗車券の導入を促進し、公共交通機関の利便性の向上を図る。
  • 旅客・貨物の移動に際し、必要かつ有益な情報を提供する情報ネットワークの整備等を推進する。
  • 港湾諸手続をEDI化するためのシステムを整備し、手続のペーパーレス化及びワンストップサービス化を図る。
  • 衛星を活用した航空衛星システムを整備し、航空管制処理能力の向上及びこれによる航空交通容量の拡大を図る。


F 防災・気象分野の情報化

 防災対策において情報の迅速な収集・伝達等を図り、国民が安心して暮らすことのできる社会を実現するため、国、地方公共団体、住民を結び付ける災害に強い高度な防災情報通信システムを構築する。
 このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。
  • 衛星通信等を利用した災害時等の情報収集・提供のための情報通信システムの構築を推進する。また、それを活用して、気象や地震・津波等に関する情報を迅速に収集・解析し、ケーブルテレビ網、防災行政無線等と合わせて予・警報や地震・津波に関する防災気象情報等の的確な提供に努める。
  • 災害時の機動性を確保するため、総合的な防災情報通信システムの高度化を推進する。
  • 地域住民等と公共施設管理者との相互連絡による災害時の情報収集・提供のための防災管理システムの構築を図る。
  • 各種防災情報のデータベース化、公共施設管理の高度化のための光ファイバ及びその収容空間等の防災対策に資する基盤の整備を推進する。
  • 気象衛星システムの整備により気象観測等の充実を図る。


G 環境分野の情報化

 地球環境問題に関する情報の収集、解析、提供を促進するため、情報通信関連技術を活用した地球環境のモニタリング・予測、環境情報提供システムの開発・普及を推進する。
 このため、以下のような施策を総合的、計画的に推進する。
  • 情報通信関連技術を利用した地球環境モニタリング等の研究開発、導入、普及やシミュレーション技術による地球変動予測など地球環境に係る情報の収集・解析等のシステムの整備等を推進する。
  • 環境情報データベースの整備、環境情報を提供するための情報通信ネットワークの開発・導入・普及、情報提供装置等の基盤整備を強化する。


H 労働・雇用分野における情報化

 情報通信関連技術を活用して,国民へのタイムリーな求人・求職等の情報提供、効果的かつ効率的な職業能力開発、労働関係情報の総合的な提供を推進する。さらに、通勤負担の軽減、ゆとりある生活の実現、働きながら子育てをすることを希望する男女に対する環境の整備のため、情報通信を活用して自宅、職住近接のサテライトオフィス等で仕事を行うことを可能とするテレワークについて、官民問わず積極的に試行・導入して普及促進を図る。特に、就業対策及び経済社会の再活性化の観点から、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)等の支援を行う。
 このため、以下のような施策を総合的、計画的に推進する。
  • 公共職業安定機関において、情報通信ネットワークを活用して雇用情報等を効果的に提供するシステムを整備し、公共職業能力開発施設等において、マルチメディア関連機器や情報通信ネットワークを活用して、効果的かつ効率的な職業能力開発を推進する。
  • データベースの整備等を通じた労働関係情報の総合的な提供を推進する。
  • テレワークの普及促進を図るため実態調査、情報提供等に努めるとともに、共同利用センターの整備等の実施を推進する。


I 地理情報システム(GIS)の整備・相互利用の推進

 各種行政計画の策定、環境保全、救急医療、防災、福祉、危機管理等の幅広い分野において応用が期待されるGISについて、国、地方公共団体、民間の間の緊密な調整・連携を通じた整備・相互利用の推進を図る。
 このため、以下のような施策を総合的・計画的に推進する。
  • GISの整備に不可欠な国土空間データ基盤(国土に係る基盤的なデータ)の整備を推進するとともに、データ整備における重複投資を回避するため、所在情報の検索を行うクリアリングハウスの整備を行う。
  • GISによる地図データ等の提供、流通、相互利用を促進するため、個人情報保護、電子データの提供条件等、データの管理流通に関するルール等の検討を進める。
  • インターネットの活用等情報通信システムを利用した分散型GISの開発等を推進する。