第0-1 指針(案)の目的
本指針(案)は、安全・円滑・快適に加えて、景観面での美しさを備えた道路の整備に関する一般的技術的指針を定め、その合理的な構想・計画、設計・施工、管理に資することを目的とする。
第1-1 道路デザインとは
道路デザインとは統合的な行為である。すなわち、道路景観に対する配慮を道路の構想・計画、設計・施工、管理と分離して考えるのではなく一体のものと考えること、その配慮は道路内に留まることなく周辺地域をも一体に考えることにほかならない。
第1-2 道路デザインの目的と対象
道路デザインの目的は、道路の構想・計画、設計・施工、管理の流れのなかで景観に配慮し、機能的で使いやすく、周辺景観も含めて美しい道路を創造することであり、さらには美しい道路づくりを通して、美しい国土を創造することである。
新設、改築のみならず、現道の景観改善も美しい国づくりに大きな影響をもたらすため、その取り扱いにあたっても、道路デザインを行うものとする。
第1-3 道路デザインの方向性
道路デザインの基本的方向性は、道路の機能を踏まえ、道路を地域に馴染ませること、景観的一貫性を保持すること、控えめで洗練された道路景観を創造すること、過剰なデザインを排除することである。
第2-1 道路デザインの心得
道路デザインにあたっては、現地の地形、状況等を十分に把握すること、検討に際し常にフィードバックを怠らないこと、道路利用者や住民の立場に立って考えること、地域の意見を把握すること、が重要である。
第2-2 道路デザインの手順
道路デザインは、周辺の関係機関等と十分な協議を行いながら、道路の構想・計画、設計・施工、管理の各段階において一貫した考えのもとに適切に行うものとする。
第2-3 道路デザインの表現方法
道路デザインにあたっては、その検討段階と目的に応じた適切な表現方法を用いるものとする。
第3-1 山間地域における道路デザイン
第3-1-1 自然への影響の軽減と地形の尊重
山間地域では、のり面の出現等の地形改変が景観に及ぼす影響が大きいため、地形改変を極力抑えるよう、地形を尊重するデザインをしなければならない。その方法としては、線形に対する配慮が最も重要であるが、盛土と橋梁・高架構造、切土とトンネル構造など、道路構造を適切に選択すること、横断面構成に配慮することなども忘れてはならない。山間地域において地形改変を伴う場合は、可能な範囲内で、改変した箇所の自然復元に努める。
第3-1-2 地域の景観資源の活用
山間地域では、印象深い山岳や山並み、河川や谷地、特有植生等の景観資源が存在することが多い。道路の内部景観へ地域の景観資源を取り込むよう検討する必要がある。
第3-2 丘陵・高原地域における道路デザイン
丘陵・高原地域では、沿道にのびやかな地形があり見通しが良いため、道路景観と地域景観との一体性に配慮するとともに、地域景観が効果的に認識されるよう配慮する必要がある。道路を地形の起伏に沿わせ、滑らかで美しい線形を実現したり、のり面が出現することなどによる景観の阻害を回避することが望ましい。
第3-3 水辺における道路デザイン
水辺の景観は、それ自体が人々に潤いをもたらし貴重であることが多い。道路デザインにあたっては、水景の保全・活用を図るとともに、水辺の景観整備と一体となった整備を検討することが望ましい。
第3-4 田園地域における道路デザイン
田園地域では、道路の内部景観へ田園やその背後の山並み等の地域の特徴的な景観要素を取入れるように配慮するとともに、道路が地域景観を分断せず、違和感が生じないように配慮する必要がある。
第3-5 都市近郊地域における道路デザイン
都市近郊地域では、道路の整備に伴い、沿道の住民生活や企業活動等が新たに発生、または変化することが多いため、整備後の景観の変化に留意して、道路構造の工夫による対応や地方公共団体等との連携による土地利用および景観の誘導・コントロールによって、適切な景観形成を図ることが望ましい。
第3-6 市街地における道路デザイン
第3-6-1 道路ネットワークと道路デザイン
市街地の道路デザインでは、沿道地域の特性に加え、市街地の道路ネットワークにおける当該道路の役割を踏まえた検討を行う必要がある。
第3-6-2 道路の性格に応じたデザイン
市街地の道路では、都市活動との関係、歩行者の視点、沿道土地利用、沿道建築物や広告・看板等の影響、都市計画・都市交通計画等を考慮した道路デザインを行うことが必要である。
第4-1 道路デザイン方針の設定
構想・計画時の道路デザインにおいては、道路工学的な観点等からの調査に加え、景観調査によって、景観資源として保全・活用すべきものや、影響を回避すべきもの等を抽出し、総合的に計画条件を検討した上で、道路デザイン方針を設定する必要がある。
第4-2 構想・計画時における道路デザインの重要性
構想・計画時の道路デザインは、地域、都市の骨格形成に大きな影響力をもつ。また、構想・計画時の道路デザインは、道路景観の骨格を規定し、後の段階に大きな影響をもつため、後の段階で手戻りのないよう、慎重に検討する必要がある。
第4-3 地方部の道路計画
第4-3-1 比較ルートの検討
地方部の道路の路線計画においては、複数の計画意図に基づく比較ルートを設定し、景観的観点を含む総合的な評価に基づいて、最適案を決定する必要がある。
第4-3-2 線形計画
地方部の道路の線形計画においては、地形との調和と道路線形の透視形態上の円滑性の確保が重要である。
また、休憩ポイント等の景観的に重要な地点については、特段の配慮をする必要がある。
第4-3-3 横断計画
地方部の横断計画においては、地形の改変等による景観的影響の低減、良好な道路環境の創出等の観点を総合的に検討し、設計・施工、管理の段階で必要となる十分な断面を確保することが望ましい。
第4-3-4 道路構造の選択
道路構造物の存在は地域景観に大きな影響を及ぼすことが多い。道路構造物のデザイン検討に先立って、地域景観のなかで道路構造物の果たす景観的役割を検討し、道路構造を選択し、後の段階でも検討を継続することが重要である。また、出現する可能性のある道路附属物にも配慮する必要がある。
第4-4市街地の道路の計画
第4-4-1 地域資源・街割り・公共施設等の配置と道路の線形
市街地の道路デザインにおいては、道路と地域資源・街割り・公共施設・公共空間との位置関係に配慮することが重要である。
第4-4-2 都市活動に対応した横断構成
市街地の道路においては、様々な都市活動の舞台に相応しい横断構成となるように配慮する必要がある。
第4-4-3 幅員構成の再構築
景観や歩行者への配慮から、現況幅員のなかでも歩道や植栽帯を広げるなど幅員構成を再構築することを積極的に検討することが必要である。
第4-4-4 市街地の道路構造物の考え方
市街地の道路構造物の検討にあたっては、多様な視点の存在や地域の履歴に特段の配慮を払う必要がある。特に、歩行者の存在も重要であるため、ヒューマンスケールに配慮した検討を行う必要がある。
第4-4-5 市街地の道路と沿道建築物の一体整備と沿道規制
市街地道路では、景観協議会を活用することなどにより関係者と連携を図りつつ、沿道施設との一体的な整備を働きかけるとともに、景観計画の策定、屋外広告物規制、地区計画の策定の推進などの手段が適切に活用されるよう地方公共団体等と協力することが望ましい。
第4-5 現道拡幅の際の考え方
現道拡幅の際には、街並みが大きく変化することが多いため、景観協議会等を通じて、関係者と連携をとりながら、良好な街並み景観形成を図ることが重要である。
第4-6 他事業との連携
計画区域の近傍で、他の公共事業や民間事業が予定されている場合には、より良い地域景観や環境の創出に向けて、これらとの連携を図ることが望ましい。また、他事業との連携を進める上では、関係者間で目標とする地域景観像を共有する必要がある。
第5-1 設計・施工にあたっての基本的な考え方
設計・施工時においては、構想・計画時からの一貫した考え方で道路デザインを進める。また、現場条件の変化への適切な対応や、施工時の仮設構造物による景観改変への配慮も重要である。
第5-2 土工設計
第5-2-1 設計開始にあたっての留意事項
土工設計において、のり面自体のデザインを検討する前に、線形の微調整等によりのり面の回避・縮小化や、既存樹林の保全、表土の活用等の検討を加える必要がある。
第5-2-2 のり面に対するアースデザイン
のり面が発生する箇所では、ラウンディング、元谷造成、グレーディング等のアースデザインの手法を用いて、自然地形とのスムーズな連続性を確保することが望ましい。
第5-2-3 擁壁・腰石積み
のり面に代替する擁壁・腰石積みは、道路構造物から受ける圧迫感や周囲の景観との違和感を避けるため、シンプルな形態にするとともに、植栽や表面処理等により、目立たないものにすることが重要である。
第5-2-4 のり面の表面処理
のり面は自然の遷移によって安定するものであり、環境保全を勘案しながら地域景観と馴染ませることが重要である。のり面の表面処理は、自然復元が図られるように、地域の自然がのり面に回復する可能性の高いのり面緑化を行う必要がある。
第5-3 橋梁・高架橋の設計
第5-3-1 設計の基本的考え方
橋梁・高架橋の設計にあたっては、まずそのもの自体の美しさに配慮することが重要である。また、周辺景観のなかでのおさまりを十分に検討する必要があり、原則として周辺景観に溶け込むデザインとすることが望ましい。
第5-3-2 形式選定と本体設計
橋梁形式の選定にあたっては、各形式の特徴と支間割りなどのプロポーションに配慮し、周辺景観との視覚的関係を含めた総合的な評価を行う必要がある。また、本体の設計においては、機能的・構造的必然性を重視し、過度な装飾を避けたシンプルなデザインとすることが望ましい。
第5-3-3 地形・植生に対する配慮
橋梁・高架橋の建設によって、地形の改変、既存植生の損傷を最小限とするよう、施工方法を含めて検討する必要がある。
第5-3-4 都市近郊・市街地における高架橋の設計
都市近郊や市街地での高架橋は、特に沿道住民や歩行者等に与える圧迫感や外部景観上の違和感などを緩和する設計を行う必要がある。
第5-3-5 横断歩道橋・跨道橋等の設計
横断歩道橋・跨道橋等は、主として本線上から眺められることになる。そのため横断歩道橋・跨道橋等の設計では、側景観に十分注意を払い、抵抗感や違和感を感じさせないようにすることが重要である。また、複数の横断歩道橋・跨道橋等が連続して設置される箇所では、統一性に留意する。
第5-4 トンネル・覆道の設計
第5-4-1 トンネルの設計
トンネルの設計では、坑口の形状も含めて圧迫感のない内部景観となるように留意する。坑口周辺は、換気塔や電気室等の周辺施設の設置や緑化において、景観上の調和に配慮する。
第5-4-2 堀割道路等の設計
掘割道路の設計では、外部景観として存在感を感じさせないデザインにするとともに、出入り口部の形状を含めて圧迫感のない内部景観となるように留意する。
第5-4-3 覆道の設計
覆道の設計では、出入口の形状と覆道内部から外部を見通す場合の開口部やスリットの形状について、特に配慮が必要である。
第5-5 車道・歩道および分離帯の設計
第5-5-1 歩道空間の設計
歩道空間はシンプルで利用しやすい空間とする必要がある。
第5-5-2 バス停留所等の配置
バス停留所や停車帯を設置する場合には、道路空間のなかでのおさまりを考え、違和感のないものとするように留意する。
第5-5-3 植樹帯の配置と植栽設計
植栽設計においては、道路や沿道の特性から望ましい植樹の形態を検討し、分離帯を含めた道路横断構成全体のなかで、植樹帯配置を検討する。
第5-6 ユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザイン、バリアフリーを目的とした整備を行う場合には、景観的観点も含めた総合的なデザイン検討を行うことが重要である。
第5-7 交差点等の設計
第5-7-1 平面交差点の設計
平面交差点は、道路が交差する部分であるため、交通の要所であり、景観の要所でもあるが、多くの景観要素が集中し煩雑な印象を与えやすいため、設計にあたっては、沿道の要素も含め、全体の調和に配慮する必要がある。
第5-7-2 立体交差点等の設計
立体交差は、視覚的に分かりやすく、シンプルな構造とすることが望ましい。また、効果的な植栽等により、大規模な交通結節点としての認識が得られやすいように配慮する。
第5-8 休憩ポイントの設計
道の駅などの休憩ポイントは、開放的な空間の確保、良好な眺望の確保に留意し、求められる機能に応じた個々の施設等が、美しくシンプルであると同時に、全体として調和のとれた配置、デザインとすることが望ましい。
第5-9 環境施設帯の設計
環境施設帯を整備する箇所では、沿道の土地利用の現状や将来想定を踏まえ、植樹帯や副道、歩道等の断面構成や平面配置を検討する。また、植樹帯の盛土や樹木により、車道と沿道との適度な遮蔽を確保する必要がある。
第5-10 道路附属物等の設計
第5-10-1 交通安全施設等の設計
交通安全施設等の道路附属物は、整理・統合を含めたその設置の必要性の検討が重要である。設置する場合は、周辺の景観との調和を図る。
第5-10-2 遮音壁
遮音壁についてはまず設置回避の代替方策を検討する必要がある。設置する場合は、圧迫感、閉鎖感、煩雑感等を生じさせないような配慮が重要である。
第5-10-3 道路占用物件
道路占用物件については、設置の必要性、場所、形状等に留意し、煩雑な景観とならないように配慮する必要がある。
第5-11 植栽の設計
第5-11-1 植栽の景観的役割
植栽は、良好な道路景観の形成において、さまざまな効果をもち、重要な役割を担っている。植栽の効果、機能等を十分把握し、植栽の設計を行うことが重要である。
第5-11-2 植栽形式と使用種の選定
植栽や緑化にあたっては、道路構造の特性や周辺の状況等に応じて、適切な植栽形式や樹種の選定等を行う必要がある。
第5-11-3 植栽基盤と植栽空間
植樹帯の設計においては、植栽形式と使用種に見合った、十分な大きさと良好な土壌をもった植栽基盤と地上部の生育空間を確保することが重要である。
第5-11-4 既存樹林・樹木等の保全・活用
道路緑化では、まず、既存樹林・樹木等の現況保全や樹木等の移植活用、表土の復元の検討が必要である。
第5-11-5 既存道路の改築時における樹木等の取り扱い
既存道路の改築時において、既存樹木等は健全度を勘案した上でその保全を検討することが望ましい。
第5-12 色彩の設計
色彩については、周辺の色彩との調和を図るとともに、一貫した考え方のもとで計画・設計を行う。
第5-13 暫定供用を予定する道路の設計
第5-13-1 土工の考え方
暫定供用を予定する土工部の計画では、暫定供用する車線位置の選択に十分に配慮する必要がある。また、切土のり面の緩傾斜化など、暫定供用によって生じた用地幅の余裕を活かした設計とすることが望ましい。
第5-13-2 道路構造物の考え方
暫定供用を予定する橋梁・高架橋の計画では、未供用車線にかかる橋脚や橋台など、暫定供用時に不自然な道路構造物が露出することを避けることが望ましい。
第5-14 施工時の対応
施工段階で、現場条件等によって設計を変更する場合には、それまでの計画・設計段階で検討してきたデザインの方針や意図を損なうことがないように、適切な対応を図る。また、工事用道路等が景観に及ぼす影響について、十分な配慮が必要である。
第5-15 既存道路におけるその他の景観改善
第5-15-1 歴史的建造物等の保存
既存道路において、歴史的価値のある橋梁、トンネルなどの土木遺産や旧街道などがある場合、それらの保全・活用を検討する必要がある。
第5-15-2 無電柱化
無電柱化は、既存道路の景観を大きく改善することが多いため、事業実施にあたっては、他の景観要因についても検討し、関係者と連携して総合的な景観整備を図ることが重要である。
第6-1 維持管理
道路の維持管理においては、整備時のデザイン意図が継承されるように配慮することが必要である。
第6-2 景観の点検と地域の関わり
既存道路の景観保全においては、日常的な景観の点検とともに、沿道住民や道路利用者と協同して点検を行い、維持管理や景観改善に資する事業の実施に活用することが重要である。
第6-3 関係者との協力体制の構築と支援
道路の景観を良好な状況で維持し育んでいくために、関係者との協力体制を構築するとともに必要な支援を行うことが望ましい。
第6-4 植栽管理
市街地の道路の植栽管理では、緑陰効果等をもたらす緑量豊かな状態を保全することが望まれる。沿道住民等の理解を求め、管理協定等によって緑量の確保を図ることや、植栽基盤の拡大等を図ることが必要となる。
第7-1 一貫性の確保
第7-1-1 デザイン方針の明確化
道路デザインにあたっては、デザインの一貫性を確保することが重要であり、事業の早い段階からデザイン方針を検討し、その方針が一貫して継承されるような配慮が必要である。
第7-1-2 検討体制の整備
デザインの一貫性を確保するためには、それを支える検討体制の整備が重要である。
第7-1-3 関係者の役割分担
道路デザインを進めるためには、道路管理者のみならず、地域の住民、道路利用者、景観の専門家等の関係者が、適切な役割分担のもとで協働していくことが重要である。
第7-2 技術力の活用と向上
道路デザインの実施においては、民間の技術力を活用するとともに、個々の技術者の技術力向上を図っていくことが重要である。
第7-3 デザインにかかる仕組みの確立
第7-3-1 景観法等の活用
道路デザインには、地域の景観形成に関する方針との調和が不可欠であり、景観に関連する行政を担当する地方公共団体と連携することが極めて重要である。特に、景観法については、地方公共団体(景観行政団体)において景観計画が策定されている場合には、関係部局と十分な情報交換を行い、必要に応じて景観重要道路の指定を要請することが望ましい。
第7-3-2 景観アセスメントの実施
道路を美しくデザインするためには、事業の各段階でデザインを評価することが望ましい。また、「国土交通省所管公共事業における景観評価の基本方針(案)」(平成16年6月)に基づく景観評価を実施する際には、本指針に規定する道路デザインのあり方を踏まえた評価を行う。
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