V.実践例
「U.地域のモビリティ確保に向けた取組の進め方」では、取組を進める上で「壁」となりうるポイントと、これを乗り越えるための「知恵」について、アンケート、ヒアリングで得た知見を整理しています。
ここでは、これらの「知恵」がどのように活かされているか、具体的な事例を挙げて整理しています。
事例の選択に当たっては、地域の特性や取組の特徴的な部分が、U.1.「(2)進め方の流れ」の<地域のモビリティ確保に向けた取組のプロセス>の項目を一通りカバーする様に考慮しています。
【実践例一覧】
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取組主体 | 埼玉県三郷市 詳細 |
キーポイント | 市民の強い要望を背景に、民間のバス事業者との調整によって、路線バスによる使いやすいバス路線網に再編。 |
特徴 | ・抜本的なバス路線網の再編を実施。 ・地方自治体職員が直営で都市計画図を使って運行ルートを検討。 ・道路の交通状況を考慮したルートの設定。 ・国土交通省以外の省庁所管事業も活用した調査・検討・PR活動を実施。 |
取組主体 | 東京都台東区 詳細 |
キーポイント | 取組開始前の調査・分析と運行開始後のモニタリングを綿密に行い、運行計画へ反映させ、更なる利用者増加を目指す。 |
特徴 | ・大都市部の交通空白地域へのコミュニティバス導入。 ・15分間隔の高頻度なパターンダイヤ。 ・各ルート相互の乗り継ぎを可能とした、無料乗り継ぎ券の発行。 ・利用実態調査による運行改善を実施。 ・警察、地域住民とのきめ細かな調整。 |
取組主体 | 愛知県三好町 詳細 |
キーポイント | 公共交通に対する問題意識を背景に、町の関係者全体で考え、交通空白地域を解消。 |
特徴 | ・コミュニティバスと乗合タクシーによる交通体系の構築。 ・バスと乗合タクシーを乗り継いでも均一100円料金。 ・利用者の利便性を考慮し、大規模ショッピングモールの正面玄関前にバス停設置。 ・新規導入の検討の際に必ず社会実験を実施。その結果を検証して本格運行の可否を判断。 |
取組主体 | イーグルバス(株) 詳細 |
キーポイント | マーケティング手法をバス事業の経営に導入し、PDCAサイクルを実践。 |
特徴 | ・撤退路線をそのまま引き継いだが、利用者のニーズに合った運行計画なのか、疑問を持つ。 ・ニーズの把握(アンケート調査)を踏まえた運行計画の改善とその検証を繰り返し実施。(PDCAサイクルの実践) ・顧客満足も多様であり、コストバランスとともに顧客のニーズのバランスを考慮することが必要。 ・コストと品質を両立させた運行ダイヤの最適化を指向。 |
【実践例の特徴】
取組主体 | 新潟市 詳細 |
キーポイント | バス事業者からの路線廃止届を受けて、地区住民の積極的、主体的な参画を求める制度を創設。また、政令市移行に伴いまちづくりとしての交通体系確立。 |
特徴 | ・基幹バス、区バス、住民バスによる運行体系を構築。 ・それぞれの運行体系で目標を設定。 ・住民主導により運行する「住民バス制度」を創設。 ・バス運行のため住民組織、市、交通事業者で協定を結び、住民もリスク分担。 ・運行計画のなかった土日の運行を地元企業の負担により実施。 |
取組主体 | 大分市 詳細 |
キーポイント | 資金が厳しく抑制される状況下で、ランニングコストを広告費で賄いながら、利用者の立場で分かりやすい情報提供やサービスを提供・改善し続け、利用者の減少傾向に歯止めを掛ける。 |
特徴 | ・モビリティ・マネジメントを導入。 ・バス事業者に余力がないため、費用面でなく人的な面での協力要請。 ・全てのバス事業者共通の系統番号の統一を実施。 ・ファミリー割引制度の導入。土日祝日において、大人1人に対して子供3人まで無料。 ・交通事業者、企業の協力による情報案内(バスマップ、時刻表等検索サイト)の継続実施。 |
取組主体 | 富山市 詳細 |
キーポイント | トップの強いリーダーシップの下、「コンパクトなまちづくり」をコンセプトとし、明確な目標を設定した上で、公共交通活性化策を位置づけ。多様な施策と連携しながら総合的に展開。 |
特徴 | ・上位計画である「コンパクトなまちづくり」実現のための有力な政策手段として、公共交通活性化策を一体的に実施。 ・市長自らが108回(H17〜H19)にも及ぶタウンミーティングを開催。 ・既存路線のLRT化に合わせて運行本数3.5倍。利用者数が平日2倍/休日4倍に。 ・市の全額負担による社会実験(JR高山本線の列車増発、新駅の設置)の実施。 |
取組主体 | 和歌山電鐵(株) 詳細 |
キーポイント | 地域と協働する共同型の新しい運営体制による地方鉄道の再生に向けた継続的な取組。 |
特徴 | ・貴志川線廃止表明後、貴志川線を支援する様々な市民団体が設立。存続への気運が向上。 ・市民団体により、沿線マップの作成、駅の清掃、花壇の管理、費用対効果分析を実施。 ・地方鉄道再生の条件は、@地域の熱意A自治体と国の支援B既存事業者の全面的な協力。 ・自治体職員や地域住民等で構成される運営委員会の設置。毎月開催。運行、経営に関する数字はすべてオープン。 ・「たま駅長」、「いちご電車」などの利用促進策(PR戦略)の実施。 |
取組主体 | 京都府綾部市 詳細 |
キーポイント | 「4ヶ月という限られた時間の中で、議会や市民等と、いかに円滑に合意形成するか」を念頭におき、市長の強力なリーダーシップの下で、交通事業者に依存しない、市独自の生活交通システムの導入を実現。 |
特徴 | ・交通事業者に依存しない、市独自の「市民による」「市民のための」「市民の」バス運行を導入。 ・待ったなしの状況の中で、専従の担当者を配するなどの体制を整備。 ・学識経験者からの多岐にわたるアドバイス。(運行計画の策定、運行実施までのスケジュール管理、市民への広報など) ・市が置かれた状況の住民への説明やバス計画の承認を主眼としたアンケートを実施。 ・「定時・定路線型の小型バス」と「予約型乗合タクシー」の組み合わせによる需要に応じた路線設定。 ・ゾーン運賃制を導入。 |
取組主体 | 京都府京丹後市 詳細 |
キーポイント | 担当者の明確な問題意識とその遂行に向けた熱意と実行力が関係者を動かし好循環を生み出す。 |
特徴 | ・コミュニティバスではなく、路線バスの再生によるモビリティの確保を指向。 ・「乗ってもらう」ために、上限200円バスの導入。値下げに伴い赤字が拡大した場合も市が負担することを覚悟。 ・アンケートや関係者合同の現地調査による共通認識の醸成、合意形成。 ・全てのバス停が掲載された総合的な時刻表の作成(ほとんど直営で作成)。 ・利用者を11分類し、それぞれへのPRを戦略的に実施。2年間で利用者2倍を実現。 |
取組主体 | 大分県宇佐市 詳細 |
キーポイント | 地域住民のニーズの把握や、需要とコストの試算、計画の作成のほとんど全てを地方自治体の職員が直営で実施。モニタリング、改善も実施し、PDCAサイクルも実践。 |
特徴 | ・市町村合併を契機に旧市町の通院福祉バスを再編し、コミュニティバスに移行。 ・無料から有料にしたが、運行頻度を増やしてサービスを向上(週1便から週2便)。 ・担当職員が直接出向いて地区の代表と話し合い、きめ細かに利用者ニーズを把握。 ・通院福祉バスの1.3倍、1便あたり平均利用者数6人の目標を設定。達しない場合は見直し対象に。 ・委託事業者との連絡会議を毎月開催。路線毎の需要の動向を把握。 |
取組主体 | 長野県木曽町 詳細 |
キーポイント | 車を使えない「交通不便者」の交通行動を詳細に把握し、中山間の過疎地域に適した交通システムの導入を実現。 |
特徴 | ・市町村合併に際し、旧町村で異なっていた交通システムを一元化。 ・「交通不便者」の交通行動とニーズを把握するために、全戸アンケートを実施。 ・「幹線バス」と「補助システム」からなる、ゾーンバスシステムの導入。 ・対距離運賃制ではなく、「幹線バス」と「補助システム」の組合せによる上限運賃制を導入。 ・運行経費よりも生活利便性の向上を重視。「最低限必要な投資は必要」との考え方。 |
取組主体 | 長野県上田市 詳細 |
キーポイント | 市長のリーダーシップによる鉄道事業者への公的支援と市、鉄道事業者、市民団体が一体となって地方鉄道存続のために取り組む。 |
特徴 | ・市と鉄道事業者との運行協定を締結。安全対策のための設備投資及び修繕費に対する公的支援と固定資産税相当額を支援。 ・再生支援協議会を設立し、関係する多様な主体での連携を促進。 ・市、鉄道事業者、市民団体が三位一体となった利用促進策の実施。 ・鉄道の果たす役割は交通だけでなく観光、環境、教育の面でも重要であることを住民に説明。 |
取組主体 | 北近畿タンゴ鉄道(株) 詳細 |
キーポイント | 状況が最悪になる前に先手を打ち、地域全体で支える体制を構築し、共通認識の下で取組を進めた結果、利用者数の回復に成功。 |
特徴 | ・広域的に連携して公共交通を活性化していくための組織を設立。 ・「丹後地域の活性化のために何が必要か」という観点でそれぞれの主体の立場を超えた議論を進めることが重要。 ・官民が協力し、沿線地域と共通の取組を実施。共通の問題意識を持つことで相乗効果が生まれる。 ・運行補助について、予算の段階で見込みを立て、それ以降発生した赤字は事業者の負担とすることで、経営に緊張感を生む。 |