地域交通ガイダンス
Vol.3
地域振興に資する観光交通対策事例集
T.観光交通対策への取り組み
1.観光交通対策のねらい
・来訪者にとって観光地が魅力的なものであるためには、自然環境や文化・歴史的資源など観光資源自体の価値に加えて、「観光客が時間を有効に活用しながら如何にスムーズに地域内を移動できる環境が提供されているか」、が大きなポイントとなります。
・このように、観光交通対策は、地元住民や事業者へも配慮しながら、
@観光客の円滑なモビリティの確保
A観光資源の保全
を目的に進められることとなります。
2.観光交通対策の基本的考え方
・観光交通対策は、道路、駐車場、公共交通機関の整備など交通量の増加に対応した施設整備と、渋滞情報の提供やバスの活用など既存の交通施設を効率的に活用するための対策とに分けることができます。
・観光交通需要が観光シーズンやイベント開催時など短期間に集中する場合には、新たに施設を整備するよりも、既存の交通施設を活用するための対策の方が効果的なことがあります。本ガイダンスでは、観光地における既存の交通施設の活用の為の方策を中心にご紹介します。
3.観光交通対策の分類
・観光交通対策は、その適用場所によって大きく3つに分類することができます。
ア.出発前の観光客を対象とした対策
イ.出発地から観光地域に至る幹線交通上での対策
ウ.観光地域内での対策
・「ア」の代表としては出発前の観光客に対する「情報提供」に関する対策があり、出発の時間や移動経路・交通手段等、観光客の賢い選択を支援します。
・「イ」の代表としては「幹線系交通」に関する対策があり、公共交通機関の魅力づけを行い、自動車利用から公共交通機関利用への転換を支援します。
・「ウ」の代表としては「パーク&ライド(P&R)」、「端末交通(域内交通)」、「既存駐車場等の活用」、「交通管理・規制」、「経済的手法」に関する対策があり、観光地域内での問題の改善を目指します。
図T・1 観光交通対策
4.各種観光交通対策
(1)情報提供
@概要
・情報提供に関する対策は、出発前の観光客や観光地を来訪する自動車利用者に対して、適切な段階で適切な情報提供を行うことにより、出発や帰りの時間帯の変更を促したり、移動経路や移動手段、利用駐車場の変更を促し、地域内や観光地域に至る幹線道路で発生する問題の軽減を図ります。
表T・1 移動場面に応じた観光客の判断内容
移動場面 |
観光客の判断内容(例) |
出発前 |
出発時間帯、移動手段、移動経路 |
観光地に至る経路上 |
移動経路、利用駐車場 |
観光地域内 |
利用駐車場、帰りの時間帯、移動経路 |
A検討のポイント
・情報提供の目的に適した情報内容の吟味
・アクセスしやすい複数メディアの利用(例:チラシ、
TVやラジオ、電話やFAX、インターネット)・移動場面に応じた適切な情報提供内容と利用メディアの選択
・情報提供自体の周知
・情報収集・提供体制の構築
情報提供対策実施のヒント
■出発前の情報提供
■観光地周辺(観光地に至る経路上、観光地域内)での情報提供
■情報提供自体の周知
■情報収集・提供体制
(2)幹線系交通
@概要
・かなりの規模の自動車交通が集中するような観光地域においては、鉄道などの大量輸送機関の支援が必要不可欠となる場合も出てきます。
・このような場合、既存の幹線系交通手段を活用し、自動車利用から公共交通機関利用への転換を支援します。
A検討のポイント
・対象となる交通需要の規模に適した交通機関の選択
・利用可能な交通施設の確認
・交通事業者との協力関係
幹線系交通対策実施の例
(3)パーク&ライド(P&R:Park & Ride)
@概要
・P&Rに関する対策は、観光地域外縁部や地域内の適切な箇所に設置された駐車場で、自動車で来訪した観光客に自動車から公共交通機関への乗り換えを誘導し、地域内での自動車台数の削減や駐車場待ち車両の削減などを図ります。
A検討のポイント
・観光客の受容性・利用満足度向上のための工夫
・地域住民・事業者への配慮
・事業収支の健全化
・実施効果を向上させるためのさまざまな工夫
P&R対策実施のヒント
分類 |
具体的なヒント |
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観光客の受容性・利用満足度向上 |
定時性・確実性・時間の有効活用 |
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経済的メリット |
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付加価値サービス |
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地域住民・事業者への配慮 |
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事業収支の健全化 |
駐車場確保 |
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バスや鉄道運行 |
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実施効果の向上 |
駐車場位置 |
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連携体制 |
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ドライバーへの周知 |
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効果・課題の把握 |
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(4)端末交通(域内交通)
@概要
・端末交通(域内交通)に関する対策は、観光地域内の移動手段を提供し、観光客の移動の利便性を向上させます。具体的には、周遊型ミニバス、乗り合いタクシー、レンタサイクルなどの活用が考えられます。
A検討のポイント
・観光地域内を周遊するに相応しい交通機関の選択
・鉄道など幹線系交通とのアクセス
端末交通(域内交通)対策実施の例
(5)既存駐車場等の活用
@概要
・既存駐車場等の活用に関する対策は、観光地域内の既存駐車場やスペースなどを観光客対象の臨時駐車場として活用することで、観光地域内の駐車待ち行列や違法駐車の発生を防止したり、駐車場を探すために域内を走行する自動車需要の削減を図ります。
A検討のポイント
・必要な駐車場の規模や位置の設定
・具体的な場所の確保(公共スペース、公共駐車場、土日の民間駐車場等)
既存駐車場等の活用対策実施の例
(6)交通管理・規制
@概要
・観光地における交通管理・規制対策は、その実施目的から「観光地域への自動車流入の抑制」、「パーク&ライドや域内交通サービスの支援」、「観光地域内の交通流の円滑化や安全確保」の3つに分類することができます。
交通管理・規制対策実施の例
目 的 |
実施内容 |
観光地域への自動車流入の抑制 |
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パーク&ライドや域内交通サービスの支援 |
|
観光地域内の交通流の円滑化や安全確保 |
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A検討のポイント
・誘導策と規制策の組み合わせ
・規制地区での代替交通手段の確保
・地元住民の車両や緊急車両通行への配慮
・規制実施の周知
(7)経済的手法
@概要
・経済的手法を用いた対策は、観光地を来訪する自動車利用者に対して、公共交通機関を利用した場合の方が経済的にメリットが生まれるような仕組みを提供し、公共交通機関への乗り換えを誘導し、地域内での自動車台数の削減を図ります。例えば、公共交通機関利用切符に観光施設入場割引券がセットになったものなどがあります。
A検討のポイント
・観光客が受ける経済的メリットの内容
・関係事業者(交通事業者、観光事業者等)との連携
・出発前の段階を含む観光客に対する周知方法
経済的手法を用いた対策実施の例
5.観光交通対策のパッケージ化
・観光交通対策は、いくつかの対策を組み合わせて(パッケージ化して)実施することが必要、または効果的な場合があります。
・例えば、
P&Rの実施においては、・バスの定時性確保を支援するため、バス専用レーンの設置など交通規制の実施
・
・出発前の観光客に対する
P&R実施の広報や、P&Rの駐車場の空き情報を観光地近傍でドライバーに提供などの対策の組み合わせが考えられます。
図T・2 複数の対策の組み合わせ(例)
6.観光交通対策の選択
・対象地域や観光需要等の特性を踏まえ、各地域で効果的な観光交通対策を選択する必要があります。その選択に当たっては、次のような点を考慮する必要があります。
図T・3 観光交通対策を選択する際の視点
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