『個の時代』の交流・連携
第10回『地域連携・交流に必要なもの』
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[背景]
§交流・連携の進展
・地域活性化の切り札として、地域連携、地域連携軸への期待は大きく、こうした背景をふまえ、取り組み・構想も進んでいる。特に近年では、地方分権の流れもふまえ、国、都道府県、市町村、住民という縦の仕切り、行政区域という横の仕切りの文字通りの仕切直しが問われている。
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論点: |
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・地域活性化における交流・連携の必要性、その内容(どんな交流・連 |
[ゲストスピーカー]
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●「個人ツーリズム」の時代
・リクルートでは、5年くらい前から地域活性化事業に取り組んでいる。7年前に都市圏から地方への移住・就職を提案する『Uターン・Iターンビーイング』という情報誌を発行したのを皮切りに、都市から地方への定住の流れ、各地域における観光のあり方について考え、深く関わるようになった。
・最近では団体旅行が減少し、個人旅行が増えている。これは単に旅行者数の単位が小さくなったということではなく、個人が自分の価値観を重視した旅をするようになったということである。
・個人が自分の価値観を重視して行動する傾向は観光だけではなく、消費の面でも顕著にあらわれている。地方に定住する人たちの最大の目的とは、「自分のやりたいことをやる」ことである。都市で実現しなかったことを地方でやる、第二の人生を始める、という観点で地方への定住が行われる。
・3年前から、社内で「個人ツーリズム」の研究をはじめた。今日の観光における誘客の視点は、地域資源を活用する「地域軸」から、個人のやりたいことを追求する「個人軸」に移りつつある。
●食欲の対象は素材(地域資源)よりもメニュー(テーマ型観光)
・個人ツーリズムの時代には、個人の目的・テーマから発想し、1人1人が設計する「テーマ型観光」が中心になる。テーマ型観光メニューは、「地域資源」(素材)に個人の行動メニューである「行動ソフト」をかけあわせ、個人の思い入れや気持ち(テーマ)を加えて設定される。最近は、このようなきめ細かなメニュー設定で人をひきつけようとする取組が増えている。
・「宿」の機能変化も見られる。今後は、非日常的空間を提供する宿と、周辺を巡り歩く拠点・基地としての宿に二極化していくのではないか。
●移動手段も多様化
・基地としての宿を考える場合、宿からオプショナルツアーに出向く際の「アシ」をどう確保するかが課題になる。単に車や自転車を与えるのではなく、地域資源になじんだ交通手段を考える必要がある。
・「歩く」ことも交通手段のひとつであるが、湯布院をはじめ「歩く」意味を重視し、いかに歩かせるか、いかに気持ちよく歩いてもらえるかを工夫する地域が増えている。その際、「情緒・風情」を創出する効果は大きい。
●やっぱりIT。これをどう取り入れるか
・個人ツーリズムと交通問題の関係について考えてみると、従来の大型巡回バスから、乗用車に移行することが予想される中で、渋滞を起こさない工夫が必要になる。GISを利用した観光情報システムを構築し、カーナビ、iモード等を通じて最適な交通手段の情報提供を行えるようにしてはどうか。個人レベルのニーズを満たす際には、ITをどれだけ活用できるかがカギになる。
・地域の交通手段を考える際、例えば自然保全に力を入れている地域では電気自動車を導入するというように、地域ソフトとの連携を考慮すべきである。
●支援(モビリティ確保)、後押し(インセンティブ供与)のための事例もある
・地域資源に交通を溶け込ませた事例としては、「ハーブ鉄道」のイメージ戦略で鉄道を観光資源化した「千葉いすみ鉄道」などがある。
・ボランティアをやりたいが機会がないという人のために、全国各地の地域振興への参加を呼びかけるという実験をしている。石川県の祭りに応募したボランティアには、JASの協力で航空運賃の割引を行った。こうした観点から、地域振興と交通の関係について考えてみることも必要であろう。
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●我々の地域資源『展勝地』
・展勝地は、全長約250km北上川の源泉から125km地点で県内有数の清流・和賀川と合流するところにあり、人や動物のすみかとして最適の場所であるとともに、縄文以来の豊富な自然と人と歴史文化を有する地である。展勝地には桜、ツツジが1万本あり、桜の時期には2週間で40万人を集める観光地である。ただし、桜の時期以外の集客は見込めなかったため、通年集客を図るために、北上市は平成2年に約2億円をかけて、レストハウスを建設した。
・オープン当時、市は通年営業は困難と考えており、運営も東京の大手企業に委託する予定であった。しかし、地元で生まれ生き続ける我々は、この地は生きる力を育んでくれ、現在世の中が抱えている様々な課題に対応でき、豊かな自然と人と歴史文化を保有する展勝地の地域資源としての価値は大きいと考えていた。
●「自分たちだけ」「東京は相手にしない」経営は大赤字
・こうした背景をふまえ、市民にとって大切な場所である展勝地の経営を他人まかせにすることなく、自分たちで担おうと思い立ち、異業種に携わる有志16人の出資により「株式会社展勝地」を設立し、90年から営業を開始した。
・行政には「行政でなくてはできないこと」だけを任せ、それ以外は自分たちでやろうと考えた。そのため、3つのコンセプトに基づく営業展開に努めた。
『@利益のための営業はしない』
「利益が出ない事業はだめな事業である」という発想を捨て、「自分たちが好きなことをやる」ことを優先する。好きなことをやった結果、5年後、10年後に利益が出ればよい、というスタンスで臨む。
『Aエージェントに限りなく頼らない』
地域に地域資源などの「力」がある。客は自ずから集まってくる。地域に「力」がないのに、またそこに生きている人間がそれを評価できないまま、無理に集客しようとするとエージェントに頼むことになる。
B東京に向かう考えをちょっと休む
ものづくりに関わる人たちは、東京に出ると消耗し、疲弊しきってしまう。「地域でいい生き方をする」というのは、東京の基準で価値を計るのではなく、地域の豊かさを見直し、誇りをもって生きていくことである。
・こうしたコンセプトは聞こえはいいが、実際に実践するには、自ら価値観を創り出さなければならない。
●やってみたら東北縦横断60市町村
・「自分で自分を認める」「地域が地域を認める」ことを重視した結果、花巻や水沢といった隣の市町村の人、産物の良さに気づいた。さらに太平洋から日本海まで14市町村を結ぶ国道107号線、30市町村を貫く北上川に着目し、これら沿線や流域の市町村をつなぐことの大切さを思い知らされた。これが、「展勝地がいあ市」である。
・「市」は中世の「市」のイメージであり、現代の画一性から脱却する発想に基づく。「がいあ」はギリシャ語で大地の女神を意味するが、共生するというコンセプトの象徴的な表現として使っている。このほかにも、展勝地が北上市の街中から見た「外野」であることや、人で「がやがや」にぎわうことなどをかけ合わせたものである。展勝地がいあ市の事業のひとつが「バザール街道107」である。現在約60市町村と交流している。
●「官製」連携軸と私たちセクター連携軸・民間連携軸を目指して
・平成7年に現在の全総「21世紀の国土のグランドデザイン」の基本的な考え方が発表されたとき、自分たちの取組=地域連携が国の政策のキーワードになっていることを知り、元気づけられたものである。難しい局面が様々あるが、地域で生きることの自信と誇りを持ち、先達の智恵に自分たちの考えを積み重ねられる価値を創造することに努力した結果、当初予想しなかった結果(効果)につながってきている。
・「地域で生きたいように生きること」の大切さを改めて感じている。こうした経験を「まちづくり」(中心市街地の空洞化など)にも活かしたい。そして、民官、官民の新しい合意形成の仕組みを創造したい。NPO法に基づいた市民活動のエネルギーも大きく活用したい。
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●交流・連携の交通課題
Q:すべての旅行者が車で押しかけると渋滞になるので、乗換や代替手段の提示が必要になるだろうが、地元の商工業者は自分の店の前が渋滞していないと不安になるらしく、こうした提案を受け入れてもらえないことが多いのではないか?
A:確かに商店街はにぎわっていた方がいいが、必ずしも車でにぎわう必要はない。
渋滞する場所には行きたくないと言う旅行者もいる。にぎわいの手段は何がいいかを地域で考える必要があるのではないか。
A:今後、車だけでなくトランジットモールやパーク&ライドなどの様々な交通手段のあり方が検討される必要がある。
●素通りする大型バス。お金を落とすのは個人グループ
Q:ツアー客と個人客、どちらが伸びそうか?
A:役所は展勝地をメジャーな観光地にしたいようだが、例えば「青森から1万円のパッケージツアー」などでは、大型バスでやってきて、短い滞在で食事もしないで帰ってしまう。花見の時期は大方そうであるが、ツアーのお客はこういう客が多い。むしろ個人レベル、家族単位でやってくる少人数の団体の方に視点をおいてきた。これからもさらにそうなるだろうし、そうしていくべきであると思う。今では、オープン当初から見れば、車を置いて周辺を歩いて楽しむ少数のグループ客が増々多くなってきている。
●身の丈にあった地域連携、やりたい地域連携を
Q:地域連携をふまえた地域活性化のこれからの姿は?
A:これからは、地域自らが自分たちの適正規模を見極めて、身の丈に合った地域づくりを行っていくことが重要である。例えば、東京の客がなじまないのなら、無理に東京を向かずに近隣市町村を大事にした経営をする。エージェント頼みにならず、地域主体で運営する姿勢が大切なのではないか。
A:連携も大切であるが、「組み方」も重要。最近、民間企業の提携が続いているが、コンセプトは「選択と集中」。地域の特徴を生かして、他と組んで楽しく、ユニークな連携をしていく。地域連携も、これまでの「一村一品」から脱却して、自分にないものは他地域で補う。日本全国どこでも同じことをしていても効果はない。自前主義を捨てることは非常に大切である。
Q:行政との考え方の乖離はあるか?今後の方向性は
A:やっている本人達は隣接市町村だけでなく、沖縄や四国などのような連続性を無視した結びつきも面白いと考えている。こうした連携をイメージできるのは私たちセクターである。行政はどうしても、国土グランドデザインに表現されている連携軸を中心にしたがるようである。
A:首長が「自分の功績」や「自前主義」という意識を捨てれば状況も変わるが、現状では民間主導の方がものごとは進みやすい。
●交流連携・交通の採算性
Q:都市経営の観点から、どこまで採算性を考えていくべきであろうか。
A:連携というのは、やってみないと成果がわからないという部分がある。行政は、あらかじめどんな成果が出るのかを問われるので、連携に関して積極的になれないということもあるのだろう。しかし、成功事例を数多く発信すれば行政の体質改善にもつながるのではないか。
A:交通の採算性を考える場合、観光の概念をせまくとらえないことである。「旅行」と「レジャー」の幅は広い。採算性や効果測定を考える際には、縦割りでなくトータルで効果をとらえることが大切である。
●地域連携『官』と『民』
Q:地域住民が、地域の視点でよいと思うことを実行した結果、「バザール街道」が成功したということか。
A:展勝地に人がこない状態から、試行錯誤を繰り返しながらバザール街道にいきついた。正直なところ、こんなに早く成功し、定着するとは思わなかった。このように、民間主導で成功した取組に行政は関与したがらない。
Q:横手と北上は自治体職員交流があるらしいが、こうした人事交流は地域連携と関係ないのだろうか。
A:本来、こうした人事交流と我々の取り組んでいる地域交流と結びつけるべきなのに、なかなかそうしてもらえない。官民の連携はまだまだ希薄である。
Q:どうしても行政でしかできないこともある。こうした機能分担についてはどう考えるか。
A:たとえば、河川の護岸工事など、これまで行政に任せきりだった事業も、河川管理の上で、民間が提案・協力できることがある。こうした連携の結果、浮いた予算をほかで活かすことが可能になる。
A:「官」の中での縦割りをなくすことが必要ではないか。例えば、市民全てが手話のできるということであれば、福祉資源、教育資源、観光資源になる。従来の枠を取り外して考える必要がある。そうした発想でなければ今の課題を打開できない。
Q:他地域の『官』を支援することは可能か
A:連携のおもしろさをわかってもらう事例として紹介したい。以前、観世流の宗家を呼んで「薪能」を開催したことがある。盛岡の熱意ある3人の女性が提案し、盛岡を中心に各地から400万ほど集め、県の補助も受けながら2000万ほどの資金で実施した。これは、盛岡を中心に3県にまたがる13市町村の実行委員からなる組織をつくり、北上で行う事業のために智恵、資金、労力を出し合ったという「連携」の見本である。
A:北上の中心市街地空洞化の問題でも、周辺市町村が協力し、智恵と資金を出し、地域づくりの新しい実験をしてはどうだろうか。中央が考えた地域への支援策ではなく、地域の提案する計画に理解を示した支援策を創ってもらいたいものである。行政または議員の場合、自分たちの税金を地域外に持っていくという発案は難しい。こうした事例こそ、民間がリーダーシップを発揮していくべきである。
A:大船渡では、特産であるサンマの箱に北上の情報を無料で入れてくれるという話がある。これをさらに広げて14市町村とかで連携して、厳選した情報を発信すれば、いいものが発信できるし、コストもかからない。しかし、行政レベルでは浅い議論の繰り返しばかりで、不満を感じている。
●官民の役割分担のこれから
Q:これからの官民の役割分担を考えるに際し何が必要か
A:今回の研究会では、参加・連携の官民役割分担に焦点が当たったことが興味深かった。ポリシーレベルでは国レベルでも取組が始まっているが、今後は方法論の充実が必要になってくる。
Q:官の強みは何か
A:行政は予算等の制約があるが、いったん予算化されれば強力な行動力を持つ。こうした行政の強みと、民間のエネルギーと智恵と人をどう連携させるかがポイントになる。成功事例やノウハウの蓄積を進めていきたい。
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