来場者質疑応答の紹介

(敬称略)

■障害者・高齢者の交通について
多くの障害者施設は中山間地域にあります。僕たちの立場からすると、 車椅子の人の交通サービスが大切であると思います。 そのことを秋山先生にお聞きしたいと思います。

(愛知県 重度障害者の生活をよくする会)

秋山
 障害を持つ人たちの施設を都心や、もう少し便利なところに持ってくることをやってこなかったということがあると思います。そういう意味で、そこにはADAと同じようにパラトランジット、スペシャル・トランスポートといったものを法律の中に組み込んでいれば事態はもう少し好転したはずだということを先ほど申し上げました。

バスと路面電車の機能は違いますが、福井県勝山市の京福電車の路線はバリアフリーではないので、まずそこのバリアフリー化を図るべきではないか。

太田
 国の交通バリアフリー法は、今の考え方では、新しく車両を導入するときということになろうかと思います。先ほどアメリカのADA法の紹介がございましたが、ここでは何年以内ということで目標を決めて全部変えていくという形で車両そのものはやっておりますし、公共交通につきましては、少なくとも現在、公共交通サービスをしているとすれば、それと同じレベルのサービス、そのサービスそのものをバリアフリーにするか、あるいはそうでなければ代替的なパラトランジットで同様のサービスを提供する、そこまで義務づけているわけです。

 それには前提として、公平なモビリティというのは国民の権利という形で義務を負わせる。ただ、その場合、それをだれが負担するかというときに、事業者サイドだけでやると、現在多くの鉄道事業者が財政的には困難な中ですから、それは地域や国が、どうサポートできるか、そういうものとセットでないとなかなか難しいと思います。最初に新しく車両を導入するときに補助する、取りかえのときにやっていくよりしようがないと思いますが、1列車のうちの第何両目かは必ずするとか、重点的にお金をうまく使うということかと思います。

鈴木
 鉄道とかバスのバリアフリーの考え方ですが、一番考えなければいけないのは、法で規制することももちろんですが、使う人の立場に立った心という部分がもっと考えられていかなければいけないと思います。JRのバリアフリー駅という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、エスカレーターやエレベーターを一生懸命つくっています。確かにそのことによって車いすの方の上り下りはできるようになりましたし、それはバリアフリーという考え方でしょう。けれども、果たして橋上駅にしたことがほんとによかったのかどうかという議論もなされていいのではないか。

 特に国鉄時代、ローカルの駅を無人化しました。そのときに何をやったかといいますと、各駅に全部跨線橋をつけたわけです。それまでは踏切でそのままホームへ渡れたのに、跨線橋をつけたことによって一生懸命お年寄りが上っていく光景が見られる、そのことが鉄道離れをかなり促進したのは事実だろうと思います。確かに安全という錦の御旗のようなものがありました。しかし、東京のように2、3分間隔で電車が来るところならともかく、1日数本レベルのところで線路を渡る危険性が果たして跨線橋を渡る不便さに勝るものなのかどうか、その辺を考えるべきだったのではないかと思います。

 バスの場合をみると今、ノンステップバスを開発しています。ノンステップバスも新しく出る型ほどいいものができてはいますけれども、ノンステップバスを入れたところで停留所まで車いすの方が行けるのかどうか。これはもちろんバス事業者だけの問題ではありません。けれども、そういった周辺も含めた形で全体の動きを考えていかないとほんとうのバリアフリーにならないのではないかという気がいたします。

秋山
 段差を削るだけがバリアフリー法だと思われている節がありますが、これはおかしい。大事なことは、段差を削ることと以外に、接遇といって、障害を持つ人あるいは高齢者に対して人間として接する、そういったことが2つ目に必要ですし、3つ目は介助が必要ですし、4つ目はサービス水準です。幾らノンステップバスが走っても、5時間に1本とか10時間に1本だったらサービス水準がないわけですから、こういうものを総合的にセットメニューとしてそろえることがユニーバルデザインだと私は思っています。したがって、バリアフリーでやることからユニーバルデザインへ転換する流れをそろそろ始めてほしいと思っています。

■公的補助と必要なサービス水準について
@公的補助のあり方について、どのような補助が効率的な運行を促進するのか。公的補助は幹線路線に対しての補助か、また最低サービス水準の確保のために補助するのがいいのか。

A地域に本当に必要なサービス水準、例えば1日の便数など、そういったサービス水準をどう決めたらよいのか。

(県交通担当者)

太田
 かなり本質的なところがございますが、公的補助のあり方、先ほどミニマムのサービスは重要だろうということでしたが、鈴木さん、弘前のときの経緯、どう決めたかを含めてミニマムについてご説明いただければと思います。
鈴木
 最低レベルとしてどのくらいの本数が必要なのかということについて、青森県の津軽地方、弘南バスというバス会社のエリアの28の市町村が集まって、これからの津軽地域のバス交通をどのようにしていったらよいかの話し合いを行いました。

 その中で、シビルミニマム、最低限必要なバスの本数を確保することについては、主に地域が中心になってつくった協議会が責任を持つ。つまり、そこはその地域の住民生活にとって最低必要なバスのサービスレベルの範囲については地域が責任を持ちましょう、それを超える部分については弘南バスの営業努力ですべてやってください、というラインを決めたわけです。そういう決め方で公的な資金の投入の仕方を決めるやり方が1つあります。

 そのときにどういうレベルで決めたかということですが、ある程度思い切って線を引くしかない面もありますが、津軽で決めたのは、1日5往復をシビルミニマムとしたわけです。その一つの理由は、通勤というのは実際にはマイカーに依存しているのは明らかなことで、通勤を重点に置いたわけではないのですが、通学を中心とした毎日の移動、それから通院、買い物といった移動、ある程度バスに合わせながら自分の生活のリズムをつくれる範囲の本数、それは5往復を割ったら無理だろう。

 実際に何を根拠にしたかといいますと、何ヵ所かの調査で、だんだんバスのサービスレベルが赤字によって下がっていったときに、6往復から7往復を境にして定期券の利用者ががたっと減っていることがわかった。ということは、6往復、7往復ぐらいのレベルを割った時点で、毎日定期的に利用するという意思は余り持てないということが一つの基準になって、そのレベルまでを最低線として決めたのが5往復という数字でした。それを5にするのか6にするのかというあたりは、どっちがいいというものではありませんが、そういった一つの基準を設けていく必要があるのかなという気がいたします。

太田
 追加しますと、興味深いのはそのときの決め方ですね。たしか弘南バスさんと関連28市町村が一緒になって協議会ということで、そこに大学の先生方が入って、いろんな分析をした上で合意をとっていったということですね。理論だけで決められるという話ではないので、ぜひそういう仕組みを自治体で考える、レベルを決めるということはみずからどれだけ負担するかと一体的にやっていくという議論ですね。

 それから、最初の方で公的補助のあり方ということでご質問があったんですが、いろんなやり方があります。特にイギリスなんかで非常に苦労されているのは、先ほどありましたニーズがどの辺か、1日5本だということになった場合に、それに対してどういうやり方でやるかという問題です。補助の仕方ですが、イギリスでは入札制をとります。補助金に対して手を挙げる会社はどこか。そのサービスを1年間あるいは2年の期間継続するということに対して一番安く入札したバス事業者にお願いするということです。

 ただ、問題は、通常そういうときには複数の事業者が参加しないと意味がないんですが、日本では今までバスターミナルやバス路線を持っているところが既存のノウハウ・プラス施設を持っているんですが、イギリスで苦労しているのは、バス停とか、ターミナルの施設を維持する、あるいは整備するということを公共サイドがする。それから、バスの運行ルートにつきましては自治体、日本でいうと道路管理者、交通管理者ということになるかもしれませんが、そちらでバスサービス専用レーンなり優先レーンをきちんと置くことと、バス停、その他の施設の部分は公的にやる。それから、バスの情報は、広域的にいろんな会社が勝手にやったのでは利用者にとってわかりにくいので、できるだけ自治体が提供する、というものです。

 最近の言い方では、バス・クオリティ・コントラクトといいますか、バスの質に対する契約ということで、ある契約を満たした事業者で一番安いところにやっていただく。単なる完全入札だけではなくて、公共サイドもミニマムの走行環境、利用を促進するための一定の義務を負った上で、その事業者と契約する。契約のときにどのくらいの料金でという上限を決めることがありますが、それと同時に、例えばノンステップバスを入れなさいということまで要求したり、そのためのお金を公共サイドで出す、そういうかなりきめ細かいやりとりの中で条件を決めているというのがイギリスの例です。

 補助金については、アメリカでやっている一つのやり方は、特定のものに乗れば安くなりますというシルバーバス的な形ではなく、モビリティに対する補助であって、タクシーに使ってもいい、バスで使ってもいい、鉄道に使ってもいいという形で、交通に対する補助金を事業者にやるのではなくて利用者にやって、利用者に選択させるという考え方もございます。

 これは複数の交通手段があるところということになりますけれども、そうしますと、自分のところに乗ってもらいたいから事業者サイドは一生懸命頑張って、自分でサービスを効率化する、よくする、そういうことも必要です。黙って赤字を埋めるということだけではインセンティブにならなくて、かえって足を引っ張る、全体でますます泥沼にはまり込んでしまう、というのが欧米の経験で問題になっていることではないかと思います。

秋山
 公的補助をどうするかという前に、コミュニティバスの80数路線、かなり過疎的な地域で運行した例ですけれども、利用者の満足度はルートと頻度で決定されているという結果が出てきました。それと、運行頻度が少ないところは利用者が免許を持っていない、高齢化が進んでいるという限定されたところで、その人たちさえも不満という方向に来ていますので、一定以上の頻度を出さないとだめだということがコミュニティバスの調査結果から出てきました。

 そういう意味で、どの程度補助するかという議論もありますが、先ほど6、7往復ということを鈴木さんの方からご提案されたと思いますが、地域によって上下するのだろうと思います。そのラインを探すことが極めて重要だと、私たち自身の調査でも感じました。

■NPOについて
@NPOが運賃を取っていいのか

A福祉バスなどの目的で導入した車両で、福祉バスなら福祉目的以外での有効活用について伺いたい

太田
 この辺は秋山先生、鈴木先生の方でコメントがございましたら、お願いします。
秋山
 道路運送法80条の有償運送、要するに白タクを禁止する法律がございます。地方自治体が許可をとり、そしてNPOにそれを委託する場合には、多分オーケーになると思います。現在ボランティアでやっている方法ですけれども、直接ドライバーと運賃と収受しないで、1ヵ月先に全部まとめてお金を取るというやり方で逃げている例もございます。そういう意味で、NPOでも運賃を取れるケースが2通りあります。

 それから、福祉バスの活用方法というのは、厚生省なり教育庁が「自由に使ってよい」とすれば、自由にできるのだろうと思います。これは省庁間の壁かと思います。

鈴木
 先ほどの補助制度のあり方にも関連してきますが、今まで補助そのものが用途限定の補助だったというところに問題があるだろうと思います。これから少ない財源の中でいかに効率的に中山間地域の交通をハイレベルで確保していくかという中では、用途限定の補助という考え方は脱していかないとどうしようもないだろう、補助のあり方を異分野統合型の考え方に移行していく必要があるだろう、ということが1つです。

 それから、今、自家用で持っているバスの活用ですとか、あるいはボランティアの問題ですとか、必ず道路運送法に抵触するかどうかということが問題になるわけです。例外措置という抜け道がありますが、過疎地域の交通のかなりの部分が例外措置で成り立っているという現状があるわけです。21条のバスにしろ80条のバスにしろ、いずれもみんな例外措置なわけです。例外措置で成り立っているということ自体を問題にしなければいけないのではないか。

 道路運送法、今度どのくらい変わるのか、まだわからない面もありますが、余り変わらないような気もいたしますので、果たして例外措置という考え方の中ですべてをやるような形でいいのかどうか、もう一度検討する必要がありそうだなという気がいたします。

■総括
太田
 最後に、今まで会場の皆さんからいろいろ質疑をいただきましたので、先生方の方から一言ずつ、ご意見、ご提案等がございましたらお願いしたいと思います。
菅沼
 私は、行政もそれぞれの知恵でみずから考え、みずから実行していかなければならないと思っておりますが、そういう中で広域的な事業展開をこれからはすべきだろうと思っております。
秋山
 生存権、生活権ということでどこまでモビリティ確保について行政が見るか、そのあたりの議論がポイントのように思います。これは将来の議論だろうと思います。
鈴木
 広域的な考え方というのは、地域的な広域ということももちろんありますが、今まで事業者、行政、住民、それぞれが別個にいろんなことを考えてきた、そこも相互乗り入れをして、みんなで考えていく必要があるだろう。そうしないと、その地域の交通あるいは一つの交通圏の中での交通はなかなかいいものができていかないような気がいたします。
溝端
 本日のこのシンポジウムを主催されていますのは国土庁計画・調整局ということですので、先ほどからの話はさまざまな分野の連携を含んでいるという意味でより一層頑張っていただきたい、このことを申し上げて終わりたいと思います。
太田
 私の方で特にまとめるというのは難しいかと思いますが、お話を聞いていると、従来の仕組みがいよいよ限界に来ていて、それぞれ地元で工夫しなければいけないことは今日の議論でもはっきり出てきたかと思います。工夫する余地を最大限引き伸ばすための中央レベルでの新しい方向に向けた努力、また、交通バリアフリー法、道路運送法、その他、関連のところでも、現在の車社会の中でのモビリティ確保という視点から見ると、いろいろな障害、課題がありそうですが、国のレベルでもさらにまた改善していただく、あるいは議論を深めていただくということも必要ではないかというのが1つです。

 もう一つは、自治体、住民が自分たちの問題として交通の問題にいよいよ取り組まなければいけない。先進国の中で公共交通が自立採算で成り立っているところはもはや日本だけです。日本は、海外の制度づくりから30年おくれています。これは幸いマイカーの普及がおくれていたから、あるいは公共交通が頑張ってくれたから今まではこれたんですが、それではいかない時代になりつつあるということです。特にこれから地方分権化も進みますし、規制緩和ということがございますから、一方では市場ベースでそれぞれが責任を持ってやるというニーズが高まっている。一方では、自分の責任の中で住民とかコミュニティレベルでの福祉の問題、交通の問題を一体的に考えなきゃいけない、ますます自治体の役割がふえると思います。

 そういう意味では、自治体の工夫が大変重要で、私どもは交通まちづくりということを言っていますが、交通を通してまちづくりを考えるという大変重要な課題が自治体の目の前に突きつけられている、そんな認識で問題を見てほしい。ただ、その場合、交通だけで考えては解決に限界があり、交通を含めてコミュニティ全体の問題、まちづくりの問題という中にいろんな解決が出てくる。その場合に、先ほど言いました国の現在の制度とか補助というのはかなり限界があるので、それに対して逆提案していくということが求められる時代かなと考えます。その中ではNPOの人に頑張っていただかなきゃいけないし、法規制であいまいな部分について新しい仕組みを自分たちで考えて提案していく、そんな努力も必要かと思います。

 今、それぞれが新しい状況に合わせて、いろんなことを経験したり、失敗したり、成功したりしている時代だろうと思います。きょうのシンポジウムはそういう意味で大変意義のあることだと思いますし、ぜひ国土庁も連携のためのベースづくりということでまた頑張っていただきたいと思います。

 きょうの全体の印象ということで述べさせていただきました。


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