国土審議会近畿圏整備特別委員会
計画部会(第5回)
議事概要
- 1月27日(月)13時30分より、ウェスティンホテル大阪花梨の間(大阪市北区大淀中1−1−20)において、国土審議会近畿圏整備特別委員会第5回計画部会(部会長 紙野 桂人 大阪大学名誉教授)が開催された。
- 今回は、4名の委員から基調報告を受け、討議が行われた。
- まず、ライフマネジメント研究所所長の稲岡真理子委員から「活き活きライフデザインの勧め〜消費者啓発の現場から」について基調報告と質疑が行われた。その概要は次のとおりである。
- 生涯設計教育はこれまでは主に女性に対して行ってきたが、現在では企業において労使が一体となって自分の人生を考える研修が増えてきた。
- 1950年から70年代前半は、ものをそろえる時代、70年代後半から90年は、よりよい生活を求める時代、90年からは、自分の生活を選択する時代と消費生活は変遷してきたが、現代の生活者は生活に不安を抱いている。
- 阪神大震災は、生活者の消費態度に影響を与えた。家計簿をつける人が増えてきた。暮らしの危機管理。
- 消費者の「学び」が広がり、深まっている。学ぶためには、時間とお金と好奇心と行動力が条件として必要である。なかでもお金の果たす役割がいちばん大きい。
- ライフデザインやライフマネジメント(例えば、人生の夢や願望を実現する上でどのくらいの貯蓄が必要になるかを計画すること。)は、年齢に関係なく啓発されるべきである。
- 生活者としてあなたはどのような人生を築きたいと思っていますか、そのためのライフマネジメントを行っていますかという問いかけが重要。
- ものやまちの設計についてもライフデザインを活かしてほしい。
- 次に、奈良女子大学生活環境学部教授の上野邦一委員より「私がイメージする21世紀・近畿圏」について基調報告と質疑が行われた。その概要は次のとおりである。
- 歴史的な遺産を大事にする地域づくり・町づくりは、外国でも順風満帆ではなく、変化する時代でのチャレンジである。
- 21世紀は女性がこれまで以上に活躍する世紀になると思われる。経済活動や利益獲得から人間が尊重される世紀になると思われる。
- 21世紀は環境にやさしい発展、ゆっくりした進歩の世紀になるだろう。ゆっくりした進歩はハンディキャップ(高齢、障害、若年)を持った人々が適応できる環境をも提供する。
- 歴史的蓄積を利用するほうが、エネルギー消費が少ない。経済的な価値判断だけでない、価値観の確立が必要である。
- 広範な緑、膨大な通勤時間が失われてきた。これからは、地下資源に依存しない資源の獲得を目指すべきである。
- 21世紀は、情報化・国際化が進むことから、共通の認識とか普遍化した価値がひろがる。だから逆に個性や歴史が見直される時代になると思われる。
- 近畿圏は文化遺産が集中し、かつ質が高い。国宝の7割は近畿圏、重要文化財は4割が近畿圏に存在する。歴史的建造物は環境要素として存在していて、存在感を与える。これを活かした地域構想が必要である。
- 国土軸は、地形、自然、歴史的蓄積が支配する地域のまとまりを認識している。これを積極的に取り入れる地域構想が望ましい。
- 情報が豊富になることにより、非現実が現実であるかのように錯覚する恐れがある。人間は五感で現実を総体として認識している。本物を大事にしないといけない。近畿圏の将来像の基本は歴史的蓄積、本物があることを活かすことである。
- 近畿圏から世界へ、あるいはアジアへ発信する、でも一体何を発信するのか。
- 日本の価値観や倫理観を押しつけるのではなく、現地に適応した協力が必要である。
- 日本の国土づくりの功罪を発信するべきである。
- 歴史、文化を発展のなかに組み込んだ国土づくりが21世紀には求められる。
- 続いて、京都精華大学人文学部助教授の橋爪紳也委員より「都市の可能性−−夢と自己実現の「場」のリデザイン」について基調報告と質疑が行われた。その概要は次のとおりである。
- 20世紀は、都市像としてパラダイス=楽園=桃源郷(過去への追想)ではな
くユートピア=どこにもない都市(未来への憧れ)を追求した人類史上特殊な時期であった。全世界的に都市の磁力が働いた時代であった。
- 楽園でもなく、かつてない都市でもない第3の理想都市像は何か。誰もが明るく楽しく暮らす「安定社会」と考えられないか。
- モノとの付き合い方、地域との付き合い方、自然との付き合い方を再認識する。人の可能性を多岐に認める「場」が重要になる。人生の選択肢の多様性、競争からの脱落者をも癒し「楽」にする「場」がひとつのモデルとして求められる。
- 明治維新や終戦後のようにこれまでの都市を放棄し、再生してきたが、新たな時代の要請に応える21世紀型の都市を我々は創ることが出来るのか。
- 近畿圏においては、安定社会における理想都市圏にふさわしい基礎条件を有している。都市に託された夢、自己実現を多様化、相対化する場をデザインし直す必要がある。
- 具体的には、新しい「評価の場」「自己実現の場」の充足(文化、学術等)、国土軸とは別の圏域内での新たな軸、新たな交流を促す「交流圏」の実現、自在な住み替えの支援、新たなマルチハビテーション、観光施策の重視等が必要である。
- 続いて、神戸大学法学部教授の山下敦委員より「計画、社会、法」について基調報告と質疑が行われた。その概要は次のとおりである。
- 近代的な行政法は行政が国民の行動を制約する処分の場面を主に想定しており、計画を念頭に置いていない。
- 計画は利害を適切に考慮してバランスをはかるもの。計画と法律の接点は手続きだけ。
- 世の中の利害関係が多様化してきたことにより、行政自身が正確に世の中を把握できなくなっている。その結果行政が社会を管理する力が衰えてきている。このため行政組織が複雑化することが求められている。また、利害調整をする上で行政による処分ではなく計画によるビジョンの提示が求められている。
- 行政だけが計画を作っていては駄目で、社会に投げかけてビジョンをまとめるプロセスが重要になってきている。
- 行政組織を多元化して、社会に近いところで仕事をさせることが必要になってきている。このことが社会の複雑化した状況への対応と言えるのではないか。
- 行政が社会を管理する正当性は手続で担保されるが、手続きだけでなく実体的価値の担保も重要である。
- これまで、行政は、法による利害調整、行政指導による利害調整で個別的に利害調整を行ってきたが、透明性の観点からこれからは計画が利害調整を担っていくべきである。
- 行政計画の役割は、考慮すべき利益は全て考慮し、バランシングすることである。
- 個人でもなく行政でもない中間的なもの、例えばボランティアをどうやってつくっていけばいいのかが重要である。
問合せ先:国土庁大都市圏整備局計画課 課長:高津、課長補佐:新田
(電話)03-5510-8042 (FAX)03-3501-6534