防災問題懇談会提言
II 運用・実務面の改善を行うべき施策


1 情報収集・伝達体制の整備

 災害時の応急対策を的確に行うためには、情報を速やかに収集し、収集された情報を関係機関に伝達することが必要である。国、地方公共団体や災害対策本部においては、その情報に基づき、対策を決定するとともに広く国民に情報提供を行う必要がある。それぞれの段階において特に積極的に推進すべき点を以下に掲げるが、これらの情報システムは国家的な危機管理システムを構成するものであり、その整備を急ぐべきである。

1)初期情報の収集体制等の総合的な整備
 警察・消防・自衛隊・海上保安庁等の機関は、災害時には、現地において組織的に情報を収集し、災害の規模を把握して、応急対策に資するとともに、さらに迅速に国等に情報を伝達することが必要であり、そのため情報収集専任職員の指定等の体制の整備を図るべきである。
 また、国は初期情報の収集・集約体制の整備を図る必要がある。
 さらに、救助・消火活動の的確な実施及び国や周辺地方公共団体等の迅速な応援を可能とするため、被害把握に基づく総合的な判断が行えるよう、国、地方公共団体においては、行政のみならず電力会社、ガス会社等の公共機関等から情報を集める体制の整備等が必要である。
 この他、発災直後の被害情報の伝達系統を多重化するため、大規模災害により被災市町村から都道府県への連絡が困難になった場合等には、その市町村が一時的に都道府県を経由せず国への情報連絡を行うことも重要である。

2)初期情報の収集システムの高度化
 国及び地方公共団体は、迅速な情報収集・伝達のため、日常の業務に使用している現有施設の増強と活用に加え、航空機による状況調査、固定型の監視装置等の画像情報収集設備を整備し、これらのシステムの運営について予め習熟する必要がある。

3)被害の早期予測システムの開発
 地震発生直後に、警察、消防等の各機関からの通常の情報に加え、震度データ等と人口、地盤、建物等のデータベースを基に、被災地域の概括的な被災状況(人的被害、建築物被害等)の即時的な予測を行うとともに、それを救助活動や物資の輸送等にも活用できるような地震防災情報システムを開発し、将来的には災害予防対策、応急 対策、復旧復興対策にも利用する必要がある。

4)無線通信網の整備
 国、地方公共団体等の防災関係機関は、災害時に情報収集や出先機関、実働部隊等との連絡を行うため、衛星通信を含む情報通信設備の整備等により通信網の充実強化を図るとともに、無線通信網の相互接続等によるネットワーク相互の連携及び運用方法の確立を図る。また、電力会社等の無線通信網を運用する民間の公共的機関との協力等による通信の多重化を図る必要がある。
 さらに、学校、病院等の施設や救援機関等の間の無線通信手段の確保に努めるべきである。
 この他、国においては、電波を効率的に利用し応急用により多く割り振るためのデジタル化及び狭帯域化の技術の開発・実用化を急ぐとともに、災害時における重要通信を確保するための運用調整を行う必要がある。

5)災害対策情報のデータ化
 国、地方公共団体が応急対策を迅速・的確に決定するには、災害の発生前に応急対策要員や応急用資機材に関する情報を、データベースとして統一的なシステムの下に収集・管理することが効果的である。災害時には、被害の情報把握が概括的・部分的な段階でも、例えば被災地の要員、資材に関するデータをもとに、必要と推定される応援要員、資材について周辺地域等から緊急輸送を開始するなど先行的に対策を講じることが望ましい。

6)国民に対する情報提供
 国及び地方公共団体により収集された情報や、国及び地方公共団体が実施しようとする対策については、被災者や一般国民へ伝達し、行政の信頼性を確保することが重要である。できるだけ首長自らも被災者等に直接、対応状況を説明するなど、広報に努めるべきである。また、報道機関の大きな役割にかんがみ、安否情報の提供を含め、その積極的な協力を得ることが重要である。
 さらに、関係機関が情報の共有等に努め、各機関の個別情報はもとより総合的な情報を被災者、国民に提供する必要がある。加えて、災害時に被災者が必要とする身近で実用的な情報等にアクセスできる地域の情報拠点を、地方公共団体において設置、運営すべきである。また、パソコン通信等を利用した国民の安否情報の通信等も積極的に検討する必要がある。
 なお、情報提供については、外国人の住民、旅行者にもわかりやすく行うための伝達手段の工夫等の配慮が必要である。

2 緊急即応体制

 大規模災害時には、被災地方公共団体と周辺の地方公共団体及び国が一体となった広域的な救急・救助を実施する必要がある。被災現場、その近接の応急拠点そして被災地から離れた後方支援地域のそれぞれにおいて的確な機能分担を行い相互の機動的な連携を図るべきである。また、地域における住民自身の防災力の強化も重要な課題である。そのため、以下のような点を積極的に推進すべきである。

1)国・地方公共団体による支援体制の整備

  1. 地方公共団体が協同した広域的な応援活動
     災害が一つの地方公共団体の対応能力を超えるような大規模災害に対し、周辺の地方公共団体の消防、警察が自発的かつ迅速に応援が行えるよう、地方公共団体においては、相互応援協定の締結を推進し、非常時の連絡体制、応援の内容等について予め取り決め、事前に訓練等により習熟しておく必要がある。
     また、広域応援のための全国ベースの消防、警察による特別の援助隊を整備し、輸送体制や装備の充実等により実践力を高める必要がある。

  2. 都道府県の機能の強化
     市町村の応急対策を支援し地域住民の安全を守る上で、都道府県は大きな役割を担うべきものであることから、都道府県の組織系統の整備や、市町村への支援体制の強化等、災害に対する都道府県の総合的な調整機能の強化を図る必要がある。

  3. 国の現地対策本部
     国が災害対策本部を設置して、その下に現地対策本部を置く場合は、災害発生直後から現地と連携してその役割を果たせるよう、現地対策本部長、現地対策本部要員についてあらかじめ指定し(例えば国土政務次官と関係省庁幹部)、発災後ただちに政府調査団のメンバーとして現地に派遣し、そのまま現地対策本部にスタッフとして常駐させる体制を整備すべきである。

  4. 自衛隊の派遣体制
     自衛隊の災害派遣は、都道府県知事等の要請を受けて実施することを原則とするものであるが、例外的に、要請を待つことなく自主的に派遣を行う場合の基準を明確にすべきである。
     また、都道府県と自衛隊との緊密な連携を確保するための連絡調整マニュアルの確立や共同の防災訓練の実施、ヘリポート等の救助・輸送の活動拠点の確保等に努める必要がある。

2)現地における医療、輸送等の即応体制の整備

  1. 緊急医療体制の整備
     災害時の病院機能の確保のため、ヘリポート等を完備し災害時に拠点となる病院を、建物及び設備の耐震性、患者の利便や医師の参集といった面からの立地条件等を勘案しながら整備する必要がある。
     また、災害時には負傷者の優先度を見極める選別区域、治療を行う現場救護所、後方移送のための待機所の3段構えを確立すべきである。
     各地方公共団体は救護班の編成に関する情報を把握し、隣接する地区、隣接県及び国との医療協力体制を整備するとともに、広域的な後方医療施設を選定することが必要である。
     また、大規模災害に備え、医療用資機材の開発、医薬品の備蓄・供給体制の整備、災害医療の専門医の養成並びに医療機関相互の情報ネットワーク及び協力体制の整備・強化を進める必要がある。

  2. 緊急輸送の確保
     災害時には、救助・救急活動を有効に機能させる点から、迅速な応援部隊の移動や患者の搬送等を図れるよう、ヘリコプターによる緊急輸送を最大限に行うことのできる体制の整備を図る必要がある。この場合、ヘリの騒音、風圧等で住民の避難や消火・救出活動を妨げることのないよう、ヘリポートの開設、飛行ルートの設定等の点で、配慮することが必要である。

  3. 広域的な交通規制の実施
     大規模災害時には都道府県公安委員会において適切な交通規制を実施することはもとより、広域的な支援や輸送の確保のため、国家公安委員会が広域的な交通規制の指示を迅速かつ効果的に行うことが必要である。
     また、その際警察官等による違反車両や放置車両に対する強制排除を徹底しうる体制の整備が必要である。

  4. 船舶の活用
     災害が沿岸地域の都市を襲った場合、応急対策のため船舶を活用することが効果的と考えられるので、海上保安庁、自衛隊等の船舶を、災害時に被災者の治療、医療関係者の宿泊、緊急物資の輸送等に積極的に活用できる体制の整備を進めるとともに、大量の物資や車両を高速で搬送することの可能な超高速船の導入を検討する必要がある。

  5. 危険度判定の速やかな実施
     大規模地震発生後の余震等に伴う二次災害防止のため、水害・土砂災害の危険箇所の点検や被災建築物の危険度の判定を速やかに実施できるよう、関係機関・民間の協力及び地方公共団体相互の広域的な人材支援を得て、体制を整備すべきである。

3)関係機関の連携による総合的な緊急即応体制の整備

 災害時には、機動力を有する消防、警察、自衛隊、海上保安庁等の実働機関が効果的な応急活動を行えるよう、各機関が共通の情報を持ち、総合力を発揮することが必要である。このため、国及び地方公共団体の災害対策本部と各機関との現場での連携、チームワークを重視し、相互の情報交換を図る必要がある。

4)住民を含めた地域の防災力の強化

 緊急事態の中で一番先に動くのは被災箇所及びその周辺の人々であり、市民の防災力の基礎を強化していく必要がある。そのため、行政側では、平時から日常生活を通じて、地域の災害危険性を分かりやすく住民に周知するとともに地域の防災組織の育成や住民に対する訓練の実施、資材の確保等を進める一方地域住民の側では、自主防災の組織や活動について活性化を図り、総合的に地域の防災力の強化を図る必要がある。

3 避難者の生活支援

 大規模災害時に大量に必要となる水、食料等の物資、資材の備蓄を効率的に行うため、広域的な備蓄センターの整備を検討する必要がある。一方、避難所やその近辺での分散備蓄も、初期段階に必要な物資の確保の上で重要である。また、学校その他の公共的施設は有事の際の避難所や地域住民の情報連絡所として十分機能することができるよう適切な施設整備を行い、災害に備える必要がある。
 さらに、災害時には被災後の時間経過に伴い、避難者のニーズが変化するので、それに的確に応えられるよう、保健衛生、環境、快適性を考慮した避難所の管理運営体制を検討しておくことが必要である。

4 災害対策要員の確保、訓練

 災害発生時に防災職員が直ちに参集し活動できるよう、災害対策要員の住居等についてできるだけ職場の近接地に確保する等の配慮により、緊急参集体制の整備を図るべきである。
 また、職員自身や家族の被災、交通の途絶という事態により、相当数の職員が短時間で集合できないような場合も想定し、勤務時間内と勤務時間外に分け災害時の任務を決めておくとともに、意思決定者が欠けた場合等に備え、職務代行の人員をあらかじめ決定しておくなど、緊急の事態に迅速な対処を可能とする体制の整備が必要である。
 さらに、職員の防災対応力を強化していくことが重要であり、様々な事態を想定した実践的な防災訓練の充実とともに、防災専門家の育成を図るべきである。

5 防災基盤・施設整備等

 国土の整備にあたっては、防災の観点を十分反映した基幹交通体系の整備のための国土軸構想、災害に強い交通・通信インフラ、ライフラインの整備やそれらの多重ネットワークの検討が必要である。
 また、公共施設、民間建築物等についての重要度、緊急度に応じた耐震性及び代替性の確保について十分な検討を行い対策を急ぐとともに、対策の進捗状況が国民に分かるような配慮を行うべきである。特に、高速道路や新幹線等の重要交通施設、発電施設等、いったん被災した場合に重大な直接被害や応急対策活動、経済活動等に機能障害を与える基幹施設については、必要な耐震度を勘案した上で、その安全性をより高める必要がある。また、個人住宅等の民間建築物の耐震補強を促進するための施策を推進すべきである。
 さらに、現代の情報社会の中核となっているコンピューター等の情報のバックアップ 体制の整備にも努めるべきである。
 防災基盤の整備の観点からは、避難地、避難路の整備、防災拠点施設の整備、ライフラインの地中化等による耐震性の確保、消防水利の多様化等とともに、災害時の救助や 緊急輸送に重要な役割を果たすヘリポートの確保を促進することが必要である。

6 民間協力等

1)海外支援の受入れと国際協力
 国際化、情報化の状況の下、大規模災害時には外国から人的、物的支援の申し出が多数寄せられるようになっている。こうした支援については、事前に外国の支援部隊についての情報を把握し、必要なものを受け入れる場合には迅速な判断ができるようにする必要がある。
 災害時に支援部隊を受け入れる場合には、被災地の関係機関に負担をかけることを避けるため、独力で行動できる自己完結型のものを原則にすべきである。
 また、防災面での国際協力を推進するため、国連で決議された「国際防災の十年」の推進や閣僚レベルでのアジア防災政策会議の開催等を図り、アジア地域の防災協力を強化すべきである。

2)ボランティア等民間協力の活用と支援
 国民の中には、自らの地域を守ることはもとより、ボランティアとして被災者を支援するなどの自発的行動をとるという積極的な意識が広まりつつある。今回の震災でも明らかなように、ボランティアは被災者の援助に大きく貢献するものであるが、それをさらに活かすため、自主活動を損なわない形で側面的にボランティアに対する支援を充実させることが望ましい。
 行政においては、技能等を有するボランティアやリーダーの登録制度を始め、ボランティア団体に対する法人格の付与、経済的基盤の確立のための支援策等について検討するとともに、リーダーの育成を図り、また、災害時には特に行政面で手薄になっている分野をボランティアに周知して、行政がボランティアと協力して被災者への効果的な援助に当たれるよう努めるべきである。
 また、今次震災でボランティアとして活躍した国民の熱意を尊重し、今後さらに醸成していくため、1月17日を「防災とボランティアの日」として位置づけ、防災訓練が主体となる9月1日の「防災の日」とは異なる形で、関係団体・機関において国民に身近な活動を中心に啓発行事等を実施していくことが望ましい。
 さらに、企業や地域団体の協力を得てその力を防災に活かしていく発想が重要であり、あらかじめ地方公共団体が企業等と協定・契約を結んでおき、災害時にその保有する多様な能力を活用できるようにしておくことを検討すべきである。