II.新しい全国総合開発計画が目指す国土づくりの基本目標と国土構造の姿
1.国土づくりの基本目標
我が国は、経済面では明治以来の欧米へのキャッチアップという課題を既に達成し、ある意味では、 100年前、50年前の人々よりも未来に対し大きな選択可能性を有している。これから21世紀においては、先人の努力の成果の上に立って、目指すべき経済社会の方向を自ら見い出し、自らの力で切り拓いていくことが求められている。
その際の国土政策の視点としては先に述べた価値観の変化や新しい時代の流れを踏まえ、a. 人々や企業の活動が国境を超えた形で広がるなかで、我が国を個々人や企業にとってより魅力あるものとすること、b. これからの人口減少・高齢化時代のなかで、国や地域をより活き活きしたものとするため、性、年齢を問わず国民一人一人を大切な知的資源として捉えること、c. 国土に展開する自然は現代世代が将来世代と共有する財産であるとの認識に立ち、生物の多様性と健全な自然の物質循環に基礎を置いた人と自然の共存を目指すこと、d. 世界の中の日本という視点に立って、地球環境問題の解決や基礎研究、学術、文化等の面で人類史的貢献を目指すとともに、経済に偏した我が国への認識をより暖かみのあるものとしていくため世界における我が国の文化的アイデンティティを創出していくこと等が重要であると考えられる。
以上のような認識に立って、新しい全総計画では上述の「国土総合開発」の開発理念の変化を踏まえ、これからの50年を展望した国土づくりの基本目標として21世紀の世界における国土開発のモデルとなりうる「生活の豊かさと自然環境の豊かさが両立する世界に開かれた活力ある国土の構築」を掲げ、そうした国土を支えるものとして次のような新しい国土構造の構築を目指していくこととしたい。
2.目指すべき国土構造の姿
国土構造の観点からは、明治以来のキャッチアップの過程で都市化と工業等の経済発展を中心に形成されてきた、東京を頂点とする太平洋ベルト地帯(第一国土軸)に人口・諸機能が集中している現在の構造を、これからの国土づくりにふさわしいものに転換していくことが必要である。
なお、首都機能移転は、これからの国土構造を考える上でも重要な課題であり、国会等移転調査会における検討結果を踏まえ、国土政策の観点からも総合的な検討が求められる。
(1) 現在の国土構造の性格と国土構造転換の必要性
20世紀を通じて形成されてきた第一国土軸を中心とする経済優先の国土構造は、経済成長という大きな成果をもたらしてきた。しかしながら一方で、こうした国土構造の形成は、すぐれた自然環境の喪失を伴い、近代的ではあるが、無機質な、また、画一的な地域の形成につながりがちであったことや、第一国土軸から離れた地域の活力の低下をもたらし、国土の中での暮らしの選択可能性を狭める方向で作用してきたことも否定できない。また、歴史及び文化の面においても、現在の国土構造はその形成過程で、それまでの長い歴史的な時間の流れのなかで培われてきた各地域の生活、文化のつながりを分断することにより、人々の暮らしの豊かさを損なってきたという側面を有している。
以上のように、現在の国土構造は経済面を中心とする欧米へのキャッチアップという20世紀の歴史的発展段階を色濃く反映したものである。これからの人々の価値観やライフスタイルの変化及び時代の大きな転換を踏まえ、21世紀の文明的状況にふさわしい国土づくりを進めていくためには、第一国土軸の形成から東京一極集中へとつながってきたこれまでの国土構造の流れを明確に転換する必要がある。
(2)新しい国土軸の形成
こうした観点に立って、20世紀型の都市、産業文明の波に洗われることの少なかった第一国土軸から離れた北東地域、西南地域、日本海沿岸地域において、失われた歴史的な地域のつながりの回復、人と自然のよりよい共存、集積から離れた中山間地域等の特色ある活性化等を実現するための複数の新しい国土軸を形成し、我が国において過去の長い歴史・文化の流れと海域を含む多様な自然環境を生かした新しい日本文化と生活様式の創造を目指すことが求められる。
ここでいう新しい国土軸とは気候、風土等の自然的、地理的条件及び文化的条件等において共通性を有する地域の連なりであって、交通、情報通信インフラのもとで、人、物、情報の密度の高い交流が行われ、人々の価値観に応じた就業と生活を可能にする国土の広い範囲にわたるものである。
新しい国土軸に沿って展開される生活と就業の場及びそこでの自然との関わりの姿は、20世紀における我が国の近代国家的地域像となった第一国土軸のそれとは質的に異なるものである。それらの地帯は、a. 小規模でまとまりのよい都市と美しい田園、森林、沿岸域が共存し、b. 都市と農山漁村の連携の下で、ゆとりと利便性をあわせ享受することができ、しかも、c. 歴史と風土の特性に根ざした文化が育まれた、知的生産性の高い地域として造られていくことになろう。
また、新しい国土軸は世界に開かれた地域の連なりでもあり、地理的特性等を生かした近隣諸国や広く世界との交流が活発に展開されることとなろう。さらに、高度情報通信社会の到来に伴い、新しい国土軸を構成するいずれの地域においても、時間・距離の制約を超えた地球規模の交流が可能となろう。
(3) 望ましい国土構造の姿
以上のような新しい国土軸の発展とともに、第一国土軸についても過密に伴う諸問題が解決され、都市的色彩を強く保った集積地帯と周辺地域とが連携した、より魅力的な居住地域として再生されることとなろう。
このように、既存の第一国土軸の再生と上述したような複数の新しい国土軸の形成が進み、それぞれの国土軸がその特徴を生かしながら相互に補完・連携することにより、日本列島は国土の均衡ある発展が達成され、人々の価値観に応じて、性、年齢を問わずところを得た就業と生活を可能にする多様性に富んだ国土空間として捉えられることになろう。
第一国土軸としての太平洋ベルト地帯は明治以降をとっても 100年を超す時間の経過のなかで形成されてきたものである。長期的な視野に立って新しい国土軸の形成に取り組み、複数の国土軸からなる新しい国土構造を構築することによって現在の国土構造のゆがみを直していくことが21世紀における国土政策の基本的な課題である。
新しい国土軸の地理的な形状については、上述のような新しい国土軸形成の趣旨及び「ほくとう新国土軸」、「太平洋新国土軸」、「日本海国土軸」といった各地域から提唱されている構想を踏まえて検討を進める必要があるが、当計画部会としては、こうした構想と国土構造についての歴史的考察も踏まえた上で、これからの国民的議論の素材として、別添図のような4つの国土軸からなる新しい国土構造のイメージを提示するものである。
これを素材として、今後さらに国民的議論が深められ、それをもとにして、新しい全総計画の基本となる国土構造のイメージを確立していく必要がある。
新しい国土構造のイメージ図 (GIF File, 37.5KB)