IV.主要計画課題の達成と望ましい国土構造の構築に向けた戦略的政策課題



1.地域の連携・自立による多様性に富んだ分散型国土の形成

 上述した様々な計画課題の達成を図り、また望ましい国土構造の構築を目指していくためには、国の積極的な取組とあわせて、地域の主体的な取組が求められる。特に、地域の個性、多様性を伸ばしながら、様々な課題の達成を図るためには地域の選択と責任による施策の実施が不可欠であり、地域の自立を促進することが基本的に重要である。
 そのためには、まず、後述する地域連携と新しい広域交流圏の形成等を通じて、居住地域のいかんにかかわらず、a. 日常生活から高次の経済社会活動に至る様々な活動に必要な諸機能に対して、一定の条件内でアクセス可能であり、また、b. 国内外の地域間競争の中で、地域の自助努力による発展が可能となる条件を広域的な視点から整備し、地域の自立の状況を創出していく必要がある。
 また、同時にそれぞれの地域の特有の課題に対応した戦略的な地域の整備が必要である。即ち、a. 新しい国土軸を形成すべき地域においては、大きな集積が形成されておらず、多様で豊かな自然環境に恵まれた多自然居住地域が多いという地域特性を生かしながら、地域間の連携による広域的な地域の整備と集積の形成を行うこと、b. 多自然居住地域については新たな位置づけを行い、大都市とは異なる地域の特性を生かした整備を行うこと、c. 既存の国土軸上に位置する東京を始めとする大都市においては、自然の回復・創出、都市環境の修復・改善による都市集積の高質化を進めること、d. 太平洋ベルト地帯(第一国土軸)を始めとする各地の産業集積を、高度情報化の成果を生かしながら21世紀にふさわしいものに転換すること等により、国土の均衡ある発展の見地から地域の連携・自立による多様性に富んだ分散型国土の形成を進め、先に述べた主要計画課題の達成と21世紀の望ましい国土構造の構築を目指していく必要がある。


2.地域連携の促進と新しい広域交流圏の形成による地域自立の基礎づくり

(1) 多様な地域連携の促進

 21世紀において、各地域が次のような経済社会情勢の変化に対応した必要性や要請に応え、質の高い自立的な地域社会を形成していくためには、従来の行政単位の枠を超えた広域的な地域間の連携が必要である。
  1. 人口減少・高齢化や国境を超えた地域間競争の激化に対応する必要。
  2. 新たなライフスタイルの広まりや自然の再認識などを背景とした、多様な国民のニーズや国土資源・国土空間の適切な保全、管理等の要請に対応する必要。
  3. 生活・就業環境の質的向上に向けて、高速交通基盤などの社会資本をより有効に活用する必要。

 地域間の連携が進むことにより、生活の質の向上と地域の自立のために必要な様々な機能が複数の自治体の共同した施策の実施等により整備され、地域が総体として発展していくことが期待され、各地で提唱されている様々な地域連携軸構想や交流圏構想はこうした観点から有意義なものである。国としても都道府県やブロックを超えた地域の活性化につながるものや国土資源・国土空間の保全、管理等を通じてその効果が広く地域外にも及ぶもの等を中心に、その形成に向けて様々な形で支援していく必要がある。
 地域連携の内容は、産業、福祉、教育・文化、自然環境、国土資源管理等多岐にわたるものであり、新たな地域発展の機会の創出、地域が提供するサービスの高度化と効率的な基盤整備、地域に共通する広域的な課題の解決、災害発生時における迅速な支援等の効果を有するものと考えられる。
 また、地域連携の形態としては、a. 多自然居住地域の暮らしの高質化を目指した中小都市と周辺中山間地域等の連携、b. 新しい形の集積の形成のための地方中枢・中核都市等の連携、c. 流域圏、沿岸域等での自然環境、国土資源・国土空間の保全、維持、管理等の観点からの広域的連携、d. 産業機能、観光レクリエーション機能、文化機能、生涯学習機能等の特定の機能に着目し、それらを生かし合う連携、e. アジアとの地理的近接性を生かした、環日本海交流圏構想、環黄海経済圏構想等の国境を超えた地域間の連携等の様々なものがありえよう。

(2) 新しい国土軸を形成すべき地域における地域連携の促進

 新しい国土軸の形成という観点からも、太平洋ベルト地帯から離れた地域の自立的発展の条件を整えることが重要である。
 これからの我が国の産業構造の方向(製造業の一層の高度化、サービス経済化)を踏まえれば、各地域が十分な雇用機会を確保するためにはある程度のレベルの集積が必要であると考えられるが、自然とのよりよい共存を重視するこれからの国土づくりの方向に照らせば、北東地域、西南地域、日本海沿岸地域において、太平洋ベルト地帯と同様な大規模な集積の形成を行うことは望ましくなく、また、地理的制約から困難でもある。
 したがって、上述の地域連携により、地方中枢・中核都市等の様々な規模の集積が交通、情報通信インフラによって結ばれるという形で実質的な集積を高めるという方向が望まれ、また、高度情報化の進展はこうした取組の有効性を一層高めるものと期待される。さらに、このようにして形成される集積地域と周辺の多自然居住地域とが連携・交流を深めることにより、言わば自然環境と共存する集積が形成され、その地域の総体としての振興が可能になると考えられる。
 このような地域間の連携が多数連なりあうことによって、先に述べた新しい国土軸の形成が進むことも期待され、地域の主体性を重視する観点から、多様な地域連携軸構想のなかでも新しい国土軸の一部を構成するもの及び国土軸相互を結びつけ国土軸の機能を高めるものについては、新しい国土軸形成の戦略手段として位置づけ、その形成を促進するための政策的支援を行うことも考えられる。

(3) 国際的な視野に立って地域の自立性を高めるための広域国際交流圏の形成

 世界、特にアジアとの交流・連携を積極的に推進していくことがこれからの国土づく りの基本的な方向であるが、我が国の国土が島しょ部も含め東西、南北それぞれ約 3,000kmに及び、多様な地域から構成されていること、交流・連携の対象となる海外の地域、分野が多種多様にわたることからも、一部の地域のみが国際的役割を担うのではなく、それぞれの地域が地理的、歴史的特性や集積の規模、性格等に応じて独自性をもった役割を担っていくことが求められる。
 こうした観点に加えて、国境を超えた地域間競争に対応し、また、国境を超えた地域間の連携を促進するとともに、各地域において世界を舞台とする人々の活動を広げていくという観点からも、地域のいかんにかかわらず、世界的な水準の国際交流機能等に一定の条件内でアクセスできる状況を創りだすことが重要である。このことにより新しい国土軸を構成するいずれの地域からも容易に国際交流機能にアクセスすることが可能となる。そのための広域国際交流圏を国と地域が協力して形成する必要がある。
 広域国際交流圏の機能と範囲は概ね以下のようなものであるが、その具体化に向けた交流圏の満たすべき機能と範囲の特定、国、地方、民間の役割分担等については、引き続き検討が必要である。

 1)広域国際交流圏の機能
 この交流圏は、大都市圏や地方中枢都市圏等を中心とした世界的な国際交流機能を有する圏域であり、この圏域の中で、国際交通ネットワークへのアクセスや世界都市機能を含む高度な都市機能の提供、製造業等の分野で国境を超えた地域間競争に対応するための世界水準の学術、研究開発機能等の提供が行われる。

 

 2)広域国際交流圏の範囲
 人々のビジネスや生活における行動範囲等を考慮して、国際交流機能の内容に応じ、一定の条件内で大都市又は地方中枢都市等へアクセスできる範囲が考えられる。
 また、地理的に近い東アジアとの交流については、広域国際交流圏内でいくつかの小圏域が形成されることも考えられる。


3.多自然居住地域の新たな位置づけと都市・産業集積の高質化

(1) 多自然居住地域(小都市、農山漁村、中山間地域等)の新たな位置づけ

 1)人々の価値観・ライフスタイルの変化
 戦後50年間の所得水準の格段の向上や地球環境問題等を背景として、人々の自然志向や環境志向は大きく高まっている。
 これからは、大都市における生活(高い所得水準、豊富な消費機会、ビジネスチャンス、高度に人工的な都市環境、希薄な地域とのつながり、等)への一方的な選好という状況から、所得水準、居住水準、都市的機能、自然の豊かさ、地域の文化、土地柄等の生活に関連した様々な要素を自らの価値観に応じて評価し、自らのライフスタイルに合った居住地を選択する人々が増えていくことが予想され、特にこれからは、ゆとりのある居住環境や豊かな自然を志向する人々の割合が高まろう。また、余暇の過ごし方についても都市生活者の自然志向が強まっていくことが予想される。今後は、こうした価値観・ライフスタイルの変化に対応した施策の展開が求められる。

 2)小都市、農山漁村、中山間地域等の新たな位置づけと整備の方向
 小都市、農山漁村、中山間地域等の少数の人間が相対的に広い空間を管理・活用している多自然居住地域を、

  1. 新たなライフスタイルの実現を可能とする国土のフロンティア、
  2. 廃棄物処理、水循環、エネルギー消費等の観点から、環境への負荷が少なく、人と自然がよりよい状況で共存できる地域、
  3. 特に、森林、農地等の国土資源管理面で重要な役割を有する中山間地域等については、国土・環境の保全等について幅広い取組を必要とする地域、

として積極的に位置づけ、経済社会の変化と過疎化、高齢化等の地域社会の変貌に対応しつつ、大都市とは異なる自然的・社会的条件を生かす方向で地域の特性に応じた整備を図っていく必要がある。
 その際、質の高い多自然居住を実現するためには、多様な就業機会の確保に向けた生産基盤や地域の特性を生かした生活基盤等の地域の人々が安心して暮らせる条件の整備に加え、健全な自然や美しい景観の維持・形成、高度な情報通信インフラのソフト・ハード両面にわたる整備の推進が重要となる。また、都市との交流やこれから増大が予想される余暇需要へ対応するための条件を整備することも重要である。さらに、これらの地域の特性を発揮していくためには、地域づくりを担う人材の養成や、これら地域リーダーと行政や公的機関等との連携及び地域リーダー相互のネットワークづくりを進めていく必要がある。
 また、農山漁村については、我が国の将来にわたる食料・木材の安定供給確保の観点から整備を進めていくとともに、中山間地域等生活・生産条件の不利な地域における国土資源の管理については、国民の幅広い合意を基礎として、管理の担い手を確保するための諸条件の整備を進めていく必要がある。

 3)中山間地域等における圏域の設定
 中枢・中核都市へのアクセスが困難な地域にあっては、主として都市的機能の整備の観点から、地方中小都市(ないしその連携)を中心とする圏域を設定し、中心とする都市において圏域全体の住民を対象とする都市的機能等を整備し、圏域全体の定住を図っていくことが重要である。

(2) 都市集積の高質化

 1)都市問題の解決に向けた大都市のリノベーション
 これまでの大都市(特に東京)への人口・諸機能の集中は、大規模地震等による災害に対する安全性の低下、高・遠・狭の住宅事情を始めとする居住環境の悪化、大気汚染、ヒートアイランド現象等の環境への負荷の高まり、自然の大幅な減少、水需給のひっ迫など様々な過密問題を発生させてきている。また、一方では、都心部における人口空洞化とこれに伴う生活機能の低下、地域コミュニティの崩壊、鉄道跡地、工場跡地等の低未利用地の問題がある。
 こうした問題に対応し、大都市を豊かで安心できる生活空間として再生するため、大都市の修復・更新を着実に行うことが必要である。
 すなわち、災害に対する安全性に関しては、業務核都市等への高次都市機能の分散配置を進めるとともに、避難地・避難路や防災拠点施設の整備、老朽木造住宅密集市街地の解消などのハード対策と防災体制の充実などのソフト対策の連携による都市の防災性の強化、オープンスペース、水辺空間等の都市の快適性を考慮に入れたゆとりある都市構造の形成等が必要である。居住環境の悪化に関しては、良質な住宅・宅地の供給、低未利用地の活用を含む土地利用の高度化によるオープンスペースの確保、道路の整備等を図るとともに、都心居住や大都市近郊等における居住などを推進することにより、職住のバランスのとれた都市構造を形成することが必要である。環境への負荷の高まりに関しては、廃棄物の減量化・再生利用、物流の合理化等による大気汚染の防止とエネルギーの効率的な利用を積極的に推進するとともに、交通の分散・円滑化のためのバイパス・環状道路の整備などにより、環境に配慮した都市構造の形成を図ることが必要である。また、緑地の保全・整備や水辺空間の再生などにより、失われた季節感を取り戻すなど日常生活における自然との関わりを回復していくことが必要である。
 なお、東京における集積の規模は、都市の安全性、居住環境の快適性、環境への負荷等の観点から過大であり、過度の集中に伴う歪みを是正するため、圏域構造の改善と人口・諸機能の分散を図る必要がある。

 

 2) 都市集積の高質化と広域的活用
 ア.大都市集積の高質化
 国境を超えた地域間競争が激化するとともに、世界を舞台とする人々の活動が広がっていくなかで、大都市における集積を国際社会の中において我が国が諸外国と競争し、また、積極的な交流を行っていくために必要なものとして位置づけ、質の高い国際交流機能の整備、交通、情報通信インフラの整備、規制緩和等により集積の一層の高質化と広域的活用を図ることが必要である。
 さらに、太平洋ベルト地帯に属する三大都市圏の大都市の他に、地方中枢都市及びそれに準ずる中核都市(ないしはその連携)もそのようなものとして位置づけ、前述の広域国際交流圏の中核的機能を果たせるようにすることが必要である。

  

 イ.地方中枢・中核都市等の都市集積の高質化
 これまでの4次にわたる全総計画に基づく各種の施策により、地方圏において地方中枢・中核都市等は人口・諸機能の面で拠点性を高めてきている。今後、地域の自立的な発展を目指していくためには、これらの都市が地域の発展を主導する広域的拠点として高次都市機能のより一層の集積を推進するとともに、交通、情報通信インフラの整備により、その効果を周辺市町村に及ぼしていく必要がある。
 また、今後とも人口・諸機能の集積が見込まれることから、先行的な交通、情報通信等の都市基盤の整備や魅力と活力ある中心市街地の形成を図るとともに、自然条件に配慮しつつ、計画的かつ適切な土地利用を推進することが必要である。

(3) 産業集積の高質化

 1)新たな産業のフロンティアの開拓
 これから21世紀において、我が国産業はアジアとの国際分業関係を一層深め、輸入と輸出の同時拡大という拡大均衡の方向を目指すべきであるが、アジアの諸産業が高度化していくなかで、分業関係を深め、かつ、我が国産業の発展を図っていくためには、高度情報化の成果を活用した経営の効率化を進めるとともに、基礎研究の振興や独創的な学術研究の推進、産学官の交流・連携の円滑化、さらに創造性豊かな優れた人材の育成を図ることにより研究開発力を高め、知識・技術集約度の高い分野でフロンティアを切り拓いていくことが必要である。特に、我が国の経済発展を担ってきた太平洋ベルト地帯や伝統のある工業地域の産業の中には、これから21世紀において大きな転換の必要性が見込まれるものも多く、社会のニーズや国際的な比較優位構造の変化に応じた新たな産業の展開が期待される。

 2)サービス経済化への対応
 また、今後は産業全般にわたるサービス化の進展が予想され、特に、産業関連サービス、情報関連サービス分野における質の高いサービスの提供は、製造業の効率化、基盤強化に資するものである。我が国のサービス産業の生産性は欧米諸国と比べて低い水準にあるものが多く、企業の効率化への努力とともに、規制緩和や民間の商慣行是正による市場競争の活発化も必要である。

 3)産業集積高質化への政策的支援
 これからの我が国産業の構造転換と発展は、基本的には民間部門の創造的な力によるものであるが、政策的にも、高コスト構造是正のための規制緩和やインフラ整備等に加え、前述の広域国際交流圏の形成等を通じ、広域的視点に立った国際交流拠点(港湾、空港等)とアクセス交通の整備、高度な情報通信インフラの整備、世界的水準の研究開発機能の集積の形成とネットワーク化、高等教育機関等における研究開発及び人材育成のための基盤整備や企業との協力・交流の促進等を進め、ハード・ソフトの両面で各地域の産業集積の高質化を支援していく必要がある。