V.社会資本整備の課題と国土づくりの制度的枠組みの再構築
1.新しい全国総合開発計画期間中における社会資本整備の課題
(1) 社会資本整備における機会均等の確保
これからの国土づくりにおいては、地域の自立を促進していくことが重要な課題であり、そのための条件整備を図るための地域間の機会均等を確保するという視点に立って社会資本整備を進めていくことが重要である。具体的には、a. 通勤、通学等の日常生活の行動、b. 高度な医療施設への入院等の非日常生活の行動、c. 国際交流や経済活動の拠点へのアクセスといった行動の広がりを想定し、それぞれの行動ごとに、地域のいかんを問わず一定水準以上のサービスへのアクセス条件を整備していくことが考えられる。
(2) 投資余力の減少が予想されるなかでの社会資本整備のあり方
今後の高齢化等の進行に伴い我が国の投資余力は急速に低下することが予想されるとともに、社会資本ストックの維持管理・更新費が増大し、今後、必要とされる新規投資を圧迫することが予想される。したがって、今後の社会資本整備に当たっては、選択的対応を図ることが求められており、投資の重点的・効率的配分に努めるとともに、以下の対応が極めて重要となる。
- 施設の一体的・総合的整備や、技術開発の成果をも活用した維持管理・更新費最小化による効率的整備の推進
- 社会資本の利用コストを軽減し、より有効な利活用を図るため、関連施設の共同運営、サービス内容の情報提供、割引等の料金面での工夫等ソフト面での対応の推進
- 整備主体(国と地方、民間の役割分担)や、後世代に負担を残さないような財源の確保を前提とした費用負担・整備財源のあり方等整備の枠組みの再検討
(3) 社会資本の概成の実現
現在長期的な目標に沿って整備が進められている下水道、都市公園、高規格幹線道路網、高速鉄道網等の社会資本は、21世紀初頭以降の投資余力の大幅な減少が見込まれるまでの間に、基礎的な社会資本サービスを享受することが可能となるよう、上記の様々な努力を通じて、着実な整備を進め、概成を目指すとともに、それでもなお残される諸問題の解消を推進する。
(4) 新たな要請への重点的対応
国土づくりの基本目標の達成と、複数の新しい国土軸からなる望ましい国土構造の構築を目指して、a. 主要計画課題である「安全な国土づくり」、「安心して暮らせる高齢社会の形成」、「人と自然との望ましい関わりの再編成」、「経済構造の変革と地域経済基盤の強化」等に向けた基盤整備を進めるとともに、b. 戦略的政策課題の達成のため地域連携の促進、広域国際交流圏の形成等について、必要に応じ国としても着実な施策の実施を行うことが求められる。また、急速に進展する国際化、高度情報化に対応するとともに、国土の可能性を拡大する新しい技術の開発に取り組んでいく必要がある。
- 1)地球時代に対応した国際交流基盤の整備
- 我が国の国際的な人、物、情報の流れは、今後急速に拡大することが予想され、特にアジアとの交流量は飛躍的な増大が想定される一方、国境を超えた地域間競争に日本の各地がさらされていくことが考えられる。こうしたなかで、我が国各地域の活性化を図り、地域の自立を確保していくためには、それぞれの広域国際交流圏の特性に応じて、欧米を含む世界とのネットワークや、とりわけ東アジアとの直接交流が可能となるネットワークを形成していく必要がある。そのため、国際的なゲートウェイとなる国際空港、国際港湾等の整備を推進するとともに、a. 世界的な施設水準に見合う国際交流基盤及び国内アクセス網(高規格幹線道路、高速鉄道等)の一体的整備、b. 国内外を結ぶ交通、情報通信分野におけるソフト面の世界標準化による円滑な国際、国内の連携の確保等により、トータルな意味での海外へのアクセシビリティを確保していくことが必要である。
- 2)高度情報通信社会構築に向けての対応
- 急速に進む技術革新の成果を活用して、今後の人々のライフスタイル、ワークスタイルに大きな影響を与え、様々な新たな要請への対応等諸課題の解決につながっていくことが期待されている高度情報通信社会構築に向けて、安全性・信頼性等の確保に努めつつ、以下のような施策を積極的に推進する必要がある。
- 移動体通信サービス等の普及など、地域間の情報格差の是正を推進するとともに、光ファイバ網等高度な情報通信インフラの早期全国整備を図るため、公的支援の活用を含め所要の環境整備を行う。特に情報化施策の推進等により過疎地域等における整備を促進する。
- 高度な情報通信インフラを活用して豊かな生活を確保していくため、テレワーク(センター)、遠隔医療システム、遠隔教育システム、公共分野の情報のデータベース化とその提供の推進等公的アプリケーションの開発・普及等を促進する。
- 情報リテラシィの向上、人材の育成に加えて、産業横断的なEDI(電子データ交換)の推進等、共通的な基盤整備を行うことにより、産業分野を含めた情報化を促進する。
- 3)国土の新しい可能性を創出する技術開発への積極的取組
- 交通、情報通信分野で研究開発が進められつつある超電導磁気浮上式鉄道、新形式超高速船テクノスーパーライナー、高度道路交通システム、広帯域サービス総合デジタル網や環境に関連した分野で進められている電気自動車等の低公害車、従来は再生利用が困難であった廃棄物の再資源化等の新しい技術は、様々な新たな要請への対応の観点からブレイクスルーとなって、国土の新しい可能性を創出するものと期待される。したがって、これらを始めとする技術開発やそれを広く支える基礎研究に積極的に取り組むとともに、大学、試験研究機関等の研究開発基盤、人材育成基盤の整備等の推進を図ることが重要である。
(5) 環境への対応
社会資本整備の推進に当たっては、その環境に及ぼす影響について計画段階から調査予測等を行い、その結果に基づき十分な保全対策等を行うことが必要である。
(6) 今後の整備目標のあり方
今後は、国民のニーズや社会経済動向の要請を踏まえ、サービスを受ける側に立って人々の暮らしとのつながりが見えるようなわかりやすい社会資本整備の目標を、新しい全総計画における国土づくりの基本目標及び主要計画課題との関連の中で示すことが重要である。
2.新しい国土づくりに向けた制度的枠組みの再構築
戦後50年の国土総合開発政策が目指しつつも達成できなかった課題の中には、人々の経済活動を規定する制度的枠組みや国土づくりに関する意思決定の仕組みが経済社会の要請に十分対応できていなかったことに起因すると考えられるものも多い。
新しい全総計画の主要計画課題の全てを個々の国土政策のみで解決していくのは困難であり、経済社会状況の変化に対応した21世紀にふさわしい国土づくりの枠組みについて検討を行い、その再構築について明確な指針を打ち出す必要がある。
例えば、広域的な地域整備や地域づくりにおける地域の主体性が求められているなかでの国土総合開発関連諸制度のあり方、自然環境及び国土景観の保全、回復、創出の観点から地域における総合的な国土空間の管理が求められているなかでの、国土利用関連諸制度のあり方、環境コストの内部化等の視点に立った環境と経済社会活動の統合に向けた新しい枠組みのあり方、急速に進歩しつつある情報通信技術の成果を活用した、国土に関する各種情報の新たな整備、利活用のあり方等について検討を深め、方向を示していくことが必要である。