平成11年1月13日
土地政策審議会意見取りまとめ
? 経緯
土地政策審議会では、国土庁長官の要請を受け、企画部会において、
(論点1) 近年の我が国の経済社会状況の急激な変化にかんがみ、土地をめぐる諸制度・政策について、どのように対応していく必要があると考えるか。
(論点2) 土地基本法において、「土地は、公共の利害に関係する特性を有していることから、公共の福祉を優先させ、適正かつ合理的な土地利用計画に従った利用が必要」とされているが、他方、今日、土地については、経済の活性化、或いはグローバル化を進める観点から、経済財として一層有効かつ効率的に利用できるよう、利用計画をはじめとする諸規制の緩和等を求める声がある。今日この二つの要請をどう調整していくべきか。
という2点について検討を行ってきた。具体的に検討の対象とした事項は次のとおりである。
(これまで検討した事項)
? 住宅ローン減税のあり方(公表済み)
? 流通課税の改善の方向
? 収益を重視する方向での不動産鑑定評価制度の確立
? 土地情報の開示・提供の仕組みの整備
? 大都市の既成市街地の再編の方向
(虫食い土地の集約・整理・再編・活用策を含む)
? 総合的な土地利用計画制度の実現の方向
? 意見取りまとめに当たっての基本的認識及び提言の概要
1 土地政策審議会においては、内閣総理大臣の諮問を受けて、平成8年11月21日に、「今後の土地政策のあり方について」答申を行った。この答申を受けて、土地政策の目標を地価抑制から土地の有効利用へと転換することを明らかにした「新総合土地政策推進要綱」が閣議決定され、新しい施策が実施に移されてきたところである。
2 答申から2年余を経た今日、我が国の経済社会は、かつてない低迷状況に陥っており、これまでの「右肩上がりの時代」に整備され、機能を発揮してきた土地に関する諸制度の中には見直しを行う必要のあるものが生じてきている。
今回、企画部会においては、広範にわたる土地に関する諸制度のうち、当面対応を急ぐ必要のある事項及び基本的な方向を検討しておかなければならない事項を中心に検討を行った。
3 当面、対応を急ぐ必要のある事項としては、上記?の?の住宅ローン減税のあり方、?の流通課税の改善の方向、それに?の一部である虫食い土地の集約・整理・再編・活用策の三つであるが、このうち、?については、特に、時間的な制約もあり、既に、昨年11月10日に企画部会意見集約として公表したところである。これら三つの事項については、景気の回復に向けての経済対策としての観点からの視点が込められているが、これらについても、やはり、中長期的に見た我が国社会の構造的な変化を視座に据えることが重要であるという観点からの提言になっている。
具体的には、
?の住宅ローン減税については、所得が上昇することを前提に初期負担の軽減を主たる目的としている現行の支援税制とは別に、住宅の質的水準の向上に大きく寄与し、所得が上昇しない場合にも支払い負担率があまり変化しないローン利子の所得からの控除制度を整備することの必要性を指摘しているが、この点については、昨年末の税制改正大綱により、当面、実質的に本提言の意図したところは実現される運びとなった。
?の流通課税の改善においては、地価が上昇しない状況となっている今日、取得時に課せられる流通課税の負担感が重さを増しており、不動産の流通を阻害している感が否めないこと、国際的に見ても、我が国の流通課税の実効負担率は、消費税も視野に入れて考えるとかなりの重さとなっており、負担の軽減が必要なことを提示している。
?の一部である虫食い土地については、東京都心部における虫食い土地は大量に存在するわけではなく、一部のゾーンに集中的に存在すること、単独での活用は極めて困難な状況にあり、集約・整理を行って、基盤施設の整備を伴う街区単位での都心居住の実現という活用が方向として考えられること、防災・環境・交通といった都市基盤施設をはじめとする公的需要に対応した活用が検討されるべきこと、不良債権担保不動産の流動化と低・未利用地の活用とは対象がかなり異なるであろうこと等を指摘している。
4 残る事項のうち、?の大都市の既成市街地の再編の方向と?の総合的な市町村レベルの土地利用計画の実現の方向については、かつてのような都市域の拡大が見られなくなりつつある中で、土地という貴重な限られた資源の配分に関して、土地政策の観点から、どういう施策の方向を基本的に取るべきかということに関して検討を行った。
?については、都市域の拡大に対応する施策に重点が置かれていた従来の施策の力点を既成市街地の再編に向けることの重要性を示した上で、我が国の既成市街地が有する基盤施設の不足、敷地規模の狭小などの問題点を克服しつつ、国民のニーズが高く、環境が優れ、安全な都心居住を実現するために、街区単位での土地利用転換を進めるうえで必要な容積率制限等建築形態規制の見直しをはじめとする各種の施策についての検討結果を示したものである。
?については、地方分権の大きな時代の流れの中で、今後一層、基礎的自治体である市町村のレベルでの土地利用計画が重要性を増すこと、既成市街地の再編に当たって、土地所有者の合意形成や基盤施設の計画的整備などの面で地区レベルでの土地利用計画が果たすべき機能が重視されるようになること、地区レベルでの土地利用の計画的調整に当たって人材の確保等が極めて重要であること等を指摘し、今後の施策の方向を示したものである。
5 最後に、?と?は、不動産鑑定評価の分野における収益重視の方向と土地情報に関する開示・提供についての提言であるが、これらにおいては、右肩上がりの地価上昇が見込まれなくなった現在、既成市街地等に存する不動産の有効利用とそれにつながる土地取引の活性化を実現していくことが必要であるという観点に立ちつつ、ボーダーレス化が進む我が国経済の中で不動産に対する必要な投資を確保していくためには、収益力に着目した不動産の評価を重視していかざるを得ないこと、我が国における不動産に関する情報の開示不足が不動産取引市場における合理的な価格形成を妨げているきらいがあること等を指摘したものである。
?においては、収益還元手法を中心に、不動産鑑定評価基準に係る分野において、当面具体的に検討を必要とすると考えられる有期還元手法やDCF法の採用、適正評価手続の採用、収益還元手法を支える具体的なデータの整備、大都市の高度商業地における現実の複合不動産の収益還元価格の算定・公表の試行等についての検討を行うべきこと、
?においては、不動産関連の各種情報の具体的な開示を進めるためのネックとなっているプライバシーや守秘義務との関係を整理した上で、特に実売価格については取引関係者に対する開示方法の検討を行うべきこと、不動産の収益価格を算定する上で不可欠な成約賃料については、不明確な場合の鑑定評価における取扱方針を明らかにすべきことと成約賃料データの収集及び活用の仕組みを検討すべきことを示している。
? 各検討事項についての具体的考え方
以上の視点を踏まえての、各検討事項についての具体的な考え方は以下のとおりである。
第1 住宅ローン減税のあり方
1 住宅ローン利子所得控除制度導入の趣旨
近年、需要が急速に潜在化しつつある住宅宅地に関して、中長期的観点から導入すべき支援税制としては、以下の理由から、ローン利子所得控除制度が適切である。
(1) 経済の右肩上がり構造の変化に対応するために
近年、住宅宅地に関する需要が急速に潜在化している背景には、将来の所得や雇用に対する不安が根底にあり、初期負担を軽減する形で住宅を取得しやすくしている現行の支援税制は、将来の返済能力が右肩上がりであるという前提に不安を抱く層には有効に働かないきらいがある。こういった構造的な変化に対応するには、全返済期間にわたって、借入れ環境の変化に対応しつつ減税メリットを与えるローン利子の所得からの控除制度がふさわしい。
(2) 優良なストック形成に向けて
現行の住宅取得促進税制は、狭小な借家から比較的居住スペースの広い持家への移転(一次取得)による居住水準の向上に大きく寄与してきた。しかし現在、最低居住水準未満世帯の解消が着実に達成されつつある一方で、ゆとりある住生活を支える優良な住宅ストックの形成という点から、居住スペースが広く、良好な水準にある住宅の取得を容易にする施策の一層の展開が望まれている。これからの住宅取得をめぐる状況を考慮すれば、住宅の居住水準の向上に大きく寄与する第二次取得者(住宅のステップアップ世代)を想定し、この層に対してインセンティブを与える支援策が重要である。この観点からもローン利子所得控除制度は大きな機能を発揮する。
(3) 景気の回復に向け、大きな投資促進効果
住宅投資という観点から見ると、年収700万円以上の中堅所得者の住宅投資額は、住宅投資総額の約2/3を占めており、こうした層に対して減税メリットが大きいローン利子所得控除制度が果たす投資促進効果は、極めて大きい。
2 住宅ローン利子所得控除制度と住宅取得促進税制との関係について
両者の関係については、当面、第二次ベビーブーム世代による第一次取得需要の存在等を考慮し、選択制とすることが適切であるが、中長期的にはローン利子所得控除制度が住宅取得支援策の柱となるべきであり、住宅取得促進税制は、適用対象を限定の上、特段の優遇措置として位置づけるなど、良質な住宅ストック形成に貢献できる役割を果たすべきである。
3 その他
企画部会における意見集約後に導入が決定された「住宅ローン控除制度」は、所得等の先行き不透明な中にあって、ローンの全返済期間にわたり、金利変動の影響を吸収しつつ返済負担の増大を抑制するという長所には欠けるものの、現行制度に比べ控除期間や控除対象ローン額、減税総額等が大幅に拡充され、当面、実質的に本提言の内容を相当程度充足する制度となっているものと評価できる。
第2 流通課税の改善の方向
1 流通課税の見直しの視点
流通課税の見直しに当たって留意すべき点は次の諸点である。
(1) 我が国経済の構造変化から生じている取引抑制効果の増大への対処
地価の上昇が期待できなくなりつつある状況下では、これまで取得後のキャピタルゲインによって吸収できていた流通課税に対する負担感が増大しており、これが不動産の流動化に支障を与えているという指摘も踏まえ、負担能力という観点から負担水準の見直しを行う必要が生じている。
(2) 土地利用の再編に向けた投資促進
既成市街地の再編への要請が強まる中で、有効利用につながる不動産の流動化、投資の促進は極めて重要なことである。流通課税はこういった社会的な要請に支障を与えないよう十分な配慮が必要である。特に、住居系土地利用の再編・活性化の観点からは、中古住宅を含む良質な不動産の流通促進を図る必要性が高く、流通税制の早急な見直しが必要である。
(3) ボーダーレスな資本の動きに対応して
資本投資のボーダーレス化が進む今日、国内外の投資を我が国の良質なストック形成に振り向ける観点から、世界的に見て通用する不動産市場の整備が必要との指摘があり、その一環として流通税制のあり方についても見直す必要がある。諸外国の制度と比較すると、我が国の場合、?流通課税への財源依存度が相対的に高いこと、?一定以上の年数を経た中古住宅や商業用不動産等についての負担が相対的に重いこと、?付加価値税と流通課税との間で調整措置が講じられていないため、流通面に係るトータル・コストが重いこと等の特徴が見られ、全体として見た負担水準の見直しが必要である。
2 今後の流通課税の見直しの方向
(1) 当面の方策
当面の措置としては、潜在需要が根強い居住用不動産について課税の緩和措置を講ずることが有効である。特に、?住宅用地に係る登録免許税負担が大きい、?一定の築年数を超えた中古住宅に係る流通税負担が重い等の現状につき、早急に対策を講ずるべきである。
(2) 中長期的方向
中長期的には、国内外の資本を我が国のストックの充実にむけた直接投資へと誘導し、都市の既成市街地の再編を促進する観点から、流通コストが不動産の流れを阻害しないよう、税制面における負担が国際的な水準に収まることが求められている。
流通課税の実質的な負担水準の見直しを行うとともに、税目の簡素化や消費税との関係の整理を含め、不動産流通に係る租税コストが内外の投資家にとって分かり易いものとなるよう、制度の在り方について検討を進めて行くべきである。
第3 収益を重視する方向での不動産鑑定評価制度の確立
1 不動産鑑定評価基準に関係する部分についての検討事項
右肩上がりの地価上昇の時代と異なり、長期にわたる地価の下落が続く現在、地価についても、不動産の収益力を的確に反映させ、利用価値で評価すべきであるという動きが次第に強まりつつある。収益重視の鑑定評価手法である収益還元法については、これを直ちに全ての不動産に適用するには未だ様々な問題があるが、今後とも鑑定評価に当たって収益力を重視する方向が強まると考えられることから、収益還元手法に関する次のような改善措置を講じる必要がある。
(1) 収益還元手法の精緻化
より的確な収益還元価格の算定のため、確実な収益の見込まれる期間とそうでない期間を区分して評価を行う有期還元手法や対象不動産が現実に生み出すキャッシュフローに着目したDCF法等の検討を行うとともに、変動する様々なリスクプレミアムを考慮に入れた実践的な還元利回りの合理的な算出方法とこれらを定期的に調査・提供する仕組みの検討を行うべきである。さらに、収益還元手法の適用に当たって対象物件に関する正確かつ詳細な情報を把握する適正評価手続の確立についての検討を行うべきである。
(2) 試算価格の調整や精度の高い時点修正方法の検討
確実な収益が把握できる商業用不動産については収益価格を標準として試算価格を調整する方針等を明確にするとともに、より精度の高い時点修正の算定方法を開発・検討すべきである。
2 地価公示に関連した部分の改善・充実
(1) 地価公示の信頼性の向上につながる改善措置
?収益還元手法で用いられる比準賃料の設定の仕方や同一需給圏単位等でのきめ細かな還元利回りの設定の手法、?商業系用途地域内において住居系用途に移行しつつある地域の標準地は住宅地として評価すること等の検討を行うべきである。
(2) 地価公示制度に対する正確な理解を深めるための措置
公示価格の性格等についての理解を深めるため、広報活動等を充実すべきである。
(3) 地価公示制度とは別に検討を行うべき施策
特に高度商業地について収益価格を明らかにすべきではないかという要請に応えるため、大都市の高度商業地において、モデル的に一定の地点を選んで、現実の複合不動産の収益価格の算定・公表を検討すべきである。
3 より的確な鑑定評価のための環境整備
? 精度の高い収益価格の算定のためには、不動産の取引価格、支払賃料等の情報を市場から入手することが不可欠であるので、現実の不動産市場においてこれらの情報が得られるような環境整備を行う必要がある。
? 不動産鑑定士の資格取得後に新しい鑑定評価の知識・ノウハウの習得を内容とする継続的な研修制度を確立し、その資質・能力向上の方策を検討すべきである。
第4 土地情報の開示・提供の仕組みの整備
1 土地情報の開示の重要性
(1) 地価が右肩上がりの時代と異なり、現在、土地に関する正確かつ詳細な情報に対するニーズは著しく高くなっている。特に、土地に対する投資を行おうとする者にとって、その土地がどの程度の収益を生むのか、現実にどの程度の価格で売買されているのかなどその物件が置かれている状況に関する様々な情報の重要性は、かつてと比較にならないほど高くなっている。これらの情報の開示が不十分な場合、投資リスクが増大し、価格自体が低く評価され、国際的にも市場から取り残されるおそれもある。
(2) 我が国では、土地の実売価格情報が開示されておらず、売り手側に情報の偏在が生じている。取引の最も重要な判断材料の売り手側独占は市場価格の形成に歪みをもたらしているおそれがある。また、成約賃料についても開示がなされていないため、新規賃料と継続賃料との差が大きく賃料水準の不均衡が生じている。
2 情報開示とプライバシーや守秘義務との関係
土地の実売価格及び成約賃料は個人の基本的な人権に関わる情報とは言えず、その開示がプライバシーの侵害に当たるとは考えられない。また、守秘義務との関係においても、実売価格及び成約賃料の開示については、閉鎖的と言われている我が国の不動産取引市場の透明性、合理性の向上につながること等を勘案すれば、適切な方法を講じることを前提に積極的に考えることができる。
3 開示・提供の検討の方向
(1) 実売価格の開示に関しては、まず、一般に存在するプライバシーや守秘義務に関する懸念を払拭することに努めるべきである。その上で、売り手側に偏在する実売価格に関する情報を集約して、売り手買い手のどちらにも偏らない中立的な形で、取引の関係者からの要請に応じて提供できるような仕組みを検討すべきである。
(2) 成約賃料についても、均衡のとれた公正な賃料水準の実現や不動産への投資環境の整備の観点から、積極的に開示していく方向を目指すべきであるが、継続中の現契約に影響を及ぼすおそれがある等の事情を考慮すれば、当面、その把握が不可欠かつ急がれる不動産の鑑定評価という分野における施策の展開を図るべきである。具体的には、これらの把握ができない場合、不動産の評価は低くならざるを得ないことを明確にするとともに、成約賃料に関するデータについては、守秘に十分な配慮を払いつつ、鑑定評価の分野で活用できる仕組みを検討すべきである。
第5 大都市の既成市街地の再編の方向
1 基本的な認識
かつてのような急激な都市域の拡大が見られなくなった現在、施策の重点を新市街地の整備から既成市街地の再編に向けていくことが重要である。
我が国の既成市街地における大きな問題点は、?高度成長期に急拡大したために公共施設に配分されている土地が不足しており、十分な基盤施設が整っていないこと、?極めて狭小な敷地規模の土地が多いこと、?特に三大都市圏では住居系地域の有効利用が図られておらず、スペースが広くかつ環境の良い永住型都心居住志向に対応できていないことにある。
2 既成市街地の再編に当たっての具体的方向性
(1) 既成市街地において都市計画道路等の都市基盤施設へ公共投資を効率的に投入することは緊急度が高く、再編のための土地利用計画を策定したところに対して重点的優先的に投入する仕組みを充実すべきである。
(2) 民間事業者や代行事業者が、市街地再開発事業等の面的事業の施行の際に併せて、公共施設の整備を行い、公的主体が当該施設を購入するか、利用料金を支払うタイプのPFI手法を、新たな都市整備の仕組みとして導入していくことも検討すべきである。
(3) 都心居住のための環境の優れた高層住宅の供給を図る上では、街区単位で再編を行う必要があり、そのための容積率制限等建築形態規制の見直し、街路等の周辺基盤施設の機動的整備の充実、敷地整序のために必要な権利の移転に対する税制上の特別措置の実現、土地所有者の合意が得られる現実的で弾力的な地区レベルの土地利用計画の策定等といった様々な角度からの総合的な施策展開が必要である。
(4) 都市の再開発については、従来型の大規模店舗の撤退、地価下落による保留床処分の困難化等に対応するため、右肩上がりの経済状況を前提としていた方法についての再検討を行うことが必要であり、様々な支援措置を集中的に行う必要がある。
(5) その他、既成市街地の再編や土地の有効利用に向けた資金の調達を円滑にするため、不動産の証券化をはじめとする良好なプロジェクトに対する円滑な資金供給システムの実現が必要である。
(補論) 虫食い土地の集約・整理・再編・活用策
1 虫食い土地に関する現状認識
東京都心4区における低・未利用地の総量はバブル崩壊後減少し、現在はバブル前の状態とほぼ同量の約360?となっている。このうち、虫食い状の小規模なものは全体の15%であり、抵当権が設定されているものは全体の4割程度である。不良債権担保不動産の典型として虫食い土地が取り上げられることが多いが、その多くは都心部では既に稼働している収益不動産ではないかと推測される。具体の虫食い土地は、一定の条件を備えたゾーンに集中しており、その大半は街区内に1〜3箇所程度、虫食い状に存在する状態である。
2 虫食い土地の有効利用の方向
(1) 虫食い土地をそのままの状態で無理をして利用しようとしても、街区全体としてみれば、非効率で、将来再投資が避けられないことになりかねない。
(2) 街区内に単独で存在する虫食い土地は、現状のまま流動化しても利用に結びつく可能性は少なく、隣の敷地と統合を促すようなインセンティブを与え、市場の中で有効利用が進むよう誘導施策を講じることが効果的である。
(3) ただ、あと数区画の土地が取得できれば、街区単位で一体的な有効利用が可能となる虫食い土地は、支援策を講じ、優良な収益を生み出すものとすべく取り組むべきである。
3 都心居住や公的利用への活用方策
(1) 商業・業務系の需要は、当分の間、供給過剰状況が続くものと予想されており、利用想定として現実的なものは、主として住居系や公的利用と考えられる。
(2) 虫食い土地を都心居住向け住宅用地として活用するためには、そのニーズの実態からみても、一定の敷地規模に向けての集約、基盤施設の整備をはじめとする条件整備が必要であり、高度なノウハウと十分低利な資金が必要である。
(3) 防災・環境・交通といった公共側の需要に対応できる虫食い土地は、可能な限り広角度でその活用の余地を検討すべきである。
第6 総合的な土地利用計画制度の実現の方向
1 総合的な土地利用計画制度の実現に向けて対応すべき問題意識
土地利用計画制度については、次のような問題意識が存在する。
(1) 「計画なければ開発なし」という理念の下での、制度のあり方の検討
(2) 景観・環境等の保全や計画白地地域における土地利用秩序の確保に向けた、市町村レベルの総合的な土地利用計画の必要性と、県段階における土地利用基本計画のあり方の検討
(3) 地域独自の事情を反映した計画の実効性の担保に向けた条例等の手法の活用
(4) 既成市街地等における土地の適正かつ有効な利用の推進のために必要な道路、公園等の施設整備に対する助成措置のあり方
(5) 専門的な知見を有する者が住民の立場から土地利用計画作成をサポートするといった人的支援措置のあり方
2 総合的土地利用制度の実現への対応の方向
当面は次の事項について検討を進め、方策の実現を目指すべきである。
(1) 市町村レベルにおける総合的かつ詳細な土地利用計画の策定
今後の急速な地方分権の進展に対応し、市町村レベルにおける総合的土地利用計画に関する制度的仕組みのあり方を含めた方向付けを早急に確立する必要がある。
その際、都市域と非都市域のバランス、地域の文化・景観等の多様なニーズへの配慮、規制の比較的緩いゾーンにおける土地利用の整序の確保等の視点が重要である。また、個別規制法における委任規定の整備を図りつつ、条例規制により、計画の実効性を担保する必要がある。
(2) 既成市街地における地区レベルの土地利用計画の機能と公共施設の整備
既成市街地において土地利用計画の果たすべき機能として次のものが想定される。
? 公的な側が関与して土地利用の転換・高度化を伴う事業を予定する場合に、その実施の前提となるべきもの
? 土地所有者が土地の有効利用を進めるうえでの合意形成の手段として土地利用計画を策定し、事業の円滑な実施を目指すもの
この場合、今後は、合意形成機能や、地方公共団体による基盤施設の整備の前提となる計画的な土地利用を明らかにする手段としての機能を一層重視する必要がある。
また、息長いタイムスパンでの計画的街づくりを行うため、基盤施設の整備に対するきめ細かな支援についての検討が必要である。
(3) 地区レベルの土地利用の計画的調整を行うことのできる人材への支援
地域がその地域の実情にあった土地利用を考えていくためには、住民側の多様な要請を取りまとめ行政側との調整を行う人材の確保と、それらの人材のネットワーク化が不可欠であり、これらに対する支援について検討を行うべきである。